子どもを預けたり預かったりすることは、子どもがいる家庭ではよくあること。
しかし、実はその気軽な付き合いや善意が思わぬトラブルにつながるケースがあります。今回は、
- 子どもを預かる場合の責任の所在
- 子どもを預かる際に知っておきたいこと6つ
についてご紹介していきます。
目次
1、子どもを預かって怪我や事故があった時の法的責任の所在
預かった子供が怪我をしたり事故に巻き込まれた場合に、預かった側に責任が生じるかどうか、場合分けをしてみていきましょう。
(1)双方の合意のもと子どもを預かった場合
預ける方にも預かる方にも合意があり、合意のもとで子どもを預かった場合には、民法656条の準委任契約という契約が成立します。
準委任契約とは、事実行為(契約などの法律行為以外の行為。例えば、手紙を出すといった行為や、モノを加工して作品にするといった行為等。)を委託する(人に頼む)契約です。
なお、「契約」は基本的に口頭でのやり取りで成立しますので、契約書などの書面がなくても成立しています。
子どもを預ける側が子どもの監護を預かる側に頼み、預かる側が子どもの監護を引き受ける、ということです。
子どもを預かる側には、預かった子どもに対する注意義務が生じ、もしも、子どもに怪我をさせたなどがあれば、この注意義務を怠ったとされる可能性があります。
そして、子どもに損害が発生した場合には、(注意義務を果たしたという反論ができない限り)債務不履行の責任を負い、子どもを預けた側に生じた損害の賠償をする必要がでてきます。
(2)一方的に子どもを預けた場合
預かる側の合意がなく一方的に子どもを預けた場合には、民法656条の準委任契約は成立しません。
そのため、預かっている間に子どもに損害が発生した場合でも、(1)のように債務不履行責任を追及されることはありません。
しかし、この場合でも預かる側には民法709条の不法行為責任が生じる可能性があります。
債務不履行責任とは違い、預けた側が「預かった側にミスがあった(またはわざと子どもに損害を与えた)」ということを証明しなければなりませんので、現実的にはなかなか難しいことだと思いますが、預けた側がこれを証明できた場合には、預かった側は損害賠償責任を負う可能性があるので注意が必要です。
(3)子どもが保護者の同意なく勝手に自宅に来てしまった
そして、どちらの保護者の合意もなく子どもが勝手に自宅に来てしまうケースもあります。
例えば、塾をサボりたくて、友達の家で遊んでしまったなどの場合です。
小学生も高学年にもなれば、勝手に行き来ができてしまいます。
中学生にもなれば、もう子どもだけの約束で行き来し、保護者はどちらも気がつかない、というケースもあるかもしれません。
このケースでも、自宅に遊びにきた子供に気が付いたあと、故意や過失に基づいてケガをさせてしまった場合、不法行為責任が発生する恐れがあります。
気が付いたなら相手の保護者に連絡を入れ、子供が怪我などをしないように注意しておきましょう。
2、子どもを預けて事故があった事例
実際に気軽な気持ちで子どもを預かり事故につながった体験談をご紹介します。
親戚の子どもを預かっていた事例です。
明確な合意の上子どもを預かり、5人の子どもを連れて公園に行ったときのお話。
保護者は公園のベンチで様子を見ていました。しかし、子どもの人数も多く全員の行動を注意深く見ていられるはずもありません。
気が付いたら、親戚の子どもの一人が公園にきていた他の子とシーソーで遊んでいるうちに頭をぶつけて怪我をしてしまいました。泣き声で気がつき慌てて駆け寄り怪我の様子を確認。
頭からの出血が多いものの、本人の意識はあり、自力で歩けることを確認し、保護者に連絡を入れました。
保護者に子どもを引き渡し、すぐさま車で救急病院へ。
怪我をさせた子どもは既に帰宅してしまい、親戚の保護者に謝罪することもありませんでした。子どもは結果的に5針を縫う怪我をし、傷跡も残る可能性があります。
この場合には、双方の合意があったため、準委任契約が成立しています。
預かった側に過失があった場合、債務不履行責任が発生し損害賠償を求められる可能性があります。
3、子どもを預かる際に考えておきたいこと
子どもの預かりは、ご近所同士、またお友だち同士など、お互い様でよくあること。
しかし子どもの気軽な預け合いは一定の危険を伴うことがわかったと思います。
ここでは、子どもを預かる場合の注意点をいくつかご紹介しましょう。
(1)すぐに相手の保護者に連絡がつく状態か
必ず子どもの保護者とすぐに連絡がつく状況にしておきましょう。
何かあったらすぐに駆けつけてもらえる体制が必要です。
そのことをお互いに了承した上で預かるようにしてください。
保護者の連絡先は一つだけでは不十分。
母親だけではなく父親の連絡先や実家の連絡先なども聞いておければ安心です。
(2)念のため救急病院の所在地や連絡先をチェックしておく
事故や怪我があった場合に備えて救急病院の所在地や連絡先などを常にチェックしておきましょう。
(3)保険証を一緒に預かる
万が一に備えて保険証を子どもと一緒に預かることを忘れないでください。
保護者がすぐに来られなかった場合には、あなたが代わりに病院に付き添うことになりかねません。
最悪のケースでは救急車を利用する可能性もあります。
(4)子どもだけにはしないこと
子どもを預かったなら監護の責任があるものと十分に理解し、子どもだけを放置してはいけません。
そして一度に注意深く見られる子どもの数は決まっています。
自分と子どもを過信せず、大人数を一度に預かる行動は控えるようにしましょう。
(5)乳幼児は預からない
乳幼児の場合には、寝ている最中の事故も多くあります。
気軽に善意から乳幼児を預かり事故につながるケースも少なくはありません。
乳幼児の場合には、特別な理由がない限りは基本的には預からないようにしましょう。
(6)用事がある場合には預からない
他に用事がある場合には、子どもを預からないようにしましょう。
子どもだけを残して外出する行動はNGです。
最初から用事があるからその日は無理ですとはっきり断りましょう。
(7)何かあった場合の意識合わせをしっかりしておく
万が一の事故があった場合を想定した話をお互いにしておくことを忘れないでください。
預かって海やプールに外出する際などには要注意。
事故が命に関わるケースも存在します。
それでもお互いに預けても問題ないと認識を合わせた上で預かるようにしましょう。
(8)「親には内緒にして欲しい」と言われても内緒にしない
年齢が比較的に高い子どもの場合には、「親には内緒にしてください」と言いながら遊びにくる場合があるでしょう。
習い事をサボるケースなどです。
子どもがいくら内緒にしてくれと言ったところで、内緒にしていても責任は発生してしまいます。
子どもの保護者に連絡は入れるようにしましょう。
4、子どもを預ける際に考えておきたいこと
子どもを預ける側も預ける前に考えておくべきことがあります。
預けるに当たって過失はないか?
何かあったとき納得できるのか?
しっかり認識してから預けるようにしましょう。
(1)事故があったら預けた側にも責任があると認識する
状況にもよってきますが、子どもを預けた側にも過失があるとされる場合も一定数存在します。
そのため、子どもは預けた側にも責任が生じる可能性があるのです。
信頼して預けたとしても、四六時中子どもから目を離さないのは不可能です。
そのことを認識した上で子どもは預けるようにしましょう。
(2)緊急連絡が繋がる状態にする
預けたからにはいつでも緊急連絡がつながる状態にしておきましょう。
もしも仕事などですぐさま電話に出られない場合には、夫などの代わりの保護者に連絡がつながる体制を作ってください。
(3)相手保護者の言うことを聞くよう子どもに言い聞かせる
大事なことは、子どもにもしっかり言い聞かせること。
預けた子どもが預かった側の保護者の言いつけを聞かずに勝手にどこかに行って怪我をする可能性もあります。
いうことを聞かない子どもの監護は預かった側にとって困難です。
「帰った方がいい」「○時にはその遊びはやめて」など、預かった側の指示に従わないことは、預けた側のしつけに問題があるとされる可能性があります。
子どもにはしっかり、「お母さんの代わりだからいうことを聞くように」と事前に言い聞かせてください。
(4)預ける側に持病などの注意事項をしっかり伝える
預ける際にはアレルギーの有無や、持病や服薬などについては伝えることを忘れないでください。
短い時間だからと手を抜いては、その間に大事故につながる可能性があります。
万が一救急搬送されて緊急手術などになった場合には既往歴などの情報も必要です。
(5)乳幼児の預け先は託児所などにする
乳幼児の預け先は友人などを頼らずにできるだけ託児所などにしましょう。
昨今では病気中なら病院で預かってくれる託児施設があります。
病気で託児所には預けられない場合には、確認してみるといいでしょう。
預ける友人が保育士だったとしても同じです。
プライベートな時間に発生する事故は保育士かどうかは関係ありません。
預けるならば、個人的に預けるのではなく、友人が働く保育施設に有償で預けましょう。
施設としてのプロの対応が望めます。
5、子どもを預かって事故があった場合の対処法
いくら注意をしたとしても、子どもを預かって事故が発生するケースは皆無ではありません。
万が一に備えて事故があった場合の対処法を理解しておきましょう。
(1)冷静になる
まずは冷静に行動することが大切です。
慌ててしまっては、子どもが冷静になれません。怪我の度合いなどを確認し、適切な処置が必要です。
(2)怪我の度合いや事故の度合いで迷わず救急車を使う
子どもが平気そうだからと預かった子どもの保護者の到着を待っていては、処置が遅れる可能性があります。
頭を打った場合などはすぐさま救急車を呼びましょう。
嘔吐が止まらないなどもそうです。
交通事故や水難事故なら警察への通報も忘れないでください。
後から、注意義務を怠ったと裁判になる可能性もあります。
子どもを預かった場合の対処はワンランク上の対応がちょうど良いでしょう。
(3)相手に緊急連絡を入れる
預かった子どもの保護者への連絡もできるだけ迅速に行いましょう。
連絡が繋がらない場合に備えて母親だけではなく父親や実家の連絡先がわかるといいでしょう。
(4)事故のときこそ子どもから目を離さない
二次災害を防ぐためにも事故にあった場合には、他の子どもからも目を離してはいけません。
難しいことですが、冷静に対応することでできるはずです。
複数人の保護者がいるなら、緊急事態だということを伝えて、あなたは事故にあった子どもに付き添い、他の保護者に他の子どもを見てもらうなどの対処をすればいいでしょう。
6、子どもを預かって損害賠償を請求されたら?
万が一あなたの注意義務の責任を問われて、損害賠償請求を受けたなら、すぐさま弁護士に相談するようにしてください。
子どもの預かりに関する責任・義務は素人判断では難しいもの。
弁護士に相談することで、法的根拠のもとで適切な処理をしてもらえます。
まとめ
子どもの気軽な預け合いには注意が必要です。
お互いに合意があったとしてもなかったとしても、預かった側には一定の義務が生じます。
また、預けた側にも過失が認められる可能性もあるでしょう。
この記事は、責任が生じるので預けあいは控えるべき、と言いたい記事ではありません。
どこにも預けることができない、という状況は、社会問題であるワンオペ育児につながり、子どもをもうけること、そしてその後の子育てに大きな影響を与えます。
大事なことは、お互いに責任があるのだと認識した上で預け合うということです。
お互いに責任を理解した上で、気持ちよい子育てができる社会を望みます。