離婚した父親が亡くなった場合、実の子には相続権があります。幼いときに両親が離婚して父親とは何十年も疎遠になっていたとしても、親子である以上、相続権はなくならないのです。
今回は、
- 離婚した父親の相続人の範囲や相続分
- 離婚した父親の遺産分割協議で注意すべきこと
- 離婚した父親の遺産を相続したくないときの対処法
についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
目次
1、離婚した父親の相続人の範囲と相続分
まずは、離婚した父親が亡くなったときに相続人(法定相続人)となるのは誰か、どの相続人にどれくらい相続分があるのかについて確認しておきましょう。
(1)離婚した父親が再婚している場合(再婚後の子がいる場合も含む)
相続人は、以下のとおりです。
- 再婚し、父親死亡時に婚姻関係にあった妻
- 再婚後の子(父親が養子縁組をした子も含みます)
- 前婚の子(あなた)
再婚後に子どもがいなければ、死亡時に婚姻関係にあった妻と前婚の子(あなた)だけが相続人となります。なお、離婚した妻(あなたの母親)は、相続人ではありません。
相続分は、
- 再婚し、父親死亡時に婚姻関係にあった妻:2分の1
- 子:2分の1
となります。
この割合は、被相続人に子が何人いても変わりません。
この2分の1を被相続人の子全員で分け合いますが、再婚後の子と前婚の子の相続分は平等です。
したがって、複数の子がいる場合は、上記の「2分の1」を均等に割ります。
例えば、
- 再婚後の子:2人
- 前婚の子:あなた1人
だとすると、3人で均等に3分の1ずつ分け合いますので、相続分は子1人あたり6分の1(1/2×1/3)となります。
なお、あなたの母親が再婚して、再婚相手とあなたが養子縁組をしていたとしても、実の父親を相続する権利はなくなりません。
(2)離婚した父親が再婚していない場合
離婚した父親が再婚していない場合は、前婚の子のみが相続人となり、相続分は100%です。
この場合、父親の尊属(父母、祖父母など)や兄弟姉妹が相続分を主張してくることがあります。
しかし、子がいる限り父親の尊属(父母、祖父母など)や兄弟姉妹に相続分はありませんので、あなたはすべての遺産を相続することができます。
2、離婚した父親の他の相続人と遺産分割協議をするときの注意点
離婚した父親が再婚していた場合など、あなたの他にも相続人がいる場合にあなたが遺産を得るためには、他の相続人と遺産分割協議をしなければなりません。
その場合、通常の遺産分割よりもトラブルに発展するケースが多いので、以下の点に注意することが大切です。
(1)相続人、相続財産、相続分を確認すること
離婚した父親と疎遠であった場合には、離婚後の父親が再婚しているのか、再婚後の家族は何名いるのかといった相続人に関する情報や、どのような遺産があるのかという相続財産に関する情報を知らないことが多いと思います。
それらについて知らないままでは、他の相続人と話し合いをすることができませんし、相手から話し合いを持ちかけられた場合も不利になってしまう可能性があります。
そのため、離婚した父親が亡くなったと知らされたら、まず相続人、相続財産、相続分について確認することが重要です。
あなたは、離婚した父親の相続人ですから、父親の戸籍を収集することができますので、戸籍を集めて相続人を把握しましょう。どのような相続人がいるのかわかれば、法定相続分も自ずとわかります。
また、相続人であれば、遺産についても調査することが可能です。下記の記事を参考に、財産の調査をされることをおすすめします。
戸籍の収集や遺産の調査でお困りであれば、その後の遺産分割も含めて弁護士にご相談されることも検討してみてはいかがでしょうか。
(2)いきなり遺産分割協議書が送られてきた場合
離婚した父親が亡くなった後、再婚後の家族から話し合いもなしに、いきなり遺産分割協議書が送られてくるケースもあります。
この場合、遺産分割協議書にサインする前に、落ち着いて次の2点を確認することが重要です。
- 父の遺産のすべてが掲げられているか
- 遺産分割の内容が法定相続分に従ったものになっているか
先方が遺産の一部を隠していることもありますが、そのことは送られてきた遺産分割協議書をいくら丁寧に読んでも分かりません。
そのため、まずは相続財産を調査する必要があります。
不安な場合には、送られてきた遺産分割協議書を持って、弁護士にご相談されることをおすすめします。
(3)相続放棄を求められた場合
再婚後の家族があなたに対し、相続放棄の手続きをするように求めてくるケースもあります。
もちろん、相続放棄をするかどうかは、相続人自身の意思で決めることであり、他人が強要することではありませんから、このような要求に応じる義務はありません。
先方から「故人には借金があったので、あなたは相続放棄をされた方がいいですよ」と言われるケースもありますが、この言葉が真実でない可能性もあります。
本当に相続放棄した方がよいのかどうかを判断するためにも、離婚した父親が亡くなったことを知らされたら、すぐに相続財産の調査をしましょう。
(4)冷静に話し合うこと
離婚した父親の再婚後の家族に会ったことのある人は少なく、父が亡くなって初めて存在を知る方や存在は認識していても初めて会うという方も多くいらっしゃいます。
そのため、お互いに相手がどのような人かわからず、どうしてもお互いに警戒してしまうものです。
あなたは、離婚した父親が亡くなったことを知って複雑な気持ちになることと思いますし、場合によっては再婚後の家族には遺産を渡したくないと思われるなど感情的になってしまうかもしれません。
他方、再婚後の家族も、これまで共に生活してきたことから、今後の生活のために被相続人の財産をあてにしている可能性もあり、こちらも感情的になることもあるため、衝突しやすい傾向にあります。
感情的に対立していても話合いは進みませんから、冷静に話し合って解決していきましょう。
どうしても、冷静に話合いをすることが難しいご事情があれば、弁護士に依頼され、話合いの対応一切を任せるのも一つの方法ですし、調停の利用も検討されるとよいでしょう。
3、離婚した父親が遺言書を遺していた場合の注意点
相手方の家族と話し合う場合でも、いきなり遺産分割協議書を送られてくる場合でも、離婚した父親が遺言書を残しているケースもあります。
遺言書がある場合は、相続についてどのようにすればよいのでしょうか。
(1)基本的には遺言書の内容に従う
亡くなった方が遺言書の中で遺産分割の方法を定めている場合、被相続人(遺言した人)の意思が優先されますので、原則として、遺産分割はその内容に従う必要があります。
したがって、仮に遺言書の中であなたの取り分がゼロと定められていた場合は、法定相続分どおりに遺産をもらうことは難しくなります。
もっとも、相続人全員の同意がある場合には遺言書の内容にかかわらず、自由に遺産分割ができます。
そのため、あなたの方から遺産分割協議を申し出ることはできます。
先方が話し合いに応じてくれない場合や、話し合いには応じてくれたもののまとまらなかった場合には、遺言書の内容を覆すことはできません。
(2)遺留分は主張できる
遺言書であなたの相続分がゼロと指定されていた場合でも、全く遺産をもらえないわけではありません。
法定相続人には「遺留分」といって、遺言によっても奪えない最低限の相続分が保障されているからです。
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
引用元:民法
被相続人の子には法定相続分の2分の1の遺留分があります。
仮に離婚した父親の相続人が、
- 再婚後の子 1人
- あなた
の2人である場合、法定相続分はそれぞれ2分の1ですから、あなたには4分の1(1/2×1/2)の遺留分が保障されています。
父親の相続人が、
- 再婚し、父親が死亡したときに婚姻関係にあった妻
- 再婚後の子 1人
- あなた
の3人である場合は、法定相続分が4分の1(1/2×1/2)となるため、あなたの遺留分は8分の1(1/4×1/2)となります。
令和元年7月1日以降に被相続人が亡くなった場合は、遺留分の主張は、遺言によって遺産を取得した人に対して、遺留分を侵害された分を金銭で支払ってもらうように請求することによって行います。
この請求のことを「遺留分侵害額請求」といいます(民法第1046条)。
例えば、離婚した父に総額1000万円の遺産があり、
- 再婚し、父親が死亡したときに婚姻関係にあった妻
- 再婚後の子 1人
- あなた
の3人がいる場合で、遺言書によって他の2人が全ての遺産を相続した場合、あなたは125万円(1,000万円×1/8)の支払いを再婚した妻と再婚後の子に対して請求することができます。
(3)遺言無効の訴え
遺言書が正しい方法で作成されていないことが疑われるときには、「遺言無効確認の訴え」を提起することで、遺言そのものを無効にすることができる可能性があります。
たとえば、「被相続人は認知症であるので遺言書を作成できるはずがない」、「他人にだまされて(おどされて)遺言書を書かされた疑いがある」、「検認された自筆証書遺言は、遺言者(被相続人)以外の者が記入したものである」といった場合には、民事訴訟で遺言それ自体の効力を争うことができます。
遺言が無効とされた場合には、これに基づいた相続はできませんので、新たに遺産分割協議を行うことになります。
ただし、民事訴訟で遺言の無効を認めてもらうには、「遺言が正しく作成されていない」ことを裏付けられる客観的な証拠が必要であり、この証拠の確保には専門的な知識経験が必要です。
遺言の効力を争う場合は、弁護士にご相談ください。
4、知らないうちに遺産分割が終わっていた場合の対処法
離婚した父親がが亡くなっても、父親の再婚後の家族がそのことをあなたに知らせずに遺産分割をすませてしまうことも考えられます。
知らないうちに遺産分割が終わっていた場合は、どうすればよいのでしょうか。
遺産分割協議には、法定相続人の全員が参加する必要があります。法定相続人を1人でも欠いた遺産分割協議によって行われた遺産分割は無効です。
したがって、いつでも遺産分割協議のやり直しを求めることができますので、相続人であるあなたが参加しないままに遺産分割協議が行われていたことに気づいたら、遺産分割協議のやり直しを要求しましょう。
他の相続人が話し合いに応じてくれない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てます。そこでも話し合いに応じてくれなかったり、合意ができなかったりする場合には、審判に進むことになります。
無効な遺産分割に基づいて既に遺産が処分されていた場合(預金の引き出し、不動産の売却等)には、「無効な」遺産分割に基づくものになりますので、根拠なく取得したものとして、不当利得返還請求を行うことを検討します。
5、離婚した父親に借金がある場合の注意点
離婚した父親に借金があった場合、何の手続きもしなければその借金を相続してしまいます。
しかし、相続放棄の手続きをすることで、父親の借金から逃れることができます。
ただし、相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされるため(民法第939条)、プラスの財産も取得することはできないことにご注意ください。
そのため、離婚した父親が亡くなったことを知ったときは、すぐに相続財産を調査して、相続放棄をした方がよいかどうかを検討することが大切です。
また、相続放棄で注意したいのは、3ヶ月という期限があることです。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
引用元:民法
自己のために相続の開始があったことを知った時というのは、相続人が、相続開始の原因たる事実=被相続人の死亡を知り、かつ、自分が相続人となったことを認識した時点を意味します。
離婚した父親が亡くなったことを知らないうちは、相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡)を認識していませんから、3か月のカウントは開始しません。
ただし、3か月のカウント開始が、被相続人の死亡時とはずれる場合には、家庭裁判所で厳しいチェックを受けることになりますので、弁護士にご相談され、場合によっては依頼するなどして、しっかりと準備をした上で相続放棄の申述をする必要があります。
なお、3か月以内に相続人が相続財産の状況を調査しても,なお,相続放棄をすべきかどうかを決定できない場合には,家庭裁判所は,申立てにより,この3か月の熟慮期間を伸長することができます(民法915条1項後段)。
相続財産の構成が複雑である場合やその所在地等の問題から、3か月の熟慮期間では相続放棄をすべきか否かを判断できない場合には、期間の伸長も検討しましょう。
6、離婚した父親からの相続におけるトラブルは弁護士へ相談を
離婚した父親からの相続で相手方家族ともめたときは、早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。
相続問題に強い弁護士に依頼すれば、まず相続人や相続財産の調査を迅速に行い、その上で、
- 相続放棄すべきか
- 遺産分割協議を求めるべきか
- 遺留分侵害額請求をするべきか
など、事案に応じたベストな解決方法を検討します。
父親の再婚後の家族と遺産分割協議をする場合は弁護士が窓口になりますし、話し合いがまとまらずに調停や審判になった場合にも代理人として出席し、全面的にサポートいたします。
まとめ
両親が離婚して、付き合いのなかった父親が亡くなったことを突然知らされたら、複雑な感情を抱かれるかもしれません。
「もらえるものは少しでももらいたい」と思う一方で、「かかわりたくない」という気持ちもでてくるかもしれません。
相続放棄には3ヶ月という期限がありますし、相続するにしても遺産が散逸してしまう可能性がありますので、いずれにしても早めに対処する必要があります。
困ったときは、すぐに弁護士にご相談されて、ひとつひとつ問題を片付けていきましょう。