萩の月の類似品流出し、問題となりました。
「萩の月」は仙台の銘菓で、カスタードクリームをふんわりとした生地でつつんだ、甘くておいしい饅頭のようなお菓子です。
先日、Twitter上でこの「萩の月」と似たお菓子の画像とともに「やばい…ジェネリック萩の月って感じ…」とツイートされたところ、同様に萩の月の類似品の報告ツイートが相次ぎ、1万件近いツイートを集め、話題となりました。
ほかにも北海道の「マルセイバターサンド」に酷似するお菓子の報告もあり、このようなケースがめずらしくないことがわかりました。既にあるお菓子と類似するお菓子を製造販売することは法的に問題ないのでしょうか。
知的財産権の問題を数多く扱ってきたベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
1、萩の月の類似品が多発!問題になった「ジェネリック萩の月」の事例は?
- 特許法
- 商標法
- 意匠法
- 不正競争防止法
自社のお菓子の模倣を防ぐ方法としては、法律上、上記4つの方法があると考えられます。
すなわち、お菓子の製造方法について特許登録を受ける方法、お菓子の形状・外観について意匠登録又は立体商標として商標登録を受ける方法、最後に、不正競争防止法により保護される方法です。
「萩の月」について、2017年6月の本稿執筆日現在、特許登録と意匠登録及び立体商標登録についてはいずれもなされておらず、商標登録のみがなされています。そのため、お菓子の製法や外観を模倣していたとしても、直ちに権利を侵害しているとはいえません。
商標については、ロゴと外箱が登録されていますので、萩の月を模倣したロゴや外箱を用いた商品を販売した場合は、販売の差止めや損害賠償請求が権利者から行われる可能性があるでしょう。
なお、前述のリツイートでも全国各地の「萩の月」にヒントを得たと思われる「◯◯の月」という名称のお菓子(◯◯には各地の地名等が入ります)が報告されていますが、このような商品も、これだけでは「萩の月」の商標権を侵害しているとはいえません。
商標権を侵害しているかどうかについては、見た目や読み方、一般的な印象の類似性に加えて、流通量や世間の認知度など考慮して、出所の混同があるかどうかを判断します。
つまり、消費者が仙台銘菓の「萩の月」だと間違えてしまうような商品でなければ、商標権を侵害しているとは判断されにくいといえます。
なお、現在のところ、萩の月の商標権を侵害しているとして、裁判で差し止めや損賠賠償を命じられた商品はありません。
2、30年以上前から販売されている「萩の月」は模倣してもOK?
意匠法によって保護される製品と、不正競争防止法によって保護される製品はどのように異なるのでしょうか。意匠権の効力は、同一の意匠だけでなく類似する意匠が使用されている場合にもおよびます。
そして、意匠が類似しているかの判断は「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されています(意匠法24条2項)。
デッドコピーとよばれる本物とそっくりな商品でなくとも、製品のなかの買い手の注意を引く部分が類似の美感を与えれば、意匠権を侵害していると判断されます。つまり、買い手に強く印象を与える部分を模倣した場合、意匠権を侵害していることになります。
しかし、意匠法によって保護されるためには意匠登録をしなければなりません。意匠登録には手続きの手間や費用が生じるので、意匠登録がされないままに商品が発売されることも多いのです。
また、意匠は、特許と同様に登録要件として“新規性”が要求されており「公然知られた意匠」は、登録できません(意匠法3条1項1号)。すでに30年以上前から販売されている萩の月は「公然知られた」といえるため、今から申請しても、意匠での登録は難しいと考えられます。
そのような場合でも一定の条件の下で先行製品が保護されるように定められたのが不正競争防止法です。不正競争防止法では、意匠登録されていない製品でも国内での販売開始から3年以内のデッドコピーに対して、先行製品の権利者に模倣品の製造者に対する差止めや損害賠償請求の権利を認めています。
萩の月は30年以上前から販売されているため、不正競争防止法による保護の対象外ということになります。
商標だけでなく、特許登録や意匠登録を行うことによって模倣品に対抗できる可能性は上がります。
商品がヒットした後に登録しようと思っていると、既に登録ができなくなっていたり、心無い人に先に登録され、不当に権利を侵害されることになりかねません。しかし「萩の月」については、自由競争状態。一体、なぜでしょうか。
3、オリジナル「萩の月」の製造方法は門外不出?
実は、製造方法の特許権を取得すると一定期間権利を独占できるのと引き換えに、法律上、製造方法を公開しなければなりません。権利期間を過ぎた後は、公開された製造方法をもとに模倣されても特許権侵害を主張できなくなるというデメリットがあります。
特許権の存続期間は、原則として特許出願の日から20年ですので、仮に萩の月が30年前の発売当初より特許登録されていた場合には、現在は特許の存続期間を過ぎていることになります。
このようにあえて製造方法の特許を取らず、製造方法を企業秘密にすることで模倣を防いでいる有名な例にコカ・コーラの製造方法があります。このようにお菓子の模倣を法律上防ぐ手段には限界があり、現実的に模倣を防ぐのはなかなか難しい状況といえます。
萩の月が模倣を防ぐために特許を取得しないかどうかはわかりませんが、シンプルなように思える萩の月には30年ものロングセラーを支えた何かがあります。「マネできるものならマネてみろ」というスタンスなのかもしれません。
一見同じに見えてもそこには大きな違いがあるのでしょう。ぜひともオリジナル萩の月とジェネリック萩の月とを食べ比べてみたくなりました。