「部活」という教員の業務の中で多大な時間を要するもの。この「部活」が原因で、「部活離婚」という言葉が広まっています。
あなたの身にも、これと似た問題は起きていませんか?特に既婚の教員にとって、部活動の存在が大きな問題となっています。
この記事では、
・部活指導が家族に及ぼす影響
・部活離婚を防ぐための方法
について詳しく説明します。
部活と家庭を両立させることは可能です。どちらも大切にしたいあなたへ、解決の糸口を提供します。
1、部活離婚とは?
ではまず、部活離婚の意味や、部活離婚に陥る原因などを見ていきましょう。
(1)部活離婚とは
部活離婚とは、部活動の顧問の教師が、部活動指導のために長時間の労働を強いられ、家庭に注ぐ時間が少なくなることを原因とした離婚のことを言います。
このような夫の妻は、未亡人のように一人で家事や育児をこなしていくことから、「部活未亡人」と呼ばれることも。昨今深刻な課題として、教育界では問題視されています。
以下、部活離婚に苦しむ体験談を見ていきましょう。野球部の顧問をしている夫を持つ妻の体験談です。
夫は学年主任と担任、野球部の顧問をしていて毎日帰宅は10時過ぎ。
帰宅しても持ち帰りの仕事をしており、ソファーで寝る毎日です。
子どもが二人いますが、野球部の試合があればそちらが優先で子どもの運動会にも来られません。
働き方に納得できず、夫婦喧嘩にも発展する毎日です。
夫の部活に対する情熱は理解できるため、部活の顧問を辞めて欲しいとは感じませんが、子どもにお父さんを返して欲しいです。
引用:教働コラムズ
(2)部活離婚に陥る原因
では、部活離婚に陥る主な原因3つを見ていきましょう。
①部活が忙しく家庭にいる時間が少ない
部活が忙しく家庭にいる時間が少ない、もしくは休みの日も疲労で家庭の作業が何もできないということから、妻が愛想を尽かしてしまいます。
夫婦を継続する理由の根本は、「一緒にいる意味を感じること」です。
いてもいなくても関係ない、という状況になることは、もっとも離婚に近い状況といえるでしょう。
②家庭や自分の子どもよりも部活を優先してしまう
部活で忙しい、疲れている、ということよりも深刻なのが、「気持ち的に部活を優先させている」ということです。
部活で身体を部活に捧げることと、気持ちを捧げることは、ある意味別です。
身体は仕方がないにせよ、気持ちまで部活一色となれば、家族は「一緒にいる意味を感じない」という状況に陥るでしょう。
③夫婦喧嘩が絶えない
妻から、「あなたなんか家にいないくせに口出ししないで」などという嫌味を言われてしまったり、「部活の顧問やめてよ」などとできもしないことを強く言われたりすれば、あなたも黙っていられないことでしょう。
「部活と自分の子ども、どっちが大切なの」などと言われれば、比べる問題じゃないだろうと、ため息も深くなっていきます。
家庭がうまくいかないと、強豪チームで結果を出していれば妻も何も言わないかもしれないのにと、生徒の力量にまでため息が出てしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2、そもそも「部活」ってなんだ?
家族と学校との板挟みで、「そもそも部活ってなんだろ?」と考え始める方も少なくありません。
やらなきゃならないものなの?と。
(1)部活は必修科目ではない
そもそも部活動とは、文部科学省の学習指導要領によると「生徒が自主的・自発的に行われるもので、スポーツや文化、科学等に親しませるもの」です。
ですから、あくまでも生徒の自主性で行われるものであり、義務ではないのです。
特に,生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動に ついては,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感, 連帯感の涵かん 養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり, 学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること。 その際,学校や地域の実態に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社 会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可 能な運営体制が整えられるようにするものとする。
もともと部活動は明治時代に東京大学で始まり、瞬く間に全国の中学校や高等学校に広まりました。
1978年には高校における部活動の設置は100%になり、中学校でも98、6%になりました。
この流れを受け、義務ではないにせよ、部活動の現状としては、全部制を敷いている学校も多く、教師、生徒ともに、ほぼ義務と感じて部活動に参加している学校も少なくありません。
(2)部活は生徒のニーズに合わせて設置するべき
繰り返しますが、部活動は、学校に必ず設置しなければいけないという義務はありません。
前記の学習指導要領によっても、「生徒の自主性」が問われるものなのです。
ここで、問題なのは、学校における「生徒」は、毎年メンバーが変わるということです。
継続的に同じ生徒を相手にしているわけではありませんので、部活動での推薦入学制度などを取らない限り、ある年は野球が上手な子が多く、ある年はほとんどいない、という状況も起こり得ます。ですから、「生徒の自主性」に任せるとなれば、毎年毎年部活を見直すということにもなりかねません。
もちろん、このようなことは大変なことであり、適切に見直しができるのかも疑問でしょう。
生徒の可能性を広げるためには、間口は開かれていなければならないからです。
しかし現在、教師の部活問題は逼迫しています。
この状況においてもなお、漫然と部活動を継続するべきではありません。
原則である「生徒の自主性」に立ち返り、活動に強弱をつけていくことは必要でしょう。
部活動は、スポーツや文化、科学等に親しむものであり、本来的には「勝つため」に実施されるものではないのです。
「活動の強弱」とは、具体的には、
- 継続の必要性(新設、廃部の検討)
- 練習時間数
- 大会出場
- 合宿の必要性
などについて、毎年生徒とともに考えていく、生徒の意見を反映させていく、という工夫です。
教師の時間と、生徒の可能性を伸ばす手段の確保と、そのバランスを常に考えておくということが必要なのです。
(3)部活動ガイドライン
平成30年にスポーツ庁が打ち出した部活動のガイドラインでは、次のような基準が設けられました。
- 生徒や顧問の健康に留意すること
- 部活動は週休二日を採用(土日のどちらかは休みにする)
- 1日の部活動の活動時間は3時間程度が望ましい
このガイドラインは中学校までの義務教育が対象ではありますが、高校もこのガイドラインを原則とするべきとの声も上がっています。
3、家族が「部活残業」を受け入れない理由
「俺がこんなにがんばっているのにどうして妻はわかってくれないのだろう」
「妻の言い分もわかるけれど、そんなに俺が悪いの?」
と、心のどこかで思っていませんか?
部活離婚の特徴として、「(夫も妻も)どちらも悪くない」ということがあげられます。
まさにボタンの掛け違いとでも言いましょうか。
このような離婚においては、本当は離婚しなくてもやっていかれたようなご夫婦がほとんどです。
もちろん、離婚は悪いことではありませんから、今の家族を終わりにし、新しい人生を歩むことは何らいけないことではありません。
この別れで、お互いに得るものだってあるはずです。
ですが、ボタンの掛け違いは、自ら望んだものでないケースがほとんどです。
離婚をするなら、せめて自ら望む形が望ましい。
ボタンに左右されずに自ら人生を切り開くために、まずは相手の気持ちを考えてみましょう。
(1)大事な家族行事にいないから
家族との顔合わせや運動会などの子どもの行事など、比較的大事にされる家族行事を部活の大会の引率などで不在にしていませんか?
あなたからすれば、新鮮味のない家族行事は「休まる場所」でしかなく、頑張ってきた生徒の試合を見ることの方が断然興奮する行事でしょう。
ここで、生徒があなたを必要とするのと同時に、他人である妻もあなたを必要としていることに気づいているでしょうか?
生徒が妻より勝っている点はおそらく人数くらいなもので、妻は家族とはいえ他人です。どちらもあなたを必要としているのです。
「生徒の方が俺を必要としている」と思っているなら、それは間違いです。
このような場合、断る方に対し、真摯に理由を説明して許可を得ることが常識であることを、教師であるあなたならすぐわかっていただけることでしょう。
これまできちんと実践されてきたでしょうか?
妻は家族だからと、特段の話し合いもせずに仕事を優先していなかったでしょうか?
日頃の生活はともかく、家族の病気の時や家族行事まで何の説明や話し合いもなく不在にするのは、あなたの心(気持ち)が家庭にないというサインだと家族は感じるのです。
(2)サービス残業になっているから
部活動の指導の時間は、ほぼサービス残業の状態でしょう。
教師の残業手当には教職員給与特別措置法(給特法)が適用され、その額はとても多額とはいえません。
家族として、「がんばって働いてくれる」と応援するには、働いた分お金として家族に落ちてくることが必要です。
なぜなら、あなたが不在でデメリットを被っているからです。
デメリットとは、家事に育児において、全て一人ということです。
ちょっとした掃除も買い物も、一人で全て担うのとたまに頼める人がいるのとでは、気持ち的にも体力的にも雲泥の差であることを知りましょう。
そんなデメリットを負いながらも時間に応じた給与額をもらえてないのであれば、たまに会う生活が別な彼女ならまだしも、家族という共同体である妻にとっては、夫婦である意味すら見失うのはとても普通のことなのです。
そんなの仕方ない!と叫びたい気持ちはわかります。
教員の残業代については問題も多いところですので解決は簡単ではないですが、であれば早急の解決策としては、別の方向からのアプローチが必要ということに行き着きます。
4、部活離婚を回避する方法
ここまでくれば、部活離婚を回避する方法はある程度見えてくるのではないでしょうか。
本項では、部活離婚を回避する方法を具体的にみて行きましょう。
(1)配偶者の理解を得るために工夫が必要
必要なのは、そしてあなたがもっとも求めているのは、「配偶者の理解」ですよね。
この理解を得るには、「わかってくれ〜」と神頼みしていても始まりません。
理解を得るには、工夫が必要なのです。
その工夫のポイントとは、
- あなたの気持ちが家庭にも十分にあることを知ってもらう
- あなたが不在にしている分に値する給与をもらう
この2点です。
できるなら、どちらかではなく2点両方揃えたいところ。
次項から、その具体的な方法を見ていきましょう。
(2)的確なコミュニケーション
まずは、あなたの気持ちが家庭にもしっかりあるのだということを知ってもらうことです。
そのためには、現在もめているのであれば、いますぐ2人きりで1時間以上話ができる環境を整えましょう。
そして、家庭が大事だ、でも不器用なために顧みることができていなかった、ということを伝えるのです。
そこまでの緊急事態でなければ、生活の中で、相手の立場に立った気遣いをしていきましょう。
「部活で忙しくて家族との時間が持てなくて申し訳ない」
「いつも家事や育児の負担をかけてごめんね」
などの言葉掛けが大切です。
また、できるのであれば、少なくとも妻が認めてくれるまでは、行動でも示しましょう。
妻の求めていることを察知または言葉で確認し、家事や育児、そして愛情表現をがんばることです。
妻は、本当はきっとわかっています。あなたがとても忙しく、疲れているということ。
それでも一生懸命家族を大切に思っていることが伝われば、大抵の場合、それ以上の無理をいうことはありません。
家庭は、家族でありながらも、元は他人同士の共同体です。
間違った甘え方をしないことが大切です。
(3)部活の残業代を交渉する
教師の残業代は、上記の通り教職員給与特別措置法(給特法)が適用され、一定額以上は出ないとされています。
しかし、私立の場合、同法に縛られる必要はありません。しっかり請求していきましょう。
また、私公関係なく、部活指導業務の手当は別途出ます。請求し忘れることがないようにしましょう。
一方、あまりに過酷な長時間労働である場合、公立であっても学校(市等)に対し、損害賠償請求をする例(実際に勝訴)も出ています。
それだけ、教師の間では、長時間労働は大きな問題となっているのです。
司法の観点からも、今の制度を変える動きをしていくべきと言えるでしょう。
(4)部活顧問の外部委託、ゆる部活などを学校長に交渉する
給料を上げられないのであれば、部活に割く時間を効率化する方法も考えられます。
具体的には、あなたが指導する日、時間を短縮し、働く時間を短くしてていくのです。
部活の顧問は、外部から招いても良いものとされています。
また地域の協力を仰ぐことも良いでしょう。
もし、「俺の指導でなければ勝てない!」などと熱くなっているのであれば、側から「家庭より生徒」と言われても仕方のない状況であることは理解してください。
この場合は、上記(2)(3)の方法でバランスを取ることを考えましょう。
また、前述の通り、生徒の自主性で行われる部活動ですから、毎年子どもを交えて部活動の活動方針などを再確認していくことでも、残業を減らせる手立てになるかもしれません。
今年の生徒は、ゆる部活を希望しているケースもあるはずです。
前述の部活動のガイドラインもありますから、その上で校長と部活のあり方について交渉していくべきです。
5、部活離婚に発展しそうになったら弁護士に相談
対策を講じても職場環境が改善せず、また家族の理解も得られない場合には、部活離婚に発展してしまう可能性があります。
その場合には、弁護士に相談してください。
もし離婚を望まないのであれば、対家庭、対学校への取るべき対策について、アドバイスをもらえることでしょう。
まとめ
部活離婚は不本意な離婚のケースが多く、できるだけ回避したい状況です。
そのためには部活動の本来のあり方を再認識し、働き方を改革していく必要があるでしょう。
その上で家族のことを顧みて、相手の立場に立った気遣いをしてみてください。
きっと家族も理解を示し、部活離婚を回避できます。
どうしても解決できそうにないなら弁護士に頼ってみるといいでしょう。
あなたの心に寄り添い、あなたの意向に合うように配偶者と交渉してくれます。
部活離婚を回避して、家族円満で過ごせることを願います。