借金の借入額が大きくなり,とても自分の収入では返しきれない・・・。
生活を一から立て直すために,なんとか借金を減らしたいが,どのようにすればいいか分からない・・・。このような方は多いのではないでしょうか。
そのような方のために,借金を減らしたり、なくしたりする手続きがあります。これを「債務整理」といいます。「債務整理」と一口にいっても,様々な種類があり,ご自身の状況に合ったものを選択することが非常に重要となります。
今回は,その債務整理のうちの1つである「自己破産」という手続について,債務整理の中でどのような立ち位置になるのか,どのような方に向いているかご紹介させていただきたいと思います。
自己破産に関しては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、債務整理とは?自己破産と他債務整理との違い
債務整理とは,簡単に言うと借金の整理のことを言います。
債務整理には,整理の方法によっていくつか種類があります。
代表的なものが「任意整理」,「個人再生」そして「自己破産」です。
任意整理とは,裁判所を介さず,弁護士が業者と交渉することにより借金の返済額を減額していく方法です。これにより,利息を一部免除してもらったり,利息を払い過ぎた分について債務を減らしたりすることができます。
個人再生とは,裁判所での手続を介して決められた弁済計画により借金を減らす手続です。任意整理と異なり,利息だけでなく元本に当たる部分についても減額することができ,かつ自己破産を回避できます。
自己破産とは,裁判所での手続を介して,返しきれなかった借金を帳消しにする手続です。
このように,債務整理と一口にいっても,裁判所を介するか否か,借金が帳消しになるか否か等,それぞれの手続きには様々な面で特徴があり,ご自身の状況に合った手続を選択することが重要です。
2、債務整理の種類の1つ「自己破産」とは?
(1)自己破産手続の内容
自己破産とはより正確には,裁判所での手続を介して,債務者の財産を債権者に配当し,それでも返しきれなかった借金について,これを帳消しにする手法です。
(2)自己破産手続の種類
自己破産は,債権者に配当するためにどの程度財産を保有しているかによって手続の内容が異なってきます。
また,自己破産は債権者の犠牲の下に借金を帳消しにするという利益を認める手続ですので,このような利益を認めるべきではない場合,すなわち免責が認められない事情がある場合にも手続が変わってきます。
具体的には以下の通りです。
裁判所に破産開始手続きを申立てる
↓
・破産者が特に資産をもっていない場合:同時廃止手続
・破産者が資産を所有していない場合又は責任を免除することに問題がある場合:管財手続
(より迅速な手続きとして少額(簡易)管財手続を設けている裁判所もあります)
①同時廃止手続
債務者による破産の申立て後に、とくに見るべき資産がない場合,破産者の負担を少なくするため簡易な手続の下,迅速に終了する制度です。
②管財手続
破産者に資産がある場合又は免責が認められないおそれがある事情がある場合,管財人の弁護士による調査及び財産管理が必要となる制度です。管財人が付く分費用がかかりますし,手続に時間もかかります。
3、債務整理の中でも「任意整理」と「自己破産」の違いは?
(1)減額の効果
①「任意整理」
取引期間の利率が法定利率を超えていた場合、法定利率で計算し直し、収め過ぎの利息を元金に組み入れることで計算し直し、借金の総額が減ります。一般に利率が高く、借りていた期間が長ければ長いほど、減額されるお金は大きくなります。
和解が成立した場合、基本的にその後の将来利息はカットされます。
②「自己破産」
自己破産をすると、抱えている全ての借金についてその後の返済義務は消滅します。
(2)手続の方法
①「任意整理」
裁判所を介さず、弁護士と貸金業者との任意の話し合いによって支払方法を決定します。
弁護士や司法書士が間に入って交渉を進めていくことで、貸金業者は債務者に直接請求をすることは出来なくなります。
②「自己破産」
裁判所に申立てを行います。
「自己破産」の申し立てを行ったら、裁判所が債権者である金融業者各々に「意見聴取書」を発行します。この通知は手続き自体が途中であっても、送付自体は先に行われることになります。
そうすることにより、金融業者は取立て行為が制限されることになりますので,請求がストップします。
(3)対象債務の範囲
①「任意整理」
どの債権者のどの債務を整理していくかについて、自分で選択して行うことができます。
債務とは、借金を抱えている状態でそれを返済する義務のことを指します。
②「自己破産」
債務についてすべての整理を行うことになります。
(4)返済方法
①「任意整理」
3~5年の分割払いが基本です。
②「自己破産」
借金を返済する義務は免除されます。
(5)債務ができるに至った経緯
①「任意整理」
一切問われません。浪費やギャンブルでも関係ありません。ただし、取引期間が短く、借入後すぐに整理に至った場合、分割回数などで厳しい条件を提示される可能性があります。
②「自己破産」
過度な浪費、賭博や富くじなどの購入など偶然に得られる利益を狙った行為(射幸行為)で抱えた債務など、著しい無駄遣いによる場合には免責は原則認められません。
(6)整理を行う条件
①「任意整理」
法律上の要件は特にありませんが、対象の債務を3~5年で分割弁済できる支払能力が必要になります。
②「自己破産」
借金について返せる目処が全く立たないこと=支払い不能の状態になっていることが条件です。
(7)信用機関の情報への影響
任意整理,自己破産ともに信用情報機関に登録され、7~10年は記載が抹消されません。
その間、新規の借入ができなかったり、クレジットカードを作れなくなったり、既に取引している会社でもお金を貸し付けてくれないことがあるかもしれません。少なくとも整理した会社との取引は、断られるケースが多いと言えます。
(8)財産に及ぼす影響
①「任意整理」
特にありません。
②「自己破産」
基本的には財産をすべて失うことになりますが、一部差し押さえを禁止されている最低限生活に必要となる家具など財産があります。民事執行法第131条で差押えが禁止されている動産は主に次の通りです。
- ア、衣服、寝具、家具、台所用品、畳、建具
- イ、1ヶ月の生活に必要な食料及び燃料
- ウ、標準的な世帯の二ヶ月間の必要生計費
- エ、実印などの印鑑類
- オ、仏像、位牌
- カ、系譜、日記など
- キ、勲章
- ク、学習に必要な書類、器具
このほかにも、農業従事者や漁業従事者には、その事業を営む上で必要なもの、技術者、職人にはその業務に欠くことの出来ない器具などがありますが、これら以外の物品については差し押さえられ、現金に換えるなどの方法により債権者に債務の割合に応じて配当されることになります。
(9)職業上の資格制限
①「任意整理」
なし
②「自己破産」
手続の間、おおよそ3~6ヶ月は、弁護士、司法書士、税理士、行政書士、保険の募集人、警備員等の特定の職業での就労ができません。手続が完了すれば、職業における制限はなくなります。
(10)官報への掲載
①「任意整理」
ありません。
②「自己破産」
官報に掲載されます。
官報を通じて他者の目に触れるおそれはあります。
(11)連帯保証人への影響
任意整理、自己破産ともに、連帯保証人に影響が及びます。すなわち,債権者が連帯保証人に対して請求を行う可能性があります。
この点、任意整理については、連帯保証人がいる債務を避けて、整理していく債務を自らが選んで任意に返済を行っていくということが可能です。
また、連帯保証人と連名にすることにより任意整理をすることも可能です。この場合には債務者本人が債権者と約束をした通りに返済を進めていけば問題がないので、基本的に連帯保証人に何か影響が出るということはないと考えられます。
4、借金がある場合に債務整理(自己破産)の手続きを選ぶべき場合とは?
自分の力や現在の収入では返済が困難ほど、債務の総額が膨れ上がっている場合には、自己破産を選択することがやむを得なくなる場合があります。
また,債権者が既に訴訟提起や強制執行の申し立てている場合,自己破産の申立てをすることによってこれらの手続きを止めることができます。これらの手続きの状況と債務者の支払能力にもよりますが,このような状況では自己破産を選択した方がよい場合が多いと言えます。
5、自己破産を検討する際に知っておきたい3点
(1)自己破産のメリット
- 債務がゼロになり、借金なく再スタートできる。
- 訴訟や強制執行が申し立てられている場合、手続が止まる、若しくは業者が訴訟を取り下げる。
(2)自己破産のデメリット
- 財産はすべて管財人の管理下に置かれ,債権者への配当に充てられる。すなわち財産を失う。
- 官報に名前が掲載される。
- 資格制限が課せられる。すなわち、破産時に制限される資格を要する職業に就いていた場合,転職・廃業(休業)する必要がある。
任意整理のデメリットについては以下の関連記事をご覧ください。
(3)自己破産の手続きが認められない場合
- 債務者が自分の財産を隠匿したり,不当に処分した場合
- さらに借入を行ったり,財産を非常に安く処分した場合
- 特定の債務について弁済を行った場合
- 浪費やギャンブルその他無駄遣い行為によって,大きな債務を負った場合
- 破産申立後,破産手続きが始まるまでの間に,破産の事実を秘して信用取引により財産を得た場合
- 業務や財産について資料の偽造や隠匿を行った場合
- その他裁判所に提出する債権者表を偽ったり,裁判所に嘘の説明を行うなど裁判所や管財人の手続を妨害した場合
- 前回の自己破産や個人再生手続の終了から7年以内であること
まとめ
いかがでしたか。
債務整理は,そのメリット・デメリットを考え,自分の状況やニーズに合わせた手続を選択することが非常に重要です。
適切な手続を選択するために,一度弁護士などの専門家にご相談されることをオススメします。