不貞行為の慰謝料額に明確な基準はありませんが、相場は判例によってある程度、形成されています。
そこで今回は、
- 不貞行為の慰謝料の相場
- 不貞行為の慰謝料額を左右する7つのポイント
- 不貞行為の慰謝料に関する主な判例
等について弁護士が分かりやすく解説します。
目次
1、不貞行為の慰謝料には判例上の相場がある!
不貞行為の慰謝料と判例上の相場についてまずは確認していきましょう。
(1)そもそも慰謝料とは
不倫や離婚の場面になると「慰謝料」という言葉を目にすることが多いですが、そもそも慰謝料とは、他人の不法行為によって受けた精神的苦痛をお金に換算して支払ってもらうものです。
精神的苦痛を受けたときは「謝ってほしい」「反省してほしい」等の感情的側面だけでなく、金銭賠償を慰謝料という形で求めることが認められているのです。
(2)判例で相場が形成されている理由
物が壊れたことに対する金銭弁償等の物質的損害とは異なり、心の痛みである精神的損害はどれほどの大きさなのかを実際に目で見て確認することができません。
そのため、精神的損害を慰謝料という金銭に換算する際は、様々な事情を考慮して慰謝料の金額を決める必要があります。
裁判所では個別の事案ごとに具体的な事情を細かく考慮した上で、過去の判例を参照し、同じような事案では同じような金額となるように配慮して慰謝料の金額を決定しています。
このようにして、判例で慰謝料の相場が形成されてきたのです。
2、判例に見る不貞行為の慰謝料相場
不貞行為の慰謝料の金額を決める際、「不貞行為によりどれだけ心が傷ついたか」「どれだけひどい不貞行為だったか」が慰謝料算定の大きな要素になると考える人が少なくありません。
もちろん、これらの要素も重要ですが、慰謝料の金額に最も大きな影響を及ぼすのは、不貞行為後の夫婦関係がどうなったかという要素になります。
以下、不貞行為後の夫婦関係の違いによる慰謝料金額の相場について確認していきましょう。
(1)不貞行為発覚後も夫婦関係が継続している場合:数十万円~100万円程度
不貞行為発覚後も夫婦関係が継続している場合、慰謝料の相場は数十万円〜100万円程度となります。
不貞行為による配偶者の裏切りがあったにもかかわらず、これだけの金額しか慰謝料を受け取れないことに対しては憤りを感じる人もいます。
ですが、基本的には過去の判例上、裁判所が判断する際の慰謝料は上記の金額が相場となります。
不貞行為発覚後、精神的苦痛があまりにも大きければ夫婦関係を継続することはできないはずだと推測されることから、離婚に至る場合に比べれば慰謝料の相場は低い金額に落ち着きます。
(2)不貞行為が原因で別居に至った場合:100万円~200万円程度
不貞行為が原因で別居に至った場合、慰謝料の相場は100万円〜200万円程度となります。
不貞行為が原因で配偶者と一緒に暮らすことができなくなったり別居することで生活環境を変えざるを得なかったりすることを考慮すると、今までどおりに夫婦関係を継続している場合に比べれば大きな精神的苦痛を受けていると考えられるからです。
もっとも、離婚にまでは至っていないことから離婚に至った場合に比べれば慰謝料の相場は低くなります。
(3)不貞行為が原因で離婚に至った場合:150万円~300万円程度
不貞行為が原因で離婚に至った場合、慰謝料の相場は150万円〜300万円程度となります。
離婚に至ったということは、不貞行為による精神的損害が相当大きいことが推測されますので、夫婦関係を継続する場合や別居の場合に比べれば慰謝料の相場が上がります。
3、不貞行為の慰謝料額を左右する7つのポイント
上記のように慰謝料の相場はある程度決まっていますが、具体的な金額を決定する際には様々な要素が考慮されます。
以下、慰謝料額を左右する7つのポイントを確認していきましょう。
(1)不貞行為前の夫婦関係の状況
戸籍上は婚姻関係にある夫婦であっても、その実態は夫婦により様々です。あたたかい家庭を築こうとお互いを思いやっている夫婦もいれば、夫婦という形をとっているものの会話もなく他人同然のような生活をしている夫婦もいます。中には、不貞行為の有無にかかわらず、そもそも婚姻関係が破綻していた夫婦もいるでしょう。
不貞行為前から他人同然のような生活をしていた夫婦に比べれば、不貞行為前は仲良くあたたかい家庭を築いていた夫婦の方が、不貞行為による精神的苦痛は大きいことが推測されます。
このように、裁判所では不貞行為前の夫婦関係の状況を考慮して慰謝料の金額が決定されます。
(2)婚姻期間の長短
婚姻期間の長短も慰謝料を左右する一つのポイントです。婚姻期間が長い夫婦の方が婚姻期間が短い夫婦よりも不貞行為による精神的損害が大きくなることが推測されます。
長期間結婚生活を継続していたにもかかわらずパートナーが不貞行為をしたとなれば、平穏な夫婦生活を送る利益を侵害された側の精神的損害はかなり大きなものになるでしょう。
そのため、婚姻期間が長い夫婦の方が慰謝料の金額は高くなります。
(3)不貞行為が行われていた期間の長短・回数・内容
不貞行為が行われたと一言でいっても、その期間の長短や回数、内容によって配偶者が受ける精神的損害は異なることが推測されます。
そのため、不貞行為が行われた期間が長いほど、また回数が多いほど慰謝料の金額が高くなる傾向にあります。
(4)不貞行為に至った経緯
慰謝料の金額を決める際は、不貞行為に至った経緯も考慮されます。配偶者の方が積極的に不貞行為に至ったのか、それとも相手から積極的に誘われたり、半ば強引に関係を持たされたりしたのかによって、不貞行為をした人の過ちの大きさは変わるでしょう。
配偶者の方に積極性があったときほど慰謝料の金額は高くなります。
(5)夫婦間に未成年の子供がいるか
本来、子供は夫婦2人で育てていくべきものです。
ところが、配偶者の不貞行為によって離婚を余儀なくされた場合、親権を獲得できたとしても1人で子供を育てていかなければなりません。
親権を失う場合には、配偶者の不貞行為のために子供と離ればなれになってしまいます。
いずれの場合も、不貞行為をされた側の精神的苦痛は非常に大きなものとなります。
離婚に至らない場合でも、不貞行為をした配偶者と協力して子供を育てていく過程で大きな精神的苦痛を受けるはずです。
このような事情があるので、夫婦間に未成年の子供がいる場合には慰謝料の金額が高くなる傾向にあります。
(6)不貞行為発覚後の対応に誠意が認められるか
不貞行為発覚後の対応に誠意が認められるかも慰謝料の金額を左右するポイントです。
不貞行為発覚後、すぐに配偶者に謝罪をしている場合、一般的には不貞行為をされた側の精神的苦痛が軽減されると考えられるので、慰謝料の金額が減額の方向に働きます。
他方、不貞行為の事実を否定してしらを切ったり、発覚後も反省の態度を示さず「お前の家庭での態度が悪いから不貞行為をした」「俺だけに責任があるわけではない」等と開き直ったりするような場合は、不貞行為をされた側の精神的苦痛が余計に重くなる考えられるので、慰謝料の金額が高くなる方向に働きます。
(7)当事者の収入・資産・社会的地位など
当事者の収入・資産・社会的地位などが慰謝料の金額を左右することがあります。
離婚に至った場合、不貞行為をされた側は「資産家の妻」や「要人の妻」といった座を奪われることになるため、そうでないケースよりも精神的苦痛が大きいと考えられるのです。
離婚に至らない場合でも、不貞行為をした側の収入や資産が多い場合には、それなりの金額の慰謝料を支払わなければ、された側の精神的苦痛は十分に軽減されないと考えられます。
そのため、不貞行為をした側の収入や資産が多い場合や、社会的地位が高い場合には、慰謝料が高額となる傾向にあります。
4、不貞行為の慰謝料に関する主な判例
ここからは、不貞行為の慰謝料に関する具体的な裁判例を確認していきましょう。慰謝料の金額を決める際、裁判上は特に過去の判例が重要な判断要素となります。
(1)慰謝料50万円が認められたケース(東京地方裁判所平成4年12月10日判決)
夫が職場の上司という立場を利用し部下との不貞行為を主導し、8ヶ月間に及ぶ不貞行為を継続したケースです。
不倫関係はのちに清算され、相手方女性は職場を退職するという社会的制裁を受けていること、夫婦関係は不貞行為後に回復していることにかんがみ、慰謝料は50万円と判断されました。
(2)慰謝料150万円が認められたケース(東京地方裁判所平成17年7月22日判決)
こちらのケースでは、不貞行為の期間が4ヶ月と短く浮気相手が謝罪しているものの、不貞行為発覚までは夫婦関係が円満だったこと、夫婦の間に子供がいること、不貞行為により夫婦は別居し夫婦関係が破綻したこと等を考慮し、慰謝料は150万円と判断されました。
(3)慰謝料300万円が認められたケース(東京地方裁判所平成19年4月5日判決)
このケースでは、不貞行為を原因に夫婦関係が破綻し300万円という相場の上限の慰謝料が認められました。
その要因としては、交際期間が2年3ヶ月と比較的長いこと、肉体関係を持った回数も10回以上と多いこと、浮気相手には夫婦関係を破綻する意思があり不貞行為に関し妻に謝罪しなかったこと、夫婦の間には子供がいること、不貞行為後夫婦関係が破綻したこと等が考慮されました。
5、不貞行為の慰謝料で相場を超える金額を獲得するには示談が望ましい
上記のように、不貞行為について裁判で争うと、慰謝料の金額は基本的に相場の範囲内で判断されてしまいます。
これに対し、裁判をせずに当事者間の話し合いで合意ができれば、相場を超える慰謝料を獲得することもできます。
もしも判例の相場の金額では許せないと感じる場合は、話し合いによる示談を目指す方が得策となります。
(1)相手方と合意すれば金額は自由
裁判で慰謝料を請求する場合、裁判所は基本的には相場の範囲内で慰謝料の金額を認定します。
相場を超える金額を裁判所に認定してもらうには、その金額を認定することが必要かつ相当と言えるような事情が必要となります。
これに対し、裁判をせずに相手方との話し合いで慰謝料の金額を決定する場合、相手方が合意すれば慰謝料の金額を自由に決定することができます。
裁判をすることには社会的・時間的・費用的なリスクがあります。そのため、「○○万円を払ってもらえれば裁判沙汰にせず、水に流す」と持ちかけて交渉すれば、示談できる可能性が高まるでしょう。
(2)相手方を説得するには証拠が重要
話し合いで相場より高い金額で示談できる可能性があるとしても、示談を成立させるためには相手が合意することが必要です。そのためには相手を説得するだけの証拠を準備することが必要です。
証拠がなければ相手に事実を否定され、「請求するなら裁判をしてください」などと言われてしまうおそれがあります。
どのような証拠を準備すればいいかわからない人は弁護士と相談しながら証拠の準備を進めていきましょう。
(3)支払い方法を工夫すると高額の慰謝料を獲得しやすい
相手方が慰謝料の支払いに合意したとしても、現実的に支払能力がない場合には高額の慰謝料を獲得することは難しいものです。そのような場合は、分割払いを認めることで示談が成立しやすくなります。
また、分割払いの他に、不動産や有価証券、車など現金以外の財産で相手に支払いをしてもらうことを検討しても良いでしょう。
示談の場合、裁判のように判決が出されるわけではありません。
後になって「そんなことは言っていない」「話が違う」等のトラブルが発生しないよう、離婚協議書や合意書に慰謝料の金額を盛り込み公正証書の形にしておくことをおすすめします。
6、不貞行為の慰謝料請求は弁護士に相談を
以上のように、慰謝料について判例上の相場はあるものの、適切な慰謝料を個人が獲得することは困難な場合が少なくありません。
ご自身が被った精神的苦痛についてしっかりと慰謝料が支払われるよう、まずは一度弁護士にご相談ください。
弁護士にご依頼いただくと、弁護士が代理人として相手方との示談交渉や裁判手続を担うので、ご自身で直接対応する必要がありません。
また、慰謝料請求だけでなく、浮気相手からの謝罪や不貞行為の清算、離婚すべきかどうか等についても弁護士が親身になってアドバイスをいたします。
不貞行為が発覚した直後はパニックとなり冷静な判断ができない人もいますので、お気軽に弁護士にご相談ください。
まとめ
不貞行為という配偶者の裏切りに心を痛めない人はいません。
心を痛めた精神的苦痛についてはしっかり金銭での賠償を受けましょう。
上記のように不貞行為による慰謝料には判例の相場がありますから、相場を確認しながら請求方法を吟味して慰謝料の請求をしていきましょう。
当事者同士では感情的になり示談に向けた話し合いができないこともありますので、まずは一度弁護士にご相談ください。