モラハラ夫と無事に離婚できたかと思いきや……離婚後も嫌がらせを受けるというケースが増えつつあるようです。
テレビや新聞で、元夫によるストーカー犯罪の末に、被害者が命を落としたという事件の報道を見聞きしたことがある方もいらっしゃることでしょう。離婚後にまでモラハラ夫から嫌がらせを受けた場合、放置していると深刻な被害を招くおそれもあります。すぐに適切な対処法をとることが大切です。
適切な対処法は、以下の6つです。
- 無視する
- 証拠は確保しておく
- 犯罪行為やストーカー行為を受けたときは警察に相談する
- ネットで嫌がらせを受けたときはすぐに削除請求する
- 慰謝料を請求する
- 養育費などの離婚条件を見直す
モラハラについてはこちらの記事をご参照ください。
目次
1、モラハラ夫が離婚後にしてくる嫌がらせ行為の例
モラハラ夫から離婚後にまで嫌がらせを受けているのは、あなただけではありません。多くの女性がモラハラ夫からの離婚後の嫌がらせ行為に怯え、迷惑を被っています。
ここでは、モラハラ夫が離婚後にしてくる嫌がらせ行為としてよくあるものの例をご紹介します。あなたも、以下のうちどれかの被害に遭われているのではないでしょうか。
(1)電話やメールを執拗に送ってくる
最も多いのは、電話やメールなどで執拗に連絡をしてくる行為です。
元妻が会話に応じれば、調子に乗って連絡を続けてきます。無視すれば無視したで、逆上して頻繁な電話やメールがエスカレートすることが多いので、困りものです。電話やメールで執拗に連絡する行為は、ストーカー規制法違反に該当する可能性があります。
ストーカー規制法違反に該当する場合の刑罰は、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。公安委員会から禁止命令等が出たにもかかわらず、それに違反して行われた場合は、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」となります。
また、電話やメールで脅迫された場合は脅迫罪、復縁を迫られるなどした場合は強要罪が成立する可能性もあります。脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」、強要罪の刑罰は「3年以下の懲役」となっています。
(2)つきまといや待ち伏せをする
電話やメールだけにとどまらず、実際につきまといや待ち伏せをされるケースも少なくありません。このような行為も、ストーカー規制法違反に該当する可能性があります。刑罰は、上記の電話やメールで執拗に連絡される場合と同じです。
また、つきまといや待ち伏せをされた際に暴力を振るわれた場合は、暴行罪や傷害罪が成立する可能性もあります。暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留(こうりゅう)もしくは科料(かりょう)」です。
拘留とは、1日以上30日未満の期間に限って、刑務所などの刑事施設に身柄を拘束される刑罰のことです。科料とは、1,000円以上1万円未満の金銭の支払いを命じられる刑罰のことです。金額が1万円以上となる刑罰は「罰金」と呼ばれます。
傷害罪の刑罰は、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」となっています。
(3)面会交流で子どもを連れ去る
モラハラ夫が離婚後の面会交流の際に、そのまま子どもを連れ去るという被害も発生しています。
たとえ我が子であっても、元妻の親権のもとにある子どもを連れ去る行為は、未成年者略取・誘拐罪に該当します。刑罰は「3ヶ月以上7年以下の懲役」です。
また、連れ去りはしなくても、面会交流の際にモラハラ夫が子どもに母親(元妻)の悪口を吹き込む例もよくあります。
(4)ネットで誹謗中傷する
近年、急増している嫌がらせ行為として、インターネット上の掲示板やSNSなどで誹謗中傷してくるというものがあります。このような行為は、名誉毀損罪または侮辱罪に該当する可能性が高いです。
名誉毀損罪と侮辱罪の違いは、「事実」を公表するかどうかです。何らかのプライベートな事実を不特定多数の人に向けて公表した場合は、たとえその事実が真実であったとしても、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
一方、特に具体的な事実を公表することなく、単に「この人は馬鹿だ」と書き込んだような場合は侮辱罪が成立する可能性があります。名誉毀損罪の刑罰は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」、侮辱罪の刑罰は「拘留又は科料」です。
誹謗中傷の内容が脅迫や強要を含むものであれば、脅迫罪や強要罪が成立する可能性もあります。また、誹謗中傷の内容が元妻の仕事や社会的信用を害するようなものであれば、信用毀損罪や業務妨害罪が成立する可能性もあります。
信用毀損罪と業務妨害罪の刑罰は、どちらも「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされています。
(5)リベンジポルノをする
また、近年増加している嫌がらせ行為として、リベンジポルノもあります。
リベンジポルノとは、元配偶者や元交際相手に対する復讐の目的で、相手の裸の写真や性行為中の動画や画像などを無断でインターネット上で公開する行為のことをいいます。
モラハラ夫との婚姻中に性的な動画や画像を撮られている場合は、要注意です。リベンジポルノの被害に遭った場合は、モラハラ夫にリベンジポルノ防止法上の「私事性的画像記録提供罪」が成立する可能性があります。
刑罰は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」とされています。
2、モラハラ夫が離婚後に嫌がらせをする理由
では、なぜモラハラ夫は離婚後にまで元妻に嫌がらせをしてくるのでしょうか。対処法を考える前に、よくある理由を確認しておきましょう。
(1)元妻に未練がある
典型的な理由として、離婚はしてもまだ元妻に未練があるということが挙げられます。
何とかしてよりを戻したい、しかし元妻は相手にしてくれない、という状況で嫌がらせ行為に出てくるのです。嫌がらせ行為によって元妻の気を引いて、接点を持とうと考えるのでしょう。
また、本人としては嫌がらせをしているつもりはなく、本心からよりを戻そうとして頻繁に連絡したり、つきまといや待ち伏せをしているケースもあります。
(2)元妻に復讐したい
よりを戻すことが不可能であることを認識しているモラハラ夫は、元妻に復讐する目的で嫌がらせ行為に出てくることもあります。
本人としては幸せだと思っていた夫婦生活を元妻によって破壊されたという思いや、元妻に逃げられたことで恥をかかされたといった思いが復讐心となり、嫌がらせ行為に走らせるのでしょう。
相手が復讐心を持っている以上、挑発するような対応をすると相手の感情がエスカレートし、さらに危険な行為に出てくるおそれがあります。そのため、慎重に対応する必要があります。
(3)養育費などの離婚条件に不満がある
モラハラ夫が離婚時に取り決めた慰謝料や財産分与、親権や養育費などの離婚条件に不満を持ち、その感情が元妻への憎しみに変わって嫌がらせ行為に出るケースもあります。
離婚時には納得していたとしても、毎月養育費を支払っているうちに経済的に苦しくなってきて、元妻への憎しみが湧いてくることもあるでしょう。
このような場合は、すでに受け取った慰謝料や財産分与を返還するのは難しいかもしれませんが、今後の養育費の金額については再考した方がよいケースもあるかもしれません。
(4)もっと子どもに会いたい
元妻に対する未練や憎しみというよりは、子どもに会いたいという気持ちが抑えきれずに嫌がらせ行為に走るモラハラ夫もいます。親権を獲得できなかった悔しさや、子どもを自分のもとから奪っていった元妻への憎しみの感情などが加わることもあるでしょう。
離婚後に面会交流が認められるとしても、月に1回、半日程度というのが相場的ですので、親権を取れなかった元夫が「もっと子どもに会いたい」と考えること自体は、無理のないことともいえます。
面会交流時に元夫が子どもを虐待するようなケースは別として、問題がなければ面会交流の頻度や1回当たりの時間を再考することで、嫌がらせがおさまる可能性もあります。離婚後に元妻に嫌がらせをしてくる元旦那の心理の中には、対象が妻ではなく子どもの場合もありえます。
(5)孤独感や喪失感に耐えがたい
モラハラ夫といえども、非常識な人ばかりではありません。離婚という現実を受け止めなければならないと理解している人も数多くいます。しかし、実際に妻や子どもと離れて1人になってしまうと、孤独感や喪失感にさいなまれ、堪えきれずに嫌がらせ行為に出てしまう人もいます。
このようなケースではモラハラ夫に同情してしまうこともあるかもしれませんが、油断するのは禁物です。相手は精神的に弱い人間なので、こちらが甘い顔を見せると、「よりを戻せるかもしれない」と考えて、嫌がらせ行為がエスカレートしてしまうおそれがあります。
離婚後の孤独感や喪失感などは、自分で解消しなければならない問題です。モラハラ夫に対しては、毅然とした態度を崩さないようにしましょう。
3、モラハラ夫から離婚後に嫌がらせを受けたときの対処法
それでは、モラハラ夫から離婚後に嫌がらせをされたときは、どのように対処すればよいのでしょうか。まず覚えておいていただきたいことは、モラハラ夫からの嫌がらせ行為に対して、自分一人で対応するのは危険だということです。
対応を誤ると、相手が逆上して嫌がらせ行為がエスカレートするなど、さまざまな危険を招くおそれがあります。モラハラ夫は、元妻に対してある意味「何をしても大丈夫」と考えているところがあります。そのため、自分で対応するには限界があり、根本的に解決するためには専門家の力を借りるべきです。
それを前提として、モラハラ夫から離婚後に嫌がらせをされたときに有効な対処法をご紹介します。
(1)無視する
モラハラ夫からの嫌がらせ行為に対しては、無視するのが最も基本的な対応です。
モラハラ夫はあなたの対応を見て楽しんだり、嫌がらせをすることによってあなたの気を引いて、かまってほしいと考えています。あなたが真面目に反応するとモラハラ夫の思うつぼとなってしまうので、無視しましょう。
電話がかかってきても出ず、メールやSNSでメッセージが来ても返信しないことです。
できれば、今使っている携帯電話は解約し、SNSなどのアカウントもいったん削除するとよいでしょう。
(2)証拠は確保しておく
無視するだけではいつまで経っても嫌がらせ行為が止まらない可能性もありますので、嫌がらせ行為を受けたら証拠を確保しておきましょう。
この後にご紹介する対処法では、どの場合でも証拠が重要となってくるからです。電話の着信履歴やメール・SNSなどのログは保存して、証拠化しておきましょう。ネットで誹謗中傷の書き込みをされたり、リベンジポルノの動画や画像を投稿されたときは、その画面を撮影するか印刷し、URLも記録しておくことです。
できれば、つきまといや待ち伏せをされたときも、その様子を撮影し、話しかけられたときは相手の発言を録音しておくとよいでしょう。
(3)犯罪行為やストーカー行為を受けたときは警察に相談する
犯罪行為やストーカー行為を受けたときは、警察に相談するのが有効です。
明白な犯罪行為が行われている場合には、モラハラ夫を逮捕してくれるときもあります。そこまでいかなくても、事情を聴いた上で嫌がらせ行為をやめるように警告してくれる可能性もあります。
ストーカー行為が行われている場合には、警察から警告や接近禁止命令を出してくれることもあります。
警察に相談する際には、できる限り証拠を提出するようにしましょう。単に相談するだけでは警察が動いてくれないことも多いですが、証拠を提出することで警察に動いてもらえる可能性が高まります。
(4)ネットで嫌がらせを受けたときはすぐに削除請求する
インターネット上で誹謗中傷やリベンジポルノの被害に遭ったときは、すぐに削除請求を行いましょう。
多くの場合は、投稿されたサイト上の「お問い合わせフォーム」などから削除請求を送信したり、「セーフライン」(一般社団法人セーファーインターネット協会)というところに通報することによって、問題のある投稿は削除されます。
それでも削除されない場合には、発信者情報開示請求を行った上で、プロバイダに対して配信差し止めの手続きを行う必要があります。これらの手続きは裁判を要する複雑なものとなっていますので、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
(5)慰謝料を請求する
嫌がらせ行為を受けたときは、民事上の損害賠償請求としてモラハラ夫に慰謝料を請求することも可能です。
相手と交渉する際に、「嫌がらせを止めなければ慰謝料を請求する」と告げたり、実際に慰謝料を請求した上で、「嫌がらせを止めることを条件として請求を取り下げる」という形で交渉するのも有効です。
ただし、実際に交渉する際は弁護士などの専門家に任せることをおすすめします。また、慰謝料を請求する際には、相手の言い逃れを防ぐために証拠を確保しておくことが重要となります。
(6)養育費などの離婚条件を見直す
モラハラ夫が離婚条件に不満を持って嫌がらせをしている場合には、離婚条件を見直すことが有効となる可能性もあります。
あなたが子どもの親権者であれば、適切な金額の養育費を請求する権利はあります。しかし、嫌がらせ行為によってストレスを受けたり、身の危険にさらされるくらいなら、減額に応じたり、場合によっては諦めることを検討した方がよいかもしれません。
養育費などの離婚条件を決め直す方法としては、弁護士などの専門家を間に入れて交渉する他、家庭裁判所に調停を申し立てて話し合うこともできます。
モラハラの相談についてはこちらの記事ご参照ください。
4、離婚後に嫌がらせをするモラハラ夫へ自分で対応するのは危険
これまでにもご説明してきましたが、離婚後に嫌がらせをしてくるモラハラ夫に対して、自分で対応するのは危険です。ここでは、具体的にどのような危険があるのかを解説します。
(1)嫌がらせがエスカレートするおそれがある
モラハラ夫に対して、あなた自身が「やめてください」「警察に通報しますよ」「慰謝料を請求します」などと言えば、相手が逆上して嫌がらせがエスカレートするおそれがあります。
場合によっては、あなたや子どもの身に危険が及ぶおそれもありますので、相手の感情を刺激しないことを第一に考えなければなりません。
そのためには、第三者を間に入れて対応するのが得策です。
(2)元夫との縁が切れないおそれがある
モラハラ夫があなたに未練を持っている場合は、嫌がらせをすることによってあなたと接点を持つこと自体に喜びを感じています。
あなたが嫌がらせ行為に対して逐一反応すると、元夫を喜ばせるだけなので、いつまで経っても嫌がらせは止まらないでしょう。
せっかく離婚したのに元夫との縁が切れず、いつまでも元夫の影に怯えなければならない可能性もあります。
(3)子どもに精神的負担がかかるおそれがある
モラハラ夫による嫌がらせ行為が直接子どもに対して及ばないとしても、あなたが悩んでいたり、怯えていたりすると、子どもに精神的負担がかかるおそれがあります。
離婚後にまで嫌がらせをしてくるようなモラハラ夫への対応は弁護士などの専門家に任せて、安心して子育てをしていきましょう。
5、モラハラ夫からの離婚後の嫌がらせで悩んだら弁護士へ相談を
モラハラ夫からの離婚後の嫌がらせで悩んだときは、弁護士に相談することをおすすめします。どのようなケースでも、弁護士に相談することで解決に向けて一歩を踏み出すことが可能になります。具体的には、弁護士への相談で以下のメリットが得られます。
(1)弁護士が元夫と話し合うことで理由が分かる
モラハラ夫からの嫌がらせに対してとるべき対処法は、嫌がらせをしてくる理由によってことなります。
しかし、あなたがモラハラ夫に理由を尋ねてもきちんとした回答が返ってこないことが多いですし、そもそも直接尋ねることは危険です。
そんなときでも、弁護士に依頼すれば元夫とのやりとりを代行してくれます。弁護士が元夫と冷静に話し合うことで、理由が判明することも多いです。また、経験豊富な弁護士が元夫の反応を見るだけで理由が分かることがあります。
あなたは、リスクを負うことなく嫌がらせ行為の理由を知ることができます。
(2)理由が分かれば正しい対処法が分かる
嫌がらせ行為の理由が分かれば、正しい対処法をとることができます。
ただ、毅然とした態度を貫いて警察に告訴をした方がよいのか、あるいは養育費などの離婚条件について再度話し合った方がよいのか、子どもに会わせてあげることで嫌がらせ行為でおさまるのか、このあたりはご自身で考えても判断が難しいことが多いでしょう。
しかし、弁護士が付いていれば、状況を的確に判断した上で、最善の解決策を一緒に考えくれます。
対応を誤ることによって身の危険を招くという事態を回避することができます。
(3)対処する手続きはすべて弁護士が代行してくれる
実際に嫌がらせ行為に対処するには、モラハラ夫を無視するだけではなく、さまざまな行動が必要になります。弁護士に依頼すれば、すべての手続きを任せることができます。
元夫とのやりとりが必要な場合には、弁護士が代理人として対応してくれるので、あなたが直接やりとりする必要はありません。
警察への告訴やネットに投稿された書き込みや動画や画像の配信差し止め請求、慰謝料請求などは複雑な手続きが必要ですが、すべて弁護士が代行してくれます。
あなたは自分で手間や時間をかけることなく、平和な生活を取り戻すことを期待できるのです。
まとめ
モラハラ夫が離婚後に嫌がらせをしてくる場合、しばらく無視していれば自然に止まるケースも少なくはありません。
しかし、対応を間違えると嫌がらせ行為がエスカレートし、あなたや子どもの身に危険が及ぶおそれがあるので、軽く考えることはできません。
自分で元夫と決着をつけようとするのも危険ですので、弁護士の力を借りて、平和な生活を取り戻すことをおすすめします。