介護職員による虐待を疑ったら…家族を守るための6つのポイント

介護 虐待

介護職員による虐待行為は、残念なことに多々報告されています。
そのなかには入居者の死亡に至ってしまった痛ましい事件もあり、厚生労働省をはじめとして社会的にも問題意識が高まっています。
介護施設に入居するご家族をもつ方にとって、このような介護職員による入居者虐待事例の増加は人ごとではありません。

そこで、

  • 介護施設における虐待行為の現状
  • もし虐待行為が発覚した場合の適切な対処方法

についてご案内します。大切な家族を虐待から守りましょう。

高齢者の虐待に関して詳しく知りたい方は以下のページに掲載されていますので、ぜひご覧ください。

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1、介護職員による虐待は増加している

介護職員による虐待は増加している

以下の表のとおり、介護職員によってなされたとされる入居者への虐待事案の報告件数は、著しい増加傾向にあります。

注意して頂きたいのは、これはあくまで報告件数であるということです。
私たちは、この数字の他にも明らかになっていない虐待の事実が存在している可能性があるという意識をもつ必要があります。

平成26年度平成27年度
件数(件)1、1201、640

引用元 : 平成 27年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果  

(1)家族・施設の介護職員からの通報で発覚するケースが多い

介護施設での虐待の特徴として、被害者自身からの積極的な相談・通報により発覚する事例が少ないことが挙げられます。
介護施設での虐待被害者は、認知能力・身体能力・発信能力が減退した高齢者が多く、被害の自己申告をすることが困難な場合があるためです。

一方で、介護施設入居者に対する同僚の虐待行為を許さない確固とした倫理感をもつ職員は多く、こうした職員による通報により顕在化することが多くあります。

介護施設職員に次いで多い通報者は、虐待の被害者の家族です。
被害者から虐待を受けている事実を知らされたり、あるいはケガなどを不審に感じた家族の通報により、発覚するケースは多いです。
介護施設入居者の家族であるあなたは、大切なご家族が介護施設で虐待を受けている場合、それを救うことができる存在であることを忘れないでください。

参照元: 平成 27 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果

(2)実際に虐待の事実が認められたのは23.5パーセント

入居者に対する虐待の通報件数は増え続けていますが、そのうち実際に虐待の事実があると認められたのは全体の23.5パーセントに過ぎません。
他の76.5パーセントの事例には、実際に勘違いであったものもあるのかもしれません。

しかし、外傷など客観的な証拠が無かったがために、虐待の事実があるとは言い切れないと判断されたケースもあることに、私たちは目を向けるべきです。
たとえ客観的な証拠がなかったとしても、一度あった通報は兆候と捉え、注意深く見守る体制が求められます。

引用元: 平成 27 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果

2、虐待が起きてしまう原因

虐待が起きてしまう原因

介護施設における入居者虐待の発生要因を分析すると、介護施設の現場が抱える諸問題点が浮き彫りになってきます。

(1)介護施設のマネジメントの不備

虐待が発生してしまう原因として、「教育・知識・介護技術等に関する問題」 、「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さ」が、全体の60パーセント強を占めています。
介護施設での虐待は、介護施設のガバナンスやマネジメントそのものの問題から生じているといっても過言ではありません。

(2)介護職員の資質

また、高齢者の介護という職種に就く人には、他の職種には無い高い理念と倫理観、そして適性が求められるはずです。
そして介護施設は、そのような適正の有無を判断したうえで職員を採用しているはずです。
それにもかかわらず、残念なことに虐待が発生してしまう原因の、残りの40パーセントが、「職員のストレスや感情コントロールの問題」、「虐待を行った職員の性格や資質の問題」、「倫理感や理念の欠如」といった介護職員の属人的な問題に起因しています。

(3)介護職員に問題が発生する原因―人手不足

介護職の現場は、慢性的な人手不足です。
介護施設が人手を確保するために適性をもたない人でも採用せざるを得ないという現状が、虐待の発生に寄与してしまっているということが考えられます。

また、当初は高い理念・倫理観・適性をもって採用されたとしても、主に人手不足に起因する過酷な業務内容のために、図らずも入居者への虐待というかたちでストレスを爆発させてしまった職員も少なからず存在することでしょう。

参照元: 平成 27 年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果

3、虐待として認められる条件|虐待の種類と程度

虐待として認められる条件|虐待の種類と程度

一口に高齢者虐待といっても、その種類や状況は様々です。

以下では、政府や自治体により分類された虐待の種類、および虐待の程度についてご紹介します。

(1)虐待の種類

①身体的虐待

殴る蹴るなどの暴力的行為によって、高齢者の身体に傷や痛みを与える行為です。
また、施設外にいる家族など外部との連絡を取らせなかったり、外部との接触を絶たせるために部屋に閉じ込めるなどの行為もこれに該当します。

②心理的虐待

高齢者の自尊心を傷つける侮辱的な言動、または不安感を与えるような脅迫的・威圧的な言動がこれに該当します。
さらに、無視などの嫌がらせにより精神的に苦痛を与えることも該当します。

③性的虐待

介護職員である立場を利用して、本人が同意していない性的な行為を強要することや、性的な羞恥心を喚起させる行為です。
身体の自由が利きにくい高齢者に対するそのような行為は、その卑劣さが一層際立ちます。
また、過去の摘発事例では自分の特異な性的嗜好を満たすことを目的に介護施設で働いていたという職員が現実に存在しました。

④経済的虐待

介護施設は入居者が利用できる鍵付きの引き出しやロッカーなどを備えていることが一般的で、入居者は現金などの貴重品をそこで管理します。
しかし、同時に介護施設は合鍵を持っています。
それを悪用して、入居する高齢者の金品を狙った介護職員による窃盗事件は少なからず存在します。

⑤介護・世話の放棄・放任

いわゆる、ネグレクトの一種です。
入居している高齢者が必要とする介護サービスを行わなかったり、体調を崩しても放置するなどにより、高齢者の生活環境や身体的・精神的状態を悪化させる行為が該当します。

(2)虐待の程度

①緊急事態・要介入

虐待行為が録音・録画などされている、虐待行為により被害者に明らかに身体的・精神的な支障が出ているなど、客観的に虐待と判断できる状態のことを指します。
なお、緊急事態とは被害者である高齢者の生死に関わるような状況に至っていることであり、要介入とは現状を放置することで高齢者の心身に重大な影響を生じるか、そのようになる可能性が高い状況のことです。
いずれにせよ、高齢者を救うために一刻も早く行政などの専門職による介入が必要な状況です。

②要見守り・支援

上記とは異なり、虐待が行われているか否かの判断が難しい状態です。
例えば、虐待行為に関する客観的な証拠が無かったり、介護職員の知識・経験不足や介護施設の人手不足が不十分な介護につながっていることなどです。
ただし、これを放置することで事態が深刻化する懸念もあるため、状況を認識し継続して見守っていくことが重要です。

4、介護職員による高齢者虐待の例

介護職員による高齢者虐待の例

これまでに実際に起きてしまった介護施設職員による入居者への虐待事件は、暴言・暴力・身体拘束・薬の過剰投与・幽閉を伴う隔離などによるものが挙げられます。
ここでは、特に許されざるべき実例として世間の関心を集めた、入居者を死に至らしめた実例および性的虐待の実例をご紹介します。

(1)川崎の老人ホーム転落死事件

2014年、川崎市にある有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」に勤務していた当時23歳の介護職員(窃盗の前科有り)が、業務上のストレスを理由に入居老人3名を立て続けに転落させ、殺害した事件です。
この介護職員には一審で死刑判決が言い渡され、現在は東京高等裁判所に上告中です。
なお、当該施設に勤務する別の職員が、他の入居者に対する暴行容疑で書類送検されています。

これら一連の事件を受け、当該施設は川崎市より施設からの介護報酬の請求を3ヶ月間停止させる行政処分を受けています。

参考:朝日新聞DIGITAL

(2)男性介護職員からの性的虐待   

2015年、認知症を患う当時90歳代の女性が、入院先の大阪市内の病院で男性介護職員から接吻・胸を触られるなどの性的被害を受けたとして、当該病院と職員に対して総額200万円の慰謝料を求めている訴訟事案です。

この事案は、男性が女性を・女性が男性を介護する異性介護の問題点が改めて惹起されました。

この異性介護そのものが、介護を受ける人に対する虐待行為であると指摘する専門家もいます。

参考: 産経WEST

5、介護職員からの虐待を防止するにはどうすればいいのか

介護職員からの虐待を防止するにはどうすればいいのか

(1)適正規模・人員による健全な運営を

先述のとおり、介護施設は慢性的な人手不足です。
これにより介護職員としてふさわしくない人の採用をせざるを得なかったり、虐待を行うような職員であっても解雇できず、それどころか、その虐待の事実を隠蔽するような事態が起きてしまっているのです。

また、人手不足により経験の浅い介護職員を第一線で起用せざるを得なかったり、教育の不十分さや、人手不足に起因した激務が介護職員の精神決壊に至らしめてしまうことも、虐待が起こる一因として考えられます。

抜本的な解決策はなかなか見つからないかもしれませんが、介護施設における虐待を防ぐためには、適正な規模と適正な人員による介護施設の運営が不可欠なのです。

介護施設を指導する立場である行政にも認識を共有してもらい、改善策の手当てが望まれます。

また、介護施設入居者が利用できる行政へのヘルプラインの創設なども有効でしょう。

(2)家族による見守りは大切

また、入居者の家族による虐待有無の継続的な見守りも重要です。

もし介護施設に入居しているご家族がいる場合は、多忙ななかでも可能な限り入居する家族に定期的に会うことで虐待を受けている兆候あるいは事実が無いか確認してください。

そして、もし入居する家族に虐待に起因するような異変があった場合、あるいはそれを相談した介護施設側の態度に不信さを感じた場合は、すみやかに当該施設を管轄する行政などに通報・相談してください。

6、介護職員からの虐待が起きた場合の対処法

介護職員からの虐待が起きた場合の対処法

(1)該当職員も含めて施設側と話し合う

介護施設に入居する家族に虐待の事実を疑う場合は、まず介護施設の職員の話を聞きましょう。
その際は、実際に家族の介護を担当する職員と施設監督者とは別に、そして口裏合わせをする時間を与えないために、極力間を空けないように行うことが望ましいと言えます。

(2)警察に相談する

家族の体に、虐待によってできたと認められる傷やあざなどがある場合は、すぐに当該箇所の写真を撮影して警察に相談しましょう。
暴力による虐待は犯罪行為ですので、施設よりも警察に相談した方が事態の悪化を防ぐことにつながるでしょう。
また、性的虐待や経済的虐待においても、その客観的な証拠を得られた場合、それぞれ強制わいせつ罪や窃盗罪などで警察に相談するべきです。

(3)弁護士への相談

虐待の疑いがあっても警察に通報できるような確証を得て無い時点で、さらに介護施設側がまともに話し合いなどに応じようとしない場合は、弁護士に相談することも一案です。
法的観点を踏まえたアドバイスを得ることが期待できることと併せて、介護施設との相談・交渉に関する代理人や、虐待行為が明らかとなり介護施設や職員を訴える段階となった際の代理人としての役割も依頼できます。

まとめ

介護施設に入居していれば、高齢者は安心・安全ではないということについては、ご理解頂けたかと思います。

閉鎖的な介護施設における虐待の問題は闇が深く、なかなか明るみになりにくいのが現状です。
そのような状況下で虐待の被害にあっている高齢者を救うことができるのは施設に入居していない私たちであり、そして入居している高齢者に最も身近な家族です。

介護施設に入居している大事な家族に少しでも虐待の可能性があると感じた際は、すみやかにこの記事に記載した対処を取っていただければと思います。

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