建築紛争に巻き込まれて、お困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
建築紛争とは、建物の建築工事をめぐるトラブル全般のことを指します。
施主側では、業者に依頼して建ててもらった住宅が思っていたものと違う、建築物に不具合(瑕疵)があった、追加工事や変更工事を勝手にされてしまった、建物が完成していないのに業者が工事を放棄した、また一方施工業者側では、きちんと請負代金が払われない、明らかに不当な修繕要求を受けているなど、さまざまなパターンのトラブルがあります。
こういった建築紛争は、当事者同士で調整して解決できれば望ましいわけですが、専門性の高い技術的なことに関するトラブルが多いため、高度な専門知識がなければ適切な解決をするのは難しいのが実情です。
また、建物の建築に関することなので、請負代金も損害賠償金も高額であることが多く、それだけに争いが長期化しやすいという特徴もあります。
今回は、
- 建築紛争とは
- 建築紛争で相手にどのような請求ができるのか
- 建築紛争を解決する方法
などについて、建築紛争の解決実績を豊富に有するベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
この記事が、建築紛争に巻き込まれて、どうすればよいのか分からないという方の手助けとなれば幸いです。
1、建築紛争とは
建築紛争等は、冒頭でもお伝えしたとおり、建物の建築工事をめぐるトラブル全般のことです。
施主側で典型的なケースとしては、新築住宅の窓やドアの建て付けが悪い、雨漏りがする、間取りが注文したものと違うなどの場合に、修補や損害賠償を求める事案が挙げられます。
その他にも、追加工事や変更工事の必要性、内容、金額などに関するトラブルもありますし、施主側では施工業者に工事を途中で放棄されるといったトラブルもあります。
さらには、個人と業者との契約をめぐって消費者契約法や特定商取引法などに関する法的トラブルが発生することも少なくありません。
多種多様な類型のトラブルがありますが、多くの場合は専門性が高い紛争であるため、当事者だけで解決するのは難しいという特徴があります。
穏便に解決できたと思っても、客観的に見ると、どちらかが損をしているケースが多くあります。通常は業者の方が専門的な知識を有しているため、依頼した個人の側が損をして泣き寝入りしていることが多いのが実情です。もちろん、良心的な施工業者が過分な修繕対応や賠償責任を果たそうとしていることもあります。
そのため、建築紛争を適切に解決するためには、弁護士や建築家といった専門家のサポートを受けることが重要となります。
2、建築紛争でよくある3つのトラブル
建築紛争には多種多様な類型のものがありますが、この記事では、よくある以下の3つの類型のトラブルを念頭に置いて解説を進めていきます。
- 契約不適合(建物の瑕疵)
- 建築中の追加・変更工事に関するトラブル
- 工事の中断に関するトラブル
それぞれ、どのようなトラブルなのかを簡単にご説明します。
(1)契約不適合(建物の瑕疵)
契約不適合とは、売買契約や請負契約における目的物の種類、品質、または数量が契約内容に適合していないことを意味します。
従来の民法では、引き渡された建物に瑕疵があった場合に、状況に応じて注文者による
- 修補の請求
- 損害賠償請求
- 契約解除
が認められていました。
建物の瑕疵とは、
- 雨漏りや水漏れ
- ひび割れ
- 構造耐力の不足
- 耐火・防火の不備
などをはじめとする、不具合や欠陥のことを指します。
建物に瑕疵があった場合に売り主・請負人が負う責任のことを「瑕疵担保責任」と呼んでいました。
2020年4月から施行されている改正民法では、瑕疵担保責任が「契約不適合責任」というものに改められ、売り主・請負人の責任の範囲が広げられました。
引き渡された建物に不具合や欠陥がある場合だけでなく、種類、品質または数量が契約に適合しない場合は売り主・請負人が責任を負うことになります。
具体的には、
- 間取りが注文したものと違う
- 工事が建築基準法等の法令に違反している
- 社会通念上求められる施行水準を満たしていない
などをはじめとして、工事内容や完成した建物が契約内容に適合していない場合には、注文者は業者の「契約不適合責任」を問うことができます。
(2)建築中の追加・変更工事に関するトラブル
建築工事は、必ずしも予定どおりに進むとは限らず、追加工事や変更工事が必要になることもよくあります。
着工後に注文者から要望の追加や変更が出ることもありますし、工事をしてみて初めて分かる事情を踏まえて施工業者側から提案する追加や変更もいろいろとあるからです。
そんなとき、改めて打ち合わせをしっかりと行い、契約書や設計図面も改めることが望ましいのですが、なかなかそうもいかない実情もあります。
施工業者は工期に追われていることが多いですし、注文者も打ち合わせの手間を嫌うことがあるからです。
しかし、口頭の説明のみでは双方の認識がズレていることが多々あります。工事の追加・変更を口約束で済ませると証拠が残らないため、完成後にトラブルが生じやすくなります。
「こんな工事は頼んでいない」
「言われたことと違う」
「この追加工事は元々の契約の範囲内だ」
というようなトラブルが起こりがちです。
(3)工事の中断に関するトラブル
建物が完成する前に、建築工事が中断してしまうことも少なくありません。
着工後に注文者と施工業者との間でトラブルが発生し、信頼関係が損なわれると、注文者が他の業者に依頼しなおすために、元の請負契約の解除を主張することもありますし、逆に施工業者の側が工事の続行を放棄することもあります。
あるいは、建築工事にはある程度の期間を要しますので、途中で施工業者が倒産するなどして工事の続行が不可能となるケースも見受けられます。
請負契約においては、報酬は仕事の目的物の引き渡しと同時に支払われるのが原則です。つまり、原則として建物が完成するまで注文者は報酬を支払う必要はありません。
ただし、施工業者は多額の経費を支出して着工していますので、途中で工事を終了した場合にも公平を図る見地から、一定の場合には出来高払いで請求することも認められています。
この場合、出来高報酬がいくらになるのかが争われることが多いです。また、損害賠償請求の問題では、工事が中断した責任が注文者と施工業者のどちらにあるのかも争いとなります。
3、建築紛争で相手に請求できること(法的責任)
建築紛争で発生しうる法的責任は、以下のとおりです。それぞれ、該当する場合には相手に請求することができます。
(1)修補の請求
工事内容に不備がある場合、注文者は施工業者に対して、契約内容に従って履行を追完するよう請求できます(民法第559条、第562条1項本文)。
具体的には、契約内容に適合していない部分を指摘して、その部分を修補するよう求めることが可能です。
ただし、施工業者は、注文者に不相当な負担がかからない場合には、注文者が求める方法とは異なる方法で修補することも可能とされています(同項但書き)。
なお、契約不適合の責任が注文者側にあるときは、修補の請求をすることはできません(同条2項)。
(2)代金の減額請求
注文者が適切な期間を定めて修補の請求をしたにもかかわらず、その期間内に修補が行われない場合は、注文者は契約不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます(民法第559条、第563条1項)。
修補が不可能な場合や、施工業者が修補を拒絶した場合などには、注文者は適切な期間を定めることなく、直ちに代金の減額を請求できます(同条2項)。
ただし、契約不適合の責任が注文者側にあるときは、代金減額の請求はできません(同条3項)。
(3)追加・変更工事の代金の請求
追加工事や変更工事が当事者の合意に基づいて適切に行われたものと認められた場合、施工業者は注文者に対してその工事の代金を請求できます。
注文者としては、追加工事や変更工事の合意をした書面がなくても、代金を支払わなければならない可能性があることに注意しましょう。
(4)出来高払いによる代金の請求
前記2(3)でも説明したように、工事が途中で終了した場合でも、施工業者が注文者に対して、出来高に応じて報酬を請求できる場合があります。
具体的には、工事がある程度進み、それによって注文者に利益が発生しており、出来高部分に応じた代金の算定が可能な場合に、この請求が可能となります。
建築訴訟では、「出来高一覧表」を作成し、当事者双方の主張を整理しながら出来高報酬額が算定されていきます。
なお、契約で出来高払いが定められていることも多いので、注文者の方は契約書をよく確認しておきましょう。
(5)損害賠償請求
契約不適合によって注文者に損害が発生したときは、債務の不履行を理由として損害賠償請求ができます(民法第415条1項本文)。
注文者が修補請求や代金減額請求をして、施工業者がそれらに応じた場合でも、賄いきれない損害が発生している場合にはさらに損害賠償請求が可能です(民法第559条、第564条、第415条1項)。
ただし、契約不適合が施工業者の責めに帰することができない事由で生じた場合には、損害賠償請求は認められません(民法第415条1項但書き)。
(6)契約の解除
注文者は、契約不適合がある場合に、適切な期間を定めて修補などによる履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完が行われない場合には、契約を解除することができます(民法第541条1項本文)。
履行の追完が不可能な場合や、施工業者が履行追完を拒絶した場合などには、注文者は催告せず直ちに契約を解除することも可能です(民法第542条1項)。
ただし、契約不適合の程度が社会通念に照らして軽微といえる場合は、契約の解除は認められません(民法第541条1項但し書き)。
4、建築紛争を解決する方法
では、建築紛争に巻き込まれてしまった場合には、どのような方法で紛争を解決すればよいのでしょうか。
(1)当事者間での話し合い
まずは、当事者間で話し合ってみましょう。
施工業者と協議を行い、補修工事や代金減額などで満足が得られるのであれば、それで解決するのが最も手っ取り早い方法です。
ただし、適切に解決するためには高度な専門知識が要求されますので、注文者は弁護士や建築士に相談しながら話し合いを進めた方がよいでしょう。
(2)保険(住宅瑕疵担保責任保険)による解決
施工業者が「住宅瑕疵担保責任保険」に加入している場合は、保険を適用することでトラブルを解決できる可能性があります。
住宅瑕疵担保責任保険とは、新築の住宅に瑕疵があり、補修等が行われた場合に保険金が支払われるものです。
施工業者が行う補修工事等の費用が保険金として支払われます。原則として、注文者が保険金を直接受け取れる仕組みではないので、ご注意ください。
ただし、施工業者が倒産しているような場合には、注文者が直接、補修等にかかる費用について保険金の支払いを請求できます。
施工業者が保険に加入している場合は、通常、契約書に記載されているか、契約時に業者から説明されているはずです。
よく分からない場合は、保険の有無についても施工業者に確認した上で、協議を進めるようにしましょう。
(3)裁判外紛争処理機関(ADR)の利用
当事者間の協議で解決できない場合は、裁判外紛争処理機関(ADR)を利用することで解決を図ることもできます。
裁判外紛争処理機関(ADR)とは、民事上のトラブルについて、裁判によらず、公正・中立の立場で当事者の話し合いを仲介することによって解決を図る機関のことです。
建築紛争で利用できる裁判外紛争処理機関(ADR)には、主なところでは次の2つの機関があります。
いずれを利用する場合も、弁護士や建築士などの専門家が委員となり、公正・中立な立場で「あっせん」「調停」「仲裁」による解決を目指すことになります。
- 建設工事紛争審査会
- 住宅紛争審査会
①建設工事紛争審査会
建設業法に基づいて、国土交通省及び各都道府県に設置された機関です。
建設工事の請負契約に関するトラブルについて、あっせん・調停・仲裁を求めることができます。
建物の瑕疵や請負代金をめぐるトラブルなどが主な対象となります。売買契約や、もっぱら建物の設計監理契約に関するトラブルなどは対象外ですので、注意が必要です。
②住宅紛争審査会
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品確法)に基いて、国土交通大臣から指定住宅紛争処理機関として指定を受け、全国52箇所の弁護士会に設置された機関です。
対象となるトラブルの種類が建設工事紛争審査会よりも広く、売買契約や、もっぱら建物の設計監理契約に関するトラブルなども対象となります。
(4)裁判所の民事調停の利用
裁判外紛争処理機関(ADR)の手続きには、当事者に対する法的な拘束力がないため、必ずしも解決できるわけではありません。
そこで、裁判所の手続きを利用して建築紛争の解決を図ることが考えられます。裁判所の手続きの中でも比較的利用しやすいのが「民事調停」です。
民事調停においても、弁護士や建築士などの専門家が調停委員となって当事者の間に入り、話し合いによる解決を目指します。
話合いがまとまらなければ「調停不調」となって未解決のまま手続きが終了しますが、裁判所における手続きであることから、裁判外紛争処理機関(ADR)の手続きよりも話し合いがまとまりやすい傾向があります。
訴訟ほど厳格な手続きではないので、柔軟な解決が期待できます。そのため、早期にトラブルを解決したい場合や、費用を抑えたい場合は、民事調停の利用を検討してみましょう。
なお、東京地方裁判所をはじめとして多くの裁判所では、建築訴訟を提起した場合でもまずは調停に付される運用がなされています。
(5)建築訴訟の提起
建築紛争を解決する最後の手段は、訴訟を提起することです。
建築訴訟では、専門性の高い技術的なことについて、細かな点まで主張・立証を行わなければなりません。
通常、建築に関する専門知識について、注文者と施工業者には圧倒的な差があります。そのため、注文者が建築訴訟で争うためには、弁護士や建築士といった専門家のサポートを受けることが不可欠といっても過言ではありません。
5、建築紛争に関するご相談は弁護士へ!そのメリットとは?
建築紛争に巻き込まれてしまったときは、まず弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士相談で得られるメリットは、以下のとおりです。
(1)建築士と連携して対応してくれる
弁護士といえども、建築に関する専門知識を十分に有していることは少ないため、通常は建築士と連携して建築紛争に対応しています。
注文者が建築士に直接相談した場合は、建築に関する専門的なアドバイスは受けられるものの、最終的には「弁護士に相談してください」と言われるのが一般的です。
しかし、建築紛争の解決実績が豊富な弁護士に相談すれば、弁護士の側で信頼できる建築士と連携してくれることがありますので、建築士に相談する手間が省ける場合があります。
(2)戦略的に交渉を進めてくれる
建築紛争を適切に解決するためには、まずは契約書や設計図書などを読み解いて権利・義務関係を正確に把握し、その上で施工業者と交渉していかなければなりません。
交渉を有利に進めるためには、訴訟に発展した場合の最終的な見通しも立てた上で、駆け引きを行うことも重要です。
いたずらに紛争が長期化することを回避するためには、譲歩できる部分は譲歩して、納得できる「落としどころ」を見極めるといった戦略も大切になってきます。
弁護士に対応してもらえれば、以上のポイントを押さえて、戦略的に交渉を進めてもらえます。
(3)調停や訴訟の手続きも任せられる
訴訟では、訴状の作成や証拠の提出などを厳格なルールに従って行う必要があります。建築訴訟では、瑕疵一覧表の作成など、一般的な民事訴訟よりもさらに専門性が高い作業も求められます。
調停は訴訟ほどには厳格な手続きではないものの、やはり、ある程度の専門知識は要求されます。
弁護士に依頼すれば、専門的な作業や複雑な作業はすべて代行してもらえるので、安心して調停や訴訟を進めることができます。
困難な作業に頭を悩ませる必要がなく、問題の解決そのものを冷静に検討することができますので、納得できる解決が期待できることでしょう。
まとめ
建築訴訟に巻き込まれると、注文者であっても施工業者であっても紛争解決の専門知識がないことがほとんどですので、交渉しようにも、どのように進めてよいのかが分からず、途方に暮れてしまうこともあるでしょう。
調停や訴訟に進むと、さらに手続き的な専門知識も要求されるため、ますます自力で解決することは難しくなっていきます。
困ったときは、早めに弁護士や建築士といった専門家の力を借りることをおすすめします。まずは、建築紛争の解決実績が豊富な弁護士へ相談してみてはいかがでしょうか。