貸したお金は借用書なしで取り返せるのでしょうか?
親しい身内や、友人、恋人からお金を貸して欲しいと頼まれると、なかなか断りにくいものです。
そこで今回は、
- 貸したお金を取り返すための方法
- 取り返すために必要な事情や証拠
- 借用書以外の証拠の具体例
- 借用書がない場合の対応
などについて解説していきます。
目次
1、そもそも借用書とは?
(1)いつ、誰が、誰から、幾ら借りたか明記されている
借用書は法律用語ではなく、法律で定義されているものではありません。
ただ、実務的によく作成されている借用書には、
- いつ
- 誰が
- 誰から
- 幾ら借りたか
が明記されていることが通常です。
たとえば、「私は、Aさんから、20××年×月×日、確かに100万円を借り受けました」と書かれているものが「借用書」と呼ばれるものです。
タイトルは「借用書」でも「借受書」でも「覚書」でも何でもよく、いつ、誰が、誰から、幾ら借りたかが書いてある書面のことを、一般的に「借用書」と呼びます。
(2)作成日付がなくても有効?
では借用書に作成日付が書かれていなくても証拠として有効なのでしょうか?
結論からいえば、作成日付が書かれてなくても有効です。
借用書は、いつ、誰が、誰から、幾ら借りたが明記され、これによってお金の貸し借りがあったことを証明することに意味があります。
したがって、少なくとも、これらの事柄が明記されていれば、借用書としての意味があり、日付が書かれてないだけで無効になることはありません。
ただ、借用書が作成されたのが、いつかが問題になることがあります。
たとえば、認知症になってしまった方にお金を貸したという人が借用書を持参して現れた場合には、その借用書が
- 認知症になる前に書かれたものであるのか
- 認知症になった後に書かれたものか
が問題となります。
こういったケースでは、借用書の日付が非常に重要な意味を持ちます。
このような極端な例でなくとも、いつ作成されたかが争いになることが少なくありません。
したがって、日付がないために証拠として無効になることはないとしても、きちんと日付を記入しておくことは大事です。
(3)返済日が書いてなくても有効?
借用書に返済日が書かれていなくても有効でしょうか?
たとえば、先に挙げた例のように「私は、Aさんから、20××年×月×日、確かに100万円を借り受けました。」とだけ書かれていて、返済日を明記していない場合でも証拠として有効でしょうか?
結論から申し上げると、これも有効です。
民法では、期限の定めのない消費貸借契約を定めており(民法591条1項)、この場合、貸主は相当の期間を定めて返還を請求できるとしています。
つまり、返済日を定めなくとも、それは「期限の定めのない金銭消費貸借契約」という契約が成立していることを示すだけで、返済日を定めていないことで、金銭消費貸借契約自体が無効になることにはなりません。
ただし、返済日を定めていない場合、上述のように、貸主はいつでも、相当の期間を定めて返還を求めることができ、借主からいえば、いつ返済を迫られても文句を言えないことになります。
通常、このようにいつでも返済を求めることができ、また、いつでも返済に応じることを合意していることは少なく、返済日や返済の時期を定めているはずです。
したがって、返済日を定めている場合には、返済日も明記しておくべきです。
(4)誰が保管しておくべき?
最後に、借用書は、誰が保管しておくべきでしょうか?
これについて正解はありませんが、通常、借用書は貸したお金の返還を請求する際に必要となる書類ですから、貸主が保管しておくべきです。
ただ、借主においても、覚えがない借入金の返還を迫られても困りますから、借用書を作成したときには、借主の側でも、少なくともコピー等の控えを保管しておくことが望ましいです。
借用書を作成する場合には、
- 貸主用
- 借主用
の2通りを作成しておき、それぞれで1通ずつを保管しておくことがベストといえます。
2、貸したお金は借用書なしで取り返せるか?
(1)貸したお金を返してもらうために必要な条件
貸したお金を借用書なしで取り返すことは可能でしょうか?
結論からいえば、借用書なしでもお金を取り返すことは可能です。
法的に、貸したお金を返せと請求するためには、
- お金の授受があったことと
- そのお金を返す約束があった
という2つの事実を立証することが条件とされています。
そして、借用書というのは、基本的には、「お金を返すという約束があったことを示す証拠」としての意味を持ちます。
他方、お金を返すという約束があったことは、借用書以外でも、たとえば「必ず返す」という趣旨の借主からのメールや、借主との会話の録音によっても立証することができます。
したがって、
- お金の授受があったことが証明でき
- 借用書以外の証拠によって、お金を返す約束があったことが立証できる場合
には、借用書がなくても貸したお金を取り返すことができます。
(2)借用書は必須ではない
以上のように、貸したお金を返してもらうために、借用証は必須ではありません。
現実的に考えても、数万円といった小さな金額の貸し借りや、身内や恋人など親しい間柄では、借用書を作成する手間や相手との関係性から、借用書を作成しないことが多々あります。
借用書がなければ一切お金を返してもらえないとすると、こういった貸し借りの大半が、借用書がないという理由だけで認められないことになりますが、これは明らかに不合理です。
法律は無理を要求しませんから、借用書がなければお金を返してもらえないということはありません。
ただし、逆に言うと、借用書などの書面を残すことが通常と考えられるような会社間の取引などの場合には、借用書がないこと自体が不自然であると考えられ、結果的に、貸したお金を取り返せないリスクがあります。
したがって、借用書は必須でないものの、借用書を作成できるのであれば、作成しておくに越したことはありません。
3、貸したお金を取り返すための方法には話し合いと裁判手続がある
(1)貸した人と話をする
貸したお金を取り返すための方法として、まず端的に、貸した相手と話をすることが考えられます。
お金が返ってこない理由が、単に忘れていたというだけのこともありますし、相手方に今のところ手持ちのお金がないということもあります。
そういった場合には、貸した相手ときちんと話をすることで、貸したお金を取り返すことができます。
(2)民事調停を起こす
話をしてもお金が返ってこない、あるいは、返す返すと言うものの一向に返ってこないといった場合、裁判手続を利用することが考えられます。
裁判手続の1つとして、調停手続があります。
これは次に説明する訴訟とは異なり、話し合いの手続です。
調停手続は、裁判所での話し合いであることや、調停委員という専門家の方が間に入って話し合いをするという点で、相手方との1対1の話し合いと異なっています。
調停委員は経験のある専門家の方なので、法的にみて返す必要があるお金であれば、調停委員から相手方に対して、返すよう説得してもらえることが期待できます。
また、調停で話し合いが整った場合には、調停調書という書面が作成されます。
調停調書は判決と同じ効力を持ちますから、相手方が約束を反故にして返さない場合には、相手方の口座情報を把握していれば、預金口座の差し押さえ等の強制執行手続をとることができます。
(3)訴訟を起こす
相手方が頑なにお金を返そうとしない場合、訴訟を起こすことが考えられます。
調停は、あくまで話し合いの手続ですから、相手方が頑なにお金を返すことを拒んだ場合には、いかに取り返す側の言い分に理由があったとしても、お金を取り返すことができません。
他方、訴訟では、取り返す側の主張に理由があると裁判所が認めた場合、判決という形で、強制的に「お金を返しなさい」という命令が出されます。
判決で命じられたにもかかわらず相手方が支払を拒むことも考えられますが、その場合には、預金口座の差し押さえ等の強制執行手続をとることが可能になります。
(4)調停と訴訟の違い
調停と訴訟は、同じ裁判所を使った手続であるものの、調停が話し合いの手続であるのに対し、訴訟は裁判所が強制的に結論を出す手続であるという点で異なっています。
また、訴訟では、お金を取り返す権利があることを証拠によって立証することが厳密に求められるのに対し、調停は、あくまで話し合いの手続であるため、訴訟ほどの厳密さは求められないという点で違いがあります。
そのため、実務的には、訴訟で勝ち切るには証拠が不十分と考えられる場合には、調停手続を選択し、話し合いによる解決を求めるという選択がとられることもあります。
4、訴訟で貸したお金を取り返すには?
(1)「金銭授受」と「返還約束」を証拠で立証することが必要
お金の貸し借りに関する契約のことを法律用語で、金銭消費貸借契約といいます。
訴訟でお金を取り返す場合、裁判所に、金銭消費貸借契約が成立しており、契約に基づいてお金を取り返す権利があることを認めてもらうことが必要です。
では、金銭消費貸借契約が成立したというのは、どういうことでしょうか。
法律の条文をみると、民法587条が、消費貸借契約について、
「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる」
引用:民法
と定めています。
つまり、消費貸借契約は、借主が金銭を「返還することを約して」、貸主から「金銭を受け取ること」によって、成立することになります。
この「返還することを約して」を「返還約束」、「金銭を受け取ること」を「金銭授受」と呼びます。
したがって、金銭消費貸借契約が成立したというためには、「金銭授受」と「返還約束」の2つの事実を主張することが必要で、この2つの事実があったことを証拠によって立証することが必要です。
①「金銭授受」とは?
「金銭授受」とは、現実に、お金の移動があったことをいいます。
手渡しで現金をやり取りする場面がイメージしやすいですが、振込による場合も当然含みます。
②「返還約束」とは?
「返還約束」とは、言葉どおり、返す約束のことをいいます。
「金銭授受」はあるものの、「返還約束」がない場合には、贈与契約となり、返す必要がないことになります。
「返還約束」には、期限を決めるものと、決めないものがあります。
期限を決めるものとは、たとえば、「××年×月×日までに返す」と決めておくものです。
期限を決めた場合、貸主は、決められた期限が来るまではお金を返せと求めることができません。
借主側からみれば、決められた期限が来るまでは返す必要がないことになります。
他方、期限を決めないものとは、「いつか返す」といったものです。
期限を決めない金銭消費貸借契約を、期限の定めのない金銭消費貸借契約といいます。
期限の定めのない金銭消費貸借契約の場合、貸主は、いつでも、相当の期間を定めた上で、お金を返すよう求めることができます。
借主側からみれば、お金を返せと言われたら断れないことになります。
(2)「金銭授受」を立証する証拠の具体例
①送金履歴
銀行口座からお金を振り込む方法でお金を貸した場合、預金口座の取引履歴に送金の履歴が残ります。
これは、「金銭授受」の直接的な証拠になります。
もっとも、借りた側の名前が取引履歴にきちんと残っていることが重要です。
たとえば、本当はAさんに貸したのに、Bさん名義の預金口座に振り込んだ場合、振込履歴だけでは、Aさんに対する「金銭授受」があったことを立証できない可能性があります。
貸した相手名義の預金口座に振り込めない事情がある場合には、通帳の取引履歴に「Aさんに貸した」などとメモを残しておくなどの対策を取ることが望ましいといえます。
②受領書
受領書は、貸した相手方から「確かに××円受領しました」などと書かれた書面です。
受領書は、「金銭授受」を直接証明するわけではありませんが、普通、お金を受け取ってもないのに受領書を作成することはありませんから、受領書があるということは、「金銭授受」があったことを強く推認させます。
預金口座への振り込み以外の方法でお金を貸す場合には、きちんと相手方から受領書を受け取っておくことが大事です。
③借用書
借用書には、「確かに、××円を借り受けました」などと書かれていることが通常です。
このような記載は、受領書と同様、「金銭授受」があったことを推認させる証拠として意味があります。
(3)「返還約束」を立証する証拠の具体例
①借用書
借用書には、「××年×月×日、確かに××円を借り受けました。××年×月×日までに必ず全額返します」などと記載されていることが通常です。
この記載のうち「××年×月×日までに必ず全額返します」という記載が、まさに「返還約束」にあたります。
では、「××年×月×日までに必ず全額返します」という記載がない場合は、どうでしょうか。
この場合でも、「借り受けました」という言葉自体が、「返還約束」を含むと考えられますから問題ありません。
通常、「返還約束」がなければ、「もらいました」、「譲り受けました」といった言葉になるはずだからです。
そして、「××年×月×日まで」という期限が定められていない点は、単に、その貸し借りが期限の定めのない金銭消費貸借契約であることを示すにとどまります。
②返金の履歴
お金を貸した後、毎月、一定額の振り込みが相手方からある場合、「返還約束」があったことが推認されます。
「返還約束」があったからこそ、毎月、実際に返金していると考えられるからです。
したがって、相手方からの返金の履歴は、「返還約束」を立証する証拠となります。
③LINE、メール、録音等
- LINE
- メール
- 録音
などで、「必ず返す」といった表現が残っている場合、それらも「返還約束」を立証する証拠となります。
ただし、LINE、メール、録音等は、文脈全体を読まなければ、何について「返す」と言っているのか分かりにくいという難点があります。
そこで、証拠としてLINE、メール、録音等を残す場合には、「××年×月×日に貸した××円のことだけど、きちんと返してもらえる?」などと告げてから、「必ず返す」という言質を取ることが望ましいといえます。
5、借用書がないときに、貸したお金を取り返すための方法
(1)話し合い・調停での解決を目指す
借用書がない場合でも、他の証拠で「金銭授受」と「返還約束」を立証できる場合には、理論上、裁判でお金を取り返すことができます。
もっとも、借用書がある場合には、よほどの事情がない限り、裁判でお金を返せという判決が得られる見込みが高いのに対し、借用書がない場合には、裁判で勝ちきれないというリスクが残ります。
そこで、まずは話し合いや、調停手続を利用して、お金を返してもらうよう求めることが考えられます。
よほど不誠実な相手でなければ、借用書がないことを逆手にとって、返還を拒むということは考えにくいですから、まずは話し合いをしてみることが勧められます。
(2)訴訟を起こす
①欠席判決を狙う
相手と連絡が取れないなどの理由で話し合いができない場合、ひとまず訴訟を起こして「欠席判決」を狙うという方法があります。
原告側が起こした訴訟に対し、被告側が何も反応せず、裁判期日にも出席しない場合、裁判所は、原告側の言い分をそのまま認める判決を出します。この判決のことを「欠席判決」といいます。
法律上、裁判所は、原告側が何も証拠を出さなくても「欠席判決」を出すことができます。
ただ、実務上は、裁判所が、証拠が一切ないまま「欠席判決」を出すことはほとんどなく、ある程度の証拠を求められることが通常です。
逆にいえば、ある程度、お金を貸しただろうと認められる証拠があれば「欠席判決」を得ることができます。
そこで、借用書がない場合でも、たとえば振り込みの履歴や、当時のLINE等のやり取りなどが残っている場合には、それらを証拠として揃えた上で、ひとまず訴訟を提起し、「欠席判決」を狙うという方法が考えられます。
②借用書の代わりにLINE、メール、録音等を証拠で出す
相手が裁判に出席し、お金を借りた事実を争ってきた場合、お金を取り返す側が、「金銭授受」と「返還約束」があったことを立証することが必要です。
そして、借用書がなくとも、他の証拠で「金銭授受」と「返還約束」が立証できれば、裁判でお金を取り戻すことができます。
たとえば、お金を振り込んだ送金履歴と、その前後に、LINEで
- 「お金貸して欲しいから、この口座に振り込んで欲しい」
- 「振込確認しました。××年×月×日までに返します」
というやり取りが残っていれば、借用書がなくとも、よほどの事情がない限り、返還しなくてはいけないという判決が出ます。
このように、借用書がなくとも、「金銭授受」と「返還約束」を立証する他の証拠を提出することで、裁判でお金を取り戻すことができます。
③「返還約束」があったことを推認させる事情を立証する
「金銭授受」の証拠はあるものの、「返還約束」を裏付ける確たる証拠がない場合、「返還約束」があったことを推認させる事情を立証することが考えられます。
たとえば、親族や恋人ほどの関係性がない、単なる友人同士や、知り合ってから間もない間柄の場合、通常、お金をあげることは少ないといえます。
特に、数百万といった大金であれば、尚更です。
また、お金をあげてしまうと、逆に生活に困るといった事情がある場合、通常、後で返してもらおうと考えるはずです。
このように、
- 当事者の関係性
- 金額の大小
- 当事者の経済状況
など「返還約束」があったと考えることが自然といえる事情を詳細に立証することで、借用書がない場合でも、「返還約束」を立証することができる場合があります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
借用証書がなくとも、お金を取り返せる可能性があることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
もっとも、いざという時、借用書は極めて重要な意味を持ちます。
裁判では証拠が重要ですから、お金を貸すときは、できれば借用書を、できなくても「金銭授受」と「返還約束」を立証できるような証拠を残しておきたいものです。