自衛隊は違憲?改正は必要?憲法9条の解釈について分かりやすく解説

自衛隊は違憲?改正は必要?憲法9条の解釈について分かりやすく解説

憲法9条とは、「戦争放棄」を定めた日本国憲法の条文です。

憲法9条の解釈は、人によって実に様々であり、激しい議論の対象にもなります。

憲法9条の具体的な中身はどんなもので、なぜ激論の対象になるのでしょうか?

そこで本記事は、

  • 憲法9条の概要
  • 重視される理由
  • 自衛隊や集団的自衛権との関係

などについて解説します。

今回は憲法9条に関する「正しい」解釈を示すのではなく、政府解釈に沿って、憲法9条を中立的立場から分かりやすく解説します。

本記事がお役に立てば幸いです。

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1、憲法9条とは?条文ごとに何を表現しているのか

憲法9条は、次のように定めています。

憲法9条1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

憲法9条2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

引用:日本国憲法

このように、憲法9条1項では、「戦争の放棄」が掲げられています。
そして、憲法9条2項において、重ねて、「戦力不保持」と「交戦権の否定」が掲げられています。

憲法9条の軸はこの3つです。後段にて内容を更に詳しく確認していきましょう。

(1)憲法9条1項「戦争の放棄」とは

「戦争」は、

  • 「侵略戦争」
  • 「自衛戦争」

の2つに区分することができます。

「侵略戦争」とは、国家間の政治的な争いごとを武力によって解決しようとする戦争です。
「自衛戦争」とは、自国の自衛を目的とする戦争のことをいいます。

憲法9条1項は、政府見解によれば、「侵略戦争」を放棄したものであり、「自衛戦争」は放棄していないと解釈しています。

憲法9条1項は、第1次世界大戦後に締結された不戦条約がベースになっています。

不戦条約の締結国である

  • アメリカ
  • フランス
  • イギリス

などの国々は、不戦条約では、「侵略戦争」は放棄されるが、「自衛戦争」までは放棄されていないと解釈されています。

そこで、不戦条約をベースとする憲法9条1項でも、「侵略戦争」は放棄されるものの、「自衛戦争」は放棄されていないと考えられるのです。

(2)憲法9条2項前段「戦力の不保持」とは

続いて憲法9条2項前段で保持することが禁止されている「戦力」とは何でしょうか?

具体的には、憲法9条2項前段がいう「戦力」とは、「国が保有するあらゆる戦力」をいうのか、あるいは、「侵略戦争を遂行するための戦力」に限定されるのか、という点が議論の対象になります。

政府見解は、「一切の戦力」を放棄したものと解釈しています。つまり、「侵略戦争を遂行するための戦力」に限らず、「自衛戦争を遂行するための戦力」をも放棄したものと解釈されています。

「自衛戦争を遂行するための戦力」をも放棄しているという点には、違和感を覚える方も少なくないように思います。しかし、歴史を振り返ってみると、「自衛戦争」という名目で「侵略戦争」を行うことが多いという経験があります。

日本も、「自衛戦争」を掲げて第二次世界大戦に突入しました。

このような歴史的経験を踏まえて日本国憲法が制定されたという点からすると、憲法9条2項は、「自衛戦争を遂行するための戦力」を含めた一切の戦力を放棄すると解釈することができます。

このように「一切の戦力」を放棄することで、一切の「戦争」を放棄する、ということが目指されているのです。

(3)憲法9条2項後段「交戦権の否認」とは

憲法9条2項後段の「交戦権」とは、国際法上、交戦国に認められる諸々の権利、つまり、

  • 占領地の行政権
  • 船舶の臨検・拿捕権(船舶を捜索したり拘留する権利)
  • 敵の兵力を兵器で殺傷する権利

などを意味すると解釈されています。

憲法9条2項前段で、すでに「一切の戦力」を放棄しているわけですが、憲法9条2項後段は、抽象的に日本国が他国と交戦する権利を有することも否認することを定めたものです。

このように憲法9条とは日本国憲法における原則である平和主義を規定しているものであることがわかります。

2、憲法9条ができた理由・どうして重視されるのか?

(1)憲法9条ができた理由

第一次世界大戦後、歴史的な被害を目の前にして、各国は、二度と戦争を行わないことを目指して、不戦条約を締結しました。

不戦条約では、日本国憲法9条1項と同じような条文が定められ、各国は、「侵略戦争」を放棄しました。

日本も不戦条約の締結国でした。

ところが、第二次世界大戦は起きました。特に日本は、ドイツ、イタリアと共に、第二次世界大戦の中心でした。

しかし、結果は、1945年8月6日に広島に、1945年8月9日に長崎に原子爆弾が投下され、日本は甚大な被害を被った上で降伏を迎えます。

こうした歴史的経験を踏まえ、日本国憲法において、

  • 一切の戦争放棄
  • 戦力不保持
  • 交戦権の否定

を掲げる憲法9条が制定されたのです。

(2)なぜ憲法9条が重要視されるのか

戦争は、自国民の犠牲を伴うものです。特に、第二次世界大戦では、日本は、多くの日本国民を犠牲にしました。

そこで、日本は、時の経過によっても簡単に変更できない憲法の条文に、

  • 一切の戦争放棄
  • 戦力不保持
  • 交戦権の否定

を定めたのです。

これが、憲法9条が簡単に変更できない・変更すべきでない理由、憲法9条が重要視される理由と考えられています。

3、憲法と自衛隊の関係

憲法と自衛隊の関係は常に議論の対象になります。

その憲法と自衛隊の関係について確認していきましょう。

(1)そもそも自衛隊とは

自衛隊とは、自衛隊法に基づき、日本の平和と独立を守り、国の安全を保つために設置された部隊および機関です。

  • 陸上自衛隊
  • 海上自衛隊
  • 航空自衛隊

の3部隊から構成されています。

自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣で、防衛大臣が隊務統括を担っています。

このように、自衛隊は、内閣から独立した組織ではなく、内閣のコントロールが及んでいる点(シビリアン・コントロール)が特徴です。

(2)政府は自衛隊が憲法9条によって放棄される「戦力」にあたらないと解釈している

憲法9条2項前段にいう「戦力」とは、「自衛戦争を遂行するための戦力」を含む「一切の戦力」をいうのでした。

自衛隊が「自衛戦争を遂行するための戦力」にあたるとすると、自衛隊は、憲法9条2項前段に違反するのではないでしょうか。

この点について政府は、「自衛のための必要最小限度の実力」は、憲法9条2項前段の「戦力」にあたらないと解釈しています。

そして、自衛隊は、「自衛のための必要最小限度の実力」にあたるため、憲法9条2項前段の「戦力」にあたらないとしています。

他国からの侵攻を受けたとき、これに対する防衛活動を行うことは、自国の生命・身体の安全を確保すべき国家の任務といえます。

したがって、このような「自衛」活動を行うための「必要最小限度の実力」を保持すること自体は、憲法9条2項前段によっても禁止されていないと政府は解釈しています。

(3)過去の裁判例でも憲法違反とは判断されていない

①長沼ナイキ事件(札幌高裁昭和51年8月5日判決)

この事件では、農林大臣が航空自衛隊のミサイル施設を設けるために保安林指定の解除を行ったところ、地元住民が保安林指定の解除処分の取消を求めた事件です。

保安林解除処分の取消の根拠とされたのが、自衛隊が憲法9条に違反し違憲であるというものでした。

第1審裁判所は、自衛隊の設置は憲法9条2項に違反し無効であるとしました。

しかし、控訴審裁判所は、自衛隊について、国家の政治過程の根幹に関わる問題であり、極めて明白に違憲無効でなければ司法審査の対象にはならないとしていわゆる統治行為論で自衛隊の合憲性に関する判断を回避しています。

②百里基地訴訟(水戸地裁昭和52年2月17日判決)

この事件では、地主から航空自衛隊の基地設置予定地を購入した者が、その後、同土地を国に売却した地主と国に対し、売買契約の無効等を主張した事件です。

売買契約が無効であることの理由の1つとして主張されたのが、自衛隊が憲法違反である(したがって自衛隊基地の設置を目的とする売買契約は無効である)というものでした。

これに対して裁判所は、自衛隊の合憲性についてここでも統治行為論により、自衛隊の合憲性に対する判断を回避しています。

(4)自衛隊が憲法9条違反となる場合はある?

以上の裁判例をよく読むと、裁判所が、「自衛隊は憲法9条に違反しない」というのではなく、一見明白に戦力だと断定できないというような微妙な表現を取っていることが読み取れます。

これは、裁判所が、自衛隊が憲法に違反するかどうかの判断にあたって、前記のとおり統治行為論により司法判断を回避しているためです。

そうすると逆に、自衛隊の組織や編成、装備が、「一見明白に憲法に違反する」ものとなった場合には、憲法に違反するという判断となる可能性もあります。

極論ですが、

  • 自衛隊が核兵器を保有するといった事態になった場合
  • 他国を侵略するための準備を具体的に行っていることが認められた場合

には、自衛隊が違憲となる可能性が出てくるかもしれません。

このように、自衛隊は、無制限に憲法に違反しないとされているわけではないことには注意が必要です。

4、最近問題となっている集団的自衛権は認められる?

(1)個別的自衛権と集団的自衛権の定義

個別的自衛権とは、自国が他国から侵略を受けたときに、これに対して防衛活動を行う権利のことをいいます。

これに対し、集団的自衛権とは、日本と密接な関係にある他国が他の国から侵略を受けたときに、侵略を受けた国と一緒になって防衛活動を行うことをいいます。

このように個別的自衛権と集団的自衛権とは、

  • 攻撃を受けたのが自国(日本)であるのか
  • 他国(日本以外の国)であるのか

という点で、異なります。

政府は、個別的自衛権については、独立国の固有の権利であるとして、日本にも認められると解釈しています。

そして、自衛隊は、このような個別的自衛権に基づき、個別的自衛権を行使するための必要最小限度の実力と認められる限り、憲法の下においても保持することが許されると解釈してきました。

(2)集団的自衛権と新3要件

政府は、2014年7月、日本における集団的自衛権の行使の要件として、

  1. 日本に対する武力攻撃又は日本と密接な関係にある国に対して武力攻撃がなされ、かつ、
  2. それによって日本国民に明白な危険があり、集団的自衛権行使以外に方法がない場合には、
  3. 必要最小限度の実力行使が許容される

という、いわゆる「新3要件」を閣議決定しました。

これが「新」といわれるのは、それまでの政府見解によると、他国が武力攻撃を受けた場合に、日本が武力を行使すること(集団的自衛権)は認められないと解釈してきたからです。

そのため、2014年7月の閣議決定は、それまでの憲法9条に関する政府解釈を変更したものとして、「解釈改憲」とよばれました。

参考:内閣官房

5、憲法9条を改正する必要はある?

(1)改正が必要と考える人の意見と具体的改正案

①個別的自衛権が認められることを明記する

政府は、一貫して、個別的自衛権は憲法9条によっても放棄されていないと解釈しています。

他方、憲法9条、特に憲法9条2項は、「戦力放棄」と「交戦権」を否定しており、一見すると、個別的自衛権すら放棄しているように解釈する余地があります。

そこで、個別的自衛権が認められることを明記するという改正案が提案されています。

②自衛隊が認められることを明記する

政府は、自衛隊は、「自衛のための必要最小限度の実力」と認められる限り、憲法9条2項にいう「戦力」にあたらないと解釈しています。

他方、自衛隊が憲法9条2項にいう「戦力」にあたり、違憲であるという見解も少なくありません。

そこで、自衛隊が法的裏付けをもって活動できるようにすべく、自衛隊の存在を憲法に明記すべきであるという改正案が提案されています。

たとえば、憲法9条2項に「ただし、自衛のための必要最小限度の実力にとどまる自衛隊は、ここにいう戦力にあたらない」などと追記するものです。

③集団的自衛権が認められることを明記する

さらに進んで、集団的自衛権が認められることを明記すべきであるという改正案もあります。

これは、昨今の国際情勢に鑑みると、自国の防衛のみならず、他国、特に日本と密接な関係にある他国への侵略については、国際協調の一環として、日本も防衛の責任を果たすべきといった価値観に基づくものといえます。

(2)改正は不要と考える人の意見〜どんなリスクが考えられるか

①憲法9条が認める個別的自衛権で対処することができる

憲法9条を改正すべきという意見の主な動機としては、現行の憲法9条では、

  • 日本が個別的自衛権を有するかどうか
  • 自衛隊を保持することができるかどうか

などが曖昧であるため、個別的自衛権の発動や、自衛隊の活動が過度に制限され、日本国に対する侵攻に対して迅速に対応できないのではないか、という懸念・不安があると考えられます。

しかし、日本が個別的自衛権を有すること、少なくとも自衛隊が憲法違反とはいえないことについては、これまでの政府見解や裁判例によって明らかです。

したがって、憲法9条があることで、個別的自衛権の発動や、自衛隊の活動が過度に制限されるということはないという考え方もあります。

②「自衛戦争」が拡大するリスクがある

改正と一言でいっても、その内容、文言によって、予見できないリスクが生じる可能性があり、それを懸念している人々もいます。 

まとめ

いかがだったでしょうか。

憲法9条に関する理解を、より深めることができたのではないでしょうか。
憲法9条の解釈や今後について、さらには、日本の平和、世界の平和について考えるにあたって、本記事が少しでもお役に立てたとすれば幸いです。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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