会社の上司からのパワハラが辛くて退職したいとお悩みではありませんか?
パワハラは我慢し続けていると精神的に追い込まれてしまい、うつ病などの病気になってしまう恐れがあります。そのため、我慢をせずに退職に踏み切ることは悪いことではありません。
パワハラで退職するのであれば原則として会社都合での退職にすることができます。また、慰謝料請求が可能な場合もあります。
ここでは、パワハラによる退職を少しでも有利にするために、
- 退職前に知っておくべきポイント
- 注意点
についてご紹介します。
パワハラについては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、パワハラ上司が原因で退職したい場合に退職前に確認すべきこと
パワハラ上司が原因で仕事に行くことが辛い場合、退職を考えられることもあると思います。その場合、退職をする前に、まずは次のことを確認してみてください。
(1)そもそもパワハラとは
上司の言動や行動のせいで退職を考えていても、上司の言動や行動がパワハラと呼べるのか分からないというようなケースもあります。
まずはパワハラに該当するのがどのような行為なのかを確認し、上司の言動や行動がパワハラに該当するのか検討してみてください。
パワハラに該当する行為は、政府の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ」の報告によれば、以下の1~3の要素を全て満たす行為であると考えられています。
- 優越的な関係に基づいて行われること。
- 業務の適正な範囲を超えて行われること。
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること。
また、職場のパワハラに該当しうる行為として、次の6つのパターンがあげられます。
①身体的な攻撃
暴行や傷害などの身体的な攻撃は代表的なパワハラ行為に該当します。
さらに、身体的な攻撃は、パワハラにとどまらず暴行罪や傷害罪などの刑事事件となる可能性もあります。
職場で、上司が殴る・蹴る・物を投げるといった暴力行為をした場合は、基本的には上司の行為はパワハラと評価できます。
具体的には
- 仕事のミスを責められただけではなく、顔や頭を叩かれた
- 仕事の出来が悪いという理由で書類を投げつけられた
こうしたケースがパワハラに該当します。
ただし、上司が部下に誤って接触してしまった場合や、上司が誤って落とした物に偶然部下がぶつかってしまった場合は、パワハラには該当しません。
また、身体的な攻撃があったとしても同僚間の喧嘩などは、パワハラには該当しないのが通常です。
②精神的な攻撃
精神的な攻撃は、パワハラの代表的なものです。
上司によるひどい暴言や名誉棄損、脅迫、侮辱などが精神的な攻撃に該当します。
上司が部下に対し精神的な苦痛を与えるような言動を指します。
具体的には以下のようなものが精神的な攻撃に当たります。
- 自分だけが執拗にいつも叱責される
- 仕事のミスをした時に「死ね」「仕事を辞めてしまえ」などと言われた
- 職場の皆が見ている前で罵倒された
直接目の前で吐かれる発言だけではなく、メールやSNSなどを通した発言もパワハラの対象になります。
ただし、業務上の必要な教育や注意の場合はパワハラに該当しないと考えられます。
③人間関係からの切り離し
仲間はずしや無視など、人間関係から切り離す行為もパワハラに該当します。
人間関係からの切り離しは次のようなケースが該当します。
- 職場のイベントに自分だけ出席させてもらえない
- 挨拶や仕事の質問をわざと無視される
また、隔離することが目的で1人だけ別室作業をさせることや、嫌がらせ目的での異動などもパワハラに該当します。
④過大な要求
客観的に見て明らかにできないと考えられる仕事量や仕事内容を強制することや、職務上明らかに不要なことを強制することは、過大な要求としてパワハラに該当します。
具体的には以下のようなものが過大な要求の例に該当します。
- 締め切り間際で明らかに一人では行えない量の仕事を一人で全て行うように命じられた
- 無理難題なノルマを達成するように強要された
ただし、将来に期待して能力以上の仕事を任せるようなケースや、繁忙期にやむを得なく通常よりも多い業務を担うようなケースはパワハラとは言えません。
⑤過少な要求
客観的に見て明らかに本人の経験や能力を下回る仕事しか与えないような場合には、過少な要求としてパワハラに該当します。
具体的には以下のようなものが過少な要求の例に当たります。
- 営業職だが、お茶くみや清掃しか任せてもらえない
- 理由もなく自分だけがプロジェクトから外された
他にも仕事があるにも関わらず、簡単な仕事しか命じられないような場合はパワハラだと考えられるでしょう。
ただし、日常的にミスが多いため重要な仕事を任せられないなど合理的な理由があればパワハラとは言えません。
⑥個の侵害
プライベートなことへ過度な干渉がある場合には、個の侵害としてパワハラに該当します。
個の侵害の例としては以下の通りです。
- 上司が恋人の有無をしつこく聞いてくる
- 上司が休日の過ごし方なども全て把握しようとしてくる
飲み会への参加の強要や、通常の会話の域を超えた詮索は、個の侵害としてパワハラに該当する可能性があります。
(2)他の上司や人事に相談する
上司からパワハラを受けていると感じた場合、退職という手段以外に他の人に相談するという手段もあります。直属の上司からパワハラを受けているのであれば、他の部署の上司や人事などに相談してみましょう。相談することで、上司への注意や人事異動など何らかの対処をしてもらえる可能性があります。
会社によっては相談窓口を設けている場合もあり、話を聞いてもらうことができます。
2、パワハラが理由の退職は会社都合か自己都合か?
パワハラが理由で会社を続けられずに退職することを決めた場合、退職理由がどのようになるか気になる方も多いでしょう。
退職理由には、会社都合と自己都合の2種類があります。
パワハラの退職理由はどのようになるのでしょうか?
(1)会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職と自己都合退職の大きな違いは、退職後に給付される失業手当です。
自己都合よりも会社都合の方が失業手当を受給できる期間が長いため、金額が多く貰えることになります。
また、自己都合の場合は申請から最短でも2カ月の給付制限があるため、失業手当が受給されるまでに時間がかかりますが、会社都合であれば申請から数週間で受給できるようになります。
つまり、会社都合の方が圧倒的に自己都合よりも退職後の生活保障が優位になります。
なお、このように会社都合退職の方が自己都合退職よりもメリットは大きいですが、会社都合の場合、転職先で退職の理由を詳しく聞かれる可能性がありますので、全くデメリットがないというわけではありません。
(2)退職の理由がパワハラならば「会社都合」になる
退職の理由がパワハラの場合は、「上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者」として、再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者として、会社都合退職にすることができます。
パワハラによって退職を余儀なくされるため、退職理由が会社の都合になるからです。
ただし、退職願や退職届を自ら書いてパワハラを告げずに退職をすれば、自己都合退職の扱いになります。
そのため、パワハラがあるという話を会社に伝え、会社都合の退職にして欲しい旨を伝える必要があります。
(3)自己都合にされた場合は退職後に変更できる
会社によってはパワハラを認めずに自己都合退職にするような会社もあるでしょう。また、とにかく辞めたくて自己都合退職してしまったというような場合もあるかもしれません。
こうした場合、ハローワークに相談すれば、退職理由を会社都合に変更できる可能性があります。監査機関から会社への事実調査などが行われることになり、パワハラが確認されれば会社都合の退職に変更されます。
3、パワハラで退職する際に請求できるもの
パワハラで退職する場合、会社や加害者に対して受けた損害を請求することができます。
具体的には、以下の請求をすることができる可能性があります。
(1)未払の残業代
パワハラによって長時間残業やサービス残業が行われていたものの残業代を支払ってもらっていないという場合には、未払いの残業代を請求することができます。
会社に対して「残業代請求」という請求を行うことで、
未払いの残業代を支払ってもらえる可能性があるのです。
ただし、残業をしていたという証拠が必要になるため、残業代請求を行う場合には退職前にしっかり証拠を集めておく必要があります。
(2)加害者への慰謝料請求
パワハラは被害者の権利(身体や名誉感情等)を侵害する不法行為に該当します。
不法行為を行った加害者は、損害を賠償する義務を負うことが民法第709条・710条に定められています。
そのため、被害者は、パワハラを行った加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権として、慰謝料の支払いを求めることができます。
(3)会社への慰謝料請求
会社でパワハラが行われていた場合、パワハラを行った加害者本人だけではなく、使用者である会社に対しても損害賠償請求をすることができる場合があります。
民法第715条は、事業のために他人を使用する者は、従業員に不法行為があった場合には損害を賠償する責任が生じるうることを定めています。
また、会社は労働者が安全かつ快適に働けるように職場の環境に配慮する義務、すなわち職場環境配慮義務や、安全配慮義務(労働契約法5条)と呼ばれる義務を負っています。
そのため、被害者は会社がパワハラの発生を防止しなかったとして民法第415条に基づき、債務不履行責任を追及することができる場合があります。
4、パワハラで退職する前にやっておくべきこと
パワハラで退職する場合、退職理由や慰謝料請求でトラブルになる可能性があります。そのため、退職前からトラブルに備えて準備をしておくことが大切です。
退職する前には次のことを行うようにしましょう。
(1)パワハラの証拠を集める
パワハラで退職をするのであれば、パワハラの証拠を集めることが重要です。
- パワハラ現場の録音や録画
- 暴言を受けたメール内容
- 残業を強いられた場合には残業の時間が記録された物
などが証拠です。
どんな内容のパワハラを受けたのか記したメモや日記も証拠になります。
殴る蹴るなどの暴行を受けて怪我をした場合には、医師に診断書を書いてもらうことで証拠として残すことができます。
(2)就業規則を確認する
会社によっては、退職後は就業規則を確認できない場合があります。
そのため、退職前に就業規則の確認を行うようにしましょう。
就業規則等にパワハラに対する措置内容を規定しておくことは、パワハラ防止法、厚生労働省の指針によって義務付けられています。
そのため、パワハラを行った加害者に対して企業が適切な措置を行ったのか確認することができます。
(3)精神科を受診する際には労災を申請する
パワハラで精神的なダメージを負って精神科を受診するような場合には、必ず診断書を発行してもらいましょう。診断書があれば、労災を申請することができます。
まずは診断書を持って会社に労災を認めてもらうように相談し、会社が労災を認めない場合には労働基準監督署へ相談することができます。
5、パワハラで退職する際の流れ
パワハラで退職したいと考えても、どのような流れで退職を進めるべきか悩んでしまう方も多いでしょう。
パワハラで退職する場合の流れと手続きについてご紹介します。
(1)退職を2週間以上前に伝える
法律上は、退職日の2週間前までに、労働者は雇用主に対して退職の意思表示を行うように定められています。
そのため、パワハラが原因であっても、会社には2週間以上前には退職したい旨を伝えておかなければなりません。
退職は1ヵ月前までに告知するように就業規則に規定されている会社も多いため、1カ月前には退職を伝えることが無難だと考えられます。
上司と退職までに顔を合わせたくないという場合には、有給休暇を消化することを検討してください。
(2)退職届の記入・提出
退職届を記入して会社に提出しますが、その際には「一身上の都合」と記載すべきか「パワハラ」と記載すべきか悩む方も多いでしょう。
パワハラに対する慰謝料請求を行う場合には、退職届にパワハラ被害について記載をするべきです。
(3)退職後の手続き
退職後の手続きとして、健康保険と年金について考える必要があります。
退職後は、会社で加入していた健康保険が使えなくなります。
そのため、次の3つの方法から健康保険の加入を検討しなければなりません。
- 国民健康保険の加入
- 家族の健康保険の被扶養者になる
- 会社の健康保険の任意継続
また、年金に関しては退職することで厚生年金から国民年金に切り替わります。
失業期間中に年金の納付が難しい場合には、保険料の猶予制度の利用を検討してください。
6、パワハラが理由で退職する際の注意点
パワハラが原因で退職する場合、トラブルに発展してしまうようなケースも少なくありません。
退職までトラブルなく過ごすためにも、退職の際には次のことに注意しましょう。
(1)退職手順はきちんと踏むこと
パワハラが辛くて出勤拒否を続けて退職日まで過ごそうとするケースや、会社の指定する退職手続きを行わずに一方的に退職してしまうようなケースもあるでしょう。
しかし、退職手順をきちんと踏まずに退職をすれば、本来受け取れるはずの給与が振り込まれないなどのトラブルが起こる可能性があります。
また、場合によっては会社に損害を与えたという理由で損害賠償を請求されることもあります。
少しでもトラブルを避けるために、退職手順はきちんと踏むようにしてください。
(2)退職希望は必要以上に早期に伝えなくてもよい
退職するのであれば他の人に迷惑をかけないように何カ月も前から退職希望は伝えなくてはいけないのではないかと考えてしまう方も多いでしょう。
ですが自身の健康を優先し、就業規則や法律で定められた期間に退職希望を伝えれば問題ありません。
(3)あらかじめ転職先を決めておく
パワハラに対する慰謝料請求を行う場合には、あらかじめ転職先を決めておくことをおすすめします。
慰謝料請求を行った会社や加害者と仕事を続けることは精神的にも辛くなることが予想されるため、退職に向けて転職活動を少しずつ行っておくことをおすすめします。
弁護士に依頼して訴訟を行う場合には、弁護士が代理人となって手続きや裁判を進めることになるため、新しい勤務先で働きながら訴訟を進めることができます。
まとめ
パワハラを我慢して仕事を続けていれば、精神的な病気を患ってしまう可能性があります。そのため、退職をすることは心身の健康を守るための手段だと言えます。
パワハラで受けてきた精神的な被害に対しては慰謝料を請求することができ、退職理由も会社都合になれば失業後の補償をしっかり受けられます。
しかし、パワハラが理由で退職をすることがトラブルになるケースも少なくありません。退職がトラブルになってしまうような場合には、弁護士へご相談ください。