もし配偶者があなたの意思に反して離婚届を提出する可能性がある場合、「離婚届不受理申出」が有効な対策です。
この申出により、役所は離婚届の受理を拒否します。
この記事では、ベリーベスト法律事務所の弁護士の監修のもと、離婚届不受理申出の概要と具体的な手続きについて解説しています。
目次
1、勝手に出された離婚届でなぜ離婚が成立するのか?
離婚は、夫婦双方に離婚の意思がなければ成立しません。
しかし一方で、離婚は、離婚届を役所が受理することで成立してしまいます。届出は、夫婦の一方が持ち込むのでもOKですし、郵送でもOKです。夫婦の一方が持ち込んだ場合、持ち込み者の本人確認はしますが、もう一方の意思の確認をすることはありません(後日、持ち込み者でない方へ(郵送の場合は両者へ)住民票の住所へ届出があった旨の通知はなされますが、いったん受理はされてしまいます)。
このような建付けであることから、「一方が勝手に離婚届を出す」ということができてしまうのです。
もちろん、離婚届の署名欄を偽造したり(有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪(刑法159条第1項、161条))、本人の署名があったとしても提出時に本人に離婚の意思がないことを知りながら離婚届を提出すること(電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条第1項))は違法です。また、一方に離婚意思がなければ当該離婚は無効ですので、無効を裁判で争うことができます。
しかし、そうであったとしても、いったん受理され離婚が成立してしまうことには違いありません。違法性を主張したり無効を争うことはできますが、多大な時間と労力がかかるのです。
そのため、
- 相手が勝手に離婚届を出す可能性がある
- 相手に勝手に離婚届を出されては困る
このようなときは、離婚届不受理申出で先手を打つのが得策なのです。
2、離婚届不受理申出書の入手方法
自分の住んでいる自治体の役場で不受理を申し出るための書類は入手できますが、役場のサイトからもダウンロードして入手可能です。
ただし、ダウンロードに対応している役場のサイトもあれば、ダウンロードに対応していない役場のサイトもあります。
不受理申出書のダウンロード版を入手したい場合は、札幌市の運営するサイトからダウンロードが可能です。
ただし、札幌市のサイトからダウンロードをしたものが他の市町村で受理されるとは限らないのでご注意ください。
本人が申出書を出すのが建前ですが、どうしても本人が窓口へ出向けない場合は郵送により提出することも可能です。その場合には離婚届を受理しないで欲しいという内容が書いてある公正証書か、公証人により認証された私署証書を同時に提出して(もしくはこれに準ずる方式により)、申出人本人による不受理申出であることを証明する必要があります。
3、離婚届不受理申出書の書き方
記入することについてわからないことがあれば、窓口で聞くことができます。
以下では、記入する際の要点について解説します。
(1)申出日
不受理の申出をいつ行うか、日付を記入します。
(2)宛先
申出をする者の本籍地の市区町村長の名前を記載します。
たとえ本籍地以外の役所へ提出する場合でも同様です。
(3)申出人の表示等
申出をする者の「氏名・生年月日」「住所」「本籍・筆頭者氏名」、夫又は妻の「氏名・生年月日」「住所」「本籍・筆頭者氏名」を記載します。
(4)その他
申出人が外国人の場合には、ここに相手方を記載します。
(5)申出人署名押印
申出人が署名・捺印します。
(6)申出人連絡先
必要に応じて役場の担当者から電話で連絡をすることがあります。
現在の住所と昼間連絡のとれる電話番号を記載します。
(7)記入例
こちらの記入例も是非参考にしてください。
4、離婚届不受理申出書の提出先と提出方法
形式面に問題がなければ、近くの役場で書類は受理してもらえます。
全国どこの役場から書類が出されたとしても、夫婦の本籍地の役場に転送されることになっています。そのため本籍地の市区町村役場へ送付されるまでに時間がかかることがあり、その間に離婚届が提出されてしまうことがあるので早めに出しておくようにしましょう。
窓口に申出書を出す際には、離婚届不受理申出書と運転免許証・パスポート等の本人確認書類、さらに申出人の印鑑を持参する必要があります。
申出人の印鑑は実印である必要はなく、認印でもかまいません。
申出書の提出は夫婦の一方だけでも可能ですが、本人であることを確認するのが原則になっています。
時間外でも限定的に受付をしてくれる市区町村もありますが、それほど多くないのが現状です。各自治体の対応に差があるのは、本人確認のできる担当者が常駐しているかどうかがに左右されるためです。
なお、時間外に受付してもらえても、審査は次に役場が開庁してからというケースもあります。いつ審査されるかが気になる方は、受付の際に審査されるのはいつか確認しておくようにしましょう。
5、離婚届不受理申出の有効期間
以前は、申出の有効期間は役場で受理されてから最長で6ヵ月までと制限がありました。
しかし、法改正により、平成20 年5月1日以降は申出期間の制限はなくなり、取り下げがあるまで期限の制限なく有効と取り扱われるようになりました。
一旦不受理の申出書を出した者が、後に夫婦双方が離婚の合意をして、離婚届を出すという場合もあります。
その場合でもその離婚届は受理されます。
また、相手がはっきりしない申出を出された場合は、効力はその時に消滅するので注意しましょう。そのような場合は、時間が経ってから再婚してもその申出の効力は消えてなくなることはありません。
不受理の申出の効力を消滅させたい場合は、できるだけ早く取り下げるようにしましょう。
6、離婚をするなら離婚届不受理申出の取り下げが必要
以前は離婚届不受理申出の効力の認められる期限は受理されてから6ヵ月という制限がありましたが、現在は有効期限の制限が無くなり、取り下げをしない限り無制限で有効となっています。
そのため不受理の申出の効力を完全に消滅させるには、書類を出した役場へ本人が出向いて手続きをする必要があります。
取り下げの申請用紙は役場の窓口にあるので、必要事項を記入して提出します。
取り下げの際には、運転免許証・パスポートなどの身分証明書と印鑑を準備しておく必要があります。
7、離婚届不受理申出以外に受理されないことはある?
離婚届不受理申出が出されると離婚届が受理されるのを回避できますが、他に離婚届を受理されない場合はあるのでしょうか。
(1)不備があることがわかっても不受理には該当しない
役所の窓口に離婚届が提出されて即受理ということはなく、受付された後に審査があり受理について決まります。
離婚届に記入する必要のあることが記入されていなかったりすると受理されることはありません。
窓口の担当者に受領してもらえず、補正するように言われるだけです。
すぐに補正できるレベルのことであればその場で補正しますが、本人ではなく代わりの人が離婚届を出している場合は補正することができません。
補正する場合は夫婦のどちらか一方が応じなければならないからです。
夫婦の一方がその場にいない場合は、一度持ち帰って補正するか、夫婦の一方か双方が役所へ出向いて補正します。
ただし、記載の不備がたいしたことのないものであれば、役所の側で補正してしまうケースもあります。
このように、役所で受け付けてもらう際に担当の人から補正をお願いされる離婚届は、ただ受け付けてもらえないというだけです。
受理するかどうかを決定するレベルではないため、不受理には該当しません。
記載の間違いがあったので補正してから受け取ってもらっても、それは離婚届の受付が完了しただけで、受理されたことを意味しないのです。
受付されてから、法律に適合しているかどうか審査され受理するかどうかが決定されます。
(2)離婚届の受付後に記載間ミスが発覚しても不受理ではない
役所の窓口で記載に間違いがないとして受け付けてもらった後、審査を行っていく過程で不備が発見されるケースもあります。
その場合に役所の方で補正をすることができれば問題はなく、もし補正ができない場合は本人に出向いてもらいます。
補正をしているレベルでは受理するかどうか決定はされておらず、不受理には該当しないのです。
補正された後に再度審査が行われて、法律に適合しているか判断され受理するかどうかが決定されます。
(3)受理決定後に記載の不備を発見されることもある
離婚届を受け取ってもらう段階では記載の不備についてチェックされているので数は少ないのですが、まれに受理が決定された後に記載の不備が発見されることもあります。
そのような場合には追完の届出をして不備のある部分を直すだけで、不受理とはなりません。
法律に適合しない記載がある場合だけ不受理と判断されます。
(4)偽造の疑いが明らかな場合は不受理となることも
離婚届の記載事項に不備がないものとして受付されたが、筆跡などに疑いのあるケースがあります。
届け人や証人などの筆跡がすべて一致していて、偽造であることが一目でわかる離婚届がわかりやすい例です。
疑いのある離婚届が提出されても役所には、実施的に審査する権限はありません。
記載されていることが法律に従っているかという形式的に審査する権限があるだけで、管轄している法務局に対して離婚届に関する照会を行うのが仕事です。
照会を受ければ、法務局は当事者から詳しい事情を聴いて事実関係の確認作業を行い、受理について役所へ指示を出します。
役所はその指示に従った決定を行うだけです。
8、意図しない離婚届を無効にして戸籍の記載を訂正する方法
勝手に出された離婚届は受理されるのを防止するには不受理申出を提出すればいいのですが、その前に勝手に離婚届を出されることもあります。
そのような場合に離婚の効力を無効にして、戸籍の記載を訂正するにはどうすればいいのでしょうか。
そもそも離婚が成立するためには、離婚届を役所へ提出する時点で離婚の意思が実質的要件として必要になります。この要件が充たされていない離婚届には効力はありません。
したがって、夫婦の一方が勝手に離婚届を提出して受理されたとしても、夫婦の一方に離婚の意思がない限り無効のままです。
ただ離婚届は受理された状態であり、戸籍の記載も離婚となっています。
そこで、戸籍の記載を訂正して離婚届の無効を認めてもらう必要があり、その手段として「離婚無効調停」と「離婚無効訴訟」があります。
(1)離婚無効調停
無効な離婚を訂正するためには、まず家庭裁判所に離婚無効調停を申し立てます。
申立人は離婚した夫か妻のどちらかです。
離婚届が出されたのは役所ですが、申立地は相手の住所地の家庭裁判所か合意地の家庭裁判所になります。
調停で当事者双方が離婚の無効に合意すると、家庭裁判所は職権で調査した上で、合意に相応する離婚無効の審判を行います。
離婚無効調停を申し立て、合意に相応する審判が下されて確定すると、家庭裁判所から当事者の本籍地の所在する役所へと通知が行われます。
ただし、戸籍の訂正を行うには、当事者が役所へ確定証明書を付して申請する必要があります。
(2)離婚無効訴訟
離婚無効調停は必ずしも合意に至らないことがあり、その場合には離婚無効訴訟へと手続きを進めます。
訴訟を提起するのは、相手の住所地の家庭裁判所です。
裁判では、離婚届が提出された状況をメインとして審理し、判決が下されます。
離婚無効の判決が下されただけでは戸籍の記載は訂正されないので、必ず役場に対して戸籍の間違いを直すことを申し出なくてはなりません。
これにより戸籍上の離婚という記載は訂正され、戸籍上で婚姻関係が復活します。
9、離婚届を勝手に提出することは犯罪
夫婦のどちらかが勝手に婚姻届を出しても離婚は成立するのですが、そのこととは別に複数の刑法上の犯罪行為に該当します。
どう偽造をしたかどうかで犯罪の種類は変わってきますが、以下の4つの類型が考えられます。
(1)離婚届の署名押印を偽造した場合
離婚届に記載する当事者の署名捺印を偽造すると、私文書の偽造という犯罪に該当します。
刑法第159条の有印私文書偽造罪に該当すると、3ヶ月以上5年以下の懲役に罰せられるのです。
(2)偽造した離婚届を役所へ出した場合
離婚届を偽造して役所へ提出すると、刑法第161条の偽造私文書行使罪という犯罪に該当し、3ヶ月以上5年以下の懲役に罰せられます。
(3)戸籍に嘘の内容を記載させた場合
本当は離婚する意思がないにもかかわらず、離婚届を出して戸籍に嘘を記載させると、刑法第157条の公正証書原本不実記載罪・電磁的公正証書原本不実記録罪に該当します。
5年以下の懲役または50万円以下の罰金に罰せられます。
(4)嘘の内容が記載された戸籍が使われる状態にした場合
本当は離婚する意思がないのに、嘘の内容の戸籍や戸籍の電磁的記録が使用される状態に置かれると、刑法第158条の偽造公文書行使罪・不実記録電磁的公正証書原本供用罪に該当します。
5年以下の懲役または50万円以下の罰金という刑罰を受けることになります。
10、離婚したくない場合は弁護士へ相談を
配偶者が一方的に離婚に向かっているが、誤解や行き違いがあるから話し合いたいという場合、一人で戦うことはとても辛いことだと思います。話を聞いてくれない相手との戦いに、次第に気力もなくなってしまうことでしょう。
当事者だけでもめていても解決に向かう気配がないときは、ぜひ弁護士に無料相談してみてください。
弁護士には守秘義務がありますので、公にしたくない内容でも安心してお話いただけます。
弁護士はあなたの味方です。一人で悩まず、強い味方を見つけてください。
離婚届不受理申出についてのQ&A
Q1.勝手に出された離婚届は受理される?
勝手に出された離婚届であっても、法律に反しておらず、正しく記載されていれば受理されます。
Q2.離婚届を出されても受理されないようにするには?
離婚届を出されても役所で受理されるのを回避する方法として離婚届の不受理申出があります。
これは、一度は離婚届への署名捺印をしたが、時間が経ってから離婚する意思を喪失したので離婚届が役所へ提出されても受理を欲しないという意思表示です。
Q3.離婚届不受理申出書の入手方法は?
自分の住んでいる自治体の役場で不受理を申し出るための書類は入手できますが、役場のサイトからもダウンロードして入手可能です。
まとめ
いかがでしょうか。
離婚届不受理申出で勝手に離婚させられることを阻止する方法について、解説させていただきました。
離婚届は記載されていることに間違いがなければ受け付けてもらえるケースが多いのですが、戸籍の記載を訂正するには時間と労力がかかります。
後で無駄な時間と手間がかからないように、離婚の話し合いを開始する前に離婚届不受理申出書を提出されることをおすすめします。