離婚時の厚生年金分割制度は、夫婦間で婚姻中の年金を分ける仕組みです。離婚後も経済的に安心して生活できると期待されることがありますが、実際には年金分割だけでは十分な生計を立てるのは難しいことがあります。したがって、離婚時に分割される年金に関する知識を積んで、離婚後の生活に備えることが重要です。
この記事では、専業主婦だった女性が離婚時に受け取れる年金額や、離婚後に適用できる年金のタイプ、そして年金における離婚のメリットについて詳しく解説します。経済的な不安を抱える方々に、現状のお金に関する不安を取り除き、新たな生活に前向きに向き合うお手伝いをしたいと考えています。
目次
1、専業主婦だった女性が離婚後もらえる年金はいくら?
専業主婦が離婚をしたら、「年金分割」によって年金をもらうことは可能です。
一体どのくらいもらうことができるのでしょうか?
(1)年金分割
年金分割は、何ら行動しない状態ではなされません。
つまり、年金分割をしたいのであれば、離婚後、適切な手続きが必要です。
①年金分割の手続きは離婚後2年以内
年金分割は離婚後2年以内に申請しなければ、その後請求することができなくなります。
離婚しても自動的に分割されるわけではありませんので、きちんと請求するようにしましょう。
②年金分割できるのは婚姻期間中の年金のみ
夫が受ける全ての年金について分割できるわけではありません。
婚姻期間が長期にわたっている場合はあまり気にすることではありませんが、そうではない場合は実際年金分割としてもらえる月額は3万円未満と思っていて良いでしょう。
(2)そもそも結婚継続していたら年金は月額いくらくらいもらえるの?
夫がサラリーマン(平均的な収入を想定)、妻が専業主婦(平均的な収入でOLを経て平均的な年齢で結婚)、というケースで考えれば、婚姻を継続した夫婦でもらえる月額は、一般的には25万円弱と計算されています。
(収入や結婚時期などカップルによってさまざまです。あくまでも数字の目安としてご理解ください)
2、年金分割は離婚後のあてにならない
そもそも夫婦でいた場合の金額が25万円弱、余裕のある夫婦生活では35万円弱必要と試算される中これにも満ちていないのですから、離婚して半額になったときに離婚後の生活費に十分な金額であるはずがないことはおわかりいただけるかと思います。
(1)2人で住むより1人で住むのは非効率
タダで身をおける「家」がある場合は別かもしれませんが、離婚をすれば、もう1つ「家」が必要になります。
「家」にかかる費用、大きくは家賃ですが、夫婦が別に住んだ場合、家賃はもっとも高額な新たな負担となる費用です。
また、水道光熱費も「基本料金」があります。
共に住んでいれば基本料金が1つで住むところ、別に住むともう1つ支払いが発生するのです。
別に住まうということは、とても非効率であることがわかるかと思います。
(2)熟年離婚でなければ離婚後勤める事で自らの年金を積み立てられる
このように、年金分割だけでは暮らして行かれません。
離婚時期が65歳未満であれば、健康である限りは自ら働くことが必要になるでしょう。
この自ら働いた期間、厚生年金に加入してください。
そうすれば、老後は自らの厚生年金がもらえることになります。
(3)離婚の時期は慎重に
年金は、収入額に相応するとともに、納付した「期間」にも相応して金額が決まります。
そのため、「60歳で離婚、5年間だけ働いた(厚生年金は勤める限り70歳まで加入します)」などという場合では、自らの厚生年金として受け取れる額は、期待できる額ではないかもしれません。
であれば、65歳で離婚をしたら、60歳で離婚するより婚姻期間が長くなり、年金分割の額も多少なりとも上がります。
こういったところから、「離婚の時期をみはからう」という知恵(?)が生まれているのでしょう。
3、60歳前の専業主婦が離婚した後の年金保険の加入
専業主婦が60歳になる前に離婚した場合、年金保険の加入状態はどうなるのでしょうか。
(1)就職する場合
もしも離婚後に企業などに就職した場合には、厚生年金への加入が義務付けられています。
厚生年金に加入すれば国民年金も支払われますから、老後には国民年金と厚生年金が支給されます。
(2)就職しない場合
離婚後就職しなかった場合には、国民年金への加入が必要になるでしょう。
または、確定拠出年金に加入して、老後の蓄えに回す手立てもあります。
国民年金の平均受給額は55,000円/月なので、老後の生活では不安が残るところです。
その不安を軽減するためにも、確定拠出年金への加入はおすすめです。
(3)再婚して扶養に入る場合
再婚して再度扶養に入る場合には、配偶者がサラリーマンや公務員なら厚生年金に加入することになるでしょう。
もしも自営業やフリーランスの配偶者なら国民年金に加えて国民年金基金にも加入できる可能性があります。
4、元夫の遺族年金は離婚してももらえるの?
元夫の遺族年金は、離婚した元妻には受給資格がありません。
ただし、元夫との間に18歳未満の子どもがいる場合には、子どもが18歳に到達してから最初の3月31日まで、子どもには遺族年金を受け取る資格があります。
注意点は、遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があり、上記の子どもはどちらでも受け取ることができますが、もし18歳未満の子どもがあなたと暮らしている場合、遺族基礎年金は停止されてしまうことです。
ただし、遺族厚生年金は支給されますので安心してください。
なお、元夫が再婚し、その妻との間に子どもがいる場合には、遺族年金は再婚後にできた子と妻が受給者になります。
つまり、再婚相手に子どもがいない場合に限り、あなたの子どもに受給資格があるということになります。
5、「年金」のキホンを押さえよう!
年金の基本をしっかり押さえて、もらえる年金は漏れなくもらうようにしていきましょう。
(1)年金とは年金保険という社会保険の1つ
年金とは、年金保険という社会保険の1つです。
20歳以上60歳未満の国民は国民年金への加入が義務付けられています。
国民年金は基礎年金と呼ばれ、その上に上乗せされる形で、厚生年金があります。
厚生年金は主にサラリーマンや公務員が加入する年金です。
国民年金も厚生年金もその支払い期間や支払い金額によって、受給額が決まっていきます。
(2)働くスタイルによって年金保険の種類は異なる
基本的に年金は、働くスタイルによって保険の種類が異なります。
①厚生年金
厚生年金は国民年金第2号被保険者と呼ばれるサラリーマンが主に加入する保険です。
個人事業主でも従業員が常時5人以上いる場合には、厚生年金に加入することになっています。
例え従業員数が4人以下でも、半数が厚生年金への加入に賛成なら加入することも可能です。
公務員が加入していた共済年金は、2015年10月1日に厚生年金へ統一されました。
これまで共済年金に加入して共済年金の資格がある方は、日本年金機構と共済年金の窓口どちらでも相談が可能です。
基本的にはワンストップサービスを目的にした統一ですので、日本年金機構が主な窓口になっています。
②国民年金
国民年金は、年金の基盤で基礎年金と呼ばれており、20歳以上60歳未満の国民は全員加入が義務付けられています。が、中には特例などで支払いが免除されるケースもあります。
国民年金の支払い額は定額で、支払い期間に応じて受給金額が異なることになります。
20歳から40年間満額を支払っていた場合の支給額は、64,941円/月です。
国民年金第3号被保険者(専業主婦など)の場合には、国民年金は配偶者の厚生年金の財源から一括で納付されています。
支払っていないかも?と慌てる必要はありません。配偶者が厚生年金に加入していればきちんと加入しています。
(3)その他の年金
国民年金と厚生年金が主な年金の柱となっていますが、それ以外の年金保険制度も存在します。
現在の保険金では将来に不安があると感じるなら、その他の年金を組み合わせて老後に備えていきましょう。
①国民年金基金
国民年金基金とは、国民年金だけでは将来不安を感じる人のために設けられている制度です。
厚生年金に加入していない国民年金第1号被保険者を主な対象として、厚生年金加入者との落差を埋めるために設けられました。
国民年金第1号被保険者とは自営業やフリーランスなどで働いている方のことで、それに対して第2号被保険者の会社員には、国民年金の他にも厚生年金や企業年金などがあるため、将来もらえる年金額は比較的多い傾向があります。
しかし、国民年金基金が1991年に創設されたことで、自営業やフリーランスの方の年金支給額もだいぶサラリーマンや公務員の水準に近付きました。
②厚生年金基金
厚生年金基金という制度もあります。これは、国民年金と厚生年金に加えて企業が私的に年金制度を導入したものです。
公的年金ではないため、各企業が特別法人に運用を委託する形式で成り立っています。
しかしながら、厚生年金基金は公的年金ではなかったために時代の流れと共に運用が難しくなり、現在ほとんど残ってはいません。
実質廃止となっています。これから加入したいと考えても現実的ではない見通しです。
③確定拠出年金
確定拠出年金とは、厚生年金基金に代わって注目を浴びている年金保険の種類です。
確定拠出年金も厚生年金基金と同様に私的年金に区分されています。
厚生年金基金との主な違いは、運用が個人に任されている点です。
個人が運用するため、リスクも全て個人の責任です。運用次第では多くの年金を受給できるところが1番のメリットでしょう。
また2017年の法改正により、国民年金第3号被保険者の専業主婦でも確定拠出年金に加入できるようになりました。
より年金の受給額を上乗せしたいなら、個人で資産運用ができる確定拠出年金への加入を考えてみましょう。離婚をしても個人で加入している年金のため、安心できます。
④退職年金
退職年金制度とは、退職金を一括ではなく分割で支払ってもらう制度のことで、こちらも区分は私的年金です。
一括で受け取りたいと退職者が希望すれば、一括で受け取ることもできます。
退職年金では老後の生活を考えた退職金の給付が可能で、離婚の際に退職年金を受給することが決まっていれば、財産分与に含むこともできます。
⑤企業年金
企業年金とは、先に説明した厚生年金基金や退職年金などのことを指す総称です。
退職年金制度は今でも取り入れている企業がありますが、厚生年金基金は実質廃止状態のため、現在では企業年金という呼び方をしないケースも増えてきていることを押さえておきましょう。
(3)何歳から受給できるの?
年金の受給は原則として65歳からです。
申請することで60~64歳からでも受給は可能ですが、その場合には本来受け取れる金額よりも最大30%の年金が減額されることになります。
反対に66~70歳までのいずれかに受給開始年齢を引き延ばすことで、最大42%の年金受給額を加算することも可能です。
とはいえ年金は被保険者が死亡するまで続くことから、受給年齢を引き上げたからといって必ずしも得ができるとは限りません。
たとえば70歳で受給を始めて72歳で死亡した場合には、2年間しか年金を受けられないことになってしまいます。
6、離婚後の生活費確保へー2つのアドバイス
離婚をすれば年金は確かに分割されますが、それはそれだけでは不十分です。
一億総活躍社会などと叫ばれていますが、現実は(現時点(2019年)では)、専業主婦であった方が働くとなれば、30代後半以降での離婚では、離婚後納得のいく就職先(収入額)に出会える割合、そして出会えたとしても仕事にやりがいを実感できる割合が厳しくなってくるケースが多いと言えます。
そんなわけで、夫があなたに不満がない、またDVなど深刻な状況でない場合には、離婚の時期をコントロールする方が出てくるわけです。
以下、離婚後の生活費を上手に確保するために、年金分割を行うほか2つだけアドバイスしていきます。
(1)財産分与
財産分与とは、離婚時に、夫婦で財産を分け合うことを言います。
婚姻中に培ってきた財産を、平等に分け合うのです。
貯金だったり、投資商品だったり、価値のある動産(絵画など)だったり、家族の財産は多岐にわたりますが、婚姻中に得たものに限り(結婚前に夫が持ってきた財産は分与請求できません)平等に分け合うことができます。
貯金は半分にしやすいですが、その他の財産は実際にはどうやって分け合うのか、もめることも多いでしょう。
そんなときはぜひ弁護士にご相談ください。
あなたに有利になるよう、夫との交渉成立を目指してくれます。
(2)確定拠出年金に加入する
前述の通り、専業主婦でも個人として確定拠出年金に加入することができます。
確定拠出年金とは、毎月一定額の掛金を「運用」していくものです。
「運用」とは主に、定期預金するか、投資信託するかです。
掛金には「上限」があり、専業主婦の掛金上限は2万3千円です。
また専業主婦での実際の平均掛け金額は1万6千円程度と言われています。
確定拠出年金は、やはり60歳以降に、老齢給付金といって、年金または一時金の形で受け取ることができます。
老齢給付金の金額イメージですが、現在45歳、15年間毎月1万円の掛金として、利回り1%で運用した場合、60歳のとき一時金で受け取れる金額は約200万円です。
確定拠出年金を始めるならば、銀行などの金融機関で問い合わせましょう。
7、離婚に関するお金のお悩みについては弁護士へ相談を
離婚に関するお金の悩みについては弁護士にご相談することをおすすめします。
年金分割やもらえる年金について詳しくアドバイスしてくれるでしょう。
その上で離婚の際の財産分与について、あなたに有利になるように離婚を進めてくれます。
離婚後の年金に関するQ&A
Q1.専業主婦だった女性が離婚後もらえる年金はいくら?
年金分割できるのは婚姻期間中の年金のみ
夫が受ける全ての年金について分割できるわけではありません。
婚姻期間が長期にわたっている場合はあまり気にすることではありませんが、そうではない場合は実際年金分割としてもらえる月額は3万円未満と思っていて良いでしょう。
Q2.そもそも結婚継続していたら年金は月額いくらくらいもらえるの?
夫がサラリーマン(平均的な収入を想定)、妻が専業主婦(平均的な収入でOLを経て平均的な年齢で結婚)、というケースで考えれば、婚姻を継続した夫婦でもらえる月額は、一般的には25万円弱と計算されています。(あくまでも数字の目安としてご理解ください)
Q3.元夫の遺族年金は離婚してももらえるの?
元夫の遺族年金は、離婚した元妻には受給資格がありません。
ただし、元夫との間に18歳未満の子どもがいる場合には、子どもが18歳に到達してから最初の3月31日まで、子どもには遺族年金を受け取る資格があります。
まとめ
離婚後の年金の受給についてご理解いただけたでしょうか。
厚生年金や共済年金は記録が分割されますが、その他の年金では分割されません。
そのため、婚姻生活の長い熟年離婚は年金の上ではあまり得にはならないのです。
若年離婚なら再度就職し、自ら厚生年金を支払っていく方法もあるでしょう。
年金をできるだけ多くもらえるように離婚したいなら、年金分割をした上で退職年金などを財産分与で勝ち取る方法があります。
年金などのお金に関することは、年金に詳しい弁護士に相談しできるだけ有利に離婚することがおすすめです。
信頼できる弁護士に相談し、老後の生活の不安を解消していきましょう。