任意整理は債務整理の中でも手間と費用の負担が比較的軽い手続きですが、それでも弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。
実際にどれくらいの弁護士費用がかかるのかは気になるところでしょう。
今回は、
- 任意整理の弁護士費用の相場
- 任意整理の弁護士費用を安く抑える方法
- 任意整理を弁護士に依頼することでどれくらい得をするのか
などについて解説していきます。
目次
1、債務整理(任意整理)にかかる弁護士費用の内訳と相場
早速、任意整理にかかる弁護士費用の相場をご紹介します。
弁護士費用はいくつかの費目に別れており、内訳もそれぞれの金額も法律事務所によってさまざまに異なります。
以下では、標準的な内訳と金額についてご説明します。
(1)法律相談料
法律相談料は、具体的な事件処理を依頼する前に弁護士に相談する際にかかる費用です。
原則として有料ですが、最近では借金問題については無料相談を受け付けている事務所が増えてきています。
有料の場合の相場は、30分につき5,000円(税別)程度です。
無料の場合、どこまでが無料かは事務所によって異なります。
- 初回30分のみ無料
- 60分まで無料
- 何度でも無料
など、事務所ごとに異なりますので、法律相談を利用する前に確認しておきましょう。
(2)着手金
着手金は、法律相談の結果、事件処理を弁護士に依頼することになったときに支払う費用です。
弁護士が事件処理に着手するために必要な費用なので、原則として結果にかかわらず返金を求めることはできません。
任意整理の着手金の相場は、債権者1社につき3~7万円(税別)程度です。
債権者数に応じて着手金の合計額が変動しますが、債権者数が多い場合には割引をしてくれる事務所もあります。例えば、
- 債権者10社までは1社あたり5万円
- 11社目以降は1社あたり3万円
とするような形です。
(3)基本報酬金
基本報酬金は、任意整理で債権者との和解が成立したときにかかる費用です。
- 和解前に依頼を取り下げたり
- 自己破産や個人再生の依頼へ切り替えた
このような場合には発生しません。
基本報酬金の相場は、債権者1社につき2~4万円(税別)程度です。
(4)減額報酬金
減額報酬金は、任意整理で借金を減額できた場合に、減額した金額に応じてかかる費用です。
相場は、減額できた金額の5%~10%程度(税別)です。
例えば、150万円の借金が任意整理で100万円になった場合、50万円を減額できたので減額報酬金は2万5,000円(5%)~5万円(10%)となります(いずれも税別)。
減額報酬金は、元金を減額できたときに発生するのが一般的ですが、事務所によっては利息をカットすることで返済額を減額できたときにも請求してくる可能性がありますので、ご注意ください。
なお、任意整理では基本的に元金は減額されません。
以前は過払い金が発生しているケースも多く、その場合には元金が大幅に減額、あるいは消滅することもありました。
しかし、最近では過払い金が発生しているケースが少なくなってきたため、元金が減額されるケースも少なくなってきました。
そのためか、そもそも減額報酬金を請求しない事務所も少なくありません。
(5)実費
以上の他にも、弁護士が事件を処理する際に要した実費を支払う必要があります。
ただ、任意整理にかかる実費はほぼ通信費のみなので、多くの場合は数千円~1万円程度です。
2、弁護士に依頼せず自分で任意整理をするとどうなる?
費用を抑えるために自分で任意整理をしようと考える方もいますが、弁護士に依頼した場合と同じ結果が得られるとは限らないことに注意が必要です。
弁護士に依頼した場合は、状況にもよりますが、概ね以下の結果が期待できます。
- 将来利息を全額カット
- 元金を3年~5年で分割返済
- 過払い金が発生している場合は返還請求
自分で手続きを行う場合には、更に以下のリスクに注意しなければなりません。
(1)取り立てが止まらない
弁護士に任意整理を依頼すれば各債権者宛に受任通知書を送付してもらえます。
受任通知書が債権者に届くと、取り立てや督促がいったん止まります。
その後は和解が成立するまで返済する必要もありません。
なぜなら、弁護士や司法書士からの受任通知書を受け取った貸金業者が債務者に直接返済を要求することは貸金業法で禁止されているからです。
これに対して、自分で任意整理をする場合にはこのような規定がありませんので、取り立てや督促が続きます。
日々、債権者からの連絡に耐えながら任意整理の交渉をしていかなければなりません。
(2)自分で複雑な交渉をしなければならない
任意整理は、裁判所で法定の手続きを行うものではなく、債権者と直接話し合って今後の返済額や返済方法を決め直す手続きです。
借金を減額して毎月の返済の負担を軽減するためには、
- いくら減額してもらい
- 残った借金を何回払いで返済するのか
を主張して交渉し、債権者に納得してもらう必要があります。
そのためには、豊富な専門知識と高度な交渉力が要求されます。
一般の方にとって、その交渉は複雑なものと感じるはずです。
弁護士に依頼すれば、債権者との交渉は弁護士が代行してくれます。
債務者は、自分で債権者と直接やりとりする必要はありません。
(3)利息のカットに応じてもらえないことがある
任意整理における債権者の対応は、弁護士が交渉する場合と債務者自身が交渉する場合とで異なることが多いようです。
具体的には、弁護士が交渉すれば将来利息を全額カットしてくれる債権者でも、債務者自身が交渉すると
- 全くカットに応じないか
- 一部しかカットしない
というケースが少なくありません。
その原因は、先ほどもご説明したように、貸金業者は弁護士に債務整理を依頼した債務者に対しては直接返済の要求ができないことにあります。
弁護士が介入した場合には、弁護士と交渉して和解しなければ返済を受けることができないため、弁護士からの提案に可能な限り応じようとします。
それに対して、弁護士が介入していない場合は直接の請求が可能ですので、債権者は強気になって自社に一方的に有利な和解案を押しつけてくることが多いのです。
(4)短期間での完済を求められることがある
また、自分で任意整理をする場合には短期間での完済を求められることも多いようです。
弁護士に依頼した場合には一般的に3年~5年での分割払いが認められますが、自分で交渉する場合は3年以内、場合によっては1~2年での完済を求められることも少なくありません。
返済期間の延長が認められなければ、毎月の返済額があまり減りませんので、最悪の場合は任意整理に失敗してしまう可能性があります。
そもそも、貸金業者の担当者と一般の債務者とでは専門知識や交渉力に圧倒的な差がありますので、対等に交渉することは困難です。
対等に交渉するためには、弁護士に任せる方が得策であるといえます。
(5)過払い金を見落とすおそれがある
任意整理では、債権者と交渉する前に取引履歴を取り寄せて、利息引き直し計算を行うことが重要です。
2007年より前から消費者金融を利用している方の場合、利息を支払いすぎている可能性が高く、利息引き直し計算をすることで元金が減ったり、過払い金が発生していることが判明することがあります。
しかし、自分で任意整理をする場合には利息引き直し計算を行わず、約定の残債務を前提として利息のカットや返済期間のみを交渉しているケースが多くなっています。
過払い金は本来払わなくてよかった金銭ですので、これでは適正な内容で和解することはできません。
弁護士に依頼すれば、利息引き直し計算を正確に行ってもらうことができます。
過払い金が発生している場合には貸金業者に対して返還請求もしてもらえます。
3、弁護士への依頼で借金をどこまで減額できる?
それでは、弁護士に任意整理を依頼することで金銭的にどれくらいのメリットが得られるのかみていきましょう。
事例を挙げて、
- 弁護士に依頼する場合
- しない場合
で、コストパフォーマンスがどのように異なるのかを比較してみます。
【事例】
- 借金総額200万円
- 消費者金融4社に対して、それぞれ50万円ずつ残債務がある
- 金利はいずれも年18%
- 約定の返済期間は5年(60回払い)
任意整理の結果は状況によって異なることがありますが、一例として以下のシミュレーションを参考になさってください。
(1)自分で任意整理をした場合
自分で任意整理の交渉をしたところ、4社の対応が以下のように分かれたとします。
A社:将来利息のカットに応じない(返済期間は5年)
B社:将来利息のカットに応じないが、返済期間を80回払いに延長する
C社:将来利息を10%請求する(返済期間は5年)
D社:将来利息はカットするが3年以内の完済を求める
このケースでは、任意整理前と任意整理後の返済額は次の表のようになります。
| 任意整理前 | 任意整理後 | ||
総返還額 | 毎月の返済額 | 総返還額 | 毎月の返済額 | |
A社 | 761,781円 | 12,696円 | 761,781円 | 12,696円 |
B社 | 761,781円 | 12,696円 | 861,873円 | 10,773円 |
C社 | 761,781円 | 12,696円 | 637,375円 | 10,623円 |
D社 | 761,781円 | 12,696円 | 500,000円 | 13,889円 |
合計 | 3,047,124円 | 50,784円 | 2,761,029円 | 47,981円 |
任意整理によって借金の減額には成功していますが、それほどには返済の負担が軽くなっていません。
(2)弁護士に依頼した場合
次に、弁護士に任意整理を依頼することによって4社とも「将来利息カット」と「5年払い」に応じてもらえたとして、任意整理前と任意整理後の返済額を比較してみましょう。
| 任意整理前 | 任意整理後 | ||
総返還額 | 毎月の返済額 | 総返還額 | 毎月の返済額 | |
A社 | 761,781円 | 12,696円 | 500,000円 | 8,333円 |
B社 | 761,781円 | 12,696円 | 500,000円 | 8,333円 |
C社 | 761,781円 | 12,696円 | 500,000円 | 8,333円 |
D社 | 761,781円 | 12,696円 | 500,000円 | 8,333円 |
費用 |
|
| 220,000円 |
|
合計 | 3,047,124円 | 50,784円 | 2,220,000円 | 33,332円 |
弁護士費用は、1社につき着手金3万円と基本報酬金2万円の合計5万円とし、4社分で22万円(税込み)と想定しています。
自分で任意整理した場合よりも、弁護士費用を支払ってもなお、金銭的なメリットが大きいことがお分かりいただけるでしょう。
必ずしもこのようになるとは限りませんが、任意整理は費用を支払ってでも弁護士に依頼した方が、結果として金銭的な負担が軽くなる可能性が高いといえます。
4、任意整理の弁護士費用の負担を抑える方法
任意整理を弁護士に依頼するメリットが大きいとはいっても、できることなら弁護士費用は安い方がありがたいと思われることでしょう。
そこで次に、任意整理の弁護士費用を安く抑える方法をご紹介します。
(1)分割払いOKの事務所なら心配なし
着手金は原則として依頼時に一括で支払う必要がありますが、分割払いに対応している法律事務所も少なくありません。
そこでまずは、分割払いに応じてくれる事務所を探してみましょう。
弁護士に依頼した後は、受任通知書の送付によって一時的に返済をする必要がなくなります。
それまで返済に充てていたお金を積み立てに回せば、弁護士費用を支払うことも難しくないでしょう。
分割払いの期間は3か月~6か月以内とすることが望ましいですが、1年程度で契約するケースも珍しくありません。
途中で分割金の支払いが滞ると弁護士に辞任される可能性がありますので、無理のない支払い方法を弁護士と相談して取り決めましょう。
ただし、あまりに長期にわたると、債権者から裁判を起こされる可能性があることには注意が必要です。
(2)法テラスを利用する
法テラスが実施している「民事法律扶助制度」を利用することができれば、一般の法律事務所よりも低料金で弁護士に任意整理を依頼することが可能です。
かつ、弁護士費用の支払いは分割払いとなります。毎月の支払額は、原則として1万円です。
民事法律扶助制度を利用して弁護士に依頼するためには、その弁護士が法テラスと契約している「契約弁護士」である必要があります。
法テラスに直接申し込めば契約弁護士を紹介してもらえますが、自分で弁護士を選ぶことはできません。
そのため、債務整理の経験がほとんどない弁護士を紹介されることもあります。
しかし、契約弁護士は全国に数多くいます。
債務整理の経験が豊富な弁護士を自分で選び、その弁護士が契約弁護士である場合は、その弁護士を通じて法テラスに申し込むこともできます。
この申し込み方法のことを「持ち込み方式」といいます。
なお、民事法律扶助制度を利用するには、収入や資産が一定の基準以下でなければならないなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
詳細は、こちらの記事でご確認ください。
(3)費用が安い事務所を探す
法テラス(民事法律扶助制度)の利用条件を満たさない場合は、一般の法律事務所の料金設定に従って依頼するしかありません。
できる限り弁護士費用が安い事務所を探すことになるでしょう。
その場合は、インターネットで検索して探すのがおすすめです。
法律事務所のホームページには、必ずその事務所の料金体系が掲載されているからです。
債務整理に力を入れている事務所の中から、できる限り低料金の事務所を選んで、法律相談を申し込みましょう。
ただし、料金があまりにも安い事務所では、
- 弁護士の経験が浅かったり
- 事件処理が雑だったりする
などの可能性があるので注意が必要です。相場の範囲内で、弁護士費用が安めの事務所を選ぶことをおすすめします。
(4)司法書士に依頼する
任意整理は弁護士だけでなく、司法書士も取り扱うことができます。
そして、一般的に弁護士に依頼するよりは司法書士に依頼する場合の方が、少しですが費用は安くなる傾向にあります。
ただし、借金額が1社あたり140万円を超える場合は、司法書士に依頼することはできません。
残高が140万円を超える借入先がない場合で、債務整理の経験が豊富な司法書士が見つかった場合は、その司法書士に依頼するのもよいでしょう。
もっとも、任意整理を希望していても、事案の内容によっては自己破産または個人再生の申し立てが必要なケースもあります。
司法書士は、自己破産や個人再生の手続きを代理することはできません。
そのため、司法書士への依頼を視野に入れている場合でも、まず弁護士に相談して方針を検討することをおすすめします。
5、任意整理を依頼するなら弁護士選びが重要!
任意整理は、どの弁護士に依頼しても同じ結果が得られるわけではありません。
そのため、弁護士選びは非常に重要な問題となります。
良い弁護士を選ぶために注意すべきポイントは、以下の3点です。
- 任意整理による解決実績が豊富にあるか
- 相談者・依頼者の話をよく聞いて柔軟に解決方法を考えてくれるか
- 説明が分かりやすいか
特に、任意整理による解決実績が豊富にあるかどうかは、重要なポイントです。
弁護士の中には、任意整理を含む債務整理をあまり取り扱っていない弁護士も少なくありません。
任意整理の経験が少ない弁護士に依頼すると、要領が分からないために債権者から不利な和解案を提示され、押し切られてしまうおそれがあります。
任意整理を依頼する弁護士の選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。ぜひ参考になさってください。
まとめ
任意整理をする目的は、言うまでもなく借金を減額して、返済の負担を軽減することでしょう。
弁護士に任意整理を依頼するためには、弁護士費用がかかります。
しかし、弁護士費用を支払ってもなお全体的な支払額が少なくなるのであれば、弁護士に依頼する方が高いコストパフォーマンスを得られるといえるのではないでしょうか。
最大の目的である「借金の完済」を達成できる可能性も高まるといえるでしょう。
弁護士費用を支払わなければならないと考えると、目先の負担が大きく感じてしまうものです。
しかし、最終的な結果に照らして考えれば、弁護士に依頼する方が得策といえます。
分割払いを利用できれば、借金の返済を続けるつもりで費用を積み立てることで弁護士費用を支払えてしまいます。
ぜひ、弁護士のサポートを受けて任意整理を成功させましょう。