同性愛差別撤廃に向けて、日本ではどのような取り組みがなされているのだろう…
日本では、憲法14条1項において次のように規定されています。
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
しかし、なぜ同性愛差別は現在もなくならないのでしょうか。
今回は、
- 日本における同性愛差別の現状
- なぜ同性愛差別がおこるのか
- 日本における同性愛差別の法的規制
などについて、解説します。
あわせて、現在の日本における性差別撤廃における取り組みや、海外における同性愛の認識・差別についても紹介します。
この記事が、同性愛の差別について知りたいと考えている方の参考になれば幸いです。
精神的苦痛に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、同性愛差別~LGBTについての概要を簡潔に説明
LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシャル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)の総称のひとつになります。
ここでは、特に同性愛者に対する差別について焦点を当てて解説を行います。
(1)同性愛差別は少なくない
日本における同性愛差別は、現状少ないとはいえません。
同性愛者の多くが差別に悩まされております。
同性愛差別のうち、有名な事例としては以下のようなものが挙げられます。
- 同性愛差別によって問題となった事例足立区議会議員の発言
東京都足立区議会で、自民党の白石正輝議員は、「レズビアンやゲイが広がってしまったら足立区民がいなくなってしまう」などと発言をされました。
- 自民党・杉田水脈(みお)衆院議員の寄稿
杉田議員は、同性愛者のカップルについて「子どもを作らない、つまり『生産性』がない」と月刊誌に寄稿をしました。
- 茨城県医師会副会長の発言
医師会副会長であった満川副会長は、茨城県が主催するLGBT支援策を検討する会合で、「性的マイノリティの人に、性的マジョリティに戻ってもらう治療はないのかという思いはある」「少子高齢化の時代、産婦人科医としては1人でも多くの子どもをつくっていただきたい。戻っていただけないかと医者としての思いがある」と発言をしています。
- 一橋大の院生が同性愛をアウティングされた末自殺した事件
一橋大学法科大学院において、同性愛者Aから恋愛感情を告白された異性愛の男性Bが、グループLINEを通じて共通の知人らにAが同性愛者であることを暴露(アウディング)したものになります。
暴露されたAは、思い悩んだ末、自殺にいたってしまいました。
こういった事例は、沢山ある差別の中の一つに過ぎません。
差別の多くでは、被害者の方は声を上げることもできずに公になることもありません。
このように、日本では少なくない件数の同性愛差別の事例があるといえます。
(2)同性愛者への差別によって立ちはだかる具体的な問題
次に、同性愛者である方が受ける身近な差別・問題点について紹介します。
まず、医療面での対応が挙げられます。
医療現場において、LGBTに対する統一的な扱いなどは決まっておりません。
そのため、各医療機関の判断による対応を取られております。
特に問題になるのは、本人の意思確認を出来ない場合における同性パートナーによる代理意思決定や治療方針などの決定の際に、同性パートナーが意思決定に参加できないなどの問題点があります。
また、現在、コロナ禍の中、面会の際に制限を課している病院も複数あります。
その際にも同性愛カップルは、家族・親族でないということで、面会を認めてもらえないなどの事例もあるようです。
このように、同性愛者に対する医療機関の積極的な対応はなされていないという現状です。
学校や勤務先でのいじめも深刻な課題となっております。
特に思春期を迎える子どもは、自分がLGBTであるのかも理解していないこともあり、不安定な精神状態になっております。
LGBTで悩んでいる子どもは、教師や親にも相談できないことが多いといえます。
また、仮に相談をしても、教師や親の理解不足により、解決に至らないばかりか、さらに傷つけられることを恐れていることから生じるようです。
加えて、学校や勤務先では、ゲイなどの同性愛者を笑いのネタにしたり、同性愛であることを勝手に他人に暴露をするなど心ない差別が行われております。
こういった差別は、特に悪気がある訳ではない無自覚な差別であり、積極的な対応を行わなければ改善は見込まれないでしょう。
2、同性愛差別はなぜ起こるのか
同性愛差別はなぜ起こるのでしょうか。
本項ではその原因について考えていきます。
(1)LGBTに対する正しい知識の不足
差別について最も大きな原因となっているのは、正しい知識が不足していることにあります。
LGBTという言葉は、今でこそ少しずつ浸透をしておりますが、関心をもとうと思っていない方にとっては、未だに浸透されていないのが現実です。
こういったLGBTに対する正しい知識は、思春期を迎える子どもの頃からしっかりとした学習をさせ、身につけさせるべきものといえます。
また、当然ながら、教師や上司などがLGBTに対する正しい知識を有していなければ話になりません。
教える側、教わる側いずれもがLGBTに対する正しい知識を有していくことで、同性愛差別も減少するといえるでしょう。
(2)偏見や差別的な発言が許されていた歴史から
LGBTに対する差別は、テレビなどのマスメディアが平然と行っていた歴史があります。
バラエティー番組では、ゲイを気持ち悪いものとして笑いの要素としていました。
そのような番組を見て学校や職場、家庭などでもLGBTの方々を笑いの対象とみるような時代がありました。
現在もそのような意識は完全にはなくなっていません。
また、キリスト教やイスラム教では、同性愛や同性間の性行為は禁止をされておりました。
現在では、キリスト教の国であっても、個人の尊厳を尊重するという理由から寛容になってきている傾向があり、また、直接日本における同性愛差別の理由ではないかもしれませんが、このような宗教上の歴史も関係をしているかもしれません。
3、日本における同性愛差別の法的規制について
本項では、日本における同性愛差別を防止するための法規制がどうなっているのか解説していきます。
(1)日本における法整備は追いついていない現状
日本では、同性愛差別を含むLGBT差別を禁止する法律の制定には至っていません。
そのため、差別禁止を予防する義務などは付されておらず、支援体制も不十分であるといえます。
(2)同性間での結婚も認められていない
現在日本では、同性間での結婚は認められておりません。その理由のひとつとして挙げられるのは、憲法24条1項の文言になります。
婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
この「両性」という文言が、男性と女性のことを指しているという見解が有力であり、同性婚は認められないという運用の理由の一つになっております。
とはいえ、これは解釈の問題であり、条文上明確に同性婚が否定されているという記載はありません。
そのため、この規定があるからといって、同性婚が憲法上禁じられているということにはならないでしょう。
(3)いじめ防止等のための基本的な方針にて性的マイノリティへの配慮が記載
いじめ防止対策推進法11条1項では、
文部科学大臣は、関係行政機関の長と連携協力していじめの防止等のための対策を総合的括効果的に推進するための基本的な方針(以下「いじめ防止基本方針」を定めるものとする
との記載があります。
これを受け、いじめ防止基本方針では、性同一性障害や性的指向・性自認に係る児童生徒に対するいじめを防止するため、性同一性障害や性的指向・性自認について、教職員への正しい理解の促進や、学校として必要な対応について周知をすることが求められております。
このような、いじめ防止基本方針に性的マイノリティへの配慮が記載されたことは同性愛差別を禁止する法律の制定に向けた第一歩であるといえます。
4、日本での同性愛差別撤廃に向けた取り組み
次に、日本での同性愛撤廃に向けて、法律の規定以外にいかなる取り組みがなされているのか紹介します。
(1)パートナーシップ制度
パートナーシップ制度とは、同性カップルに婚姻と類似の権限を与える制度をいいます。
残念ながら、法的な拘束力はありませんが、パートナーシップの証明をすることで、同性愛カップルがお互いに家族であると証明をすることができます。
そのため、病院での面会や病気の説明などを家族として受けられることなどが期待できます。
このパートナーシップ制度は、渋谷区や世田谷区を筆頭に、現在では多数の自治体で実施・検討をされております。
あくまでも事実上の証明手段であり、法的な拘束力がないため、基本的には離婚時の財産分与のような権利はありませんし、配偶者としての相続人になることもできません。
この点は今後の課題であるといえます。とはいえ、とはいえますが、パートナーシップ制度を利用する事で、夫婦に近い効力を得ることができるでしょう。
現在パートナーシップ制度を実施検討している自治体は、以下のURLをご参照下さい。
(2)LGBTに関連する条例
差別の禁止と多様性の尊重を掲げるオリンピック憲章の理念を都民に浸透させるため、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例が成立をしました。
この条例では、東京都、都民、事業者などが、LGBTなど性的マイノリティに対して不当な差別をしてはならないと定められております。
また、実際に不当な差別的言動があった場合は、都知事は、拡散防止措置を講ずるとともに公表をするものとされております。
差別を行った場合の罰則までの定めはありませんが、防止措置や公表といった処分が取られることから不当な差別の抑止力になるかと思われます。
(3)LGBTへの差別や偏見に声を上げたパレードの開催
実際にLGBTへの差別や偏見を無くすため大規模なパレードが行われております。
国内最大級のLGBTイベント「東京レインボープライド」では、毎年LGBTや支援者らがLGBTの存在を訴え、差別や偏見に対して声を上げたパレードが行われました。
この東京レインボープライドは1994年に初めて行われ、その後全国で同様のパレードが行われるに至っております。
(4)「LGBTフレンドリー」企業が増えている
LGBTフレンドリーとは、文字通りLGBTの人達に友好的でかつ平等に接するというものになります。
一部の企業では、LGBTフレンドリーを企業理念などに掲げ、社内規定や福利厚生などの制度面でLGBTに配慮した取り組みを行っています。
例えば、株式会社資生堂では、LGBT支援の取り組みを行っており、同性パートナーを異性の配偶者と同様の処遇を享受できる就業規則の改定などを行っており、社内体制の整備が進められています。
その他の会社でもLGBTフレンドリー企業では、福利厚生として、以下の様な制度がとられています。
- 同性パートナーへの社宅制度
- 婚姻、育児、介護休暇
- 同性パートナーと子どもに対する家族手当
また、LGBT研修を社内で行い、正しい知識を身につけることができるような取り組みを行っています。
5、海外における同性愛への認識と差別
次に、海外における同性愛者に対する対応がどのようなものか、解説をいたします。
(1)28ヶ国を超える国で同性婚が認められている
世界では、同性婚を認めている国もあり、その数は28カ国を超える数になります。
また、同性婚は認められていないながらも、パートナーシップ制度を定めている国や地域があり、同性婚及びパートナーシップ制度を併せると世界の約20パーセントに及びます。
既に同性婚が認められている台湾では、外国人との同性婚も認められています。
今までは、同性婚を認めている国との結婚でのみ同性婚が認められていましたが、法改案がまとめられました。
この改正案によると、同性婚が認められていない国との間でも同性婚が認められるようになる見通しです。
そのため、改正案を前提とすると、台湾人と日本人との間で、同性婚が認められるということになります。
(2)同性愛者という理由で罰則を設けている国もある
一方で、世界には、同性愛者という理由で罰則などを設けている国もあります。
その数は、70ヶ国以上といわれており、同性同士の性行為を違法と定めております。
中には同性愛について特に厳しい処分を科している国もあり、イランやサウジアラビアなどでは、国内での同性愛の性行為について、死刑を科しているのです。
6、差別を受けている場合には相談をしよう
では、実際に同性愛差別を受けた場合どのようにしたら良いでしょうか。
(1)同性愛差別に関する相談窓口
同性愛差別に関する相談をするのは、とても勇気がいるものです。
相談をしたことにより、より差別が悪化したという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、同時に、同性愛差別をなくしていきたいと考え、同性愛者に支援をしている団体もあります。
差別を受け、心痛めていると思いますが、一人で思い悩みすぎず、相談をしてみることで、大きな一歩を踏み出すことができるでしょう。
現在では、電話相談やLINE相談などが出来る窓口もあります。
(2)緊急性がある場合には弁護士へ相談を
ご自身や家族がひどい差別を受けているという状態であれば、すぐに弁護士に相談をするべきです。
弁護士に依頼をすることで、職場や学校などに対し、代理人として本人に代わって全ての交渉を行ってくれます。
また、SNSやネットでの誹謗中傷に対しても削除命令や発信者情報の開示などの対応ができます。
緊急性がある場合は、弁護士に相談をすることを心がけましょう。
まとめ
本記事では同性愛差別について、現状や法規制などについて解説をしました。
同性愛差別の撤廃に向けて様々な動きはありますが、未だ法整備としては不十分な状態です。
身近な差別が少しでも減らせるよう、一人一人が性の多様性を意識し、自覚をもつことが大切といえます。