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報復人事をされたら?対抗・対処方法を弁護士が徹底解説!

その人事は「報復人事」ではありませんか?

会社や組織内部における不公平な取扱いとして挙げられる報復人事。
2018年に起こった日大アメフト部のタックル問題でも、同大学の理事長の辞任を求める署名活動を行った教職員に対し、同理事長の手によって報復人事が進められているのではないかとも話題になりました。

今回は、

  • 報復人事と適正人事の違いとは
  • 不当な報復人事に遭った場合の対処

などについて徹底解説をしていきます。ご参考になれば幸いです。

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1、報復人事とは

報復人事とは

(1)報復人事-違法・不当な人事異動

報復人事とは、内部告発や育児休暇の取得など、労働者が正当に自らの権利を行使したことに対し、人事権を持つ者が「その者に対する報復」を真の目的として行う人事異動をいい、パワーハラスメントのひとつとされています。

なお、「人事異動」とは、配置転換(転勤、出向、転籍)のみならず、昇格・降格、昇進・降職を含みます。

(2)報復人事の原因

①内部告発(内部通報)

内部告発は、企業の違法行為などを公表し、その是正を図るものなので、社会的に有益な行為です。

しかし企業側からすれば、従業員が自社を裏切ったように見える行為であるため、報復人事を引き起こす恐れがあります。

内部告発による報復人事については、オリンパス社において訴訟となった具体例があります。
この訴訟では、上司の不審な行動を会社のコンプライアンス室に通報した社員が受けた配置転換が、報復人事であるとして争われました。

同訴訟の判決では、配置転換は業務上の必要性とは無関係にされたものであり、事実上の報復人事であったとして、賞与の減額分と慰謝料を併せて、オリンパス社及び上司に220万円の支払いが命じられました。

②上司との意見の衝突・上司の意にそぐわない行為

上司との対立なども、報復人事が行われる原因となります。

これについては、自動車タイヤの販売を行う会社における判例があります。
同会社に勤務する女性従業員と同社社長が、当該女性従業員の電話対応をめぐって口論となり、当該女性従業員がタイヤ梱包作業の部署に配置転換を命じられたという事案です。

パソコン業務に従事していた当該女性従業員に対して、電話対応の手際を理由に配置転換をする必要性が乏しいこと、また、その対応に問題があったとも言い難いこと、配置転換先での肉体労働業務が女性である当該女性従業員にとって困難な面があることは否めないこと、孤立感を感じた当該女性従業員が自主退職することも意図されたと思われることなどを理由に、配置転換は権利の濫用にあたるとして、同社長に対し慰謝料50万円の支払いが命じられました。

また、別の判例もあります。

これは、上司と考えが合わないために、無理なノルマや有給休暇取得の妨害などの嫌がらせを受け、疾病に罹患した事案です。

売上げの低迷などを理由に配置転換を受けたものの、これを拒否して、従前の支社に出勤し続けたために同社を解雇されました。
同社員の疾病は法的根拠のない自宅待機命令中に発症したこと、疾病による仕事への支障は周知されていたこと、異動前の部署における売上げはそもそもわずかしか期待できなかったこと、異動先の支社への出勤は疾病を患う同社員にとって困難であったことなどを理由として、配置転換及び解雇は権利の濫用にあたり、いずれも無効であると判断されました。

③過度の遅刻・早退・欠勤、有休の取得過多、残業代が突出して多い

これらについても報復人事の原因となりえますが、実際に過度の遅刻・早退・欠勤があって、それを理由として不利益な人事異動がされた場合は、報復人事という話ではなく、正当な評価に基づくものとされる可能性も高いでしょう。

一方、有給休暇の取得や残業代の受給については、法律や就業規則で権利行使が認められているため、それらを理由とする人事異動は、報復人事に当たる可能性があります。

ただし、繁忙期など、有給休暇の取得が会社に大きな負担を掛ける場合、会社は時季変更権を行使できることがあります。
そのような時季変更権に背いて有給休暇を取得したことを理由とする人事異動については、正当な人事異動とされる場合もあります。

④育児休暇、介護休暇等の法定長期休暇を取得

これらの法定休暇の取得は、労働者の正当な権利行使の一環ですが、報復人事の原因となることもあるようです。

(3)報復人事の効力

後述のように、報復人事は本来の人事異動の目的を逸脱したものであり、人事権の濫用として無効であると考えられています。

2、報復人事-普通の人事異動(適正人事)との違い

報復人事-普通の人事異動(適正人事)との違い

(1)適正人事は、会社による「人事権」の適正な行使

会社には労働契約を根拠として「人事権」があるとされており、適正な目的で行われる限り、人事異動は会社の判断により行うことができます。
そのため、適法な人事異動については、従業員は、基本的に従わなくてはなりません。

(2)人事異動の適正な目的とは

人事異動の本来の目的は

  • 人材育成
  • 適材適所
  • 不正防止
  • 雇用の維持

等にあるとされています。

したがって、人事異動が適切なものであったか、あるいは、報復人事であったかどうかなどは、このような本来の目的に沿った異動であったのかという観点から判断されていくことになります。

(3)報復人事は適正な目的と言えない

報復人事は、嫌がらせを真の目的として行われるものであり、人事異動の適正な目的があるとはいえません。

3、報復人事は「権利濫用」

報復人事は「権利濫用」

(1)報復人事は人事権の濫用

報復人事は、嫌がらせを目的としたものであり、人事権の「権利濫用」にあたります。
権利濫用とは、権利の行使にあたって社会通念上妥当な範囲を逸脱しているために、その権利行使が正当なものと認められない場合をいいます。

(基本原則)

第一条 (略)

2 (略)

3 権利の濫用は、これを許さない。

引用:民法

このように、民法や労働契約法で権利の濫用は禁止されています。
権利行使が濫用にあたるとされたときは、その権利行使の効果は生じません。
また、濫用者自身に損害賠償義務が生じたり、場合によっては濫用者が本来有するはずの権利を失ったりすることもあります。

(2)人事権の濫用となる基準

判例の示した報復人事(権利濫用)となる基準をみていきましょう。

①配置転換

判例(東亜ペイント事件・最二小判S61.7.14)によれば、

  • ①「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合」又は②「業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、「特段の事情」の存する場合」でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
  • 業務上の必要性について、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。

とされています。
すなわち、配置転換に業務上の必要性があるかどうかは、比較的緩やかに判断するものの、配置転換が権利の濫用にあたるどうかは、上記「特段の事情」の有無を考慮すべきことを判例は述べています。

②降格

裁判例(バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件・東京地判H7.12.4)によれば、

  • 人事権の行使は、使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならない。
  • 使用者による人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・様態をもってなされてはならないことはいうまでもなく、その裁量権の範囲を逸脱するものであるかどうか(権利濫用と認められるか)の判断については、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等を考慮すべきである。

とされています。

すなわち、人事権の行使は経営上の裁量判断に属する事柄として使用者側の権利であると認めながらも、違法・不当な目的・様態による人事権の行使、及び、裁量権を逸脱した人事権の行使については、当該人事権の行使は違法となります。

4、報復人事は権利濫用により無効となる!

報復人事は権利濫用により無効となる!

(1)報復人事は無効です

「1(3)」のとおり、報復人事はその目的が不当であるため、人事権の濫用であるとして、無効となります。

(2)報復人事には拒否権あり!

後述の「5(2)⑥」のとおり、報復人事には拒否権があります。
拒否をする際には、「これは報復人事だ!」といえる証拠(根拠)があればなお良いでしょう。

(3)報復的な降給・降職について

降級・降職は、それが懲戒処分として行われるときにはその懲戒を有効足らしめる根拠が必要ですし、配転による職務内容の変更に伴って生ずる場合には、労働契約の範囲内であるかが問題となります。

包括的な人事権の範囲で行えるものではありません。

5、報復人事の無効を主張する前に-人事異動の拒否権を知ろう

報復人事の無効を主張する前に-人事異動の拒否権を知ろう

既に行われた報復人事について、その無効を会社に対して主張するのは交渉力が必要ですし、裁判を見据える必要もあります。

そのため、報復人事を受けそうになったら、その人事異動を拒否できないか、ということを考えてみましょう。

(1)適正な人事異動の場合は、基本的に拒否権はない

前述のとおり、人事異動は会社の人事権の行使であるため、基本的に従業員には拒否権はありません。

(2)例外的に人事異動に対する拒否権がある(拒否できる)とされるケース

①就業規則に当該人事異動についての定めがない
②採用時に職務、勤務地限定の合意をしたのにその範囲を超えた移動を命じられた
③人事異動に業務上の必要性がない
④不利益の程度が通常甘受すべき範囲を著しく超えている
⑤育児介護休業法や労働契約法に反し、従業員に対する一定の配慮を欠いている
⑥人事異動に不当な動機・目的が認められる

報復人事の場合、⑥に該当するとして、拒否権を行使できると考えられます。

(3)拒否権がない場合に拒否すると、業務命令違反となる

正当な人事異動を拒否することは、業務命令違反となります。
人事異動を安易に拒否してしまうと、それが正当な人事異動であった場合には、人事評価でマイナスの評価を受ける可能性が高いでしょう。
人事異動を拒否する場合には、弁護士に相談の上、十分な検討の上で行うことをお勧めします。

6、拒否権を行使しても埒が明かないとき

拒否権を行使しても埒が明かないとき

(1)裁判上の手続きで人事異動の無効を主張する

人事異動を拒否しても埒が明かない場合は、その人事異動が報復人事であり無効であるとして、裁判の手続きを用いて争うことになります。

無効であることを勝ち取れれば、その報復人事に従う必要はありません。

(2)損害賠償を請求する

報復人事でトラブルになった場合、精神的に損害を受ける場合も多いでしょう。
また、実際に出社できなくなった等で給与が引かれた、などのケースもあると思います。
報復人事を原因として経済的・精神的な損害が生じた場合は、損害賠償請求が可能です。

7、報復人事を争う場合は証拠が必要

報復人事を争う場合は証拠が必要

ある人事異動について、それが報復人事であると主張したとき、企業側は、それは適正人事であるとして争ってくることが考えられます。

報復人事だと主張するからには、第三者にもそのことが明確に伝わるよう、証拠に基づいて主張する必要があります。

証拠として考えられる代表的なものは、以下の4点です。

(1)レコーダーによる録音

人事権者との会話の音声を録音しておけば、人事権者が報復という不当な目的を持っていたことをその会話内容から認定できる可能性があります。

普段から録音が可能な小型のレコーダーを用意し、準備しておきましょう。

(2)日記による日々の記録

日記やメモを残しておけば、前後の事実の流れ、その時の気持ちについての証拠となり得ます。

(3)周囲の人の証言

会社の他の従業員から、人事権者の発言内容等についての証言をもらうことが考えられます。

(4)診断書

報復人事があったことや、それに関連する嫌がらせによりうつ病などを発症した場合には、その診断書が精神的なダメージを受けたことの証拠となる場合があります。

8、報復人事の相談先はここ!

報復人事の相談先はここ!

人事異動について会社に対抗しても、一人ではとても敵わないケースが多いでしょう。
報復人事である証拠をもって、以下の場所へ相談すべきです。

(1)労働基準監督署

労働基準監督署は、厚生労働省の出先機関であり、無料で労働問題に関する相談をすることができます。

ただし、労働基準監督署は、会社に対し、刑事罰の対象となる行為を取り締まったり、労働環境の是正を指導したりすることはできますが、それ以外のアクションを起こすことは難しいため、直接、個別の紛争に介入してくれるわけではありません。

(2)労働局

労働局とは、全国の都道府県に設置される厚生労働省の出先機関です。
労働局に対し紛争解決援助の申立てをすれば、労働局からその会社に対し「当該人事は無効なため撤回するように」といった指導をしてもらったり、解決方法の助言を受けたりすることもできます。

ただし、労働局の指導には、会社に異動の撤回を命じるなどの強制力はありません。

(3)弁護士会・司法書士会

労働事件の場合、弁護士会や司法書士会のADRを利用することができます。
ADRとは、裁判によらず、第三者機関の仲介のもとで話合いを行って問題を解決しようという手続きです。

(1)(2)と同様、会社に対する強制力はありませんが、裁判所や労働局などの公的機関が関与しないことから、比較的、会社との対立を深めずに解決を図ることができる方法であると考えられています。

(4)弁護士

会社が適正人事であると強固な姿勢を示している場合や、(2)(3)に応じない場合には、裁判手続きによって解決せざるをえません。

その場合は、弁護士に相談すべきです。
特に、労働問題は専門性が要求されることから、相談を検討している法律事務所や弁護士について、事前にホームページなどで労働事件を取り扱っているか、労働事件に関する実績がどれだけあるのかといったこともチェックしておきましょう。

まとめ

報復人事は「嫌がらせ」という不当な目的に基づくものです。
単なる嫌がらせとしての報復人事を受けないよう、周囲の人間との関係などに注意することが必要です。

ただ、それでも報復人事を受けてしまった場合には、会社と争うか、その異動を受け入れるかという選択を迫られることになります。

なお、本稿では、拒否権の行使や会社との争い方について触れてきましたが、会社を退職するという選択肢もあるでしょう。
報復人事をするような会社については自分から退職し、転職して環境を変えることにメリットがある場合もあります。

いずれにしても、異動が報復人事に当たるのか、損害賠償を請求できるのか、転職したほうがいいのかなど、法律と関連して様々な問題が発生することには変わりません。もしもの場合は、まずは弁護士にご相談されることをお勧めします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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