ロックダウンとはどういう措置?外国と日本との違いを弁護士が解説

ロックダウン

「ロックダウン」という措置についてご存知ですか?

コロナウイルスの感染拡大は、日本だけでなく世界的な問題となっています。
むしろ、日本よりも深刻な状況に陥っている国の方が多いといえます。
感染拡大が深刻な国においては、ロックダウンとよばれる都市などでの人の出入りを制限する措置がとられているケースも少なくないようです。
そのため、「日本でも近い将来ロックダウンが行われるのではないか」、「緊急事態宣言はロックダウンのための布石ではないか」と不安に感じている人も多いかもしれません。

そこで今回は、「ロックダウン」という措置について、外国で実施されている具体例や日本において行われる可能性などについてまとめてみました。

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1、ロックダウンとは?

ロックダウンとはどういう措置?外国での実施例や日本において実施される可能性

ロックダウンとは、都市封鎖と訳されることが多いように、道路・電車(公共交通機関)を通行止め・運行停止などの措置をとることで、「特定の地域における人の出入りを規制するための措置」のことを指している場合が多いといえます。

とはいえ、実際に行われている「ロックダウン」と呼ばれる措置は、特定地域への出入りや外出の自粛要請に過ぎないケースから、許可のない外出に罰則を科すケース(外出禁止令に近いケース)までその程度には違いがあることに注意しておく必要があるといえます。

2、外国におけるロックダウンの例

ロックダウンとはどういう措置?外国での実施例や日本において実施される可能性

日本におけるロックダウンの可能性について説明する前に、実際に外国で行われているロックダウンの具体例について確認しておきましょう。

実際に「ロックダウン」同じ言葉で表現される規制であっても、その内容は国によって大きな違いがあります。

(1)フランスの場合

フランスにおけるロックダウンは、「外出の規制」による人の隔離(移動の制限)が主な内容となっています。

フランスでは、下記のケースを除いた外出は原則として禁止されています。

  • テレワークできない必要不可欠な仕事
  • 生活必需品の買い物
  • 診察・治療 ・ 子供や弱い立場にある人の世話や、やむを得ない家族の理由
  • 適度な個人で行う運動
  • 司法・行政による召集
  • 行政当局の要請を受けて行う公益活動

です。

ロックダウンが行われているといっても「自宅から一歩も外に出ることはできない」というわけではありませんが、不自由であることに変わりありません。

(2)アメリカ(ニューヨーク州)の場合

アメリカは、州によって対応が異なりますので、ここではニューヨーク州(ニューヨークのある州)を例に説明していきます。

ニューヨーク州では、企業などに対しては「全従業員の出勤禁止」が命じられています。

したがって、勤務のための外出(を会社が従業員に命じること)は、州政府の規制に違反することになります。

学校は全面休校になっていますし、飲食店の店内営業(イートイン)も行われていません(テイクアウト・宅配営業は可能)。

ただし、医療・金融、公共交通といった生活や都市機能維持に必要不可欠な業種については、この規制の対象外となっています。

他方、市民に対しては、「外出の自粛」を求めるにとどまっています。

そのため、(健康維持やストレス発散を目的とした)散歩を行う人などがいないわけではないようです。

ただし、その場合には、他人との一定距離(いわゆるソーシャル・ディスタンス)を保つようにも求められています。

(3)インドの場合

ロックダウン事例で最も厳しい措置がとられている国の1つとしてインドが挙げられます。

インドのロックダウンは全土が対象ということもあり、地域ごとにランク付けされた内容に応じた措置がとられています。

このうち、危険度の高いランク(封じ込めゾーン(containment zone)とバッファーゾーン(buffer zone))に指定された区域では完全封鎖措置がとられ、家から外出することが完全に禁止されています。

これらの地域では、生活必需品の調達のための外出も禁止され宅配によって調達することになります。

そのため、都市部では多くの人が職を失い、一斉に郷里に帰省する行動がみられるといった混乱もあるようです。

また、外出(営業)の認められている食料品業者などへの誤った取り締まりなどが発生するといった事態も起きているようです。

3、日本において外国のようなロックダウンは行われるのか?

ロックダウンとはどういう措置?外国での実施例や日本において実施される可能性

上で触れたように、ひとくちに「ロックダウン」といっても、実際にとられている措置には大きな違いがあります。
そのため、外国におけるロックダウン事例をみる際には、禁止されている具体的な行動の内容や、それぞれの国の感染規模や公衆衛生の程度などの事情もふまえておく必要があるといえるでしょう。

たとえば、日本とインドでは、公衆衛生の程度も大きく違うわけですから、ウイルス蔓延防止のために必要とされる措置の程度にも違いがあってよいといえるわけです。
以上を踏まえた上で、日本において、外国で行われているようなロックダウンが行われうるのかということについても現行法の規定に基づいて確認していきたいと思います。

(1)新型コロナウイルスによる緊急事態宣言とロックダウンとの関係

先日、政府が新型コロナウイルスの感染拡大について緊急事態宣言を発令したことで、「東京などがロックダウンされるのではないか」と不安に感じている人も多いと思います。
たしかに、インターネット上の記事などにはそのような可能性を示唆する記事もないわけではないようです。
また、都知事が記者会見において「ロックダウンの必要性」について言及したことも、このような不安の原因となっているように思われます。

しかし、今回発令された緊急事態宣言は、上で紹介をしたような諸外国における「ロックダウン」の措置をただちに生じさせるようなものではありません。
今回の緊急事態宣言は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という法律に基づいて発令されたものですが、この法律にはいわゆるロックダウンの措置については何の規定も設けられていないからです。
行政機関は「法律に基づかない権限行使」を行うことはできませんので、通常の法律の解釈としては、緊急事態宣言発令によって(強制措置(罰則)を伴う)外出禁止・都市封鎖といったことは行えないというわけです。
実際に、内閣総理大臣の記者会見では、緊急事態宣言発令とロックダウンとの関係は否定されています。

【参考】安倍内閣総理大臣記者会見(首相官邸ウェブサイト)

なお、緊急事態宣言の法的な性質などについては、下記の記事で別に解説していますので、そちらを参考にしてください。 

(2)感染症法が定める措置

現行の法律において行うことができる「ロックダウンに類似する措置」としては、感染症法32条が定めている「交通の制限・遮断措置」を挙げることができます。
しかしながら、現状の感染症法の解釈では、今回の新型コロナウイルスの感染予防のための措置として「交通の制限・遮断措置」を講じることも難しいといえます。

なぜなら、感染症法33条に基づく「交通制限・遮断」は、感染症法が定めている「一類感染症」の蔓延予防のためでなければ実施することができないとされているからです(条文は下記のとおり)。
コロナウイルスは、「指定感染症」に指定されているに過ぎないので、少なくとも現時点では、この指定を変更しない限りは33条を発動できないと考えるべきでしょう。

感染症法33条

都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。

なお、感染症法によって「一類感染症」と指定されているのは、下記の感染症に限られています

  • エボラ出血熱
  • クリミア
  • コンゴ出血熱
  • 痘そう
  • 南米出血熱およびラッサ熱のウイルス性出血熱
  • ペスト ・ マールブルグ病

(3)現行法の下では諸外国のようなロックダウンは不可能

ここまで解説してきたように、いまの日本の法律の下では、強制的なロックダウン(都市封鎖)や、出勤禁止措置、外出禁止令の発令といったことを政府や都道府県が行うことはできないということになります。
なぜなら、行政機関は、法律によってあらかじめ定められた権限に基づいた措置(命令)しか行うことができないからです。
現在行われている「外出自粛の要請(お願い)」ですら、きちんとした法律根拠(新型インフルエンザ特別措置法)に基づいて行われているものです。
したがって、「明日、あさってにロックダウンされてしまう」ことを心配して、食料品・日用品などの買いだめなどを行う必要はないといえます。
こういうこときこそ、落ち着いた対応が自分の身の安全を守る意味でも重要といえるでしょう。

まとめ

社会的に大きな不安のある今のような状況においては、正しい情報と誤った情報(デマや憶測)が無秩序に飛び交ってしまい社会がさらに混乱してしまうことも珍しくありません。
しかしここまで解説してきたように、ロックダウンを行う(いまの外出自粛の要請を超える措置)ためには、「その措置を行えるだけの権限を定めたルールを作る」必要があります。
そのような動きが見受けられない以上、現時点では、「すぐにロックダウンが行われる」という可能性はかぎりなく低いものといえるでしょう。

不正確な情報に惑わされて、誤った行動をとる人が増えれば、さらに社会の混乱や新型コロナウイルスの感染も拡大してしまうという悪循環に陥ることにもなりかねないことに注意する必要があります。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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