キメハラは不法行為?キメハラされたときに知っておきたい5つのこと

キメハラは不法行為?キメハラされたときに知っておきたい5つのこと

キメハラは何が問題となるのでしょうか?

今回は、

  • キメハラの概要
  • キメハラは不法行為に当たるのか
  • キメハラを受けた場合の対処法

などについて詳しく解説します。 

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1、キメハラとは

まずは、キメハラという言葉の語源から具体的な内容について解説をいたします。

(1)キメハラの語源

キメハラとは、漫画「鬼滅の刃」ハラスメントのことをいいます。

「鬼滅の刃」は、アニメ化、映画化されることにより爆発的に話題を生み、2020年最大のヒット作ともいわれました。
その人気の一方で、「鬼滅の刃」に興味が無い人などに対しても過度に作品を薦める、「鬼滅の刃」ネタを執拗に強調するといった行為も散見されるようになりました。

このような状況のなか、鬼滅の刃ハラスメント、いわゆるキメハラという言葉が生まれました。

キメハラを受けたと感じた方が、もやもやとした感情やストレスをSNSに投稿するようになり、その結果、キメハラという言葉は急速に広まり、テレビなどでも取り上げられるまでになりました。

(2)キメハラの具体的な内容

キメハラの具体的な内容としては、

  • 「鬼滅まだ観てないの?」「見ようよ」と押しつけてくる行為
  • 「鬼滅がダメな人っているんだ」と好みを否定する行為
  • 「鬼滅がつまらない、興味ない」と他人にいえない雰囲気

等が挙げられます。

また、個人の友人関係だけでは無く、職場やサークルなどの団体においても、キメハラと感じる行動が多く起こっています。

ハラスメント全体にいえるものであり、集団の中でこそハラスメントはより強いものになる傾向があります。キメハラの中には、集団の中で「鬼滅の刃を次までに読んでおくように」などと強制されるような場面も見受けられ、無視できない状況も発生しているようです。

2、キメハラにより法的責任を問われることはあるのか?

では、キメハラにより不快に感じた方は、法的責任を追及することが出来るのでしょうか。キメハラの法的責任及び法律要件の該当性について解説をいたします。

(1)ハラスメントと法的な責任を負うかは別問題である

そもそも、ハラスメントとは「嫌がらせ、いじめ」を意味し、今では○○ハラといって多種多様な類型がありますが、この全てのハラスメントについて法律上、定義をされているものではありません。

キメハラについても、法律上、定義をされているわけではありません。

そのため、キメハラの法的な責任を考えるにあたっては、既に法律上の規定があるパワハラ、セクハラ、マタハラと比較しながら検討をする必要があると考えられます。

まず、パワハラ(パワー・ハラスメント)については、改正労働施策総合推進法30条の2により、以下の様な3要件を満たしたものが該当すると定められています。この法律は近年規定されたものであり、事業者が守るべき規範として規定をされています。

事業主は、

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

③その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、

当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

なお、あくまでも事業主に対して定められたものであるため、同じ立場にいる市民同士の法規定ではありません。

また、セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)については、男女雇用機会均等法11条により以下のように定められています。

事業主は、

①職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により

②当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により

③当該労働者の就業環境が害されることのないよう、

当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

この規定も、事業主に対して定められた義務になります。

この2つの法律から分かることは、職場においてハラスメントに該当するか否かは、

  • 業務上の必要性を超える不利益であるか

がまず考慮され、続いて、

  • 当該ハラスメントによる不利益が労働者の就業環境が害される程度であるか

を検討されているということです。

仮に、このような不利益が生じているにもかかわらず何ら整備や措置を行っていない場合には、事業者は、不法行為若しくは債務不履行による損害賠償責任を負う可能性があります。

キメハラについても、勤務中に行われるものについては特に、この指標が1つの参考になるでしょう。

(2)キメハラを受けても損害賠償請求は難しい

では、実際にキメハラを受けた場合にキメハラを行った相手に損害賠償請求をして認められることはあるのでしょうか。

損害賠償請求が認められるためには、民法上の不法行為(民法709条)に該当する必要があります。

そして不法行為の要件は、

①故意または過失により

②他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと(違法性)

③損害が生じていること

④因果関係があること

となります。

キメハラを理由に損害賠償請求をすることを考えた場合、②の要件が特に問題になります。

②の要件に該当するといえるためには、単に個人が不快であると感じただけでは足りません。キメハラにより、人格権が侵害されていると評価できるようなものでなくてはなりません。

確かに、キメハラの内容は多種多様なものといえます。そのため、キメハラがいじめのようなものであれば、人格権が侵害しているものと評価されるかもしれません。

しかし、多くのキメハラの事案では、単に不快であると感じるものにとどまるのではないでしょうか。そうすると人格権が侵害されているとまで評価することができることは少ないと考えられます。

その結果、「違法」と評価することが出来ずに、不法行為に該当することもありません。

以上のとおりですので、キメハラで損害賠償請求をすることは難しいといえます。

3、キメハラがなぜ社会現象となってしまったのか

キメハラが社会現象となってしまった背景として、SNSが普及したこと、及びハラスメントという言葉自体が過剰に広がっていることが挙げられます。

キメハラのような同調圧力というものは、何も鬼滅の刃が流行したことから始まったものではありません。従前も映画や漫画などが大ヒットした際にも、同調圧力を受けていた方は少なくともあったといえます。共感を得たいという気持ちは、人間の本質的な欲求ですので、この点に違いはないからです。

とはいえ、SNS普及前は、たとえハラスメントと感じた場合であっても、その場限りのものであり、大きく拡散をすることはなかったといえます。

一方で、昨今ではSNSが普及をしたことにより、現在ではより容易に自分の意見を外部に表明する事ができるようになりました。その結果、多くの人がキメハラに対して共感をし、拡散されたといえます。

また、近年ハラスメントという言葉が一般的にも広がったことにより、様々な○○ハラという言葉が聞かれるようになりました。キメハラもその流れを受けてのものであり、国民のハラスメントに対する意識がとても強くなったことも、キメハラが社会現象となった理由かと思われます。

国民のハラスメントに対する意識の増加それ自体は、とても望ましいものといえます。しかし、一方でデメリットもあり、その点は、後に解説をしております。

このようにキメハラが社会現象となった一要素として、

  • SNSの普及
  • ハラスメントに対する意識の増加

があったといえます。

4、キメハラを受けた場合はどうするか

では、実際にキメハラを受けた場合にどのようにするべきでしょうか。

キメハラへの対処法について解説をいたします。

(1)悪意のある「キメハラ」であるのかを判断

キメハラには、悪意のあるものとそうではないものとがあります。

上記のとおり、キメハラは同調を求めることがその根本にあります。同調を求めて一体感を得たいという目的それ自体は、何ら悪意なくされていることも多いでしょう。むしろ、発信者としては、鬼滅の刃が良かったと親切心で教えてあげているだけかもしれません。

そのため、頭ごなしにキメハラと断定して拒絶していては、人間関係に悪影響が出てしまいます。キメハラと感じたら、まずは悪意のあるものかどうか、また自分の許容度を超えたものなのかをしっかりと判断し、以下に述べるように自分の意見をしっかりと話すことが良いと言えるでしょう。

(2)子どものいじめなどの原因になっている場合はしっかりとした対応を

法的責任を負う可能性は低いキメハラですが、子どものいじめなどの原因になっている場合は、対応をしなければならないこともあります。

子どもがキメハラを受け、それがいじめなどの原因になっている場合は、程度にもよりますが、担任等の教員に相談をすることが考えられます。その際は、事実関係をしっかりと聞き、原因の追及をしっかりとするようにして下さい。

大人であれば大したことがないものであっても、子どもからすれば重大な心の傷を負ってしまっていることもあります。まずは、しっかりと子どもに向き合ってケアをすることです。

(3)「鬼滅の刃」にハマらなかった自分なりの意見を伝える

キメハラと感じたら、しっかりと自分なりの意見を伝えることが大切です。

悪気なくキメハラをしてしまっている方は、自分の価値観で話をしており、相手のことまで考えが及んでいません。その様な方には、しっかりと自分の意見を話すことで、キメハラに限った話ではなく大抵のハラスメントは止む傾向にあると考えられます。

大多数による意見や発言は、一見、真実であると考えてしまうかもしれません。キメハラも同調を求めるものであり、その場の雰囲気に流されて同調をし、嫌な気持ちになるかもしれません。

しかし、大多数の意見が必ずしも正しいという訳ではありません。鬼滅の刃にハマらなかった原因や理由を相手に伝えるということは、とても貴重なことであり、相手のためにもなるでしょう。

鬼滅の刃を見ていないから悪い、キメハラだから悪い、といった二極化した意見ではなく、互いに適切なコミュニケーションをとれるような話し合いを行うことが大切ではないでしょうか。

5、気軽にハラスメントと呼ぶことの問題点について

気軽にハラスメントと呼ぶことには、自由な発言が抑制されるなどの問題点があります。

ハラスメントは、元々職場内などでの嫌がらせやいじめを防止するために生み出された概念です。以前は、当たり前のようにハラスメントがあり、そのことに対して声を上げることはできませんでした。

そのため、ハラスメントを意識し、現場の人間が嫌な思いをすることなく、働きやすい環境を作っていくことは必要不可欠なものであります。実際に、セクハラやパワハラなど声を上げることによって、その法規制も進んできました。

一方で、簡単にハラスメントを定義することにつれて、自由な発言が抑制される危険性もあるということを意識しておかなければなりません。

例えば、キメハラが拡散され、当たり前のように使われた場合、鬼滅の刃についての話をする際に、一種の抵抗感を感じてしまうことになります。このことにより鬼滅の刃の話をして純粋に楽しみたいといった方が発言をし辛くなるということが起こってきます。あまりにもハラスメントに対して過剰になりすぎると、逆差別と考えられる様な状態になってしまうのです。

以上のように、ハラスメントという言葉については、使う方も配慮を持つことが必要となります。ハラスメントという言葉は、一般の方にとっては、とても強い印象を受けます。相手とのコミュニケーションをしっかりとることを心がけ、お互いの意見を尊重するようにしましょう。

まとめ

キメハラは、それ自体に法的な問題が生じることは少ないといえます。

しかし、倫理的な問題も絡み、人間関係に影響が出ることもありうるものです。お互いに、自分の発言について責任をもち、相手がどのように感じるのか、相手の立場になって考えることが大切かと思います。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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