がむしゃらに働いた若い時の夢が叶い、一人親方になれて会社に雇用されない生活を楽しんでいる方もいるかと思います。
しかしその一方で、労働者を対象とした労災保険に加入することはできず、万が一の時に補償してもらえる保険への加入を考えている方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、
- 一人親方でも入れる保険とは
- 特別労災加入要件について
- 労災保険に加入するメリット3つ
などを中心に解説していきます。
体を使う建設業や土木業などでは、アクシデントや怪我の心配が尽きません。
そんな不安が解消できるよう一人親方でも加入できる保険を紹介します。
目次
1、【特別労災】労災保険の特別加入とは
労災保険とは事業主に雇用されている人が対象となっている保険です。一人親方のような事業主や自営業主などは労災保険に加入の対象となっていません。
そのため、仕事中に怪我をしても労災保険給付を受けることができません。
しかし、従業員を雇わない一人親方の場合、親方自身が業務をこなすため、事業主に雇用されている労働者と実体はほとんど変わりません。
業務の実態や災害の発生状況が一般労働者と大きく変わらない人が加入できる労災保険が特別加入制度です。
(1)労災保険の基礎知識
労災保険は、正式には労働者災害補償保険と呼ばれる保険で、業務中または通勤途中の事故や災害などにあった労働者を守ることを目的としています。
労災保険は強制加入のため、企業が従業員を雇用した日が労災保険の加入日となります。
- 労災保険は労働者のみを守る保険で労働者が対象の保険のため、原則として事業主を含む役員や社長は対象外となっています。一人でも労働者を雇用している事業主に労災保険の加入手続きを義務付け、労働者に対する補償の公平性を保っています。また、その保険料は全額事業主の負担となっています。
- 労働者が仕事中又は通勤途中に事故や災害に遭った場合、労働者災害補償保険法に基づき、労働者やその遺族は労災保険から給付を受けることができます。怪我などで会社を休まざるを得なくなった場合は、休業一日につき給付基礎日額の80%が支払われます。この給付基礎日額は原則として、直前3ヶ月間の賃金の合計を直前3ヶ月間の暦日数で割った金額で算出されます(労働基準法12条1項)。つまり、大まかに言えば一日当たりの賃金の80%が支給され、この休業補償は非課税となっています。
(2)特別加入者は給付基礎日額の計算が異なる
一人親方のような特別加入者の場合は、従業員と異なり賃金や給与という概念がありません。
そのため、労働者の賃金に変わる給付基礎日額を基に休業補償給付金などが算出されるようになっています。
この場合の給付基礎日額は3,500円から25,000円まで複数の日額が設定されており、補償を受けたい額に応じて特別加入者の申請に基づいて労働局長が決定します。
これは、保険給付の算定基礎となるだけでなく、保険料の基礎ともなる金額となっており、希望する補償金額にあった保険料を支払う仕組みは民間の保険と同様です。
労働者が補償金額を自分で設定することができず、平均賃金を基に補償額が算出されることとは異なります。
2、労災保険に特別加入できる業種
誰もが特別労災に加入できるわけではありません。
労災保険特別加入の対象となるのは、怪我をしやすい環境にある仕事に従事する以下の業種に限られています。一人親方の場合は第2種保険加入業種となります。
第1種保険加入業種 | 中小事業主の特別加入者 |
第2種保険加入業種 | 運送業(個人タクシー、個人貨物輸送業者) 建設業の一人親方 漁船による自営業者 林業の一人親方 医薬品の配置販売業者 再生資源取扱業者 船舶所有者 指定農業機械作業従事者 職業適応訓練受講者 家内労働(金属等の加工、洋食器加工作業) 家内労働(履物等の加工作業) 家内労働(陶磁器製造の作業) 家内労働(動力機械による作業) 家内労働(仏壇・食器の加工作業) 事業主団体等委託訓練受講者 特定農作業従事者 労働組合等常勤役員 介護作業従事者 |
第3種保険加入業種 | 海外派遣の特別加入者 |
(1)業種ごとの保険料率
保険料率は業種に応じて、以下の通り定められています。給付基礎日額に365日を乗じた保険料算定基礎額に以下の保険料率を乗じた額が、第2種保険加入業種の特別加入者の保険料となります。
引用元:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6.pdf
(2)加入時に健康診断が必要な業種
下記の表に記載の業務に定められた期間従事したことがある場合には、特別加入申請時に健康診断を受ける必要があります。健康診断に係る費用の負担はありません。
引用元:https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040324-6.pdf
3、特別労災加入要件について
(1)特別労災加入対象
一人親方の特別労災加入の対象範囲は、一人親方およびその事業に従事している家族従事者です。
(2)特別労災加入要件
一人親方等の団体(特別加入団体)の構成員であることが必要です。
一人親方の特別加入については、一人親方等の団体(特別加入団体)が、その構成員の業務災害及び通勤災害に関して労災保険の適用を受けることについての申請をして、政府の承認を得た場合、特別加入団体を事業主、一人親方を労働者とみなして労災保険を適用することとされています(労災保険法第35条)。
4、気になる特別労災保険の保険料についてシミュレーション
ここでは実際に例を挙げて解説していきます。
(1)一人親方が属する業種を選択
まず、一人親方が属する業種を調べます。特別加入には、中小事業主(第1種特別加入)、一人親方その他の自営業者(第2種特別加入)、特定作業従事者(第2種特別加入)、海外派遣者(第3種特別加入)の4種類があります。一人親方は第2種特別加入に該当します。
(2)給付基礎日額から保険料算定基礎額を算出する
建設業に従事する一人親方が、給付基礎日額を16,000円と設定した場合の年間保険料は、105,120円となります。
自分で設定した給付基礎日額16,000円に365日を乗じた5,840,000円が保険料算定基礎額となります。
16,000円×365日=5,840,000円
(3)保険料率を元に年間保険料を算出する
上記で算出した保険料算定基礎額5,840,000円に保険料率(建設の事業の場合:保険料率18/1000)を乗じた金額105,120円が保険料となります
5,840,000円×18/1000=105,120円(年間)
105,120円÷12=8,760円(1月)
5、労災保険に特別加入する方法や手続き
都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体が、労災保険の特別加入の手続き行うことが決められています。ここでは特別加入する以下の2つの方法を解説していきます。
(1)特別加入団体を立ち上げる方法
特別加入団体を新たに立ち上げて加入する方法があります。新たに特別加入団体を立ち上げるためには、所轄の労働基準監督署長を経由して所轄の都道府県労働局長に特別加入申請書を提出し、承認を得なければなりません。
特別加入団体として認められるには、一人親方等の相当数を構成員とする単一団体であること、労働保険事務処理が可能であること、組織や運営方法が整備されていることなどといった要件を備えている必要があります。
(2)特別加入団体に所属する方法
既に特別加入団体として承認されている団体に所属して加入することも可能です。その加入団体が代わりに労災保険の特別加入の手続きを行ってくれます。
どこの特別加入団体に所属するかについては、自分で選ぶことができます。都道府県労働局または労働基準監督署に問い合わせれば、お近くの特別加入団体を紹介してくれます。
(3)このように加入した特別加入団体が前提となり労災保険給付を受けることができる
もし仕事中に事故に遭ってしまった場合、自分の所属する特別加入団体に事故の報告をするとともに、療養補償給付たる療養の給付請求書や休業補償給付支給請求書を作成し団体に提出すれば、加入団体が労働基準監督署へ提出してくれます。特別加入団体によっては、社会保険労務士等の事務担当者が申請してくれることもあります。
6、労災保険に加入するメリット3つ
最後に労災保険に加入するメリット3つ紹介します。特別加入は任意保険ですので、従事する仕事の危険度に応じて加入を検討してみてください。
(1)様々な補償が受けられる
原則、労働者と同様の補償を受けることができます。
- 療養補償給付
治療の必要がなくなるまで自己負担なしで原則全額支給されます。治療を受けた病院が労災保険指定医療機関でない場合には、治療費を立て替える必要がありますが、療養(補償)給付たる療養の費用請求書を提出することで、立て替え費用が全額支払われます。
- 休業補償給付
仕事中の怪我などが原因で仕事を休まざるを得ない状況になった場合、仕事を休んでいる間の所得が補償されます。休業4日目から給付基礎日額の8割の金額を休業補償として受けることができます。
- 介護補償給付
一定の障害が残り現実介護を受けている場合、原則として介護費用として実際に支出した額が介護補償給付として支給されます。常時介護を必要とする場合も随時介護が必要とする場合も対象となっています。
- 遺族補償給付
傷病により死亡した場合に遺族に対して遺族補償給付が支払われます。労働者の収入によって生計を維持していたいわゆる労働者が一家の大黒柱で配偶者が専業主婦であることは求められません。共稼ぎであっても労働者の収入によって生計の一部を維持していれば、遺族補償給付を受けることができます。
(2)いざというときにトータルで保険料がおりる
従事する業務にもよりますが、建設業には常に危険と隣り合わせの職種もあります。
いざというときにトータルで保険料が給付されることは、そのような職種に従事する方にとっては大きな安心になります。
障害が残った場合には、第1級から第7級の重い障害に対しては障害補償年金、第8級から第14級までの比較的軽い障害に対しては障害補償一時金が支給されます。
一時金は一度のみの支給となりますが、年金は障害を有している間支給されます。
年金額は障害等級に応じて給付基礎日額の131日~313日分の年金、比較的軽い障害の場合は給付基礎日額の56日~503日分の一時金が支払われます。
(3)保険料については基本的に自分で決められる
民間の保険と同様に、保険料を自分で決めることができます。一人親方の場合は、企業の従業員と違い、安定した給与が支払われるわけではありません。
景気が良い時には手厚い補償を、景気が悪い時には保険料を減らすなど、一度設定した保険料を後で変更することも可能です。
そのため、若い時は少なめに設定し、年を経たら手厚い補償を選択する方も多くいます。
まとめ
企業で働く人が仕事中に起こった怪我について病院で治療を受ける場合は、健康保険ではなく労災保険を使うことになります。
しかし、一人親方の場合は労災保険を使うことができません。事業者に雇用されていないためです。
労災保険は労働者を守る保険であり、一人親方は対象外です。対象外とはいえ、労働災害に遭う危険性は通常の労働者と変わることはありません。
そこで、これらの人も労災補償を受けることができるように、特別労災に加入することができるのです。
誰もが加入できる保険ではなく、またすべての仕事中の怪我や事故が補償の対象となるわけではありませんが、労災保険の特別加入制度を検討されている方は、ぜひ弁護士に相談してみてください。