詐欺罪は、刑事裁判で有罪とされれば懲役刑が科されます。
もっとも、不起訴や執行猶予となる可能性もあり、必ず実刑判決を受けるとは限りません。実刑判決が下され、刑務所に入るのを避けるためには、示談を進める等の適切な対処法を知っておく必要があります。
この記事では、
- 詐欺罪の刑罰
- 詐欺罪は初犯でも懲役の実刑となるのか
- 詐欺罪で懲役の実刑を回避する方法
などについて解説します。
目次
1、詐欺罪とは
詐欺罪は、人を騙して財物を交付させた、又は財産上の利益を得たとき若しくは他人に得させたときに成立する犯罪です(刑法第246条第1項及び第2項)。
金銭等の有体物である財物を騙し取った場合に限らず、財産上の利益を得た場合にも成立します。財産上の利益を得たというのは、例えば労務等のサービスを受けたような場合をいいます。
より詳しく説明すると、詐欺罪は以下の要件を満たした場合に成立します。
- 人を欺く行為をする(欺罔行為)
- 欺罔行為によって被害者が騙される(錯誤)
- 錯誤に基づいて被害者が財物(又は財産上の利益)を交付する(処分行為)
- 財物(又は財産上の利益)が移転する
具体例にあてはめると次のとおりです。
- 電話口で息子になりすまして「交通事故を起こして示談金が必要になった。」と告げる(欺罔行為)
- 被害者が騙されて「息子のために示談金を支払わなければならない。」と思い込む(錯誤)
- 被害者が上記錯誤に陥ったことにより、犯人の銀行口座に金銭を振り込む(処分行為)
- 金銭が犯人の銀行口座に移転する
なお、欺罔行為をしたものの相手が騙されなかった場合には、詐欺未遂罪が成立します。
2、詐欺罪の刑罰
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です(刑法第246条)。懲役とは、刑務所において刑務作業を課すことを内容とする刑罰です。
詐欺罪に罰金刑は規定されていません。刑事裁判で有罪となれば、執行猶予が付かない限り刑務所に入る結果となります。
罰金刑がなく懲役刑しか想定されていない点で、詐欺罪は同じ財産犯である窃盗罪と比べて、重い犯罪といえます。
(1)有罪の場合の実刑率
詐欺罪で有罪となった場合、第1審で執行猶予がつかず実刑となる割合は2020年で約47%です(参考:法務省|令和3年版犯罪白書)。
実刑率を他の犯罪と比べると、殺人又は強盗等の重大犯罪よりは低いものの、傷害又は横領よりは高く、窃盗とほぼ同等の数値となっています。
詐欺罪の実刑率は極端に高いわけではないものの、低くもありません。実刑になるか執行猶予になるかが微妙なケースも多く、事件後の対応が重要になるといえます。
3、詐欺罪で訴えられたときに懲役の実刑を回避できる方法
では、詐欺罪で懲役の実刑を回避できるのはどういった場合なのでしょうか?
(1)不起訴処分を獲得する
まずは、不起訴処分の獲得を目指すことが考えられます。
不起訴処分になれば刑事裁判にかけられず、刑罰が科される可能性はありません。前科もつかないため、被疑者にとっては理想的な結果といえます。
(2)無罪判決を獲得する
特殊詐欺の「受け子」や「出し子」などが具体的な欺罔行為の内容については知らされておらず、「詐欺に加担しているとは思わなかった。」として刑事裁判で無罪を主張するケースがあります。しかし、刑事裁判で無罪判決を受けるのは極めて難しいです。
2020年のデータでは、詐欺罪での有罪率は99%以上です。詐欺であるとはっきり気がついていなくても、「何らかの犯罪に関与しているかもしれない。」という認識があれば、詐欺罪として処罰される可能性が高いといえます。
無罪になれば刑罰は回避できますが、実際に刑事裁判で無罪判決を獲得できる可能性は非常に低いことを知っておく必要があります。
(3)執行猶予付き判決を獲得する
被告人にとって全く身に覚えがない限り、起訴されて刑事裁判にかけられた場合には、執行猶予付き判決の獲得を目指すことが最も現実的な対応策といえます。
例えば、「懲役3年、執行猶予5年」の場合、執行猶予期間の5年間に他の犯罪を犯すことなく過ごせば、懲役3年の刑は効力を失うことになり、結果として刑務所に収容されずにすみます。
執行猶予は、言い渡される懲役刑が3年以下のときにしか付けられません。懲役3年を超えるケースでは必ず実刑判決となります。
執行猶予付き判決では前科はついてしまうものの、刑務所に収容されず、従前と同様の社会生活を送ることができますから、実刑判決との違いは非常に大きいです。起訴されても執行猶予付き判決の獲得を目指すべきです。
4、詐欺罪は初犯でも懲役の実刑に?処分が重くなるケースとは
詐欺罪の場合には、初犯であっても懲役の実刑判決がくだされるケースが多いのも事実です。特に以下のケースでは実刑判決の可能性が高くなることを念頭に置く必要があります。
(1)犯行の悪質性が高い
犯行が悪質だと実刑の可能性が高まります。
組織的に行われ手口が巧妙な特殊詐欺では、犯行の悪質性が高いと判断されやすいです。
(2)被害金額が大きい
詐欺による被害金額が大きい場合には、処分が重くなりやすいです。
特殊詐欺では被害金額が数百万、場合によっては数千万円に及ぶこともあり、処分が重くなる傾向にあります。
(3)余罪が多い
多くの余罪が判明した場合にも、処分が重くなる可能性があります。
余罪とは、捜査がなされている犯罪(本罪)とは別に、同一の被疑者が犯したと考えられた犯罪事実のことです。例えば、ある被害者に対する特殊詐欺で逮捕され、別の特殊詐欺にも関与していたと判明するケースが考えられます。
余罪について起訴された場合には、本罪と併せて判断されるため、刑罰が重くなりやすいです。
(4)特殊詐欺に関わった場合
ここまで触れてきたように、オレオレ詐欺、還付金詐欺等の特殊詐欺では、実刑判決を受ける可能性が高いです。
特殊詐欺は組織的に行われ手口が巧妙なため、悪質性が高いです。また、金銭的に余裕のある高齢者を狙う等しており、一人あたりの被害金額が大きい傾向にあります。
一度特殊詐欺グループと関わりを持ってしまうと、翻意して離脱しようとしても、身辺に危害を加える等の脅しをグループの構成員から受け、結果として多数の特殊詐欺に関与してしまい、余罪が多くなるケースもあります。
特殊詐欺の場合、初犯であっても実刑判決を覚悟する必要があります。
5、詐欺罪で懲役の実刑を回避するためにできること
もっとも、詐欺罪では懲役の実刑判決を回避できるケースもあります。
以下のような対応策により、執行猶予付き判決はもちろん、早期の対処により不起訴処分を獲得することも期待できます。
(1)自首する
自首とは、捜査機関に犯罪が発覚したり、犯人を特定される前に、犯罪行為をおこなった者が捜査機関に出向き、罪を自発的に申告することをいいます。自首した場合には、処分を軽くする方向に働くこともあります。
今は警察に犯行が発覚していなくても、いずれは知られてしまうかもしれません。後ろめたい気持ちを抱えているのであれば、弁護士に相談した上で、自首を検討してみましょう。
一人で自首する勇気がなければ、弁護士の同行も可能です。ぜひご相談ください。
(2)被害者と示談する
詐欺罪のような財産犯においては、処分内容及び量刑判断において被害者と示談したか否かという事情は非常に重要になります。
検察官や裁判官は、処分又は刑を決定する際に被害回復の有無、ひいては被害者の処罰感情を重視します。示談することにより、被害回復がなされ、被害者の処罰感情が減少又は消滅していれば、不起訴処分や執行猶予付き判決の可能性が高まります。
示談する際には示談金が必要です。特殊詐欺で被害金額が大きい場合には、全額を弁償するのは難しいこともあるでしょう。それでも被害者の意向次第では、被害金額より少額の示談金であっても応じてくれる可能性はあるので、示談を目指しましょう。
また、交渉次第では、分割払いの示談に応じてもらえる可能性もあります。
ただし、警察や検察は、被害者に関する情報を被疑者や被告人に教えてはくれません。被害者が既に分かっている場合にも、犯罪を行った本人が被害者と示談交渉を直接することは、被害者の感情等を考慮すると非常に困難です。弁護士に依頼して示談交渉を任せるようにしてください。
(3)特殊詐欺に関わった場合は黒幕等の情報を捜査機関に話す
特殊詐欺に「受け子」や「出し子」等の末端として関わった場合には、黒幕等の情報を捜査機関に提供すれば、処分が軽くなることも期待できます。
特殊詐欺は極めて巧妙に、計画的に行われるため、特殊詐欺事件の捜査の現実は、「受け子」や「出し子」等の末端の関与者だけが検挙されることが大半で、グループのリーダー格に対して捜査が及ぶことは稀であるのが残念ながら実態です。末端の関与者が知りうる情報としては、いわゆる「指示役」や「現金等の回収役」に関する情報に限られ、リーダー格に関する直接の情報は多くの場合において知りえないのが現実ですが、それでも知りうる限りの情報を提供すれば、反省の意思を示すことにもなりますので、処分を軽くするためには有効な方法の一つといえます。
(4)反省の態度を示す
反省の態度はしっかりと示しましょう。
起訴の前後を問わず、処分を決める際には反省の態度が重視されます。ただ「反省しています」と言うだけでなく、正直に犯行について話したり、被害者の気持ちを考えて悔やんでいる態度を示したり、二度と過ちを犯さないと固く誓い、そのための具体的な方策を示すようにしてください。
(5)指導監督者を確保する
生活を指導監督してくれる人を確保することも重要です。
社会復帰をしても生活が不安定だと、再びお金に困って犯罪に手を染めてしまうかもしれません。生活をしっかりと指導監督する人を確保すれば、再犯リスクが低いことを示せます。
指導監督者は家族にするケースが多いものの、難しければ職場の上司などにお願いすることも可能です。
身近な人の中から、本人に対する影響力が強い人を選んで、指導監督をお願いしてみましょう。
6、詐欺罪を犯してしまったら早期の対処が重要!すぐ弁護士に相談を
詐欺罪を犯してしまったら、すぐに弁護士に相談してください。
弁護士は、まずは逮捕又は勾留されている方が一刻も早く釈放されるように活動します。特に、無断で会社を長期間にわたって休むのは解雇のリスクがありますので、すぐに弁護士を呼ぶようにしてください。
できれば、逮捕される前の警察から呼び出しを受けた段階で弁護士に相談し、弁護を依頼しておいた方が安心できます。
また、弁護士に示談交渉を依頼できるのは大きなメリットです。被害者の感情を考えると直接の交渉は難しく、そもそも連絡先すら分からないケースもあります。弁護士であれば捜査機関から被害者の連絡先を聞き、交渉を進めることが可能です。示談の有無は処分内容に大きな影響を与えます。できる限り早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。
詐欺罪で懲役に関するQ&A
Q1.詐欺罪で訴えられたときに懲役の実刑を回避できる方法とは?
- 不起訴処分を獲得する
- 無罪判決を獲得する
- 執行猶予付き判決を獲得する
Q2.詐欺罪は初犯でも懲役の実刑に?処分が重くなるケースとは?
- 犯行の悪質性が高い
- 被害金額が大きい
- 余罪が多い
- 特殊詐欺に関わった場合
Q3.詐欺罪で懲役の実刑を回避するためにできることとは?
- 自首する
- 被害者と示談する
- 特殊詐欺に関わった場合は黒幕等の情報を捜査機関に話す
- 反省の態度を示す
- 指導監督者を確保する
まとめ
ここまで、詐欺罪の刑罰や、懲役の実刑になる可能性、回避する方法等について解説してきました。
詐欺罪は初犯であっても懲役の実刑判決を受ける可能性があります。不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得するために、すぐに弁護士にご相談ください。