盗撮の不慎な行為が法的トラブルに発展してしまった方もいらっしゃることでしょう。最近では、カメラやスマートフォンが身近にあり、盗撮事件が増加しています。
しかし、その軽率な行動が取り返しのつかない結果を招くこともあります。逮捕や罰則の影響を最小限に抑えるには、適切な対処が必要です。
この記事では、盗撮の法的側面に焦点を当て、
- 盗撮は何罪なのか
- 盗撮を行った場合の罰則
- 盗撮する方の心理傾向と原因
- 逮捕されたらどうなるのか
について、経験豊かなベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
性犯罪とは?種類から逮捕前の事前対策まで弁護士が解説も参考にしていただけると幸いです。
目次
1、盗撮は犯罪?盗撮行為を禁ずる法令とは
盗撮行為を禁ずる法令はこの3つです。
(1)迷惑行為防止条例
迷惑行為防止条例は、比較的軽微な犯罪(痴漢行為、嫌がらせ行為、ダフヤ行為、卑わいな言動など)とその罰則などについて規定した条例で、都道府県ごとに定められています。
例えば東京都の迷惑行為防止条例では、次のような行為を盗撮行為として、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」(常習犯では「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」)と定めています(条例5条1項2号、8条2項1号、8条7項)。
- 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)において - 通常衣服で隠されている下着又は身体を
- 写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること
(2)軽犯罪法(23号,窃視の罪)
軽犯罪法は、条例よりもさらに軽微な犯罪行為について規定した法律です。
軽犯罪法には拘留(1日以上30日未満の期間、刑事施設(刑務所など)に収容)又は科料(1、000円以上10、000円未満のお金を国に納付)を罰則とする犯罪しか規定されていません。
軽犯罪法は、次のような行為を拘留又は科料に処すると定めています。
- 正当な理由がなくて、
- 人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所を
- ひそかにのぞき見ること
条例と異なり、対象が「人」ではなく「場所」であることに注意が必要です。
つまり、軽犯罪法では、正当な理由なく特定の場所をのぞき見れば、当該場所に人がいたか否かに関係なく処罰の対象となります。
「ひそかに」とは、見られないことの利益を有する者に知られないようにという意味です。
「のぞき見る」とは、物陰や隙間などからこっそり見ることをいいますが、スマートフォンを利用して写真や動画を撮る行為や、カメラやビデオカメラを設置し、遠隔操作の方法で撮影する行為なども「のぞき見る」に当たると解されています。
(3)児童ポルノ禁止法(7条5項,製造の罪)
児童ポルノ禁止法とは、正式名称「児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」といい、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することに鑑み、児童の権利を保護することを目的として設けられた法律です。
盗撮行為の対象が児童であった場合は、児童ポルノ禁止法(略称)7条5項で定める児童ポルノ製造の罪にあたり、重い刑罰(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)を科されるおそれがあります。
具体的には以下の行為が児童ポルノ製造の罪にあたります。
児童ポルノ禁止法2条3項各号のいずれかに掲げる姿態が描写された写真、電磁的記録にかかる記録媒体、その他の物(児童ポルノ)をひそかに「製造」すること
児童ポルノ禁止法2条3項各号とは、次の通りです。
- 1号:児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
- 2号:他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
- 3号:衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
ここにいう「児童」とは18歳未満の者を指します。
また、「製造」とは、児童ポルノを作成することをいいます。
例えば、スマートフォンで撮影した写真画像あるいは動画を、スマートフォン内のメモリーに記憶、蔵置する行為がこれにあたります。
(4)民事上の責任
盗撮行為をすれば、刑事上の責任とは別に民事上の責任も負うことがあります。
すなわち、民法709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。
これは不法行為責任を定めた規定であり、他人の権利を侵害した者は、相手方に損害賠償責任を負うことになります。
そして、盗撮行為はこの民法709条の不法行為に当たるため、盗撮をしてしまった人は、被害者に生じた損害を賠償する民事上の責任を負うことになるのです。
ただ、盗撮行為を行った人が、盗撮行為を否認せずに認めている場合であれば、相手方と示談交渉を行うことが考えられます。
相手方との話し合いの内容にもよりますが、示談を成立させた場合、示談金を支払うことで民事上の責任を果たすことも可能です。
示談金の相場は、盗撮行為の内容や被害者が被った損害の程度などにより異なりますが、比較的単純な事案であれば、10万円から30万円が一応の目安となります。
ただし、示談金の額は事案により異なるため、行為態様が悪質な場合などは、それ以上の額になることも十分想定されます。
2、性的盗撮行為以外の盗撮行為
上記1でご紹介した条例、法律以外にも、盗撮行為を禁止する法律があります。
(1)映画の盗撮の防止に関する法律(4条1項、映画の盗撮に関する著作権法の特例)
同法に規定される「盗撮」とは、映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われる映画(映画館等における観衆から料金を受けて行われる上映に先立って観衆から料金を受けずに上映が行われるものを含み、著作権の目的となっているものに限る。以下単に「映画」という。)について、当該映画の影像の録画又は音声の録音をすること(当該映画の著作権者の許諾を得てする場合を除く。)をいいます。
罰則は著作権法119条1項により、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又は併科と定められています。
なお、著作権法第30条第1項は、私的使用を目的とするときは、例外的に著作権者の許諾なく著作物の複製ができることを規定しています。
しかし、映画の盗撮の防止に関する法律4条1項では、映画盗撮の場合についてはこの規定を適用しないとしているため、私的使用を目的とする場合であっても、処罰されることになります。
(2)その他~芸能カメラマンによる隠し撮りについて~
これまでご紹介した条例、法律からすれば、芸能カメラマンによる隠し撮りは、通常、犯罪に当たらないものと思われます。
盗撮の対象は条例では「人の通常衣服で隠されている下着又は身体」、軽犯罪法では「人の住居,浴場,更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」であるところ、芸能カメラマンがこれらを撮影することは、通常、想定しがたいからです(ただし,芸能人のプライベートな空間(人の住居)を撮影した場合は軽犯罪法違反に問われることがあります)。
児童ポルノ禁止法についても同様のことがいえるでしょう。
3、盗撮行為で刑罰を受けた実例
では、具体的にどのような行為が盗撮行為として処罰されているのでしょうか?実例をもとにご紹介いたします。
(1)盗撮懲役1年 3年間執行猶予(平成28年10月18日 奈良地方裁判所)
高校の女子トイレ内に侵入し、トイレ個室内で用便中の女性に対し、所持していたデジタルカメラを利用して、個室の隙間から女性の姿態を盗撮した事案。
犯人には前科、前歴がありませんでした(初犯者でした)が、奈良県迷惑行為防止違反のほか建造物侵入罪も犯していることから上記結論に至っています。
(2)盗撮罰金30万円(平成19年9月25日 札幌高等裁判所)
ショッピングセンターで、女性の背後から、カメラ機能付き携帯電話を使って、11回にわたり女性の臀部等を盗撮した事案。
盗撮行為が執拗で、被害者の処罰感情が強かった反面、犯人は初犯者で、画像を全て消去するなど反省していることから上記結論に至っています。
4、盗撮する方の心理傾向-盗撮の原因
これまでご紹介したように、盗撮行為はれっきとした犯罪であり罰則も当然設けられています。
しかし、残念ながらそれだけでは盗撮行為の抑制には繋がりません。
まずは、個々自らが盗撮行為の原因と真摯に向き合い、個々人に合った再発防止策を見出すことが大切です。
そこで、ここでは,盗撮をする方の心理傾向や原因について考えます。
(1)スリルを味わいたい
普段の生活に満足できず、向上心が高い方がこの心理を抱く傾向にあります。
このような人は、一般的に禁止されている行為を、だれにもばれずに行うことにスリルを感じているといいます。
リアルなゲームをしているような感覚だという人もいます。
(2)ストレスを発散したい
物静かで仕事のできる人ほど、この心理を抱く傾向にあるといわれています。
ストレスは誰しもにつきものですが、盗撮に走るような人は、日常生活の中でストレスを上手く発散できていない人たちが多いです。
また、自己表現が苦手な方もこの心理に陥りやすい傾向にあります。
日頃、自分の気持ちを上手く表現できず、知らず知らずのうちにストレスを溜め込み、その発散行為として盗撮行為に走ってしまう人がいます。
(3)盗撮されたって嫌な気はしないはず
盗撮を行う人の中には、女性に対して誤った認識を持たれている方がいます。
女性を自分より下の存在だとみなし、「女性に対してなら盗撮くらいやってもいい」「やられて当然だ」などと考える人、露出の多い服を着ている女性は貞操観念の低い女性であり、盗撮を誘っているんだという間違った考えを持つ人等、このような考えを抱く人が、女性は「盗撮されても嫌な気はしないはず」などという誤った認識をもつことがあります。
(4)盗撮行為の容易性
これは盗撮をする人自身の問題ではありませんが、技術の進歩によって盗撮が比較的容易となったことも盗撮の原因に挙げられるでしょう。
近年は、カメラ起動時に音が出ないアプリを使用することで無音カメラを容易に入手することができます。
また、カメラも段々と小型化されてきており、注意していなければそれとすらわからないものまであります。
5、盗撮で捕まるとどうなるか
(1)刑事責任を負う
盗撮行為で逮捕された場合、その後どのような手続を踏むことになるのでしょうか?
①逮捕から送致
盗撮行為の発覚のきっかけは、通常、現行犯逮捕です。
逮捕された犯人を受け取った警察官は、犯人の身柄拘束が必要か否かを判断し、必要ないと判断したときは犯人を釈放、必要と判断したときは逮捕から48時間以内に事件を検察官の元へ送致する手続きを取ります。
ここで釈放された場合は、一般的に在宅事件へと捜査が切り替わります。
すなわち、通常の生活を送りながら警察や検察からの呼び出しに応じ、取調べなどを受けることになります。
②送致(上記①イの続き)から勾留請求まで
検察官へ送致された場合、まず弁解録取手続きという手続きを行います。
検察官は弁解録取手続を終えた後、犯人の身柄拘束が必要か否か判断し、必要ないと判断したときは犯人を釈放し、必要がある判断したときは犯人の身柄を受け取ってから24時間以内に勾留請求の手続きを取ります。
釈放された場合の流れは上記①で釈放された場合と同様です。
③勾留請求から勾留決定まで
検察官が勾留の請求をした場合、今度は裁判官による「勾留質問」の手続を受けます。
裁判官は、勾留質問の結果を経て犯人を勾留するか否かを判断します。勾留の必要がないと判断したときは、原則釈放されます(ここで原則と申し上げたのは,検察官の不服申し立てにより、その判断が覆される可能性があるからです)。
釈放された場合の流れは上記①と同様です。
裁判官が勾留の必要があると判断したとき(勾留決定があったとき)は、身柄を引き続き勾留されることになります。
この場合の期間は、検察官の勾留の請求があった日から10日間です。
その後、検察官の判断によっては最大10日の勾留延長手続きが取られることもあります。
④刑事処分
釈放された場合もされなかった場合も何らかの刑事処分を受けることになります。
刑事処分は大きく「不起訴」「起訴」に分けられます。
初犯者の場合、刑事処分前に被害者と示談などができれば不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
他方、「起訴」には略式手続きと公判請求があります。
初犯者の場合、通常、略式手続きが選択されることが多いですが、犯行が悪質な場合は公判請求されることもあります。
⑤裁判など
略式起訴された場合の略式裁判では、書類のみの審査となりますから裁判所に出廷する必要はありません。
略式裁判では100万円以下の罰金又は科料の命令を出すことができます。
他方、公判請求されると裁判所に出廷して審理(正式裁判)に出席しなければなりません。
判決では、懲役刑(執行猶予付き判決を含む)を受ける可能性も出てきます。
略式裁判の場合も正式裁判の場合も裁判で「有罪」と認定され、その裁判が確定すれば「前科」が付きます。
刑事手続の詳細な流れは以下の関連記事をご覧ください。
(2)捕まることによる影響
盗撮行為で逮捕された場合、刑事的、民事的責任を負うことはこれまでご紹介したとおりですが、その他にも以下の影響が発生することが考えられます。
①家族への影響
逮捕されれば、警察からご家族に連絡がいくことが予想されます。
そこで、盗撮したことが家族に知られてしまいます。
子供がいる場合、子供に対しては、ある程度の期間は誤魔化すことができるでしょうが、それでも一家の大黒柱が不在となる影響は大きいです。また、子供に与える精神的悪影響も大きいです。
最悪の場合、配偶者から離婚を迫られるかもしれません。
②報道される
すべての盗撮事案が報道の対象となるわけではありませんが、社会的地位の高い方(医師、議員など)、有名人(芸能人など)、公的職業に就いている方(公務員など)は報道の対象とされやすいです。
また、一度、ネットなどに実名が載れば、将来それを削除することはほぼ不可能に近いでしょう。
③懲戒処分を受け、信用の失墜する
社会人の方であれば懲戒処分による解雇、減給、降格などの処分を受けるおそれがあります。
仮に、雇用が継続したとしても、社会的信用は落ちていますので、その後の仕事に様々な悪影響が出る可能性があります。
また、職場にいづらくなって自ら退職せざるを得なくなるかもしれません。
収入がなくなったり、減給となれば、ご自身のみならずご家族の将来にも大きな影響を及ぼします。
④退学処分を受ける、将来の道が閉ざされる
学生の方であれば退学や出席停止などの処分を受けるおそれがあります。
退学処分となれば進学や就職などに悪影響を及ぼすでしょう。
出席停止となれば、留年となるおそれもあり、そうなれば退学処分と同様、進学や就職などに悪影響を及ぼします。
⑤免許を取得できない、取り消される
これから免許が必要な職種に就こうとされている方、あるいはすでに就いている方は注意が必要です。
たとえば、看護師の場合、罰金刑、懲役刑を受けると免許を与えられないことがあり、すでに看護師の職に就いている場合は、看護師免許を取消されることがあります。
6、弁護士に刑事弁護を依頼するメリット
弁護士に刑事弁護を依頼するメリットは、以下のとおりです。
(1)捕まっている期間中から面会できる
逮捕期間中は、原則、弁護人しか面会することができません。
ご家族などの身近な方ですら面会を断られることが多いです。
(2)釈放に向けた弁護活動を行ってもらえる
弁護人であれば、逮捕期間中から警察官や検察官、裁判官に対して身柄を釈放してもらえるように働きかけることができます。
これにより早期釈放が可能となります。
また、仮に勾留された場合でも、不服申し立てをする等身柄釈放に向けた活動を行うことが可能です。
(3)被害者との示談交渉が可能となる
盗撮行為を認める場合、示談交渉は重要な弁護活動です。
そもそも被害者が盗撮犯に対して、自らの氏名や住所、連絡先などの個人情報を教えることは考えにくいです。
この点、弁護士がついている場合、弁護士が被害者の連絡先等を聞くことで、示談交渉を行うことが可能となります。
示談交渉が成立した場合、前述のように不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
(4)再発防止策について考えてもらえる
弁護士は盗撮治療の専門家ではありません。
しかし、これまでの経験などから今後の更生について具体的なアドバイスをすることは可能です。
また、ご自身やご家族だけで考えるよりも、第三者である弁護士を交えた方が有効な解決策を見出せることもあります。
(5)裁判で味方になってくれる
公判請求がなされた場合で、被告人が盗撮行為を認めているとき、弁護人は被疑者にとって有利な情状(盗撮行為は1回であること、示談が成立していること、反省していること、再発防止策に取り組んでいることなど)を主張、立証して執行猶予付き判決の獲得を目指します。
被告人が盗撮行為を否認している場合は、被告人が主張する事実を裏付ける証拠を提出したり、証人尋問を行うなどして無罪判決の獲得を目指します。
7、盗撮をしてしまったら
(1)原因をしっかり探求しましょう
盗撮は犯罪です。
盗撮が見つかってしまえば、これまでご紹介したように様々な不利益を被ることになります。
盗撮の動機は、上記でご紹介したものに限られず、様々な原因が存在するとおもいますが、いずれにせよ、自分の中の盗撮行為の原因をしっかりと探求することが大切です。
(2)専門家などに相談しましょう
「これでなければストレスが発散できない!欲求が満たされない!」ということはありえません。
少なくとも犯罪でしかストレスが発散できないということはありえません。
もっとあなたに合った別の(違法性のない)方法があるはずなのです。
どうしたら良いかは、一人で考えるべきではありません。
信頼できる方にぜひご相談されてください。
また、カウンセラー、心療科など、いくつか専門家を当たられても良いでしょう。
「もうやらない!」という強い決意を持つことは大切ですが、それだけではいけません。
しっかりと自分が盗撮を行った原因を見極めることが、もっとも有効な再発防止策なのです。
まとめ
これまで、盗撮行為はどんな法律に該当するのか、当たるとしてどんな不利益を受けるのか、盗撮行為をする原因は何なのかといったことについてご紹介してきました。
この記事で盗撮行為に対する理解が深まれば幸いです。