動物愛護法というものをご存知でしょうか。
先日イタリアで、調理前のロブスターを氷漬けにすることが「ロブスターを不当に苦しめている」として、レストランのオーナーに2000ユーロ(約25万円)の罰金措置が科されました。
一方、日本では最近、イカの活き締めの動画がTwitterに投稿されたところ「イカがかわいそうだ」と批判する声や投稿者を擁護する声が殺到。賛否両論、2万件以上のリツイートが寄せられて話題になりました。
イタリアでは罰金が科されましたが、日本でも生き物を調理する際に、動物愛護の観点から違法になってしまうことはあるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
精神的苦痛に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
1、動物愛護法とは
日本には「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)という法律があり、違反すると、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処せられます。
環境省のホームページでは動物愛護法の基本原則として以下のような記載がされています。
すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めています。
なお、対象となる愛護動物は次のように定義されています(44条4項)。
- 一. 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
- 二. 人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
このように、ペットや家畜が対象となっています。つまり、今回問題となったロブスターやイカの件は、動物愛護法に抵触することはありません。
また「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(鳥獣保護法)という法律もありますが、こちらの対象は「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」(2条1項)であり、やはり、ロブスターやイカは対象外ということなります。
2、もし保護対象の動物を調理するときは
それでは、保護対象となる動物を調理する場合はどうでしょうか。
鳥獣保護法との関係では、主に狩猟等を規制する目的の法律ですので、調理の過程において苦痛を与えたかどうかは問題となりません。一方、動物愛護法では、愛護動物をみだりに殺したり傷つけたりすることが禁じられています(同法44条1項)。
また、同法40条1項で「動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない」と定められており食べるために捌くことは禁じられていないものの、その過程でみだりに殺し、又は傷つけたといえる行為を行なった場合、違法と判断される可能性があります。
例えば、本件のロブスターは生きたまま氷漬けにされたことが争点となりました。このケースを牛や馬に置き換えて、生きたまま不必要に氷漬けすると動物愛護法に抵触する可能性があると考えられます。
他方、牛、馬、豚等の家畜について食肉処理等を行うことは、みだりに殺したり傷つけたりするわけではなく、食べるために必要があって行うわけですので動物愛護法には抵触しません。
3、不快に感じられる動画をネットに投稿するのは法律以前の問題
イカの活き締めの一件については、それ自体に法的な問題はありません。その様子を撮影した動画を人に見せることによって、不快な思いをする人がいる可能性を予測できなかったことに問題があったのではないでしょうか。
違法かどうか以前にインターネット上のマナーとして、人が不快になるかもしれない動画を、不特定多数が閲覧できる状態でネット上に投稿するようなことは、配慮に欠けた行動だと思います。
イカの活き締めについては、釣りをする人たちにとっては参考になる有用なものかと思われますので、インターネット上に投稿する理由は大いにあると思います。
それでも、見たくない人がいることを考えてアップロードすべきです。例えばタイトルの冒頭に「【閲覧注意】」と付すなど、それだけの配慮で、今回のような炎上を避けることはできたはずです。
インターネット上で起きている出来事には、法律では裁けないような案件もたくさんあります。お問合せをいただくこともありますが、そこで問題になっていることの多くは違法かどうかではなく、人としてのモラルなのではないかと感じます。