友達間の借金は、時折大きな論争の種となるため、友達間の借金に関する要点を把握しておくことが不可欠です。
目次
1、友達からの借金は金融機関からの借金と何が違うのか?
最初に、銀行や消費者金融といった業者(金融機関)からの借金と、知人や家族からの借金との違いについて整理しておきましょう。
(1)友達からの借金はいつまでに返したらよいのか?
誰からの借金であれ、返さなければならないことは変わりがありません。
しかし、知人間のお金の貸し借りには「明確な返済期限」が設定されていない場合も少なくありません。
お金の貸し借りの時点で返済期日を定めていない場合でも、貸した側(債権者)は、事後に返済期日を定めることができますが、その場合には、「一定の猶予期間」を与えなければいけません。
つまり、「いますぐ返して」と伝えたとしてもそれは「返済期日を定めた」ことにはならないというわけです。
一般的には「1週間前後」の猶予期間を設定することが適当な場合が多いといえますが、貸し借りの経緯や金額によっても妥当な期間は異なってきます。
たとえば、一般的な収入レベルの人のお金の貸し借りで「100万円を来週までに返して」というのは、借主にとって酷すぎることはお分かりいただけるかと思います。
お金を貸した時点で期限を設定しなかったという点で貸主にも落ち度があるのですから、猶予期間は「双方にとって公平な期間」である必要があるといえます。
なお、返済期限が決まってしまえば、後述する通り、それまでに支払わなければ遅延損害金が発生することになります。
(2)友達からの借金に利息は発生するのか?
知人間の借金については、貸し借りの時点で「利息」について具体的な取り決めをしていない場合も多いでしょう。
この場合、利息は支払わなくても良いのでしょうか。
①貸した側はお金を貸した後に利息を追加で設定することは可能か?
この場合には、「返済期限」の場合とは異なり、事後に利息を設定することはできません。利息は、契約成立時に「特約」を設けなければ発生しないからです。法律的にいえば、「借りたお金を返す契約」の中には、「返済と同時に利息を支払う」という内容は含まれていないということになるからです。
このことは、知人間の借金ではなく、金融機関からの借金でも同様です。
たとえば、無利子の貸与奨学金などについて、事後に利息を設定されるということはないわけです。
もちろん、「なかなか返せないなら利息も払って」という貸した側の要求に、借りた側が承諾すれば話は別です。承諾したのであれば支払わなければなりません。
②利率だけ決まっていない場合は?
当事者間で「債務者が利息を支払う」ことについては同意はしたが、「具体的な利率が決まっていない」ということもあるかもしれません。この場合には、民法に定められている法定利率(年3%)が適用されます。
③友達の間の借金に利息を設定するときの上限利率
友達との借金であっても、利息の設定では法律が定めるルールに従う必要があります。
利息に関する法律には「利息制限法」、「出資法」という2つの法律があり、個人間の借金の場合の利息については、次のように上限利率を定めています。
利息制限法の上限金利 | 出資法の上限金利 | |
10万円未満 | 年20% | 個人(非事業の貸付)の場合には年109.5% ※うるう年は年109.8% |
10万円以上100万円未満 | 年18% | |
100万円以上 | 年15% |
事業貸付の場合は、2010年6月までに出資法の規制も利息制限法の規制に合わせて引き下げられましたが、個人間の貸付においては出資法の上限金利は、上表の通り109%以上になっています。
利息109%とは、借りた金額と同じくらいの利息をつけることができるということです。
つまり、よくありがちな「倍にして返すからお金を貸して欲しい」といった口約束をきっかけとする友人間のお金の貸し借りは、理屈の上では成立しうるということになります。
とはいえ、たとえば、100万円もの貸し借りに年100%の利息を設定することも適切とはいえません。
この場合には、裁判までもつれたときには、利息制限法の上限利率を超える利息部分は無効と判断される可能性もあります。
個人間の借金の場合に年109.5%までの利率を設定できるのは、「個人間の借金は、少額を短期間で返す約束の場合が多い」という前提があるからです。
もしも高額な利息をノリで約束してしまい、友達が本気で取り立ててきたときは、弁護士に相談してください。
まずは利息についての妥協点を交渉してくれるはずですし、裁判になれば利息の一部無効を勝ち取れる可能性もあります。
④遅延損害金について取り決めがない場合はどうなる?
遅延損害金は、延滞利息と呼ばれることもあり、利息と同じようなものと考えている人も多いかもしれません。
しかし、法的には、遅延損害金と利息とは全くの別物です。
利息は契約に基づいてしか発生しませんが、遅延損害金は、契約が不履行となった場合に生じる「損害賠償」だからです。
したがって、友人間の借金について遅延損害金についての取り決めがない場合であっても、借主(債務者)が「返済期日までに返済してくれないとき」には、貸主(債権者)は遅延損害金を請求することができます。
遅延損害金の金額について具体的な取り決めがないときには、法定利率(損害金に対して年3%)が適用されます。
ただし、上でも触れたように、個人間の借金には「返済期限」が定められていない場合が少なくありません。
遅延損害金は、「返済期限後」にしか発生しないので、返済期限の定めがなければ、遅延損害金は発生しません。
2、友達が借金を返してくれないときの対処方法
さて、ここからは貸した場合についてのお話です。
好意で友達にお金を貸してあげたのに「全く返してくれない」というケースはよくあるトラブルでしょう。
(1)督促せずに返済するのを待ち続けると請求権が消えかねない
実際のケースで一番多いのが、「相手が返してくれるまでじっと待つ」という対応です。
昔から「貸したお金はあげたと思え」などと言われますが、約束通りに返してくれる人かどうかを見極められなかったという点では、貸し主に落ち度がないともいえません。
また、「人間関係を壊したくない」と考えて、特段の督促をしないというのも、債権者自身の選択としてはあり得るものでしょう。
ただし、債権者が長期間の間、全く督促もせず、借金の返済もなく、当事者の間に借金の話題すらないという場合には、消滅時効が完成してしまうことに注意する必要があります。
個人間の借金の場合には、2020年3月31日以前の借入れについては「最後の取引のときから10年」で消滅時効が完成します。2020年4月1日以降の借入については「権利を行使できると知った時から5年」で消滅時効が完成します。
「最後の取引のとき」というのは、通常は最後の分割返済日となりますが、返済日について具体的な定めがないときには、「お金を貸し付けた日の翌日」が起算日となります。
「人間関係も壊したくないけど、お金もできれば返して欲しい」というときには、それとなく借金の話題(あのとき貸してあげたお金はどうなってる?程度の話題)を振ってみることも有効です。
債務者が借金の存在を認めれば、債務承認として時効期間の進行が中断するからです。
とはいえ、「ただの会話」では、訴訟になった場合の証拠としては弱いですから、LINEなどのSNSなどで記録を残すことも考えておきましょう。
(2)取立てをするときの注意点
どうしても返済してもらわなければならない事情があるときには、債務者に督促をする必要がありますが、その際の注意点について確認していきましょう。
①「ない袖は振れない」ことは理解しておく
貸したお金を返してもらうのは、債権者の正当な権利です。
しかし、実際には「返すお金がない」場合には、返してもらうことはできません。
当たり前のことなのですが、督促をするときには、この点を忘れるべきではありません。
差押えをしようにも、相手に財産がなければ空振りに終わってしまいますし、「何が何でも返してもらう」と強い態度にでれば、双方に感情的なしこりが残ることも考えられます。
また、相手を追い詰めすぎて自己破産されてしまえば、法的な返済義務も消滅してしまいます。
基本的には、純粋な知人間でのお金の貸し借りは債権者の立場の方が弱いのは、ある意味仕方がないことといえます。
②強引なことは絶対にしない
債権の取立てでは、「何をやっても許される」というわけではありません。
貸金業者のように法律上の取立行為規制があるわけではありませんが、「行き過ぎた取立て」はトラブルの原因にしかなりません。
また、暴力的な取立てを行えば、逆に刑事告訴されることもあるかもしれません。
貸主としては、「借金を返さない相手が悪い」と思い込みがちですが、「それはそれ、これはこれ」ということです。
③財産を差し押さえるためには裁判所の手続きが必要
債務者の財産の差押えは、借金を回収するための最終手段です。
しかし、債務者の財産を差し押さえるためには、「裁判所の手続き」を必ず経る必要があります。
裁判所の手続きを経ずに、他人の財産を差し押さえる(強制的に奪い取る)行為は犯罪行為となりますから、絶対にしてはいけません。
強制執行(差押え)を実行するためには、裁判所の手続きによって「執行文の付与された債務名義」を取得しなければなりません。
「債務名義」というのは、民事執行法で定められている「債権者と債務者との間にある法的に確定した権利義務関係を記した文書」のことをいいます。典型例は、「確定判決」ですが、他には、強制執行認諾文言付き公正証書や、確定した支払督促命令などがあります。
なお、当事者間で取り交わされた契約書、念書、覚書の類いは、債務名義にはなりませんので、「契約書がある」というだけの場合には、別途、訴訟や支払督促を申し立てる必要があります。
手続きとしては、支払督促が最も簡単ですが、訴訟となった場合でも60万円以下の借金の場合には、少額訴訟を利用して手続きを簡単に済ますことができます。
なお、即時執行が可能なように公正証書にした契約書(執行証書)であれば、裁判などを経ずに強制執行を申し立てることも可能ですが、執行証書作成には費用もかかるので、友達の間の借金の契約書としては、現実的なものではないでしょう。
3、友達からの借金を返せなくなってしまったときの対処方法
では、本項では、借りた側が返せなくなったときの対処方法や注意点についても確認しておきましょう。
(1)誠実に対応するのが大原則
お金を貸してくれる友人の多くは、「善意」でお金を貸してくれています。
返済期限や利息に定めがないのも債務者の苦しい経済事情をおもんばかっての配慮です。
したがって、お金を貸してくれた相手に「誠実に対応する」のが、友人としての最低限のマナーではないでしょうか。
思うようにお金を返せない事情には、打ち明けづらい(格好の悪い)事情もあるかもしれませんが、きちんとした理由・事情を打ち明ければ、相手も「いつまでも返してくれない」と気持ちをヤキモキさせずに済むかもしれません。
あなたのためにお金を融通してくれた友達は、基本的にはあなたの「味方」であるということを絶対に忘れるべきではありません。
(2)債務整理すると友達からの借金はどうなる?
多額の借金が返せなくなったときには、「債務整理」を行うことで抱えている借金の減免を受けることができます。
友達からの借金があるときには、その借金への影響が気になって、債務整理に踏み切れないという場合も多いと思います。
しかし、これから解説するように、債務整理をするときに友達からの借金のことを心配する必要はあまりないといえます。
①債務整理による借金減免
前提知識として、債務整理のおける借金減免の効果について確認しておきます。
債務整理による減免効果は、実際に行う手続きによって次のように異なります。
債務整理の種類 | 借金減免の内容 |
・相手方と同意できた範囲だけ ※通常は将来利息のみ ※任意の手続きなので友達からの借金を除外できる | |
・法律で定められた一部の債務を除くすべての債務の一部が免除 ・免除されない部分は、原則3年の分割払いで返済 ※友達からの借金を除外できない | |
・裁判所に届け出られた債務について返済義務が完全に免除される ※ただし免責不許可となった場合には返済義務は免除されない ※友達からの借金を除外できない |
②友人からの借金は債務整理の対象とすべきか
借金減免の効果があることから、友人からの借金を債務整理の対象とすべきか迷ってしまう人は多いと思います。
また、借金が「免除されると友達に迷惑をかけるから」と債務整理に躊躇してしまう人もいるかもしれません。
しかし、債務者自身に「友達からの借金はきちんと返したい」という意思があるのであれば、債務整理の減免の効果は気にする必要がありません。
この点については、次の③で詳しく解説します。
他方で、自己破産・個人再生を行う際に「友達からの借金」を裁判所に申告しないことは大きな問題があります。
たとえば、自己破産する際に、故意で一部の債務(借金)を除外して申告すると、免責不許可となる可能性がかなり高くなります。
一部の債権者に対して不公平な対応をすることは、自己破産の手続きでは許されない行為だからです。
免責不許可となってしまえば、友達の借金だけでなく、他の借金の返済義務も一切免除されないので、「財産を強制的に処分されただけ」になってしまいます。
個人再生の場合には、申告をしなかったことで、逆に友達に迷惑をかけることになります。
個人再生において再生計画が認可されると、手続きの対象になったかどうかを問わず、すべての債務について一部免除(権利変更)の効果が生じます。
手続きの対象となった債務については、裁判所に認可された再生計画に基づいて返済を行うことになりますが、手続きの対象外となった債務は、「劣後債権」として再生計画が終了するまで一切の返済が禁止されるからです。
つまり、個人再生の場合には、手続きの対象にすれば定期的に分割で返していけるのですが、手続きから除外すれば「減額された上に返済もしばらくしてもらえない」ということになってしまいます。
③債務整理後に任意で返済するのは自由
債務整理による借金の免除は、「法律上の返済義務」を免除させるに過ぎません。
少し難しいと感じる人もいるかもしれませんが、「返済義務がなくなる」ということと、「借金自体がなくなる」ということは、法律の上では明確に区別されています。
つまり、自己破産・個人再生で返済義務(の一部)を免除された場合でも、「任意(債務者自身の自由意思)で友達からの借金を返す」ことは自由なのです。
ですから、債権者である友達に「きちんと返済する意思がある」、「金融機関からの借金を解決できれば、友達からの借金も返しやすくなる」ということを丁寧に説明すれば、借金を債務整理で解決することも理解してもらえる場合が多いのではないかと思われます。
「誠実に、きちんとコミュニケーションをとる」ということが何よりも重要です。
4、友達の借金でトラブルにならないために注意すべきポイント
友人間の借金でトラブルにならないためには、次の点に注意しておく必要があるでしょう。
(1)できるだけ借金の関係を作らない
友人間では「お金の貸し借りをしない」というのが、やはり一番の基本といえます。
友達同士での借金は、善意・好意を前提とする場合がほとんどですから、フェアな関係を築きづらいからです。
(2)どうしてもお金の貸し借りをしなければならないときの注意点
やむを得ない事情があって、友達との間でお金の貸し借りをしなければならないときには、次の点に注意することが大切です。
- 金額をできるだけ小さくする
- 返済日を明確にする(できるだけ近い日時を設定する)
- 利息などを定めるときには「フェアな条件」に設定する
- 約束(契約・同意)した内容は文書化する
契約書・念書・借用書を作成することには抵抗を感じる人も多いかもしれません。
特に貸した側から言いづらいということも多いと思います。
しかし、文書がないことは、双方にとって甘えの原因にもなりかねません。
また、後日になって「言った、言わない」の水掛け論が生じるリスクもあります。
お互いに気持ちの良い関係を継続するために、文書化は必要と考えておいた方がよいでしょう。
まとめ
友達同士での借金は、好意が嫌悪に変わりやすい非常に難しい問題です。
「文書化しない」、「期日を定めない」といった、貸した側がよかれと思って対応したことがことごとく裏目に出る場合も少なくないからです。
また、借りた方にとっても、「友人ならもう少し待って欲しい」という気持ちと「迷惑を掛けて申し訳ない」という気持ちに板挟みされる場面が少なくありません。
友達同士での借金をトラブルに発展さないためには、相互がきちんと腹を割って話をすることが一番良い方法といえます。
感情的なやりとりになる心配があるときには、弁護士などの専門家に仲介してもらうのも有効な方法です。