
職場で盗撮行為に及ぶと迷惑防止条例違反や建造物侵入罪に問われます。
そして、職場での盗撮を理由として逮捕されると、前科がついて、会社から懲戒処分を下される可能性も否定できません。
有利な刑事処分を獲得して社会生活への悪影響を避けるには、できるだけ早期に盗撮被害者との間で示談交渉を進めるなどの防御策が不可欠でしょう。
そこで今回は、
- 職場で盗撮に及んだ場合に成立する可能性がある犯罪と法定刑
- 職場での盗撮行為が発覚したときに下される懲戒処分
- 職場での盗撮行為が発覚したときに起訴・懲戒解雇を回避するためにできること
- 職場での盗撮行為が原因で逮捕されたときに弁護士に相談するメリット
などについて、弁護士が分かりやすく解説します。
職場での盗撮行為が発覚して何かしらの処分等が下されるのではないかと不安を抱える方の助けになれば幸いです。
目次
1、職場での盗撮で成立しうる犯罪
職場で盗撮行為に及んだ場合に成立し得る犯罪は以下3つです。
- 各都道府県が定める迷惑防止条例違反の罪
- 軽犯罪法違反(「のぞき行為」)
- 刑法の建造物侵入罪
(1)迷惑防止条例違反
職場の盗撮行為は迷惑防止条例違反の犯罪です。
自治体によって迷惑防止条例の内容には差異がありますが、たとえば、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」では、以下の場所における盗撮行為(人の通常衣服で隠されている下着や身体を、写真機その他の機器を用いて撮影する行為、撮影する目的で写真機等を差し向ける行為、写真機等を設置する行為)が禁止されています(東京都迷惑防止条例第5条1項2号イロ)。
- 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部または一部を着けない状態でいるような場所
- 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物
実は、以前は、学校やタクシー、オフィス内などでの盗撮行為は迷惑防止条例の規制対象から外されていました(もちろん、学校やオフィスであってもトイレや更衣室での盗撮行為は以前から犯罪です)。
しかし、盗撮カメラの性能向上などによって教室内や職場の公共スペースでの盗撮行為が迷惑防止条例の規制から漏れるのは問題だという認識が高まり、現在では多くの自治体で職場における盗撮行為が規制対象と扱われています。
たとえば、以下の盗撮行為は各自治体の迷惑防止条例違反となります。
- 職場のトイレや更衣室に小型ビデオカメラを設置する
- 職場のオフィスやエレベータ内で同僚のスカートのなかにカメラ機能付きスマートフォンを差し向ける
なお、東京都の迷惑防止条例では、盗撮行為の法定刑を「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」と定めています(第8条2項1号)。
(2)軽犯罪法違反
職場での盗撮行為が軽犯罪法違反に問われる可能性もあります。
軽犯罪法では、正当な理由がないのに、人の住居、浴場、更衣場、便所などの「人が通常衣服をつけないでいるような場所」をひそかにのぞき見る行為を禁止しています(軽犯罪法第1条23号)。
軽犯罪法違反の法定刑は「拘留または科料」です。
つまり、職場での盗撮行為それ自体が軽犯罪法に抵触するわけではありませんが、職場のトイレや更衣室などの場所をのぞき見た行為が犯罪となるということです。
したがって、実際に盗撮行為に及んだかどうかとは無関係に、盗撮のために下見をしただけでも軽犯罪法違反が成立しえます。
(3)建造物侵入罪
職場で盗撮行為をしようとした場合には、建造物侵入罪にも問われます(刑法第130条前段)
建造物侵入罪は、正当な理由がないのに建造物などに侵入した場合に成立する犯罪です。
建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」と定められており、未遂犯も処罰対象に含まれます(刑法第132条)。
会社の従業員であればオフィス内に立ち入る権利があるのが通常ですが、「盗撮目的」という不純な動機を有する立ち入り行為は、たとえ従業員であったとしても職場の管理権者の同意を得られないと考えられるので、建造物侵入罪が成立するのです。
たとえば、勤務先の小学校内のトイレに小型カメラを設置する目的で立ち入った場合などが挙げられます。
2、職場での盗撮が発覚すると懲戒解雇される?
職場での盗撮行為が発覚すると勤務先から何かしらの処分が下される可能性が生じます。
民間企業に勤務している場合と公務員の場合に分けて解説します。
(1)民間企業に勤務している場合
民間企業に勤務している会社員の盗撮行為が発覚した場合は、就業規則で定められたルールに従って懲戒処分が下されます。
たとえば、「会社の信用や名誉を毀損したとき」「企業秩序を著しく乱したとき」などが懲戒事由として定められているのなら、盗撮行為がバレたり、盗撮を理由として逮捕されて無断欠勤が続いたりしたときに、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格などの処分が下される可能性が高いでしょう。
ただし、懲戒処分の一種である「懲戒解雇」は当たり前のように下されるわけではありません。というのも、解雇処分とは労働契約を一方的に解除する処分であり、退職金の一部または全部が支払われない場合もある厳しい内容を伴うものだからです。
したがって、「盗撮で逮捕されたから懲戒解雇にする」「前科がついたから懲戒解雇にする」「逮捕後に無断欠勤が続いたから懲戒解雇にする」という単純な論理が通用するわけではありません。
職場での盗撮を理由として下される懲戒解雇処分が合法になるのは、職場での盗撮行為の態様やその他の経緯などの事情を総合的に考慮して、懲戒解雇処分を下すだけの客観的かつ合理的な理由があり、解雇処分が社会通念上相当であると認められる場合に限られます(労働契約法第15条)。
たとえば、職場の盗撮で逮捕された事件が大々的に報道されて会社の社会的信用が毀損されてしまったようなケースでは懲戒解雇処分もやむなしですが、被害者との間で早期に示談交渉がまとまっており、他の社員にも事件が発覚せずに円満に事件を解決できた場合などでは、厳重注意などの軽い処分で済む可能性もあります。
(2)公務員の場合
国家公務員・地方公務員のいずれについても、公務員が職場での盗撮行為で逮捕されて禁錮刑以上の有罪判決が確定すると欠格事由に該当する(国家公務員法第38条1号、地方公務員法第16条1号)ので当然に失職します(国家公務員法第76条、地方公務員法第28条4項)。
つまり、職場での盗撮行為が刑事訴追されると迷惑防止条例違反・建造物侵入罪に問われる可能性が高いですが、禁固以上の刑が確定すると、執行猶予付き判決が言い渡されたとしても公務員の職を追われるということです。
また、不起訴処分が下された場合や罰金刑が確定した場合でも、停職や減給などの処分が下される可能性が高いでしょう(「懲戒処分の指針について」人事院、地方公務員法第29条)。
したがって、職場での盗撮が原因で公務員が仕事を失うかどうかは、「禁錮刑以上の判決が言い渡されるか、罰金刑や不起訴処分で済むか」にかかっていると考えられます。
被害者との示談交渉や取り調べへの対応方法などの防御活動に尽力して、少しでも有利な刑事処分獲得を目指すべきでしょう。
3、職場での盗撮で起訴や懲戒解雇を回避するためにできること
職場での盗撮行為が発覚したときに優先的に考えるべきことは、「起訴を免れること」「懲戒解雇により仕事を失う事態を回避すること」の2つです。
そのためには、以下3つの対処法が有効だと考えられます。
- 自首によって示談交渉の円滑化を目指す
- 被害者との間で示談をまとめる
- 会社に対して懲戒解雇をしないように願い出る
(1)自首を検討する
確かに、「盗撮が発覚したわけでもないのに自ら出頭するのは馬鹿らしい」と感じる人もいるでしょう。
しかし、以下の理由から、職場で盗撮行為に及んだ場合には、できるだけ早期に自首した方が賢明なことが多いと考えられます。
- 捜査機関に犯罪が発覚する前に自首すれば刑罰の減軽を期待できる(刑法第42条1項)
- 自首によって反省の態度をアピールすれば、逮捕や起訴処分を回避できる可能性が高まる
- 捜査機関に自首することで被害者との間の示談交渉を進めやすくなる
職場での盗撮事件では、被害者の処罰感情が高いケースが少なくありません。
そのような状況において、「和解金を支払うから警察に被害届を提出したり会社に報告したりするのはやめて欲しい」などと条件提示をしても拒絶される可能性が高いです。
それならば、警察への自首と被害者との示談交渉を並行させて、被害者に対して効果的に謝罪の意思を示すと同時に、捜査機関に対しては被害者との示談交渉が進んでいることをアピールすれば、結果として早期の事件解決を目指しやすくなるでしょう。
(2)被害者と示談する
職場での盗撮事件が発覚したときには、早期に被害者との間で示談交渉を進める必要があります。
なぜなら、被害者との間で示談が成立すれば、「被害が回復されたこと」「処罰感情が低いこと」を理由に刑事処分が軽くなる可能性が高く、また、懲戒解雇事由がないと判断される方向に作用するからです。
ただし、職場で盗撮行為に及んだ場合のような性犯罪では、加害者本人が直接示談交渉を申し出ても被害者側に話すら聞いてもらえないということも少なくありません。
したがって、処罰感情の強い性犯罪被害者との間で効率的に示談交渉を進めるなら、刑事事件や性犯罪案件の解決実績が豊富な弁護士に相談するのがおすすめだと考えられます。
(3)会社と交渉する
職場で盗撮行為に及んだことを理由に懲戒解雇されると仕事を失い、経済的にもひっ迫する危険性があります。
そこで、何かしらの懲戒処分が下されるのは仕方ないとしても、懲戒解雇という最悪の事態だけは避けたいのであれば、会社との間で交渉をして軽い処分を願い出るべきでしょう。
真摯に反省している態度を示すことを前提として、「すでに被害者との間で示談が成立しており、捜査機関にも犯行を自供して刑事手続きが穏便に終了する見込みである」などの事情を説明できる状況であれば、懲戒解雇という重大な処分を下される可能性を減らすことができると考えられます。
したがって、職場で盗撮行為に及んだ場合には、警察・被害者・会社の三方向に対して同時並行的に対策へ踏み出す必要があるため、刑事事件に力を入れている弁護士に相談するとスムーズな解決を目指しやすいでしょう。
4、職場での盗撮で逮捕されてしまったら
職場での盗撮行為が原因ですでに逮捕されてしまった場合には、早期の身柄釈放と不起訴処分獲得を目指して尽力するべきでしょう。
なぜなら、身柄拘束期間を短縮化できれば社会生活への悪影響を軽減できますし、不起訴処分を獲得できれば前科が付くのを回避できるからです。
職場での盗撮が原因で逮捕されたときの対処法として、以下3つが挙げられます。
- 嘘や安易な言い逃れはせずに、事実を正直に話す
- 示談が未了ならできるだけ早期に示談成立を目指す
- 再犯防止対策を具体的に検討して更生可能性をアピールする
(1)事実を正直に話す
職場での盗撮が原因で逮捕されたときには、可能な限り真摯な姿勢で取り調べに向き合うことをおすすめします。
なぜなら、盗撮事件で逮捕された場合には、すでに画像データなどを押収されている状況なので、妙な言い逃れや安易な嘘は「反省の姿勢がないこと」の裏付けとなり、重い刑事処分が下される危険性を高めるからです。
もちろん、わざわざ余罪を積極的に話す義務はありませんが、すでに発覚している犯行を隠蔽するような不合理な否認は避けて、できるだけ誠実に取り調べに向き合う姿勢を見せましょう。
(2)示談が未了なら示談交渉
職場での盗撮を理由として逮捕された後でも示談交渉を進めることには大きな意味があります。
なぜなら、警察や検察官は「性犯罪における被害者の処罰感情」を処分判断時に考慮するので、早期の身柄解放や不起訴処分獲得に向けて有利な材料になるからです。
とはいえ、すでに捜査機関に身柄を押さえられた状況では、加害者自身で示談交渉を進めるのは不可能に近いでしょう。
性犯罪の示談交渉に慣れた弁護士に依頼をして、1日でも早く示談成立に向けて動き出してもらいましょう。
(3)再犯防止対策を具体的に検討する
性犯罪は再犯リスクが高い犯罪なので、「再犯のリスクがあるか」「更生の可能性が高いか」という点が刑事処分の内容を左右します。
したがって、職場で盗撮行為に及んだことが原因で逮捕された場合には、できるだけ具体的な再犯防止策をアピールすることが早期の身柄解放や不起訴処分獲得に役立つと考えられます。
具体的な盗撮の再犯防止対策としては、以下のようなことが考えられます。
- 家族と同居して指導監督を受け、生活基盤を整える
- 専用クリニックへの通院、再犯防止プログラムの受講 など
5、職場での盗撮が発覚したら弁護士に相談を
職場での盗撮行為が発覚したときには早期に弁護士へ相談するのがおすすめです。
なぜなら、性犯罪などの刑事弁護実績豊富な弁護士に相談すれば、以下4つのメリットが得られるからです。
- 盗撮事件の全容を把握して適切な防御策を検討してくれる
- 警察への自首に付き添ってくれる
- 感情的になっている被害者との間でも冷静に示談交渉を進めてくれる
- 会社への対応策や次のキャリアなどについても相談にのってくれる
職場での盗撮が発覚したときには、適用される罪状を適切に把握したうえで、刑事手続きの進捗に応じた適切な防御策を練る必要があります。
刑事事件の扱いに慣れた弁護士なら示談交渉などのノウハウを備えているので、安心して早期解決を目指せるでしょう。
職場で盗撮に関するQ&A
Q1.職場での盗撮で成立しうる犯罪
職場で盗撮行為に及んだ場合に成立し得る犯罪は以下3つです。
- 各都道府県が定める迷惑防止条例違反の罪
- 軽犯罪法違反(「のぞき行為」)
- 刑法の建造物侵入罪
Q2.職場での盗撮が発覚すると懲戒解雇される?
職場での盗撮行為が発覚すると勤務先から何かしらの処分が下される可能性が生じます。
①民間企業に勤務している場合
民間企業に勤務している会社員の盗撮行為が発覚した場合は、就業規則で定められたルールに従って懲戒処分が下されます。
たとえば、「会社の信用や名誉を毀損したとき」「企業秩序を著しく乱したとき」などが懲戒事由として定められているのなら、盗撮行為がバレたり、盗撮を理由として逮捕されて無断欠勤が続いたりしたときに、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格などの処分が下される可能性が高いでしょう。
②公務員の場合
国家公務員・地方公務員のいずれについても、公務員が職場での盗撮行為で逮捕されて禁錮刑以上の有罪判決が確定すると欠格事由に該当する(国家公務員法第38条1号、地方公務員法第16条1号)ので当然に失職します(国家公務員法第76条、地方公務員法第28条4項)。
つまり、職場での盗撮行為が刑事訴追されると迷惑防止条例違反・建造物侵入罪に問われる可能性が高いですが、禁固以上の刑が確定すると、執行猶予付き判決が言い渡されたとしても公務員の職を追われるということです。
Q3.職場での盗撮で起訴や懲戒解雇を回避するためにできること
職場での盗撮行為が発覚したときに優先的に考えるべきことは、「起訴を免れること」「懲戒解雇により仕事を失う事態を回避すること」の2つです。
そのためには、以下3つの対処法が有効だと考えられます。
・自首によって示談交渉の円滑化を目指す
・被害者との間で示談をまとめる
・会社に対して懲戒解雇をしないように願い出る
まとめ
職場での盗撮行為は犯罪です。
犯行が発覚したときには、迷惑防止条例違反や建造物侵入罪などの罪責に問われるだけではなく、最悪のケースでは会社を懲戒解雇される危険性も生じます。
社会人生活への支障を最大限軽減するには、自首や被害者との交渉を効率的に検討しなければいけません。
刑事事件の実績豊富な弁護士に相談をして、スピーディーな解決を目指しつつ、更生の道を歩みましょう。