重婚とは、重ねて婚姻すること、つまり配偶者がいるにもかかわらず離婚しないまま、他の異性とも婚姻することをいいます。
日本の法律では重婚が禁止されているので、基本的には重婚が発生することはありません。
- 虚偽の離婚届が提出された場合
- 戸籍係が誤って婚姻届を受理した場合
など、極めて例外的なケースで発生するのみです。
しかし、内縁関係も含めて考えると、実質的に重婚が成立しているケースは少なくありません。
それが「重婚的内縁」の問題です。
重婚的内縁のケースでは、元夫婦関係を解消しないまま他の異性と夫婦生活を送っているので、不倫に該当するのではないかという問題があります。もし不倫に該当するのであれば、元の配偶者から慰謝料を請求されるなどの不利益を受ける可能性があります。
元重婚の配偶者と別居しているのに離婚に応じてもらえず、やむを得ずに新しいパートナーと重婚的内縁の関係を持っている方にとっては、気になる問題でしょう。
そこで今回は、
- そもそも重婚とは
- 重婚的内縁とは
- 重婚的内縁は不倫に当たるのか
などについて、離婚問題の解決実績を豊富に持つベリーベスト法律事務所の弁護士がやさしく解説していきます。
この記事が、重婚的内縁関係の問題や解決策を知りたい方の手助けとなれば幸いです。
不倫についてはこちらの記事をご参照ください。
なお、不倫慰謝料の相場についてはYouTubeでも解説しているので併せてご参照ください。
1、重婚的内縁とは?
日本では、内縁関係も実質的に夫婦として扱われるため、重婚的内縁が発生しているケースは少なくありません。
ここでは、重婚的内縁とはどのようなものなのかを詳しくみていきましょう。
(1)重婚的内縁とは?
重婚的内縁とは、重婚と内縁が合わさった状態のことです。
つまり、配偶者のいる人がその婚姻関係を解消しないまま、他の異性と内縁関係を持つことを意味します。
夫婦が長年別居している状態で重婚的内縁の関係が発生することもあれば、夫婦の一方が不倫相手の家に入り浸ることによって重婚的内縁の関係に至ることもあります。
(2)そもそも重婚とは?
重婚とは、冒頭でもご説明したように、配偶者のいる人が他の異性と重ねて婚姻することをいいます。
日本の法律では一夫一婦制が採用されており(民法第732条)、重婚は犯罪行為として禁止されています(刑法第184条)。
そのため、重婚しようとしても、その婚姻届は役所で受け付けられません。重婚罪が成立するのは、
- 偽装離婚をした上で別の異性との婚姻届を提出したケース
- 重婚に該当する婚姻届を戸籍係が誤って受理したケース
など、ごく例外的な場合に限られています。
(3)そもそも内縁とは?
内縁とは、婚姻届を提出していないものの、実質的に夫婦同然の関係で生活している男女の関係のことを意味します。「事実婚」とも呼ばれます。
内縁関係は、次の2つの条件を満たす場合に成立します。
- 当事者がお互いに夫婦関係を成立させる意思を有していること
- 実際にも夫婦として共同生活をしていること
この点において、単なる「同棲」とは区別されます。
内縁関係が成立している場合には、次の2点を除いて、法律上の夫婦とほぼ同様の権利義務が認められます。
- 相手が亡くなったときに相続人となれない
- 父親と子どもの間に親子関係を認めてもらうには認知が必要
そのため、内縁関係でも相手に対して婚姻費用や養育費を請求できますし、扶養に入れてもらうことも可能です
その一方で、同居義務や協力扶助義務を負い、他の異性と性的関係を結ぶことも民事上は禁止されます。
そのため、内縁関係を解消する際には慰謝料や財産分与を支払わなければならない可能性もあることに注意が必要です。
(4)重婚的内縁は罪ではない
刑法上の重婚罪は法律上の婚姻を重ねてした場合にのみ成立するものと考えられているので、重婚的内縁の関係を持っても罪に問われることはありません。
民法でも、条文の文言だけを見ると法律上の婚姻を重ねてすることのみが禁止されているようにも読めます。
しかし、民法が一夫一婦制を採用している趣旨からして、必ずしも重婚的内縁の関係が通常の内縁関係と同様に扱われるわけではありません。
(5)通常の内縁関係と同様に法律で保護されるケースもある
一夫一婦制を採用している日本では、法律の保護が及ぶのは元の婚姻関係か重婚的内縁関係かどちらか一方のみです。
両方が同時に夫婦として法的に保護されることはありません。
元の婚姻関係が先にある以上、そちらが破綻していない限りは元の婚姻関係が保護されます。
しかし、元の婚姻関係が既に破綻している場合には、重婚的内縁関係の方が事実上の夫婦として保護されることがあります。
2、重婚的内縁が不倫に当たるかどうかの判断基準
それでは、重婚的内縁は「不倫」に当たるのでしょうか。
この点、元の婚姻関係が既に破綻している場合には、重婚的内縁関係の方が法律上保護されるべき関係として扱われるので、不倫の問題が発生することはありません。
それに対して、元の婚姻関係がまだ破綻していない場合は、重婚的内縁は婚外の男女関係に当たるので、不倫となる可能性があります。
つまり、重婚的内縁が不倫に当たるかどうかは、元の婚姻関係が破綻しているかどうかにかかっており、具体的には以下の各要素を総合的に考慮して判断されます。
- 法律上の配偶者との別居期間
- 法律上の配偶者との交流状況
- 法律上の夫婦それぞれの離婚意思
- 重婚的内縁関係の具体的状況
以下で、それぞれの要素について具体的に解説します。
(1)法律上の配偶者との別居期間
別居期間が長くなると、それだけで夫婦関係の破綻が認められやすくなります。
別居に至った事情によって夫婦関係の破綻が認められるまでの期間は大きく異なりますが、5年がひとつの目安となります。
つまり、別居開始から5年以内に重婚的内縁関係を持つと、不倫と判断される可能性が高いということになります。
ただし、
- 配偶者の不倫
- DV
- モラハラ
など、別居に至った原因が配偶者の方にある場合には、この期間は短縮されることがあります。
逆に、自分が別居の原因を作った場合にはこの期間は延長され、10年以上は経過しないと夫婦関係の破綻が認められない可能性が高くなります。
(2)法律上の配偶者との交流状況
別居開始後も法律上の配偶者と定期的に会っていたり、適宜連絡して近況を報告し合うなどの交流がある場合は、夫婦関係の破綻が認められにくくなります。
それに対して、法律上の配偶者との交流が断絶していて、
- 会ったとしても離婚の話し合いをするだけ
- 連絡するとしても生活費の支払いや子どもとの面会交流に関する事務的な用件だけ
という場合は、夫婦関係の破綻が認められやすくなります。
(3)法律上の夫婦それぞれの離婚意思
法律上の夫婦がお互いに離婚する意思を持ち、その目的で別居している場合には夫婦関係の破綻が認められやすくなります。
お互いに離婚すること自体には合意していても、離婚条件で意見が合わずに別居が長引いている夫婦は少なくありません。
それに対して、家から出た側の配偶者は離婚するつもりでも、その相手が夫婦関係の継続を望んでいる場合には、たとえ交流が断絶していても、まだ夫婦関係が破綻しているとは認められない可能性が高くなります。
(4)重婚的内縁関係の具体的状況
法律上の夫婦関係が破綻している度合いと重婚的内縁関係の具体的状況を相関的に見て、どちらが夫婦としての実態を有しているかという視点も重視されます。
例えば、法律上の配偶者と5年以上別居した後に、新しいパートナーとそれ以上の期間にわたって重婚的内縁関係を持っている場合は、既に法律上の夫婦関係は破綻していると判断されやすくなります。
一方で、別居を開始して数年後に重婚的内縁関係を持ったものの、まだ新しいパートナーと同居を始めてから数ヶ月に過ぎないという状況では、まだ法律上の夫婦関係は破綻していないと判断されるでしょう。
以上の各要素を総合的に考慮して、法律上の夫婦関係がまだ完全に破綻していないと認められる場合は、重婚的内縁が不倫に当たると判断される可能性が高いといえます。
3、重婚的内縁が不倫に当たる場合に負うリスク
重婚的内縁が不倫に当たると判断された場合は、以下のようなリスクを負う可能性があります。
(1)有責配偶者となる
有責配偶者とは、離婚原因を作り出した側の配偶者のことです。
具体的には、民法第770条1項に規定されている以下のいずれかの事由(法定離婚事由)を作り出した配偶者のことを意味します。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
不倫は「1. 不貞行為」に該当しますので、不倫に当たる重婚的内縁関係を持つと有責配偶者となるのです。離婚したいと思っても、有責配偶者からの離婚請求は相手の同意がない限り、原則として認められません。
(2)離婚を拒めない
一方で、有責配偶者はもう一方の配偶者から離婚を請求された場合、基本的には拒むことはできません。
拒んだとしても、相手に裁判を起こされると最終的に判決で離婚が認められてしまいます。
自分が離婚を望む場合には痛手にはならないと思われるかもしれませんが、以下のように離婚で不利となる可能性が高いので注意が必要です。
(3)慰謝料の支払い義務が生じる
不倫は配偶者に精神的苦痛を与える不法行為ですので、配偶者から慰謝料を請求された場合には支払いに応じなければなりません。
不倫慰謝料の相場は数十万円~300万円程度と言われています。
別居に至った事情や別居期間などによって金額は左右されますが、重婚的内縁が不倫に該当する場合には慰謝料の支払いを覚悟する必要があります。
(4)その他の離婚条件でも不利となる可能性がある
離婚する際には、
- 慰謝料の他にも財産分与
- 親権
- 養育費
- 子どもとの面会交流
など、さまざまな離婚条件を取り決めなければなりません。
理論上は、慰謝料以外の離婚条件については、有責配偶者だからといって不利になるわけではありません。
しかし、事実上は不利になってしまうケースも少なくありません。
例えば、未成年の子どもを配偶者の元に置いたまま家を出て重婚的内縁関係を持った場合には、親権を獲得することは難しいでしょう。
養育費や面会交流についても、相手の対応が厳しくなり、交渉が難航する可能性が高いです。
財産分与についても、夫婦共有財産を2分の1にする他にも「慰謝料的財産分与」としてある程度の金額を渡さなければならないこともあり得ます。
以上のように、重婚的内縁が不倫に該当すると、離婚手続きがスムーズに進まなかったり、離婚できるとしても慰謝料を支払わなければならないなどのリスクがあることに注意が必要です。
まとめ
戸籍上の重婚はめったに生じるものではありませんが、重婚的内縁の関係が生じることは少なくありません。
重婚的内縁関係を持ったことで不倫の責任を問われてしまったり、離婚問題で困ってしまうこともあるでしょう。
新しいパートナーと幸せな夫婦関係を築くためには、先に「重婚」の問題を解消してしまいましょう。
何から手を付ければよいのか分からない場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が豊富な知識と経験に基づいて、最善の解決方法を提案してくれるはずです。