借地非訟事件の弁護士費用・申立手数料は高額になる可能性が高いので、借地非訟案件の交渉に強い弁護士に依頼をして、当事者の交渉レベルでの早期解決を目指すのがおすすめです。
また、借地非訟事件の弁護士費用は事務所によって異なる点にも注意しなければいけません。
少しでも低価格で借地非訟トラブルの解決を目指すなら、複数の事務所に弁護士費用を問い合わせたうえで、納得できる見積もりを出してくれた事務所に依頼するべきでしょう。
そこで今回は、
- 借地非訟事件の弁護士費用の相場
- 借地非訟事件で発生する弁護士費用以外の金銭負担
- 借地非訟事件の弁護士費用が払えないときの対処法
- 借地非訟事件に強い弁護士の選び方
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
土地所有者に増改築の承諾をもらえない、転貸借を承諾する代わりに高額な承諾料を要求されたなど、借地権関係でお困りの方の助けになれば幸いです。
目次
1、借地非訟とは?~弁護士費用を調べる前に
借地非訟事件とは、建物の所有を目的とする土地賃貸借契約・地上権設定契約に関する以下5種類の事件類型のことです。
- 借地条件変更申立事件(借地借家法第17条1項)(条件変更事件)
- 増改築許可申立事件(借地借家法第17条2項)
- 土地の賃借権譲渡または転貸の許可申立事件(借地借家法第19条1項)
- 競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(借地借家法第20条1項)
- 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件(借地借家法第19条3項、20条2項)
(1)借地条件変更申立事件
借地条件変更申立事件とは、借地上に建築できる建物の種類(居住、店舗、共同住宅)・構造・規模・用途などの借地条件が借地契約に掲げられている場合に、借地権者が借地条件を変更して別の建物への建て替えを希望するにもかかわらず、土地所有者が借地条件の変更に合意してくれないケースを対象とする借地非訟事件のことです。
諸般の事情を考慮して裁判所が相当と認めれば、借地契約における借地条件を変更する裁判を受けることができます。
なお、平成27年4月以降、東京地裁では、増改築制限特約があり場合は、次項の増改築
許可申立も必要となっています。
(2)増改築許可申立事件
増改築許可申立事件とは、借地上の建物の改築・増築・大規模修繕工事を実施する場合には土地所有者の承諾を有する旨の借地条件が借地契約に掲げられている場合に、土地所有者の承諾を得られないケースを対象とする借地非訟事件のことです。
諸般の事情を考慮して裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる許可の裁判を受けることができます。
(3)土地の賃借権譲渡または転貸の許可申立事件
土地の賃借権譲渡または転貸の許可申立事件とは、借地を転貸するときには土地所有者の承諾が欠かせないにもかかわらず(民法第612条1項)、地主が転貸借を承諾してくれないケースを対象とする借地非訟事件のことです。
諸般の事情を考慮して裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる許可の裁判を受けることができます。
(4)競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件
競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件とは、競売または公売によって借地上の建物を買い受けた人が土地の借地権の譲り受けについて土地所有者の承諾を得られないケースを対象とする借地非訟事件のことです。
諸般の事情を考慮して裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる許可の裁判を受けることができます。
(5)借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件
借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件とは、借地権の移転について土地所有者の承諾が問題となる借地非訟事件において(土地の賃借権譲渡または転貸の許可申立事件、競売または公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件)、土地所有者が介入権を行使して、自らの土地の賃借権を借地上の建物と一緒に優先的に買い取るケースを対象とする借地非訟事件のことです。
土地所有者が介入権を行使した場合には、諸般の事情を考慮して裁判所が定めた価格で、地主が借地権及び借地上の建物を買い取ることになります。
2、借地非訟の弁護士費用の相場
借地非訟事件を弁護士に依頼すると着手金・報酬金・その他費用が発生します。
そして、多くの弁護士事務所は、日本弁護士連合会の旧弁護士報酬基準に準じて借地非訟事件の報酬規程を定めているので、旧報酬基準が非訟事件の弁護士費用の相場・目安と理解できるでしょう。
ただし、取扱い案件に対してどのような報酬体系を設定するかは各弁護士の自由裁量なので、実際に弁護士に依頼するときには、事前に見積もりを出してもらったうえで、旧報酬基準との差異や相場との乖離を確認することをおすすめします。
(1)着手金
着手金とは、弁護士に借地非訟事件を依頼するときに発生する費用のことです。事件の結果や手続きの進捗などとは無関係に支払う必要があります。
日弁連の旧報酬基準によると、借地非訟事件は訴訟事件と同じ基準で着手金が算出されます。
事件の経済的利益の額 | 着手金 |
300万円以下 | 経済的利益×8% |
300万円超3,000万円以下 | 経済的利益×5%+9万円 |
3,000万円超3億円以下 | 経済的利益×3%+69万円 |
3億円超 | 経済的利益×2%+369万円 |
なお、着手金の最低額は10万円です。
また、借地非訟事件における経済的利益は、事案や争訟状態によって算出基準が異なります。
基本的には借地権価額の2分の1を経済的利益としたうえで、事件の難易度や借地権をめぐる紛争の状況にあわせて増減されるのが一般的です。
(2)報酬金
報酬金とは、借地非訟事件が解決したときに、得られた成果に対して支払う成功報酬のことです。
日弁連の旧報酬基準における借地非訟事件の報酬金算出基準は以下の通りです。
事件の経済的利益の額 | 報酬金 |
300万円以下 | 経済的利益×16% |
300万円超3,000万円以下 | 経済的利益×10%+18万円 |
3,000万円超3億円以下 | 経済的利益×6%+138万円 |
3億円超 | 経済的利益×4%+738万円 |
(3)その他の費用
借地非訟事件を弁護士に依頼すると、着手金・報酬金以外に、以下の費用が発生します。
- 実費、日当、交通費
- 手数料
- 法律相談料
これらの諸経費は弁護士事務所の費用体系や考え方、事案解決までの推移によって異なります。依頼前におおよその費用感をお問い合わせください。
3、借地非訟で弁護士費用以外にかかる費用
借地非訟事件で建物の所有を目的とする土地賃貸借契約・地上権設定契約をめぐる紛争の解決を目指すときには、裁判所に対して申立手数料を納付する必要があります。
これは、弁護士費用とは別に発生する金銭負担です。
裁判所への申立手数料は収入印紙で納付しなければいけません。また、受付窓口で手数料額が確認されるので、申立手数料の算定基準となる借地の土地固定資産評価証明書の原本を持参してください。
(1)裁判所に納める費用
借地非訟事件の申立手数料の算出方法は以下の通りです。
なお、裁判所によって算定基準が異なることがあるので、正確な申立手数料については管轄裁判所の算定基準をご確認ください。
管轄裁判所は、借地権の目的である土地の所在地を管轄する地方裁判所が原則ですが、当事者の合意がある場合に限って、簡易裁判所にも変更できます。
【増改築許可申立事件の申立手数料】
借地の範囲が当該土地全部のとき | 固定資産評価額÷10×3÷2 |
借地の範囲が当該土地のうちの一部のとき | 00固定資産評価額×借地が占める割合÷10×3÷2 |
【増改築許可申立事件以外の申立手数料】
借地の範囲が当該土地全部のとき | 固定資産評価額÷2 |
借地の範囲が当該土地のうちの一部のとき | 固定資産評価額×借地が占める割合÷2 |
【申立手数料額の目安】
目的物の価格(算定の基礎となる額) | 申立手数料の目安額 |
500万円 | 12,000円 |
1,000万円 | 20,000円 |
1,500万円 | 26,000円 |
2,000万円 | 32,000円 |
2,500万円 | 38,000円 |
3,000万円 | 44,000円 |
3,500万円 | 50,000円 |
4,000万円 | 56,000円 |
4,500万円 | 62,000円 |
5,000万円 | 68,000円 |
5,500万円 | 74,000円 |
6,000万円 | 80,000円 |
6,500万円 | 86,000円 |
7,000万円 | 92,000円 |
7,500万円 | 98,000円 |
8,000万円 | 104,000円 |
8,500万円 | 110,000円 |
9,000万円 | 116,000円 |
9,500万円 | 122,000円 |
1億円 | 128,000円 |
また、申立手数料とは別に、書類送付の費用として、郵便切手を予納する必要があります。
相手方1名の場合の切手は4,500円です。内訳は以下の通りです。
- 500円切手6枚
- 100円切手6枚
- 84円切手5枚
- 50円切手5枚
- 20円切手5枚
- 10円切手5枚
- 5円切手10枚
- 2円切手10枚
- 1円切手10枚
また、相手方が1名増えるごとに500円切手2枚(1,000円)が追加されます。
(2)鑑定費用は不要
借地非訟事件では、申立てを認めるか否か、申立てを認める場合に支払うべき建替え承諾料・名義変更料額の算定、介入権を行使した地主が支払うべき対価の算定などを適切に行うために、弁護士・不動産鑑定士・建築士などの3人以上の鑑定委員が選任されます(鑑定委員会制度)。
借地非訟事件における鑑定委員への報酬などの費用は国が全額負担します。これに対して、調停や民事訴訟のプロセスで実施される鑑定については、当事者が実費負担しなければいけません。
4、借地非訟の弁護士費用が払えないときの対処法
借地権をめぐる紛争の解決方法として裁判所の借地非訟事件を選択すれば確実な解決を期待できるものの、裁判所への申立手数料や弁護士費用を合算すると、数十万円~数百万円の費用負担を避けられません。
そこで、借地非訟事件の弁護士費用などを払えないときには、以下4つの対処法が役立ちます。
- 裁判所を利用せずに交渉での解決を目指す
- 安価で借地非訟事件を受任してくれる弁護士事務所を探す
- 弁護士費用の分割払いを認めてくれる事務所を探す
- 法テラスを利用する
(1)交渉での解決を目指す
借地権をめぐる紛争は、当事者間で合意を形成できれば借地非訟事件として裁判所に申し立てる必要はありません。
つまり、交渉段階で合意に至れば、弁護士に依頼して借地非訟事件を申し立てた場合に発生する数十万円~数百万円もの費用負担を節約できるということです。
ただし、土地所有者と借地権者とが直接話し合いを進めても、利害が衝突するために円滑な合意形成には至りにくいでしょう。
そこで、交渉自体を借地権関係のトラブルに強い弁護士に依頼して、借地非訟事件に発展する前の段階で合意形成を目指してもらう方法が効果的だと考えられます。
弁護士に交渉を代理してもらえれば、高額の承諾料を要求する地主に対しても現実的な価格を呈示して折衝してくれますし、関係がこじれた地主に対しても冷静で粘り強く話し合いの場を設けてくれます。
なお、交渉を依頼することによって一定の弁護士費用は発生しますが、借地非訟事件依頼時に発生する費用よりは低額で収まるでしょう。
(2)低料金の事務所を探す
借地非訟事件や土地所有者との交渉を任せる弁護士を選ぶときには、複数の弁護士事務所に法律相談をして見積もりを提示してもらうのがおすすめです。
複数の弁護士を見比べれば低料金で受任してくれる事務所を見つけやすいですし、借地権関係に強い弁護士にも出会いやすいでしょう。
なお、法律相談だけを依頼する場合には、30分単位で相談料が発生する点にご注意ください。相談料も抑えたいなら、初回無料相談などのサービスを展開している事務所を選ぶと良いでしょう。
(3)分割払いが可能な事務所を探す
借地非訟事件のような高額の費用が発生するケースでは、一括払いで費用を支払うのは難しいという依頼者も少なくはないでしょう。
弁護士事務所の方針次第ですが、弁護士費用の分割払いを認めてくれる事務所も存在します。
ホームページで「分割払い可」を明示していなくても、支払い方法や期限などについて臨機応変に対応してくれる事務所も少なくないので、各弁護士事務所まで直接お問い合わせください。
(4)法テラスを利用する
弁護士費用の支払いが難しい状況なら、法テラス(日本司法支援センター)に相談するのも選択肢のひとつです。
法テラスとは、経済的な理由で弁護士に相談できない人などを対象に、情報提供業務や民事法律扶助業務などのサービスを提供している公的な法人のことです。
以下の資力基準(収入要件及び資産要件)を満たす場合に限って、3回までの無料法律相談や、借地非訟事件で発生する弁護士費用の立替えサービスを受けられます。
【収入要件】
世帯人数 | 手取月収額の基準(所在地によって差異あり) |
1人 | 182,000円以下 |
2人 | 251,000円以下 |
3人 | 272,000円以下 |
4人 | 299,000円以下 |
【資産要件】
世帯人数 | 資産合計額の基準(法律相談の場合は不動産価額は除外) |
1人 | 180万円 |
2人 | 250万円 |
3人 | 270万円 |
4人以上 | 300万円 |
ただし、借地非訟事件を検討中の方の場合、建物などの不動産を所有していることが大半です。
したがって、法テラスの費用立替え制度などを利用する際には、資産要件が壁になる可能性が高いでしょう。法テラスの利用可否については、直接お問い合わせください。
5、借地非訟を申し立てるなら借地権に強い弁護士に相談を!弁護士の選び方は?
借地非訟事件を申し立てるなら、借地権関係の紛争に強い弁護士に相談するのがおすすめです。
なぜなら、弁護士によって専門分野が異なるため、専門性の高い借地非訟案件に慣れた弁護士に依頼しなければ、交渉や借地非訟手続きを円滑に進められない可能性があるからです。
ここからは、借地権関係に強い弁護士の選び方を紹介します。
(1)不動産トラブルの解決実績が豊富にあるか
借地権関係に強い弁護士を選ぶときには、不動産トラブルの解決実績を確認してください。
特に、借地非訟事件の申立件数だけではなく、承諾料などの和解歴や借地条件の変更交渉で合意に至った件数を確認するのがポイントです。
ホームページに掲載されている取扱い業務や口コミを確認しても良いですし、法律相談の際に直接過去の実績について尋ねても差し支えありません。
(2)解決方法を柔軟に考えてくれるか
借地権関係のトラブルを依頼するなら、柔軟に解決方法を検討してくれる弁護士を選択しましょう。
たとえば、最初から地主との交渉可能性を一切検討せず、借地非訟事件を申し立てることしか考えていない弁護士はおすすめできません。
なぜなら、「交渉だけで事件を終わらせると弁護士費用が安くなる」などの自己本位的な考えをもっている可能性を否定できないからです。
状況に応じて、土地所有者との交渉を常に視野に入れながら、紛争解決までの時間も考慮して幅広い選択肢から依頼人の利益を最大化してくれる弁護士をご選任ください。
(3)話しやすく説明が分かりやすいか
弁護士を選ぶときには、話しやすさや熱意などの相性面も考慮してください。
なぜなら、依頼者の大切な不動産を取り扱う紛争なのに、相性の悪い弁護士を選任してしまうと、希望や不安を都度伝えにくくなってしまうからです。
特に、借地非訟紛争では相手方との交渉が重要な解決方法のひとつです。
不愛想で話が分かりにくい代理人では、相手方との交渉を円満に進められず、結果として、人間性が問題で合意形成に至らないということにもなりかねません。
したがって、「この人になら任せても安心できる」という性格の弁護士を選ぶべきだと考えられます。
まとめ
借地権関係の紛争を解決する手段として借地非訟事件を選択すると、高額な弁護士費用・裁判費用が発生します。
可能であれば、地主との間で合意を形成して、費用負担をできるだけ軽減した解決を目指すべきでしょう。
そのためには、借地権などの不動産関連紛争の実績豊富な弁護士に相談するのが最適です。
いくつかの弁護士事務所に相談したうえで、最も信頼に値する専門家へご依頼ください。