精神的DVに苦しむ配偶者からの精神的な虐待に悩み、離婚や慰謝料請求を検討している方々へ向けて、アドバイスをお届けします。
精神的DVは、言葉や態度による暴力であり、その被害は家庭内で発生することが多く、周囲には気付かれにくいことがあります。このような状況では、誰かに相談することも難しく、離婚に踏み出すのは困難な一歩かもしれません。
しかし、精神的DVを放置すれば、被害はさらに悪化する可能性があり、子供たちにも影響を及ぼすかもしれません。
この記事では、精神的DVに立ち向かうための方法や、離婚の手続きについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
DVの種類については以下の関連記事にアクセスしてご覧ください。
目次
1、配偶者からの精神的DVとは?
配偶者から言葉や態度で精神的苦痛を与えられているという場合でも、精神的な攻撃がDVだと知らない方もいるでしょう。
どこから精神的DVに該当するのか、分からない……という方もいると思います。配偶者からの精神的DVとは、どのようなことを指すのでしょうか?
(1)精神的DVとモラハラの違い
DVとは、ドメスティックバイオレンスの略で、家庭内暴力のことを指します。
暴力というと、殴る・蹴るなど身体へ被害を加える身体的暴力を連想されることが多いですが、精神的に被害を与えることもDVです。例えば、言葉や態度で攻撃をすることを指します。
近年では「モラハラ」という言葉も浸透しており、「モラハラ夫」と呼ばれる配偶者も増えています。モラハラは道徳や倫理に反した精神的な嫌がらせのことを指し、精神的DVの一種であると言えるのです。
(2)具体的な精神的DVの例
精神的DVは、言葉や態度で配偶者を攻撃することを指します。具体的には、以下のような行動が精神的DVに該当します。
- 大きな声で怒鳴る
- ミスをすると延々と説教をする
- 長時間無視をする
- 親や子供に危害を加えるような発言をして脅す
- 常に行動が監視されている
- 友人との交流を制限されている
- 生活費をもらえない
精神的DVは上記のように、非常に広範囲です。言葉で罵る・怒鳴る・蔑むだけではなく、無視することや社会的隔離されることも精神的DVに該当します。実際に危害を加えられていない場合でも、親や子供に危害を加えると脅迫された場合には、「脅迫罪」が成立する可能性があります。
2、配偶者の精神的DVを放っておかない方がいい理由
配偶者から精神的DVを受けていても、「自分が我慢していればいい」「いつか改善してくれるかもしれない」と考えて、離婚せずにいる方も多いでしょう。
しかし、精神的DVは放っておけば、さらに大きな被害へと発展する恐れがあります。
配偶者の精神的DVを放置することで起こり得るリスクについて、見ていきましょう。
(1)エスカレートして暴力を振るわれる可能性がある
精神的DVを放っておけば、DVがエスカレートしていく恐れがあります。精神的DVから、身体的暴力へ発展する可能性もあり、身体的暴力を受けるようになれば命の危険を感じることもあるでしょう。
我慢していても、精神的DVは軽減されるものではなく、むしろ悪化するものだと考えておくべきです。いつかは身体的暴力に発展する恐れがあるため、早めに対処することをおすすめします。
(2)改善するまでに時間がかかる・改善しない可能性がある
配偶者から精神的DVを受けていても、離婚できない被害者心理として、「いつかは改善する」という期待を持っているケースも多いです。カウンセリングなどを受けることで、配偶者の精神的DVが改善されるような場合もありますが、改善するまでには時間を要するでしょう。しかも、カウンセリングを受けたからといって必ず改善するという保証はなく、カウンセリングに配偶者が通ってくれるとも言い切れません。
改善することを期待するよりも、配偶者と距離を置くことを検討すべきでしょう。
(3)自分の精神状態へ影響が出る
精神的DVなら殴る・蹴るなどの暴力を受けていないため、自分自身の身の危険はないと考えている方もいるかもしれません。
しかし、精神的DVが続けば、少しずつ精神状態に影響が出てしまう恐れがあります。今は大丈夫だと思っていても、ある時突然うつなどの症状が現れることがある可能性があります。
別れた後にPTSDなど後遺症が残るケースもあるので、精神の健康を崩さないようにするためにも早期に対処すべきでしょう。
(4)子供に影響を与えてしまう
夫婦に子供がいる場合、精神的DVが子供に影響を与える可能性があります。精神的DVがエスカレートすれば、子供にも言葉や態度で攻撃するようなことになるかもしれません。
子供が攻撃を受けていなくても、親が精神的DVを受けている姿を見て育てば子供の成長に何らかの影響を及ぼすと考えられます。
DVをする人は、子供の頃の家庭環境の影響を受けているケースも少なくありません。子供の成長に影響を与えるような状態になってしまう前に、しっかり対処すべきです。
3、配偶者の精神的DVを理由に離婚することはできるのか?
配偶者からの精神的DVから逃れるために離婚したいと考えても、精神的DVを理由に離婚することができるのか疑問に思う方も多いでしょう。
精神的DVを理由に、離婚を成立させることはできるのでしょうか?
(1)協議で離婚できる
離婚をする方法は、「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3種類があります。
多くの場合は、まず当事者同士で離婚を協議する協議離婚を試みることになります。
協議離婚は双方が合意すれば離婚することができるため、離婚理由などは関係ありません。
しかし、精神的DVを受けている場合、協議離婚をスムーズに進めることは難しい可能性が高いでしょう。被害者は加害者に対して委縮してしまうため、離婚の話を切り出すこと自体が難しいようなケースもあります。
また、離婚を言い出すとDVがエスカレートしてしまう恐れもあるため、当事者同士のみで話し合うことは危険です。
離婚の協議を行う際には、親や友人、弁護士など第三者に同席してもらうことをおすすめします。
(2)精神的DVを立証できれば裁判離婚もできる
協議で離婚の合意を得られない場合、調停委員を挟んで意見の調整を行う調停離婚を行います。
しかし、調停離婚でも合意が得られない場合には、裁判離婚になります。裁判離婚であれば相手が離婚に反対していたとしても、判決で離婚が認められれば離婚することが可能です。
ただし、裁判離婚するためには「法定離婚事由」が必要になります。(民法第770条)
法定離婚事由とは法的に認められる離婚の理由のこと指し、精神的DVは法定離婚事由の1つである「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があります。生活費をもらえないなどの精神的DVを受けている場合には、「悪意の遺棄」が認められる可能性もあるでしょう。
4、配偶者の精神的DVには慰謝料請求もできます
配偶者の精神的DVを原因に請求できるものは離婚だけではありません。離婚における財産分与や養育費などとは別に、慰謝料を請求することができます。
(1)慰謝料とは
慰謝料とは、不法行為に対する精神的な損害への賠償金のことです。
法律では違法に相手の権利や利益を侵害した場合、加害者は被害者に対して損害を賠償する責任が生じることが定められています。(民法第709条)
精神的DVは不法行為に該当するため、被害者は加害者である配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
(2)精神的DVの慰謝料の相場額
精神的DVの慰謝料の相場額は、50~300万円が一般的です。
相場額に開きがありますが、精神的DVの慰謝料金額の増減は「夫婦関係」や、「精神的DVの悪質性」など総合的に見て、判断されます。婚姻期間が長い場合や子供がいる場合には慰謝料が増額され、精神的DVの悪質性が高いほど、慰謝料は高額になると考えられるでしょう。
ただし、身体的DVとは異なり精神的DVは立証することが難しいため、証拠が慰謝料を決める重要なポイントになります。
(3)慰謝料を請求する方法
慰謝料を請求する方法は、大きく分けると3つの方法が挙げられます。
どの方法で請求すべきなのか、それぞれのメリットとデメリットを比較しながら検討しましょう。
①内容証明郵便で請求する
慰謝料請求は、ご自身で行うことも可能です。
慰謝料を請求する方法に決まりはないため、電話やメールなどで請求することもできますが、内容証明郵便で請求することが一般的です。
ご自身で請求すれば費用は発生しませんが、相手が支払いの拒否や無視をする可能性があります。話し合いになった場合でも、スムーズに合意に至らないケースも珍しくありません。
②弁護士に依頼する
慰謝料請求は弁護士に依頼することで、内容証明郵便の準備や相手との交渉、合意書の作成など全てを任せることができます。
弁護士費用は発生しますが、相手と直接顔を合わせることや連絡のやり取りをする必要がないため精神的な負担も軽減されます。ご自身で請求するよりも、高額な慰謝料を請求できる可能性が高まるでしょう。
③裁判で請求する
相手が慰謝料請求に応じない場合や、合意に至らない場合には、裁判で慰謝料を請求することができます。
裁判になれば確実に結果が出るということや、支払いに応じない場合には強制執行によって、相手の財産を差し押さえられるというメリットがあります。
しかし、裁判で決着をつけるまでには時間を要するため、注意が必要です。
5、精神的DVで離婚や慰謝料請求するためにすべきこと
精神的DVで離婚や慰謝料を請求するためには、事前に準備をしておくことが大切です。事前準備をしておくことで、スムーズかつ適切に請求を行うことができる可能性が高まります。
離婚や慰謝料請求を行う際には、次のことを準備しましょう。
(1)精神的DVの証拠を集める
離婚や慰謝料を請求するには、精神的DVを受けていた証拠が必要です。
証拠がなければ相手は精神的DVがあったことを否定する可能性があり、離婚や慰謝料請求が認められません。
精神的DVの証拠には、次のようなものが挙げられます。
- 加害者の言動や行動の録画や録音
- 脅迫や粗暴な言動のメール内容のスクリーンショット
- どのような被害を受けたのか記録した日記やメモ
- 病院の診断書
また、精神的DVに悩んで専門機関や警察へ相談した場合には記録に残っているケースもあるため、記録の有無も確認するようにしましょう。
(2)身の安全を確保する
精神的DVがエスカレートしている場合、身体的暴力を受ける可能性があります。
身の危険があるような場合には、まずはご自身の安全を確保するようにしましょう。
親や友人に頼ることができない場合には、婦人相談所や配偶者暴力支援センター、民間シェルターなどへ避難することを検討してください。
(3)離婚後の新生活の準備をする
離婚後には新生活が始まりますが、離婚前から準備しておけば、スムーズに新しい生活を始めやすくなります。
新生活を始めるにはお金も必要になるため、少しずつ貯めておくことや、財産分与で適切に請求できるように、財産の確認をすることをおすすめします。
住む場所や仕事なども見つけておくと、新しい生活を始めやすくなりますが、難しい場合には、親などのサポートを受けることも検討すべきでしょう。
6、精神的DVで離婚や慰謝料請求をする際の注意点
精神的DVで離婚や慰謝料請求を行う場合、いくつかの注意したい点があります。
大きなトラブルに発展することを避けるためにも、次のことに注意してください。
(1)相手にバレないように証拠集めをする
精神的DVの証拠集めを行う際には、相手にバレないように細心の注意を払いましょう。
相手に証拠集めをしていることがバレてしまえば、相手を怒らすことで精神的DVの被害が大きくなってしまう恐れがあります。また、証拠を隠滅されてしまう可能性もあるでしょう。
証拠集めについて疑問や不安がある場合には、弁護士など専門家に相談することをおすすすめします。
(2)当事者同士の協議は難しいので弁護士に依頼すべき
離婚や慰謝料請求は、当事者同士の協議で行うことができます。
しかし、精神的DVの被害を受けている場合には、当事者同士で対等に話し合うことは困難となるケースも多々あるでしょう。
当事者同士で話し合えば、相手の言いなりになってしまう恐れや、話し合いが進まずに長引いてしまう可能性があります。そのため、協議は専門家である弁護士に依頼することを検討しましょう。
(3)相手がストーカー行為をする場合は警察に連絡をする
別居や離婚した後に配偶者や元配偶者が復縁を求め、ストーカー行為をするようなケースもあります。
ストーカー行為や脅迫行為を受けた場合は、すぐに警察に連絡するようにしましょう。
脅迫行為には、脅迫罪が成立すれば刑罰を与えることができ、ストーカー行為に関しては保護命令を申立てることができます。身の危険を優先し、すぐに対処するようにしましょう。
まとめ
身体的暴力に比べると、精神的DVの被害の方が分かりにくいものも多いですが、同じDVです。身体の傷は治ることが見て分かりますが、心の傷は見えにくいものであり、治るまでに時間がかかってしまいます。
配偶者からの精神的DVに悩んでいる場合には、将来的な健康や安心のためにも弁護士に相談することをおすすめします。