相続財産の調査って面倒なのかな……どのように進めればよいのだろう。
死亡と共に発生する「相続」。
急な他界であるケースでは特に、準備を整えている方は少ないでしょう。
相続において、自分が何を相続するのかを知るためには、まず被相続人(亡くなった方)がどんな財産をもっていたのかを調査しなければなりません。
どうやって?
いつまでに?
短い期間で全部を明確にしなきゃダメ?(後から見つかったらどうするの?)
今回は、
- 相続財産の項目
- 相続財産の調査方法
などについて、簡潔明瞭にご説明します。この記事が少しでもみなさまのお役立てれば幸いです。
相続の基本について詳しく知りたい方は以下の記事に掲載されていますので、是非ご覧ください。
1、相続財産の調査はなんのため?
相続が開始したら相続財産を調査する必要があります。
いったい、なぜ相続財産を調査しなければならないのでしょうか。
(1)どの相続人が何を相続するのかを明確にするため
被相続人(亡くなった方)の財産は、死亡と同時に相続人に相続されますが、相続人が複数いる場合は、相続人全員の「共有」という扱いになります。
共有は結構やっかいで、売ったりあげたりする場合、全員の同意が必要になります。
みんなが1つのものに同じだけの権利がありますから、一人がヤダと言えば、勝手な処分はできません。
また、被相続人から借金をしていた人がいたらどうでしょう。
誰か1人に返したら問題になってしまって・・・ということになりかねず、誰に返せばいいの?ということになります。
そのため、自由に相続した財産を使用・収益・処分するために、誰が何を相続するか、を明確にしなければならないのです。
そして、「誰が何を相続するか」を決めるためには、元の相続財産がどのくらいなのかを明確にしなければなりません。
(2)相続放棄をするかを検討するため
では、相続人が1人だけでどの相続人が何を相続するのかを明確にする必要がなければ、相続財産を調査する必要はないでしょうか?
もちろん、答えはNOです。
相続は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金など)も承継されます。
もし、マイナスの財産がとても多かったら、相続放棄をすることができますが、相続放棄には期限があり、相続開始(他界)から3ヶ月以内と決められているのです。
そのため、相続財産を調査し、相続放棄をしなくても良いのかを検討する必要があるのです。
2、相続財産の項目
では、相続財産を調査するにあたり、「財産」にはどのようなものがあるのか、相続財産の項目から確認していきましょう。
原則として被相続人名義のものですが、被相続人が家族名義にしていた財産なども含まれますので、注意が必要です。
(1)現金・預貯金
原則として被相続人ご本人の名義のものですが、前述のとおり、ご自分の財産を家族などの名前で預けているものなども含まれます。
- 生命保険金
- 死亡退職金
は相続財産ではありませんので、これらを受け取った場合は遺産分割上の相続財産として算入する必要はありません(任意で算入することは問題ありません)。
(2)不動産
土地・建物などです。
(3)債権
売掛金、貸付金などです。
なお、交通事故などで亡くなった場合の損害賠償請求権などもあり得ます(損害賠償請求権は、死亡した本人にも発生しており、その権利を相続します。家族にも個別の慰謝料請求権などが発生しますが、それとは別物です)。
(4)株式等有価証券
原則は被相続人名義のものですが、前述のとおりご家族などの名義にされていたものも含まれます。
(5)動産
自動車、家財道具、貴金属、美術品などです。
【注意】未支給年金等
公的年金や企業年金等は通常後払いされます。
相続開始時には被相続人がまだ受け取っていない年金が残っていることが通例です。
これを未支給年金といいます。
これは相続財産ではなく、相続人の固有の財産として受け取ることができ、「一時所得」として扱われます(「相続財産だ」という誤解が税理士などの専門家でも見られるようです。ご注意ください)。
参考:国税庁「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」
(6)マイナス財産
要するに被相続人の債務です。
相続放棄や限定承認などをしない限り、相続人がまるごと承継することになります。
主なものは次の通りです。
- 住宅ローンや自動車ローン等
- 借入金・保証債務
事業をされていた場合には多額になる可能性があります。
前述の相続放棄や限定承認を検討するために調査します。
- 未払い医療費
長く入院されているなどで未払いになっている可能性があります。
- 未払公租公課
例えば、固定資産税、自動車税など、納期と相続開始時の関係で未払いになっていることがあります。
- クレジットカードやキャッシングなどの未払い分
3、相続財産の調査方法
では、プラスの財産の調査方法とマイナスの財産の調査方法を順番にご説明していきます。
(1)プラスの財産の調査方法
財産項目別の調査方法の概要は次の通りです。
なお、郵便物などから後日になって相続財産が判明する場合がよくあります。
郵便局に転送届を提出して相続人の代表者に郵便物が届くようにしておくとよいでしょう。
相続人間の揉め事にならないよう、誰が転送物の受取人になるかを、相続人間で話し合ってちゃんと決めておくことをお勧めします。
①現金・預貯金(貸金庫にも注意)
すべての取引金融機関を調べます。
預貯金等で通帳に記帳していないこともありますので、通帳に記帳するか、銀行窓口に問合せます。
最近では、ネット銀行などで通帳を発行していない場合もあります。
銀行の通知物などで取引銀行を調べます。
パソコンなどに取引通知が送信される場合が多いので、可能ならパソコンのメール履歴も調べます。
また、銀行の貸金庫などに契約書や不動産権利証などの大事なものを預けていることも多いでしょう。
メインの取引銀行が分かっているとか、多額の取引のある銀行があれば、問い合わせましょう。
預金通帳で貸金庫手数料が引き落とされているなどで貸金庫取引が判明する場合もあります。
預貯金などは、原則として被相続人ご本人の名義のものですが、前述のとおり、ご自分の財産を家族などの名前で預けているものなども含まれます。
例えば、お孫さん名義の通帳などもありうるでしょう。被相続人のお手元の通帳などを全て調べます。
②不動産
土地・建物などです。
市役所や都税事務所などから届いた固定資産税の通知書などで把握します。
固定資産税通知書には、土地の地番や建物の家屋番号まで記載されています。
不動産所在地の市区町村役場で固定資産課税台帳(名寄帳)を調べたり、法務局で不動産登記事項証明書を取って調査します。
法務局はオンライン化されていますので、最寄りの法務局で調べることができます。
③債権
売掛金、貸付金などです。
事業をなさっている場合などは、経営していた会社や取引先などに問い合わせて確認することになります。
交通事故などで亡くなった場合の損害賠償請求権などは、相手との交渉状況など複雑な問題があり得ます。
これらは専門の弁護士等に依頼するのが無難でしょう。
④株式等有価証券
原則は被相続人名義のものですが、前述のとおりご家族などの名義にされていたものも含まれます。
配当金の通知書や取引報告書などを調べて信託銀行(名義書換代理人)や証券会社の郵便物を確認したり、窓口の支店などに問い合わせましょう。
ネット取引などで郵便物が届いていない可能性もあります。
心当たりの金融機関などがあれば、念のため問い合わせましょう。
⑤動産
自動車、家財道具、貴金属、美術品などです。
自動車は、自動車税納税通知書や自動車の保険証券などで確認します。
⑥年金の取扱の注意点
公的年金や企業年金等の郵送物から窓口を確認して、被相続人の死亡を届けます。
これにより、以後の年金が停止されるとともに、まだ受け取っていない年金(未支給年金)の手続きも案内してもらえます(前述のとおり、相続財産ではありませんので相続税はかかりませんが遺族固有の財産として課税対象になります)。
また、相続財産とは別に遺族固有の給付が行われることもありますので、これも確認しておきましょう。
なお、死亡届を怠っていると、年金の過払いとなり、後日返還を求められるなど面倒な手続きが必要になります。
⑦特別受益
プラスの財産とは違いますが、相続人の中に、故人の生前、資産の贈与を受けていた人がいれば、「特別受益」として計算に入れることになります。
特別受益を得ている人がいるかどうか、相続財産の調査と並行して相続人にヒアリングするなどします。
(2)マイナス財産の調査
①住宅ローンや自動車ローン等
借入の契約書や証書などがどこにあるかわからない、といったことも多いでしょう。
預金通帳などの引落記録などが手掛かりになることがあるので調査します。
住宅ローンについては、団体信用生命保険に加入している場合が多く、この場合は、相続時にローン会社が一括返済してくれますので、債務が残らないことが通例です。
もちろん、一括返済にかかる手続きが必要です。
②借入金・保証債務
借用証、契約書などをしっかり調べる必要があります。
事業をなさっている場合などは経営していた会社や取引先に問い合わせての確認も必要です。
前述の通り、貸金庫は大きな手掛かりになります。被相続人が不動産を所有している場合は、借入金について不動産に抵当権がついている場合もあります。
登記簿などで調べることも大切です。
一番確実なのは、信用情報機関から情報を取り寄せることです。
以下が問合せ先です。相談先のリンクを貼っています。
とはいえ、手続きはかなり煩雑です。
郵送あるいは窓口などで必要書類を提出する必要があります。弁護士など専門家への依頼をお勧めします。
銀行系のローン(住宅ローン等)やキャッシングを調査できます。
登録情報の開示は、センターへの郵送による申込みでのみ受け付けています。
- CIC(株式会社シー・アイ・シー)
ここではクレジット系の契約内容を調査できます。 - JICC(株式会社日本信用情報機構)
ここでは消費者金融系の契約内容を調査できます。
また、消費者金融などで、相続放棄を避けさせるために、3か月経ってから請求してくる業者がいます。
あわてて払わずに取り扱いについては必ず専門家に相談してください。
③未払い医療費
長期入院などの場合です。
ただし、病院では1か月ごとなどに入院費を払っていることが多いでしょうし、死亡の事実も病院で把握していることが通例でしょう。
1ヶ月分程度の未払医療費がありうることを想定して病院に問い合わせてください。
④未払公租公課
固定資産税や自動車税などの納税通知書で調べます。
⑤クレジットカードやキャッシングなどの未払い分
カード会社などの通知書で調べます。
また、銀行預金などで引き落としていることが多いでしょうから、預金通帳の取引記録を調べます。
⑥寄与分
「マイナスの財産」とは違いますが、寄与分を主張する人がいれば、ここで確認しておきましょう。
4、相続財産の調査が終わったら
(1)プラス財産が多かったときは遺産分割協議へ
相続財産の調査でプラス財産が多かった場合で複数の相続人がいるときは、この調査の目的であった「遺産分割協議」へ入りましょう。
遺産分割協議の詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
以下、遺産分割協議に関する大切な2点についてお話していきます。
① 財産の評価
公平な遺産分割をするためには、現金や金額が確定した債権以外の財産について、いくらと評価するのか、その財産の価値評価が重要となります。
この点、それぞれの財産に応じた詳細な評価方法が定められています。
ここでは代表的なものの概要を示します。
【不動産】
ⅰ)土地
土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します。
土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。
イ.路線価方式
路線価が定められている地域の評価方法です。
路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額です。
路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて計算します。
ロ.倍率方式
路線価が定められていない地域の評価方法です。
その土地の固定資産税評価額(都税事務所、市区役所又は町村役場で確認できます)に一定の倍率を乗じて計算します。
路線価図及び評価倍率表並びにそれぞれの見方は、国税庁ホームページで閲覧できます。
ⅱ)建物
固定資産税評価額と同じ額になります。
ⅲ)その他
賃貸されている土地や家屋は、権利関係に応じて評価額が調整されます。
相続した宅地等が事業の用や居住の用として使われている場合には、一定の減額などの特例があります。
【上場株式(上場されている投資信託受益証券も同様に評価します)】
上場株式とは、金融商品取引所に上場されている株式をいいます。
次のうち最も低い額で評価します。
イ.相続開始時の終値
ロ.相続開始月の毎日の最終価格の平均額
ハ.相続開始月の前月の毎日の最終価格の平均額
二.相続開始月の前々月の毎日の最終価格の平均額
【上場されていない投資信託受益証券】
課税時期において解約請求等により、証券会社などから支払いを受けることができる価額として、計算される金額によって評価します。詳細は国税庁資料を参照ください。
【動産】
自動車は取引事例比較法により、車検の有効残存期間の長短等も考慮して評価することとされています。
② 協議後に見つかった財産について
万が一、このあとで財産が新たに見つかったときに備え、「その他の財産については○○が相続する」「協議後、評価額○円以上の相続財産が発見された場合は、新たに全相続人で遺産分割協議を行う」など、今後見つかった財産についての帰趨についても協議してください。
(2)マイナス財産が多かったときは相続放棄等
マイナス財産の方がプラス財産より多いという場合などは①相続の権利を放棄する(相続放棄)か、②プラスの財産の範囲で債務などマイナス財産を承継する(限定承認)ことが可能です。
この詳細は次の記事を参照してください。
5、相続でお困りの際は弁護士へ相談を
以上は相続財産調査の概要を示したものです。
実際には、相続財産の調査漏れや評価の間違い、手続きのミスが生じたり、金融機関その他関係者との折衝も手間のかかるものです。
さらに、普段は縁遠い相続人が、相続発生とともに集まってくるので、ちょっとした行き違いから「争続」になることもあります。
長男が誠実に手続を進めているのに、他の相続人から財産を隠していないかと詮索されたり、手続きを任された長男が知識不足で思いがけない間違いをしてしまう、等です。
簡単な相続で相続人間の争いもないのなら、ご自身でも手続きは進められるでしょう。
しかし、財産が多かったり、債務も多数ありそうだというような場合は、第三者に相談することが大切です。
最近は、銀行などで「相続手続きはお任せください」というサービスも行われていますが、法的紛争を銀行自身が解決してくれることがないわりに、安くない手数料がかかるとも言われています。
こんなときは、相続に詳しい弁護士に早めに相談して手続きを進めるのがおすすめです。
手続きの代行を依頼できるばかりか、親族間紛争の仲介、遺留分や寄与分などの法的請求まで全て依頼が可能です。
早期に相談すれば、事前に後の紛争を防ぐことにもなります。
相談料が無料の法律事務所も増えてきました。
相続に詳しい弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
相続は多くの人にとって一生に幾度もないことです。
しかも、一定の期限内に相続人だけでなく、様々な関係者とも折衝しつつ手続きを進めていく必要があります。
その間には葬儀から始まり、不慣れな手続きに忙殺されます。
葬儀疲れで体調を崩す、相続人の揉め事で大喧嘩になる、そんな不幸なこともよく見られます。
こんなときこそ、相続の細かな手続きは専門家を活用してください。
相続を、故人を悼み、相続人の皆様が新たな縁を結ぶ機会にしていただくことを切に願っています。