著作権、聞いたことはあるけれど詳細な理解ができていない人は多いのではないでしょうか?
学校のバザーでキャラクターのイラストを使ってはいけない⁈
音楽をコピーして友人にあげてはいけないの⁈
日常のなにげない行為に口うるさく疑問を投げかけられること、ありませんか?
その理由はなにやら「著作権」だとか。
実は、著作権については、会社の仕事の中だけでなく、日常の生活でも注意しなければいけないことがあります。
著作権に関する法律は込み入った内容でもあり、いろいろ間違いやすいこともあります。
そこで、今回は
- 著作権について日常の生活でここだけは注意しておいて欲しいこと
について、弁護士がわかりやすく説明します。
日常でふと疑問に思ったとき等に、参考になるガイドとしてお役に立てれば幸いです。
1、著作権は何を守る権利なのか
著作権は、著作物についての著作者・著作権者の権利を守るものです。
著作権法という法律で定められています。ポイントを簡単に整理しておきましょう。
(1)著作物
自分の考えや気持ちを作品として表現したものです。
他人のまねでなく自分で工夫して、言葉や文字、形や色、音楽というかたちで表現したもので、その種類はさまざまです。
法律の条文では「思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされています(文芸、音楽、舞踏、美術、建築、地図・図面・模型など図形の著作物、写真、映画、プログラム等)。
(2)著作者・著作権
著作物を創作した人を「著作者」、著作者に対して法律によって与えられる権利のことを「著作権」と言います。
著作権については特段の届出や登録は必要ありません。著作者が創作すれば直ちに発生します(著作権を保有している人を「著作権者」とも呼びます)。
(3)著作権制度の目的
著作権制度は、著作者の努力に報いることで、文化が発展することを目的としています。
そのために、著作物の正しい利用をうながし、著作権を保護しています。
違反行為については、刑事罰が科されることもあります(著作権法119条以下) 。
(4)著作権は財産権かつ人格権
著作権は財産権であるとともに、著作者の人格的な権利でもあります。
特にこの「人格的な権利」という点がおろそかにされがちなので、注意が必要です。
①著作者人格権
著作者の気持ちに反するような作品(著作物)の扱いをしてはいけない、という権利です。
公表権 | 著作者が著作物を公表するかどうか、公表する場合にどのように公表するかをきめる権利 |
氏名表示権 | 著作者が自分の著作物に氏名をどのように表示する場合かきめる権利 |
同一性保持権 | 著作者が自分の著作物のタイトルや内容を、ほかの誰かに勝手に変えられない権利 |
次のような行為は禁じられます。
著作者の了解なしにみんなに見せる | 「公表権」の侵害 |
著作者の了解なしに著作者の名前を公表する | 「氏名表示権」の侵害 |
著作者の了解なしに作品を変える | 「同一性保持権」の侵害 |
②著作権(財産権)
著作物の利用を承諾または禁止する権利です。大変広範な内容を含んでいます。
大事な内容なので一通りリストアップします。
複製権 | 印刷、写真、コピー機による複写、録音、録画など「複製する」権利。 著作権の中で最も基本的な権利。著作権制度は、もともとコピー(Copy)に関する権利(Right)から始まったものです。 |
上演権・演奏権 | 音楽演奏会や演劇上演等、多くの人に著作物を聴かせたり、見せたりする権利。演奏のCDなどを多くの人に聞かせることも含まれます。 |
上映権 | フィルムやDVDなどに収録された映画、写真、絵画などの著作物を、多くの人に見せるためスクリーンやディスプレイ画面で上映する権利 |
公衆送信権 | テレビ・ラジオ・有線放送、インターネットなどでの著作物の送信権。ホームページに著作物をのせ、だれにでも送信できる状態にすることも「送信可能化権」として、この権利に含まれます |
公の伝達権 | テレビ・ラジオ・有線放送、インターネットなどで著作物の伝達に関する権利 |
口述権 | 小説や詩などの言語の著作物を朗読などの方法で多くの人に伝える権利 |
展示権 | 美術や写真の著作物(未発行のもの)を多くの人に見せるため展示する権利 |
頒布権 | 劇場用映画等、上映して多くの人に見せることを目的に作られた映画の著作物を販売・貸与する権利 |
譲渡権 | 映画以外の著作物やその複製物を多くの人に販売などの方法で提供する権利 |
貸与権 | 映画以外の著作物の複製物を多くの人に貸し出しする権利 |
翻訳権・翻案権等 | 著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化などの方法で二次的著作物を作る権利 |
二次的著作物の利用権 | 自分の著作物(原作)から創られた二次的著作物を利用することにつき原作者が持つ権利 |
2、自由な利用が許される場合もある
著作権は、著作者の権利を守るとともに、文化の発展を促す制度です。
このため著作者の著作権は一定の範囲で制限され、著作者以外の人でも著作物の利用が認められる場合があります。
(1)私的使用のための複製(コピー)
個人や家庭などの限られた場所で利用する場合のコピーは許容されています。
しかし、友だちに録画したビデオを貸すという場合は、私的使用目的のための複写という範囲を超えてしまうため、著作者の了解がないと著作権侵害になる可能性があります。
(2)図書館などでの複製(コピー)
調査研究などのために図書館の本や資料をコピーすることは許されます。
(3)自分の著作物に他人の著作物を引用すること
自分の著作物の議論を補強するために他人の著作物を引用する事は許されます。
もっとも、間違った引用は著作権侵害になります。
(4)学校などの教育機関での複製(コピー)
学校の先生や生徒が教材を作ったり、授業をしたりするために、著作物をコピーすることは許容されています(35条)。
もっとも、ドリルなど一人一人が購入すべきものをコピーして配ることは許されていません。
こうした行為をしてしまった場合、著作者にとってはドリルの売上の減少につながりかねないということを考えれば分りやすいと思います。
3、日常生活でのケーススタディ
日常生活では著作権法上様々な問題が起こりえます。代表的な事例をご紹介します。
一つの行為が著作権法上いくつもの問題を引き起こすケースがあります。
(1)複製権
①購入した本が面白かったので、面白そうなところをコピーして家族みんなに配った⇒○
家庭内での私的使用であり、問題ありません。
②そのコピーをお友達にも配布した⇒×
家庭内の私的使用の範囲を超えています。
③同じ資格試験の勉強をしている仲間でテキストをスキャナーして仲間全員が見られる共用ファイルで共有することとした。テキスト代が助かった、と皆が喜んだ。 ⇒×
私的使用ではありません。
こんな事が許されたらテキストが売れなくなります。
④バザーに出品するためトートバックを作った。アニメのキャラクターをアップリケに仕立ててバッグに取り付けた。 ⇒×
私的使用ではなく販売を目的としています。
著作者の了解がなければ使えません。
なお、アニメのキャラクターなどは著作権だけでなく、商標権として特許庁に登録されていることも多く、商標権の侵害の問題も起こりえます。
⑤バザーのポスターのためにアニメキャラクターを手書きで掲載した。 ⇒×
これもアニメキャラクターの複製であり、著作権者の了解が必要と考えられます。
前問のとおり商標法の問題も起こりえます。
⑥町内の出来事について新聞記者から取材を受け、新聞に掲載された。自分が取材された内容だから良いだろうと思って、記事をコピーして町内の仲間や友人親戚に配った。 ⇒×
私的使用ではありません。
そもそも新聞記事は、新聞記者の手によってまとめられて新聞社の著作物になっています。
取材を受けたから自分のものだと誤解してはいけません。
(2)引用
自分が書いた論文に関係のあるほかの人の論文の一部を引用した (自分の文章の中に、他人の文章など持ってきて説明に用いること) ⇒○
法律に定められた要件を満たしていれば著作権者の了解なしに利用することができます(著作権法第32条)。
最高裁の判例などで次のような判断基準が示されています。
- 引用する「必然性」があること
- 報道、批評、研究などの正当な目的であること
- 自分の論文が中心で、引用する論文はその一部ということがはっきりしていること
- 引用部分を「 」でくくるなど、自分の文と、引用した文とをはっきりと区別すること
- 引用してきた論文の題名・著作者名・出版社名・引用した部分が掲載されているページ数などをしめすこと
(3)上演権・演奏権
①自治会の行事で地元のバンドに頼んで有名な曲の演奏をしてもらった。行事は無料で行っており、バンドのメンバーに謝礼を払っただけなので問題はないと思う。 ⇒×
上演権、演奏権については、次の3つの要件をすべて満たす場合に限り、著作権者の了解なしに上演、演奏、上映、口述(朗読など)ができます(著作権法38条1項)。
- 営利を目的としない
- 聴衆又は観衆から料金を受けない
- 出演者等に報酬を支払わない
このケースはバンドのメンバーに謝礼を払っており、著作権の問題が生じます。
②販売店の催しで、「子供まつり」として人気アニメビデオを上映した。特に入場料を取っていないので問題ないと思った。 ⇒×
このケースは販売促進の目的で行われています。
アニメ上映そのもので直接利益を得ていなくとも、営利性があると判断されます。
著作権者の了解が必要と考えられます。
(4)二次的著作物
人気漫画を真似て描いた絵を、加工して自分のホームページに載せた。 ⇒×
一部修正増減を加えただけの場合は複製、創作性を加えて二次的著作物を作成したならば「変形又は翻案」です。
元の漫画の著作権が働きますので、著作権者に無断でホームページに載せることはできません。
(5)インターネットなど
①市販のイラスト集のイラストを個人のホームページに掲載した。非営利目的だから問題ないと思った。 ⇒×
ホームページへの掲載は、公衆送信権の問題であり、個人のサイトで非営利の送信が行われるとしても、著作権者の了解が必要です(著作権法23条、38条)。
②非営利、無料かつ無報酬であれば、著作物を自由に演奏や上映できると聞いたので、自分のホームページに著作物を掲載した。 ⇒×
非営利・無料・無報酬の三条件を満たしたときには、著作権者の了解なしに、著作物を「上演」、「演奏」、「上映」及び「口述」はできます(著作権法38条1項)。
しかし、インターネット送信は、著作物がサーバーに複製され、かつ、インターネットを通じて利用者への送信(公衆送信)されます。
この「複製」や「公衆送信」については、この特例の適用はなく、著作権者の了解なしにはできません。
③同じ研究グループの仲間のために、インターネットのホームページその他の資料のリンク集を作った。 ⇒○
一般的に著作権の問題はありません。
リンクを張るのはリンク先のホ-ムペ-ジ等のネット上の「住所」を示すだけであり、複製や公衆送信には該当しません。
④ライブ会場で撮影したアイドルの写真を自分のホームページで掲載した。 ⇒×
アイドルは人間であり、「著作物」ではないので、著作権法上の問題にはなりません。
しかし、芸能人の肖像は、それ自体が経済的価値のあるものとして、肖像権・パブリシティ権という別の権利で保護されると考えられています。
芸能人の肖像を無断で広告に利用したり、ホームページに掲載した場合は、肖像権の侵害として、損害賠償請求等を受けることがあります。
(5)著作者人格権
お隣の娘さんが可愛らしいイラストを描いていたので、少し加工してバザーのチラシに使わせてもらった。プロのイラストレーターが描いたものではないので、特に本人や親御さんの了解は得なかった。 ⇒×
勝手に公表した | 公表権の侵害 |
自分の作品のように使った | 氏名表示権の侵害。なお勝手にお隣の娘さんの名前を使うことも氏名表示権の侵害となります。 |
少し加工して使った | 同一性保持権の侵害 |
著作権は著作物を作った人すべてに発生する権利です。プロアマを問いません。
このケースでは著作権のみならず、著作者人格権をすべて侵害していることになりかねません。
著作者人格権に関しては、「著作者の気持ちに反するような、作品の扱い方をしてはいけません」ということを肝に銘じてください。
まとめ〜困ったときには迷わず弁護士に相談
著作権については、日常生活でも様々な問題があり、文化庁や公益社団法人著作権情報センターから、わかりやすい説明資料もたくさん発行されています。
とはいえ、実際に使うときには、どの資料をどう見れば良いのか、簡単にわかるものではありません。資料を見ても判断がつかないというケースも多いでしょう。
中途半端な知識、間違った知識から大きな問題を引き起こすこともあります。
疑問の点があれば著作権について詳しい弁護士に相談してみてください。
万が一紛争になったときには自分で解決しようとはせず、すぐに弁護士と相談することをお勧めします。
本文中でも書きましたが、学校生活の中では文化の発展のためにかなり自由な利用が認められていますが、一般の社会生活では思いもがけない制限があります。
【参考資料リンク】
1、文化庁
「マンガでわかる著作物の利用~作太郎の奮闘記」(教職員の皆様へ)