最近では、熟年離婚が増加しており、離婚後の人生が気になることでしょう。特に、女性にとっては離婚後や老後の生活費が心配事の一つとなっています。
今回は、
- 熟年離婚した女性のその後の生活はどうなるか?
- 熟年離婚時に女性が受け取ることができる資金はどれくらいか?
- 熟年離婚を後悔しないために女性が注意すべきポイントは何か?
について解説します。
目次
1、熟年離婚した女性のその後は人それぞれ
熟年離婚をして幸せになる女性もいれば、そうでない女性もいます。その後の人生がどうなるかは、人それぞれです。
そこで、熟年離婚して満足している女性のケースと、後悔している女性のケースをみていきましょう。
(1)離婚して満足しているケース
女性が熟年離婚をして満足感が得られているのは、主に以下のようなケースです。
- 夫と一緒に過ごすストレスから解放された
- 夫のDVやモラハラから逃れることができた
- やりたかった仕事や趣味ができるようになった
- 自由に恋愛や再婚ができるようになった
- 夫の実家との関係から解放された
「自由に自分らしく生きられるようになった」という点が、全てのケースに共通しています。
ただし、熟年離婚後に満足した人生を送るためには、自立して生活できるだけの経済力があることと、当面は健康で過ごせることが条件となるでしょう。
(2)離婚して後悔しているケース
一方、女性が熟年離婚して後悔してしまうのは、主に以下のようなケースです。
- 生活費が足りない
- 仕事をしたくても良い働き口がなかなか見つからない
- 子どもから仕送りを受けているが、迷惑をかけていることが心苦しい
- 思ってた以上に孤独感が強い
- 健康状態が悪化し、1人で暮らすことが心細い
やはり、女性の場合はお金の問題で後悔することが多いようです。
また、自由になれる反面で耐えがたい孤独感に襲われる人も少なくありませんし、病気になったときや老後に頼れる人がいないという状況は心細いことでしょう。
子どもが成人していたとしても、やはり両親が離婚することは子どもにとってショックとなることが多いはずです。子どもに金銭的な負担をかけてしまうことも少なくありません。
2、熟年離婚した女性のその後にかかる生活費はいくら?
実際のところ、女性が熟年離婚すると、その後の生活費としてどれくらいが必要となるのでしょうか。
ここでは、一般的な例を挙げて、年金をもらっても不足する生活費の金額を試算してみましょう。
専業主婦の女性が55歳で熟年離婚し、65歳までは働くとして、その後は年金暮らしとなるケースを例とします。
まず、国民年金の受給額は現在のところ、月額約6万5,000円です。ただし、夫が会社員または公務員であった場合は離婚時に年金分割を請求できます。
厚生労働省が発表したデータによると、年金分割によって増える女性の受給額の平均は約3万円となっています。
合計で毎月9万5,000円程度の年金収入が得られることになります。
参考:令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(32頁)
一方、総務省の家計調査によると、高齢単身無職世帯における1ヶ月の生活費は平均約14万5,000円となっています。
参考:家計調査報告(家計収支編)2021年(令和3年)平均結果の概要(19頁)
そうすると、毎月約5万円の赤字が生じます。
女性の平均寿命である87歳まで生きるとすると、65歳から87歳までの22年間で約1,320万円が不足することになります。
しかも、以上の試算では、65歳までは自分で働いて生活費を賄うことと、65歳以降の生活費については基本的に最低限欠かせない費用(医療費や交通費は含みます。)しか算入していないことに注意が必要です。
離婚後に働けない場合や、余裕を持った暮らしをしたい場合には、2,000万~3,000万円といったお金が不足する可能性もあります。
3、熟年離婚をする際に女性がもらえるお金はいくら?
年金だけで熟年離婚後の生活費を賄えないとなると、離婚時に夫からできる限り多くのお金を獲得することが重要となります。
そこで、女性が熟年離婚をする際に夫からどれくらいのお金をもらえるのかをみていきましょう。
(1)財産分与
財産分与とは、婚姻中に夫婦が共同で築いた財産(夫婦共有財産)を離婚時に分け合う制度のことです。
基本的に離婚原因に関わらず、夫婦共有財産を2分の1ずつに分け合います。
夫名義の財産も、婚姻中に取得したものは贈与や相続で取得したものを除き、原則として夫婦共有財産に該当します。
総務省統計局が公表している2021年度の「家計調査報告」によると、熟年世代における世帯主(二人以上の世帯)の貯蓄の平均額は以下のようになっています。
- 50代:1,846万円
- 60代:2,537万円
参考:総務省統計局|世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況(14頁)
もし、あなたの家庭にこの平均額どおりの夫婦共有財産があるとすれば、原則として離婚時にその半分に相当する以下の金額をもらうことができます。
- 50代:923万
- 60代:1,268万5,000円
もちろん、熟年離婚の全てのケースで1,000万円前後の財産分与を受け取れるわけではありません。
夫婦共有財産がほとんどないケースや、貯蓄があったとしても負債が超過しているケースでは原則として財産分与はほとんどもらえません。
(2)慰謝料
離婚時に慰謝料がもらえるのは、相手方に有責事由がある場合です。
有責事由とは、法律上の離婚原因として認められる不法行為のことです。
具体的には、不倫や浮気、DV、モラハラ、長年のセックスレスなどがこれに当たります。
いわゆる性格の不一致で離婚するケースでは、通常は不法行為に該当するような事由は認められませんので、原則として慰謝料はもらえません。
慰謝料がもらえるケースでの金額の相場は、数十万円~300万円程度です。
婚姻期間が長い場合は慰謝料額が高額化する傾向にありますので、熟年離婚の場合は200万を超える金額をもらえる可能性が高くなります。
(3)年金分割
年金分割は、婚姻中に夫婦が納めた厚生年金(旧公務員共済も含みます。)の納付記録を分割する制度です。
分割できるのは厚生年金の部分だけですので、夫の本来の年金受給額の半分をもらえるわけではないことに注意が必要です。
夫が自営業者で厚生年金に加入していなかった場合は、年金分割を請求できないことにも注意しましょう。
先ほどもお伝えしたように、年金分割によって増える女性の受給額の平均は約3万円だというデータがあります。
前項でご紹介した試算では、この金額も65歳以降の年金収入(見込額)の中に算入しています。
結局のところ、熟年離婚時に夫から財産分与として1,000万円、慰謝料として300万円の合計1,300万円をもらうことができれば、87歳までの生活費を賄うことも不可能ではないかもしれません。
しかし、繰り返しますが、夫婦共有財産が少ない場合や、慰謝料を請求できないケースではこれほどの金額を受け取ることはできません。
離婚後や老後の生活費が不安な方は、事前に対策をとっておくことが重要となります。
4、熟年離婚後、女性が経済的に困らないために準備すべきこと
それでは、熟年離婚した後の生活費を確保するために、女性はどのような準備をしておけばよいのでしょうか。
夫から財産分与や慰謝料を少しでも多く受け取れるように交渉することも一つの方法ですが、その他の対処法として以下のことが挙げられます。
(1)仕事を早めに見つける
離婚時の年齢や健康状態にもよりますが、基本的には少なくとも65歳までは、自分で働いて生活費を確保した方がよいでしょう。
ただし、長年専業主婦をしてきた方の場合は、すぐに自活できるような仕事に就くのは難しいこともあります。
そこで、できる限り早めに仕事を見つけておくことをおすすめします。
可能な限り、離婚する前から正社員として働き、経済的に自活できるだけの基盤を作っておくことが理想的です。
(2)住居費の削減を検討する
賃貸住宅に住む場合は、生活費の中で住居費が占めるウエイトが最も重くなります。離婚後の生活費を削減するには、住居費を削減することが最も効果的です。
そのためには、持ち家がある場合は財産分与で自宅をもらえるように夫と交渉するのも一つの方法です。
ただし、自宅を財産分与してもらう場合には現金や預貯金としてもらえる金額が少なくなりがちですので、離婚後の生活費が早期に枯渇してしまうおそれもあります。固定資産税の支払いも計算に入れておかなければなりません。
実家に戻ることが可能な方は、実家に戻ることも視野に入れた方がよいでしょう。
(3)へそくりは財産分与の対象となるので要注意
離婚後に多額のお金が必要となるのであれば、離婚前に貯金をしておくことも大切です。実際にも、熟年離婚をした女性の中にはしっかりと貯金をしていた人も少なくありません。
ただし、へそくりなどの貯金も基本的には夫婦共有財産に当たりますので、財産分与の対象となることに注意が必要です。
それでも、半分は手元に残りますので、お金は貯めておくに越したことはありません。
夫との話し合いで合意ができれば、へそくりを財産分与の対象から外し、全額を手元に残すことも可能です。
5、熟年離婚で女性が注意すべきその他のポイント
金銭的な問題以外にも、女性が熟年離婚する際には注意しておくべきポイントがいくつかあります。
(1)孤独への対処法
離婚前は夫がストレスの元でしかなかったとしても、いざ離婚して一人になると耐えがたい孤独感にさいなまれる人が少なくありません。
孤独感を癒すために有効な方法は人それぞれ、性格やライフスタイルによって異なりますが、多くの人は以下のように対処しています。
- 趣味の活動をする
- 仕事に集中する
- 再婚相手を探す
- 孤独に慣れるように努める
熟年の世代になると、他にも同じように熟年離婚をした人や、パートナーと死別した人などが意外に多くいるものです。
趣味の活動などを通じて同世代、あるいは少し上の世代の人と交流すると、気を許せる仲間が見つかる可能性が高いです。
なお、現実には「離婚したばかりの頃は寂しかったけれど、やがて孤独に慣れて、今では特に辛いとも思わない」という人がとても多いものです。離婚する前の時点で孤独を過度に恐れる心配もないのかもしれません。
(2)健康の不安への対処法
熟年離婚をした後も規則正しい生活を心がけ、健康を保つことが第一ですが、年齢を重ねるとどうしても健康上の不安が出てくるものです。
認知症になってしまう人も珍しくありません。
自分が動けなくなると人に頼るしかありませんので、誰か頼れる人との関係を築いておくことが重要です。
子どもの協力が得られる場合は、子どもと同居するのが理想的です。
同居が難しい場合でも、子どもの近くに引っ越すことも考えられます。
また、近隣の人や町内会の人たちとも日常的に交流を保っておきましょう。
そうすれば、顔が見えないときには心配して様子を窺ってくれることが期待できます。
さらに、要介護状態となったときは、介護施設やデイケアサービスセンターの係員、ヘルパーさんなどにも頼るようにしましょう。
(3)生きがいを見つけるコツ
熟年とはいっても、50代ならまだ平均して30~40年は人生が続きます。
余生というには長すぎる期間です。
50代で熟年離婚すると、当面は仕事に追われると思いますが、一人過ごす老後に備えて早めに生きがいを見つけておいた方がよいでしょう。
生きがいを見つけるコツといっても、大それたことをする必要はありません。
興味があることや、できそうなことをとりあえずやってみるだけでいいのです。
今までやってきた仕事や趣味をさらに追及するのもよし、新しいことをやってみるのもよしです。
体を動かすのが好きな人は散歩やジョギングを日課とし、体力がついたらマラソンなどのスポーツ大会に参加すると大きな目標ができるでしょう。
インドア派の人は読書したり映画を観たりするのもいいですし、勉強をするのもおすすめです。
資格を取得すれば、充実したセカンドライフを送ることも可能となります。
6、本当に熟年離婚していいの?後悔しないために考えるべきこと
離婚は、ただでさえ人生の一大事です。若い人ならやり直すことも難しくありませんが、熟年世代になるとリスクが大きくなります。
そのため、離婚したい気持ちを強く持っている方でも一度立ち止まり、「本当に熟年離婚していいのか?」と自分に問いかけてみた方がよいでしょう。
それから離婚するのでも遅くはありません。
特に、熟年離婚後の生活費に不安がある方は、以下のことをじっくり考えてみることをおすすめします。
(1)老後の生活の目処が立つまで離婚を待つ
熟年世代になるまで夫と連れ添ってきた方が、「別れたい」という理由だけでいきなり離婚することはおすすめできません。
離婚後や老後の生活費に不安があるのであれば、目処が立つまで離婚を待ち、結婚生活を続けることも一つの方法です。
例えば、40代や50代の方なら、夫が定年退職するまで待って離婚すれば、退職金から多額の財産分与をもらえる可能性が高くなります。
年金分割をした場合のご自身の受給額も多くなります。
また、年金がもらえる65歳まで離婚を待つことも考えられるでしょう。
我慢できないような事情がある場合は別ですが、一般的に熟年離婚では老後の生活のために安全策をとった方が後悔するリスクが低くなります。
(2)夫と適度な距離を保って暮らす
夫によるストレスから逃れる方法は、離婚することだけではありません。
まずは別居したり、それが難しい場合は家庭内別居をしてみるのもよいでしょう。
夫と適度な距離を保って暮らすことで、お互いに相手の良い面に気付き、円満に過ごせるようになることも少なくありません。
どうしても離婚したいという場合も、別居というステップを踏むことでスムーズに別れやすくなります。
また、「卒婚」という選択肢はいかがでしょうか。
卒婚とは、戸籍上は夫婦であり続けますが、2人の間では夫婦という枠にとらわれず、お互いが自由に生活する夫婦関係のことです。
離婚するというと夫の反対に遭うことが多いですが、別居や卒婚を提案すれば、離婚よりは応じてもらえる可能性が高くなります。
別居や卒婚では、法律上の夫婦関係は残りますので、夫から生活費(婚姻費用)をもらえるというメリットもあります。
(3)夫婦関係の修復を図る
長年にわたって夫と連れ添ってきたのであれば、一度は夫婦関係の修復を図ってみるのも悪くはないでしょう。
「今さら相手が変わるはずがない」と思われるのも無理はありませんが、本当にそうでしょうか。
離婚問題は、夫婦間の些細なすれ違いに端を発して生じることが多いものです。
熟年離婚の場合は、長年の間すれ違い続けてきたわけです。
相手だって、早い段階で問題点に気付けば変わるチャンスがあったはずでしょう。
それに、性格の不一致で離婚に至るケースでは、どちらかが一方的に悪いということはなく、あなたにも変えるべき点があったと考えられます。
熟年離婚を決意する前に一度、歩み寄ってみてはいかがでしょうか。
とはいえ、長年すれ違い続けてきた夫婦関係をすぐに修復するのは簡単なことではないかもしれません。
一人で立ち向かおうとすると「やっぱり相手は変わる気がない」という現実に直面し、断念することにもなりかねません。
夫婦カウンセリングを利用し、アドバイスを受けながらすすめていくのもよいでしょう。
弁護士も、夫婦関係修復の相談相手となります。
「円満調停」という、夫婦関係を修復するための法的手続きもありますので、気になる方は弁護士に相談してみることをおすすめします。
熟年離婚した女性のその後に関するQ&A
Q1.離婚して満足しているケースとは?
- 夫と一緒に過ごすストレスから解放された
- 夫のDVやモラハラから逃れることができた
- やりたかった仕事や趣味ができるようになった
- 自由に恋愛や再婚ができるようになった
- 夫の実家との関係から解放された
Q2.離婚して後悔しているケースとは?
- 生活費が足りない
- 仕事をしたくても良い働き口がなかなか見つからない
- 子どもから仕送りを受けているが、迷惑をかけていることが心苦しい
- 思ってた以上に孤独感が強い
- 健康状態が悪化し、1人で暮らすことが心細い
Q3.熟年離婚をする際に女性がもらえるお金はいくら?
- 財産分与
- 慰謝料
- 年金分割
まとめ
熟年離婚した女性のその後は、人それぞれの人生模様となっています。
幸せに暮らしている人も少なくありませんが、離婚後や老後の生活の目処が立たないまま離婚してしまうと、後悔することになりかねません。
さらにいえば、熟年離婚するかどうかの問題についても、じっくり検討した上でご自身にとって悔いのない決断をすべきです。
熟年離婚したい方も、不安が残る方も、お悩みであれば一度、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
数多くの離婚問題を解決に導いてきた弁護士に相談すれば、有益なアドバイスが得られるはずです。
信頼できるカウンセラーを紹介してもらえることもあります。
弁護士への相談を利用して、悔いのない選択をされるようにおすすめします。