非免責債権とは、自己破産をして免責許可(裁判所に債務の支払い能力がないと判断され、債務が免責されること)を受けても支払い義務がなくならない請求権のことです。
そこで今回は、
- 非免責債権とは
- 非免責債権と免責不許可の違い
- 非免責債権があるときの対処法
などについて、債務整理事案の経験が豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
目次
1、非免責債権とは?
非免責債権とは、自己破産をしても免責の対象とならない請求権のことです。
そもそも、自己破産における免責許可決定は、やむを得ない事情で負債(借金)を抱え、返済に努めたものの支払い不能となった誠実な債務者(債権者に対して借金している人)を救済するための制度です。
しかし、債権の中には債務者の誠意にかかわらず、免責することが相当でないものもあります。
そのような債権については、債務者が自己破産をして免責許可決定を受けても免責の効力が及ばないものとされています。
非免責債権の種類は、破産法第253条1項に定められています。
また、民事再生法にも似たような規定がある上に、任意整理でも通常は非免責債権を減額することについて債権者の同意が得られません。
そのため、基本的に非免責債権は、どの債務整理の手続きをとっても減免が認められないことになります。
2、非免責債権があるときの対処
債務整理をしたくても、非免責債権を滞納している場合には、どうすればよいのかと悩んでしまうことでしょう。
そんなときには、以下の対処法をおすすめします。
(1)債務整理をする前に非免責債権を支払う
できる限り、債務整理をする前に非免責債権の滞納を解消してしまいましょう。
そうすれば、自己破産で免責許可を受ければすべての債権の支払い義務が消滅します。
借金で非免責債権を支払うのは、悪いことではありません。
借金を生活費や他の借金の返済に充てるのと同じことです。
免責の対象となる借金の返済よりも、非免責債権の支払いの方を優先する方が得策です。
なお、非免責債権を優先的に支払っても偏頗弁済として扱われることはないので、自己破産や個人再生の手続きに支障をきたすこともありません。
ただし、すぐにでも借金の返済を止めなければ生活に支障をきたすほどに切羽詰まっている場合は、無理をせず債務整理に踏み切ってください。
(2)非免責債権については減額や分割払いの交渉をする
債務整理をする前に滞納を解消できなかった非免責債権についても、相手方と交渉すれば負担を軽減できる可能性があります。
慰謝料などの損害賠償請求権や養育費、婚姻費用などの請求権は、相手方も私人(一般の人)ですので、交渉次第では減免されるケースも少なくありません。
減免が難しい場合でも、しばらくは支払いを待ってもらったり、分割払いを認めてもらえる余地もあるでしょう。
税金や社会保険料についても、
- 各種の減免制度
- 納付猶予制度
- 分納制度
があります。
管轄の役所に誠意を持って相談すれば、利用できる制度を案内してもらえるはずです。
3、非免責債権の種類
破産法第253条1項で定められている非免責債権は、以下のとおりです。
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
引用元:破産法
以上の非免責債権については、基本的に個人再生や任意整理でも減額は認められません。
それでは、それぞれの非免責債権について具体的な内容をみていきましょう。
(1)租税等の請求権
租税等の請求権とは、国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することができる請求権のことです(破産法第97条4号)。
具体的には、
- 所得税
- 住民税
- 固定資産税
- 自動車税
などをはじめとする各種税金がこれに当たります。
年金保険料や健康保険税などの社会保険料も、租税等の請求権に含まれます。
- 電気代
- ガス代
- 水道代
といった公共料金は、下水道代を除いて非免責債権には当たりません。
とはいえ、非免責債権に当たらない公共料金でも、破産手続き開始決定後に滞納した場合はライフラインを停められてしまうことがあるので注意が必要です。
(2)不法行為に基づく損害賠償請求権(一部)
不法行為に基づく損害賠償請求権のうち、以下のものは非免責債権とされています。
- 悪意による場合
- 故意または重過失により人の生命・身体を傷つけた場合
ここでいう「悪意」とは、単なる故意にとどまらず、積極的に相手に対して害悪を加える意思のことを意味します。
例えば、不倫は不法行為のひとつですので、不倫をすると配偶者から不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料を請求されることがあります。
ただ、通常の不倫のケースでは配偶者に対する「悪意」までは認められないので、慰謝料請求権は免責の対象となります。
しかし、単なる出来心ではなく、ことさらに配偶者を精神的に苦しめる目的を持って不倫をした場合には「悪意」が認められます。
この場合の慰謝料請求権は、非免責債権となります。
人の生命・身体を傷つける不法行為の場合は、故意または重過失に基づく場合のみ損害賠償請求権が非免責債権となります。
交通事故の大半のケースでは単純な「過失」にとどまるため、相手方に死傷の結果が生じたとしても免責の対象となります。
しかし、例えばあおり運転などでことさらに相手方の車を追い回して衝突させたような場合は、故意または重過失が認められ、非免責債権となる可能性が高いです。
(3)親族関係にかかる請求権
親族間で発生する以下のような請求権は、非免責債権とされています。
- 養育費請求権
- 婚姻費用分担請求権
- その他、親族間の扶養義務に基づく請求権
これらの請求権は、請求権者が生活していく上で重要なものですので、支払い義務者が自己破産で免責を許可されたとしても、免責の効力が及ばないものとされているのです。
(4)雇用関係に基づく使用人の請求権等
雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権等は、非免責債権とされています。
主に従業員の
- 給料
- 賞与
- 退職金
などの請求権がこれに該当します。
他人に雇われて労働する人にとって、給料等の請求権は生活を支えるために重要なものですので、免責の対象外とされているのです。
したがって、人を雇って事業を営んでいた個人事業主等が自己破産をした場合、免責を許可されても給料等の支払いを免れることはできません。
(5)債権者名簿に記載しなかった請求権
債権者名簿とは、自己破産を申し立てる際に裁判所へ提出する「債権者一覧表」のことです。
債権者一覧表に記載されなかった債権者には免責に対する意見を述べる機会が与えられないため、このような債権者を保護する必要性から免責の対象外とされているのです。
もっとも、本来は免責の対象となる債権の中で、免責されるものと免責されないものが発生すると、債権者間に不平等が生じます。
そのため、破産者が意図的に一部の債権を除外して作成した債権者一覧表を提出することは免責不許可事由とされています(破産法第252条1項7号)。
この場合には、除外した債権だけでなく、すべての債権について免責が認められないことになります。
なお、破産法上、非免責債権となるのは破産者が「知りながら」債権者一覧表に記載しなかった請求権に限られています。
しかし、上記の趣旨から、うっかり債権者一覧表に書き忘れた請求権も非免責債権になると解されていますので、注意が必要です。
(6)罰金等の請求権
「罰金等」には、
- 刑事罰としての罰金
- 科料
などの他にも、
- 行政罰としての過料
- 刑事訴訟費用
- 追徴金
なども含まれます。
これらの請求権には、支払い義務者に対する「制裁」という意味合いがあります。
誠実な債務者を救済するという自己破産の免責制度の趣旨とは相容れないものですので、免責の対象外とされています。
4、非免責債権と免責不許可の違い
非免責債権に似た言葉として「免責不許可」というものがありますが、両者は以下のように異なるものですので区別しておきましょう。
- 非免責債権…そもそも免責の対象外とされる債権
- 免責不許可…免責の対象となる債権について、一定の事由が存在する場合には免責が許可されないこと
自己破産の免責制度は「誠実な債務者を救済すること」にありますから、債務者が誠実とはいえない事由がある場合には、本来なら免責の対象となる債権であっても支払い義務を免除されないことがあるのです。
それが「免責不許可」というものです。
破産法第252条1項で、免責が認められない事由(免責不許可事由)として以下のものが定められています。
- 不当に財産の価値を減少させること
- 不当に過剰な債務を負担すること
- 不当な目的で偏頗弁済を行うこと
- 浪費や賭博、その他の射幸行為を行うこと
- 詐術を用いて借り入れなどをすること
- 財産の隠匿や帳簿等の改ざんを行うこと
- 虚偽の内容の債権者一覧表を提出すること
- 裁判所による調査に協力しないこと
- 破産管財人等の職務を妨害すること
- 直近7年以内に免責許可決定等を受け、その決定が確定したこと
- その他、破産法上の義務に違反すること
例えば、ギャンブルや遊びのために多額の借金をしたような場合は、程度によっては免責が許可されない可能性があります。
自己破産を申し立てる直前に家族や知人からの借金のみを完済したような場合も同様です。
免責不許可事由がある場合でも、事情によっては裁判所の裁量による免責が得られるケースもあります(同条2項)。
ただ、免責不許可となる可能性が高い場合には、自己破産ではなく個人再生または任意整理を検討した方がよいでしょう。
5、多額の非免責債権を抱えているときこそ債務整理が有効!
多額の非免責債権を抱えている方というのは、借金の返済に苦しんでいて、「借金も払えないのに税金などの支払いには手が回らない」という方が多いのではないでしょうか。
実はそんなときにこそ、弁護士に依頼して債務整理をすることが有効です。
弁護士に債務整理を依頼すると各債権者宛に受任通知書が送付され、それが債権者に届くと取り立てや督促がいったん止まります。
その後は債務整理手続きが終了するまで借金を返済する必要もありません。
それまで借金の返済に充てていたお金を、滞納している非免責債権の支払いに充てることができるようになります。
順調にいけば、債務整理の具体的な手続きを始める前に非免責債権の滞納を解消し、無事、すべての債務から解放されることも可能となります。
非免責債権を支払うためにこそ、一般的な借金については早めに債務整理に踏み切り、返済の負担を軽減させる方が得策といえます。
6、非免責債権が気になるときは弁護士に相談を
非免責債権が気になるときでも、弁護士の力を借りれば解決しやすくなります。
早めに相談することで、金銭の問題をよりスムーズに解決できる可能性が高まるはずです。
弁護士に相談・依頼することによって、以下のメリットが得られます。
(1)非免責債権に該当するか判断してもらえる
何が非免責債権に該当するのかについては前記「2」で解説しましたが、実際には判断に迷う債権もあります。
特に、損害賠償請求権について、
- 悪意
- 故意
- 重過失
があるかどうかを判断するためには、専門的な知識が要求されます。
弁護士に相談すれば、法的な観点から非免責債権に該当するかどうかを的確に判断してもらえます。
(2)非免責債権の減免・分割払いの交渉をしてもらえることもある
非免責債権の種類にもよりますが、相手方との減免・分割払いの交渉も依頼できることがあります。
例えば、(元)配偶者に支払わなければならない
- 慰謝料
- 養育費
- 婚姻費用
などは、弁護士を間に入れて交渉した方が支払いの負担を軽減できる可能性が高いといえます。
困っていることをすべて弁護士に話せば、全面的なサポートを受けることも可能です。
(3)最善の解決方法を提案してもらえる
弁護士に相談・依頼するメリットとして、最善の解決方法を提案してもらえるということも挙げられます。
ご自身としては自己破産を希望していても、事情によっては免責不許可事由があるため自己破産には適していないというケースもあります。
また、借金額や収入によっては、自己破産をしなくても個人再生または任意整理で解決可能というケースもあります。
適切な方法を選択できなければ債務整理に失敗し、借金も非免責債権もそのまま残ることにもなりかねません。
弁護士に詳しい事情を話せば、非免責債権の金額も考慮した上で、状況に応じて最善の解決方法を提案してもらえます。
まとめ
非免責債権は自己破産をはじめとする債務整理でも免除されませんので、厳しい状況に直面することもあるでしょう。
他にも借金を抱えている場合には、債務整理で借金問題を解決した上で非免責債権を支払っていくことが現実的な解決策であり、得策であるといえます。
非免責債権でお困りの場合は、お早めに弁護士にご相談の上、最善の解決方法で対処していきましょう。