新型コロナウイルスの影響で、各種習い事の教室が一定期間休室になったり、オンライン授業に移行したりといったケースが多数発生しました。
教室に通う生徒の方には、本来のサービスを受けられていないにもかかわらず、月謝全額を支払わなければならないことに納得がいかないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、習い事がコロナで中止、またはオンライン化された場合にも月謝を支払わなければならないのかという問題について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
目次
1、コロナの影響を受けやすい習い事とは?
もともとオンラインで提供されていた習い事であれば、コロナの影響をそれほど大きく受けずに済んだかもしれません。一方で、対面で講義やレッスンを行う習い事は、少なからずコロナの影響を受けてしまった現実があります。
まずは、コロナの影響を受けやすい習い事の代表例を見ていきましょう。
(1)ピアノなど音楽系のレッスン
ピアノに代表される音楽系の習い事は、生徒が教室に実際に足を運び、先生から直接実技指導を受けるスタイルが一般的です。
しかし、対面のレッスンが難しいとなれば、休室するかオンラインレッスンを提供するかの二択になります。
オンラインレッスンの場合、細かい実技指導が十分できるかどうか、音色が正しく伝わるのかどうかなど、音楽系ならではの難しい問題が存在しますので、導入の際にはやり方などを慎重に検討する必要があるでしょう。
(2)学習塾(進学塾)
学習塾(進学塾)では、大勢の生徒が一堂に会して同じ授業を受ける場合が多いでしょう。
しかし、学校が休校になったことからもわかるように、コロナの影響下では、このような受講のスタイルは推奨されません。
したがって、多くの学習塾(進学塾)ではオンライン授業への移行を余儀なくされました。
学習塾(進学塾)での授業内容は、比較的オンライン化になじみやすいものと考えられますが、生徒と先生の双方向のコミュニケーションをどのように図るかなど、解決すべき課題が存在することも事実です。
(3)スポーツ
サッカー、野球、水泳などのスポーツクラブも、コロナの影響で休会となったところが多数見られました。
アウトドアスポーツであれば、ある程度ソーシャル・ディスタンスを保てるようにも思われますが、競技場などまでの移動時の感染リスクなどを考えると万全ではありません。
スポーツはオンラインで代替することがきわめて困難な分野なので、コロナの影響をいっそう強く受けやすいといえるでしょう。
2、教室と生徒の間には契約が存在する
生徒が習い事を始める際には、教室と生徒の間で、レッスンや講義の提供に関する契約(レッスン契約)が締結されます。
(1)教室は生徒に対してレッスンを提供する
レッスン契約に基づく教室の義務は、まさに「生徒に対してレッスンを提供する」ということです。
コロナの状況下では、「どのようなレッスンを提供すべきか」という点が問題になり得ます。
この点、たとえばレッスンの方法が契約に詳細に書き込まれている場合もありますが、多くの場合はそうではないので、習い事の性質に応じて実質的に判断されることになります。
(2)生徒は教室に対して月謝を支払う
一方、レッスン契約に基づく生徒の義務は、「教室に対して月謝を支払う」ということです。
しかし、あくまでも月謝はレッスンに対する対価ですので、教室がレッスン契約に従ったレッスンを提供していない場合には、原則として月謝を支払う必要はありません。
ただし、オンラインレッスンなどが提供されている場合をどのように考えるかは難しい問題です。この点は後で解説します。
3、コロナで習い事が中止になった場合、月謝を支払う必要はある?
新型コロナウイルスの影響で習い事が中止になってしまった場合、教室は生徒に対してレッスンを提供しないということになります。
この場合に、生徒の教室に対する月謝の支払い義務はどのように取り扱われるのでしょうか。
(1)中止について教室側に責任があるかどうか
教室が生徒に対してレッスンを提供しないことについては、
- 教室側に責任がある場合は「債務不履行」(民法第415条第1項)の問題
- 責任がない場合には「危険負担」(民法第536条第1項)の問題
になります。
それぞれの場合で法適用の考え方が異なりますので、以下詳しく見ていきましょう。
(2)債務不履行の場合は授業料を支払う必要はない
教室側にレッスンが提供できないことの責任がある債務不履行の場合には、教室側は生徒側に対して、債務を履行しなかったことにより生じる損害を賠償する必要があります(民法第415条第1項)。
教室側に責任があるといえるかどうかは、オンラインレッスンをはじめとする代替措置を十分に検討したかどうかがポイントになると考えられます。たとえば、オンラインレッスンの提供が比較的容易に行えるにもかかわらず、漫然とレッスンを提供しなかった場合には、教室側の責任が認められる場合もあるでしょう。
一方、オンラインレッスン導入のコストが非常に高かったり、スポーツなどそもそもオンラインレッスンになじまなかったりする場合には、教室側の責任が否定される方向に働きます。
もっとも、レッスンを提供しなかったことにより損害が生じるということはあまり想定しがたいといえます。そのため、債務不履行責任を問われて損害賠償請求がなされる可能性は少ないでしょう。
他方で、教室側と生徒側の契約は、教室側がレッスンを提供することに対して、生徒側が月謝を支払うという内容であると思います。そのため、教室側がレッスン提供義務を、教室側の責任で履行していない以上、生徒側に契約に基づく月謝支払い義務は発生しないといえます。
既に支払い済みの月謝については、教室側には月謝を受け取る法的根拠がないのですから、不当利得であるとして、返還を請求することができるでしょう。
(3)危険負担の場合は特約の有無や有効性がポイント
一方、教室側にレッスンが提供できないことの責任がない場合は、危険負担の問題となります。
危険負担に関するルールの原則は、民法第536条第1項に定められています。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
同条によれば、レッスンの中止について生徒側・教室側の双方に責任がない場合、生徒側は反対給付である月謝の支払いを拒めることになります。
ただし、レッスン契約の中で「支払い済みの月謝は理由の如何を問わず一切返還しない」という趣旨の規定が設けられている場合があり、この場合には注意が必要です。
民法第536条第1項の規定は任意規定と考えられており、特約により排除することができます。
したがって、上記のようなレッスン契約上の規定が存在する場合、教室側・生徒側双方の過失によらずにレッスンが提供されなくなった場合、生徒側は支払い済みの月謝の返還を請求することができないように思われます。
ただし、このような特約は消費者契約法第10条に違反する疑いがあります。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
上記の特約は、レッスンを提供しないにもかかわらず、生徒に月謝の支払いを強制する内容であり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとして無効と判断される可能性があります。
その場合、特約の存在にかかわらず、生徒は教室に対して月謝の返還を請求することができます。
なお、実際に無効となるかどうかは、個別具体的な事情により判断されることとなります。
4、オンラインレッスンで月謝全額を支払う必要はある?
実際に教室の場でレッスンを提供する代わりに、オンラインレッスンが提供されている場合、月謝全額を支払う必要はあるのでしょうか。
(1)債務の本旨に従ったレッスンの提供といえるかがポイント
この場合、オンラインレッスンがレッスン契約の内容に照らして、債務の本旨に従ったレッスンの提供といえるかどうかがポイントとなります。
具体的には、教室の場でレッスンを提供するのと同等のサービスを提供できているかという点が実質的に考慮されます。
(2)座学の場合
この点、学習塾(進学塾)の授業などは、対面かオンラインかでそれほど大きく内容が変わらないため、債務の本旨に従った履行であると認められやすいでしょう。
したがって、学習塾(進学塾)がオンライン授業を提供しているケースでは、月謝全額を支払わなければならない可能性が高いといえます。
(3)実技指導が含まれている場合は減額・返金が認められる場合も
一方、音楽系のレッスンなど実技指導が含まれるケースでは、オンラインでの実技指導が対面での実技指導に匹敵する効果を生むかどうかに疑問符が付くかもしれません。
もちろん、教室ごとのやり方にもよりますが、月謝の一部または全部の返還が認められる可能性もあると考えられます。
5、コロナを理由に自主的に欠席した場合、月謝の支払いは必要?
教室側が休室やオンライン化の措置をとらなかった場合にも、生徒側が自主的にコロナを警戒してレッスンを欠席するというケースもあるかと思います。
この場合、月謝の支払い義務は発生するのでしょうか。
(1)原則として月謝を支払う必要がある
教室としてはレッスンを提供している状況で、生徒側の判断でレッスンを休む場合には、レッスンが行われないことについての原因は生徒側にあるのが原則となります。
そのため、生徒は原則として、教室に対する月謝の支払い義務を免れることはできません。
(2)コロナ対策が行われていない場合には?
ただし、教室がコロナ対策を全く行っていない場合には事情が異なります。
この場合には、生徒がレッスンに通いたくても通えないという原因を教室側が作っていると評価されかねません。
そのため、教室側の債務不履行の問題であるとして、授業料の返還が認められる可能性があると考えられます。
この点も、個別具体的な事情によって判断されることとなるでしょう。
6、月謝を支払いたくない場合の対策
新型コロナウイルスの影響で習い事が休室またはオンライン化された場合に、月謝を支払いたくないと考える場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか。
(1)コロナが落ち着くまで休会する
月謝の支払いを免れるためにもっとも確実な方法は、コロナが落ち着くまで休会してしまうことです。
休会をすれば、少なくとも将来に渡る月謝の支払い義務を免れることができますので、お早めに休会手続きを取ることをおすすめします。
(2)弁護士の無料法律相談を利用する
しかし、支払い済みの月謝がある場合や、休会中も一定の休会費がかかってしまう場合もあるでしょう。
その場合、これらの費用を返してもらう、または支払いを免れるために、教室側に対して何らかの主張を行う必要があります。
その際、生徒ご自身だけで教室と交渉をしたとしても、良い結果に繋がる可能性は低いと思われます。
ベリーベスト法律事務所の弁護士に相談をいただければ、レッスン契約の内容や民法・消費者契約法など関連法令の規定を検討して、教室側に対してどのような主張が有効かについてアドバイスをすることができます。
習い事の月謝に関してお悩みの方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所の法律相談をご利用ください。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大がぶり返している中、習い事が休室になったり、オンライン化されたりする事態が再び発生する可能性が生じています。
ご自身が通っている習い事がどのようなコロナ対策を行っているのか、休室やオンライン化に関する方針をどのように立てているのかを、今のうちから確認しておくと良いでしょう。
習い事の月謝に関して法的にわからない点がありましたら、ベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。