最近では「iDeCo」や「つみたてNISA」などで資産を築いている夫婦が増えています。しかし、もし離婚する場合、財産分与の手続きが必要になるかもしれません。
今回は、iDeCoやつみたてNISAを利用して資産を築いている夫婦が離婚時に損をしないための5つのポイントを紹介します。
目次
1、イデコは離婚の財産分与の対象?
(1)イデコは年金分割の対象外
確定拠出年金は年金分割の対象外とされています。
専業主婦(主夫)などは、他方配偶者よりも収入が少ないことが一般的ですので自身の名義での年金保険料の納付額が少ない方を保護するための制度が「年金分割」です。
年金分割制度では、婚姻期間中に収めた年金保険料を記録して夫婦で分け合うことができるようになっています。
この年金分割の対象となるのは、厚生年金です。
他方、確定拠出年金として積み立ててきた年金資産は、60歳以降に一時金または年金として受け取ることができるのもで、老後の資産を形成するものとして拠出されていますが、離婚時の年金分割の対象外とされています。
それでは確定拠出年金は年金分割の対象とはならないとして、財産分与の対象となるのでしょうか。
(2)熟年離婚の場合にはイデコも財産分与の対象となりうる
確定拠出年金が財産分与の対象となるか否かについて判断した裁判例があります。
退職金と確定拠出年金が財産分与の対象となるか否かについて争われた事案で、裁判所は、確定拠出年金は財産分与の対象とはならない旨を判断しました。
この事案で名古屋高裁は、
「定年までに一五年以上あることを考慮すると、上記退職金・年金の受給の確実性は必ずしも明確でなく、またこれらの本件別居時の価額を算出することもかなり困難である」
として、退職金及び確定拠出年金については直接清算的財産分与の対象とはせず、扶養的財産分与の要素として斟酌するべきであると判断しています。
他方で裁判所は、「退職金のうち、本件同居期間に対応する部分は、本来、財産分与の対象となる夫婦共有財産というべきである」と判示し、また「(確定拠出年金)の掛金が本件別居から約3年のうち300万円以上の高額に達していることを考慮すると、その一部にも本件同居期間中の蓄財等を原資とする部分が存在する可能性は否定することができない」と判示しています。
つまり確定拠出年金の掛金に婚姻期間中の財産から支出されているのであれば基本的には財産分与の対象となるという考え方であろうと思われます。
本件では確定拠出年金の財産分与の対象とはされませんでしたが、
逆に
- 定年間近である場合
- 受給が確実であり明確である場合
- 別居時の価額の算出が容易な場合
などでは財産分与の対象として計算される可能性があります。
それでは確定拠出年金が財産分与の対象となった場合,評価額はどのようにするべきでしょうか。
確定拠出年金はその運用によってその後に受け取れる金額が決まってくるので退職金よりも裁判所の自由裁量は大きくなるでしょう。
将来にわたり価格が変動し分割で支給されるものについて、一括での分与をさせると分与する側の負担は大きくなりますが、他方で長期間にわたり分割支払いにすると支払いが遅滞する危険性もでてきます。
また、分割方法としては評価額を一括または分割等の方法で支払う現物分割、資産価値を評価して片方は財産を譲り受け、もう片方は同程度の価値の財産を受ける代償分割などがありえます。
(3)iDecoとはそもそも何?
そもそも「iDeCo(イデコ)」とは,どのようなものでしょうか。
「iDeCo」とは、個人型確定拠出年金のことをいいます。
これは、自分で拠出した掛け金を60歳になるまで自分自身で運用し、原則60歳以降に老齢給付金として受けとるという制度です。
イデコには税金について優遇措置がとられているため節税しながら資産形成ができます。
自分の意思で掛け金の金額を決め、自分で拠出していくものです。
掛け金が全額所得控除の対象となるので、確定申告・年末調整により税金の還付が受けられるというメリットが最大のうまみですので夫婦で利用している方も多いのではないでしょうか。
確定拠出年金は、アメリカ合衆国における米国内国歳入法(Internal Revenue Code of 1978)の条項名(401(k))にちなんで「401K」と表記されることもあります。
また、「個人型」確定拠出年金とは異なり、「企業型」確定拠出年金というものもあります。
「企業型」確定拠出年金は企業が決まったルールに従いお金を拠出します。この毎月の掛け金は退職金の前払い的な性格の金銭になります。
企業型確定拠出年金の場合には年金資産は個人別に管理され、残高については運営管理機構である銀行や証券会社に問い合わせることで容易に把握することができます。現時点での資産評価額や毎月拠出している掛け金の合計金額も容易に調べることができます。
このように企業型確定拠出年金は退職金同様に取り扱われ離婚時の評価が容易であるので財産分与の対象として取り扱われることが多いでしょう。対して、個人型確定拠出年金のイデコについては財産分与の対象となるか否かについて実務上確立した取り扱いがあるとはいいにくいです。
2、イデコの財産分与を受けない人が損をしないためには?
イデコについて財産分与を受けない人は損をしないようにどのように対処すればよいでしょうか。
イデコの掛金を拠出していなかった夫婦の一方は、イデコの財産分与を受けない場合に離婚協議で注意する点を説明していきます。
例えば、夫がイデコの掛金を拠出しており、妻はこれを負担していなかった場合を考えてみましょう。
この場合、退職までまだ長期間あるような場合にはイデコは財産分与の対象とならないと判断される可能性があります。
しかし、婚姻期間中に拠出した掛け金についてはどれくらいあったかという概算は重要になります。なぜなら婚姻期間中に積立された金銭は夫婦が協力して拠出したと評価できるからです。
したがって、その金額分については同程度の財産を取得できるように協議するべきでしょう。
例えば、同程度の具体的財産を譲り受けたり、年金分割をその分多めにもらったりする等の協議を申し入れることができます。
3、つみたてNISA口座も財産分与の対象となる
(1)つみたてNISAとは?
「つみたてNISA」とは少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です。2018年からスタートし2037年までの非課税運用ができるように制度設計されています。
日本在住の20歳以上の方であれば原則として誰でも利用することができます。
口座は1人につき1つの口座しか認められていません。
購入した投資信託を保有している間に得た分配金と値上がりした後に売却して得た利益(譲渡益)が購入した年から数えて20年間、課税されないという税制上の優遇措置があるため夫婦で利用して積立投資している方も多いのではないでしょうか。
「つみたてNISA」の非課税枠は新規投資額で毎年40万円が上限ですので毎年40万円まで一定の投資信託が購入可能です。非課税で保有できる投資総額は20年間で最大800万円になります。
非課税期間の20年間が終了したときには、NISA口座以外の一般口座や特定口座の課税口座に払い出されます。なお、つみたてNISAでは、ロールオーバー(翌年の非課税投資枠に移すことを)することができません。
これに対して「NISA」(「つみたてNISA」に対して「一般NISA」と呼ばれることもあります。)の非課税枠は新規投資額で毎年120万円が上限です。非課税枠投資は最長5年間で最大で600万円です。
ここで、「つみたてNISA」口座内の投資信託等の資産についても財産分与の対象となります。
投資信託や株式等は日々価値が変わりますので現金化が難しく、分与が難しい財産のひとつです。
(2)投資財産の分割方法
株式や有価証券、仮想通貨としった投資財産を分与するためには、現物分割や、代償分割、換価分割による財産分与方法があります。
まず、「現物分割」とは、財産を現物のまま分与割合に従って分与する方法です。
次に「代償分割」とは、財産の価値を評価して,夫婦の一方がその財産を取得し、他方はその財産と同程度の価値のある財産を取得する方法です。
最後に「換価分割」とは、財産を売却して現金化しその現金を分与割合に従って分与する方法です。
投資信託とは、投資家から集めた現金を運用して、得られた利益や運用益を投資家に分配する仕組みになっています。投資信託は比較的売却しやすいため、金融商品によっては代償分割になじむ場合もあります。
投資信託は購入後に運用による収益を一定額以上出さなければ信託手数料分がマイナスとなって元本割れを起こしてしまうリスクがあります。また、金融商品によっては分配金が支払われる投資信託もありますので、売却する時期については慎重に判断する必要があるでしょう。
共有財産を把握するために目録を作成した当時は保有している資産は低額であったものの、その後その資産価値が上昇して離婚時には作成時の倍になっていたような場合には評価額は離婚時の倍のものになります。
資産価値が下落する場合も同様です。
このように投資信託については一方の不公平感から財産分与手続がスムーズにいかない場合もあります。
そこで評価額が大幅に変化した際の対応についてもルールを決めて協議して離婚協議書にも明記しておくことが両当事者のメリットになる場合が考えられます。
協議にあたっては、分割方法や分割割合については投資信託の特徴や運用方法に鑑みて決定していくべきでしょう。
4、確定給付年金も財産分与の対象となる
「確定給付企業年金」とは、確定給付企業年金法に基づいて実施されている企業年金制度です。規約型企業年金と基金型企業年金の2種類があります。
「規約型」企業年金とは事業主が従業員の同意を得て、規約に従って掛金を外部に拠出することで年金資産を管理・運用する年金給付のことです。
「基金型」企業年金とは事業主が従業員の同意を得て、別法人として設立されている企業年金基金が規約に従って年金資産を管理運用する年金給付のことです。
確定給付企業年金についても確定拠出年金と基本的には同様に考えます。
企業年金ですので企業が従業員の在職中に積立て、退職後に年金として支払うものです。
婚姻期間中の掛金については夫婦の共有財産として評価されます。
確定給付企業年金の評価方法は、退職時に一時金として給付される金額を算出して、一時金の金額を同居していた期間で割り付けることで共有財産として評価することが可能となります。
5、複雑な資産形成をしている場合には弁護士に相談するべき
「iDeCo」や「つみたてNISA」などの複雑な制度を利用して資産形成をしてきた場合、財産分与の際の分与財産の評価についても複雑化する場合があります。
しかし、弁護士に依頼すれば、複雑な財産評価についても一任することができます。
分与財産を適切に評価せずに財産分与に応じたということで損をするということを避けることができるでしょう。
また、相手方と交渉の必要が生じた場合にも弁護士が代理人として交渉してくれますので、当事者同士で話し合いをする場合よりもスムーズに離婚協議を進めることができるでしょう。
イデコは離婚の財産分与対象なのかに関するQ&A
Q1.イデコは離婚の財産分与の対象?
企業型確定拠出年金は退職金同様に取り扱われ離婚時の評価が容易であるので財産分与の対象として取り扱われることが多いでしょう。
Q2.つみたてNISA口座も財産分与の対象となる?
「つみたてNISA」口座内の投資信託等の資産についても財産分与の対象となります。
投資信託や株式等は日々価値が変わりますので現金化が難しく、分与が難しい財産のひとつです。
Q3.確定給付年金も財産分与の対象となる?
確定給付企業年金の評価方法は、退職時に一時金として給付される金額を算出して、一時金の金額を同居していた期間で割り付けることで共有財産として評価することが可能となります。
まとめ
今回は、iDeCoやつみたてNISAを利用している場合の財産分与について解説してきました。
この解説を読んでもお悩みが解決できない場合や、ご自身のケースでどうなるのだろうと疑問点が出てきた方は是非一度弁護士へ相談することをおすすめします。
初回の無料相談であっても適切なアドバイスやサポートを受けることができるでしょう。