自己破産をすると借金がチャラになる、といいますが、借金をチャラにしてもらうための免責とはどのような仕組みなのでしょうか。
また、自己破産をすると必ず免責は許可されるのか、免責されれば全ての債務の支払い義務がなくなるのか等、自己破産において最も重要な免責制度について、多数の自己破産事件で免責決定を得てきた実績を持つベリーベスト法律事務所の弁護士が徹底解説します。
「自己破産の手続き」に関しては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、自己破産における免責とは
(1)免責とは?
自己破産における免責とは、借金などの債務の支払い義務がなくなることを言います。
このことについて、自己破産すると借金がゼロになる、とか、自己破産すると借金が帳消しになる、などと説明される場合が多いのですが、自己破産をしただけで、借金の支払い義務がなくなるわけではありません。
借金の支払い義務がなくなるためには、自己破産手続きにおいて、裁判所から免責決定をもらう必要があります。
自己破産手続きにおいては、一定の事由(免責不許可事由)がある場合には免責が許可されない場合があることや、免責決定がでても支払い義務がなくならない債権(非免責債権)があることに注意が必要です。
(2)免責制度の趣旨は?
自己破産において免責が認められると、借金の支払い義務がなくなるということは、債権者からみると、借金を踏み倒されたかたちになってしまい、大きな損害を被るともいえます。
しかし、何らかの理由で、多額の借金を負ってしまった場合に、その方に財産がない場合(財産をすべて売っても借金を返済できない場合)は、労働することによって収入を得て返済するしかなく、働いても返済できないほどの借金がある場合は、死ぬまで働いて返済をしなければならないことになります。
そのような状態が死ぬまで続くとなると、働くことによる生活の向上も見込めず、働く意欲すらなくなってしまうと考えられます。
このように、借金の返済に追われて貧困状態に陥った者の生産性は低くならざるを得なくなることや、その子供が貧困のために教育の機会等を失うことは社会全体にとって損失であるという考え方から、不誠実ではない債務者を借金から解放することで、人間らしい生活を営む機会を与えることが、ひいては再度社会に貢献してもらうことに繋がるというのが免責制度の趣旨です。
特に、今日においては、クレジットカードやローン等は我々の生活に欠かせないものとなっており、一定の割合の者が返済能力を超えて借金を背負ってしまうことも避けられないといえます。
そのような社会情勢のもとで、多重債務を負った人間も社会の枠組みから外れることなく、再起を期す機会を与えられることは、経済社会にとって必要不可欠なものといえるのです。
また、確かに、免責制度は債権者の犠牲のもとに成り立っているといえます。
しかし、そもそも自己破産をして免責に至るような場合は、債務者に返済能力がない場合ですから、債権者に対する実質的な損害はさほど大きくない(結局どちらにしても債権者は回収がほとんどできない可能性が高い)という点も、免責制度が許容されている理由といえます。
2、自己破産で免責されるための条件
自己破産で免責されるためには、次の2点を満たす必要があります。
- 破産者が免責不許可事由に該当しないこと
- 債権が非免責債権に該当しないこと
免責不許可事由については、このページの「5、自己破産しても免責にならない免責不許可事由とは」の項目で、非免責債権については、このページの「9、自己破産して免責決定が出たのに免責されない非免責債権とは」の項目で詳しく説明します。
3、自己破産で免責許可決定が出るまでの流れ
自己破産を申し立てた者が免責決定を得るためには、免責許可の申し立てを行う必要があるとされています。
ただ、現在の破産法においては、自己破産の申し立てをした場合は、特に反対の意思が表明されていない限り、自己破産の申し立てと同時に免責許可の申し立てをしたものとみなされるため、あらためて申立て等の手続きを行う必要はありません。
なお、一般的には、裁判所が免責を認めるかどうかを判断するに際して、免責審尋が行われることが多いです。
多くの裁判所では、同時廃止の場合、自己破産の申し立てがなされた後すぐに、管財事件の場合は、破産管財人による資産の換価処分が終わった後に、免責審尋の期日が指定されます。
免責審尋の期日においては、破産者が裁判所で裁判官と面接をし、免責不許可事由がないかどうか、免責を認めて問題ないかどうかを確認するための質問が行われます。
免責審尋は、裁判所によって運用が異なり、裁判官と1対1で面接をする方法や破産者を数十人まとめて一つの部屋に呼び出して集団で行う方法で行われます。
提出した書類に誤りや虚偽の申告があったり、免責不許可事由があったりする場合でなければ、さほど心配する必要はありません。
4、自己破産の手続きで免責決定が出るまでの期間
同時廃止の場合、自己破産の申し立てから免責審尋が行われるまでの期間は、裁判所によっても異なりますが、おおよそ1~2か月程度の場合が一般的です。
そして、免責審尋の1週間後くらいに免責決定がなされます。
免責決定がなされてから、2週間の間に債権者から異議が出なかった場合は、免責決定が確定し、借金の支払い義務がなくなることが確定します。
管財事件の場合は、財産の換価にどの程度時間がかかるかによって、免責決定が出るまでの期間は様々ですが、早くても3ヶ月程度、長い場合は1年以上かかる場合も珍しくありません。
5、自己破産しても免責にならない免責不許可事由とは
免責制度は、不誠実でない債務者を借金の重圧から救うことにその意義があるため、逆に、「不誠実な」債務者は免責が許可されない場合があります。
この点について、破産法は、252条第1項において、「免責不許可事由」を規定し、これらの事由がある場合は、免責が許可されない場合があると定めています。
<破産法252条第1項>
① 債権者を害する目的で,破産財団に属し,又は属すべき財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと
② 破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと
③ 特定の債権者に対する債務について,当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で,担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって,債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
④ 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと
⑤ 破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に,破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら,当該事実がないと信じさせるため,詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと
⑥ 業務及び財産の状況に関する帳簿,書類その他の物件を隠滅し,偽造し,又は変造したこと
⑦ 虚偽の債権者名簿(第248条第5項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと
⑧ 破産手続において裁判所が行う調査において,説明を拒み,又は虚偽の説明をしたこと
⑨ 不正の手段により,破産管財人,保全管理人,破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと
⑩ 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において,それぞれイからハまでに定める日から7年以内に免責許可の申立てがあったこと
イ 免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日
ロ 民事再生法(平成11年法律第225号)第239条第1項 に規定する給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
ハ 民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日⑪ 第40条第1項第1号,第41条又は第250条第2項に規定する義務その他この法律に定める義務に違反したこと
上記の条文をそのまま読んでも、すぐに全ての意味は理解できないかもしれませんが、免責不許可事由は、大きく分けて3つのグループに分類できます。
(1)債権者を害する行為をしたもの(上記の①~⑦)
上記の①から⑦の事由は、債権者を害する行為について列挙されています。
例えば、債権者への配当に回されるはずの財産を隠したり、壊したり、不当に安く他人に売却したりする行為(①)や、支払い不能の状態にあるのに、高利の借金をしたり、クレジットカードで購入した商品を不当に安く換金したりする行為(②)、家族や友人など特定の債権者だけに債務の返済をした場合(③)があります。
また、借金の原因が、「賭博」や「浪費」、「射幸行為」にある場合(④)も、免責不許可事由となります。
「賭博」とは、パチンコや競馬などのギャンブルをいい、「浪費」は収入からみて不相応な高級品の購入などをいいます。
「射幸行為」はFX取引等がこれにあたります。
さらに、自己破産の申し立ての日の1年前の日以降に、借金が返済できない状況であるのを知りつつ、それを隠してローンで商品を購入したような場合(⑤)も債権者を害する行為として免責不許可事由になります。
その他、業務や財産状況に関する帳簿などを隠したり、偽造・変造したり(⑥)、裁判所に提出する債権者名簿に虚偽の事項を記載したりした場合(特定の債権者をあえて記載しないとか、架空の債権者を記載する等)(⑦)も、免責不許可事由となります。
(2)破産法上の規定に違反したもの(上記の⑧・⑨・⑪)
自己破産手続の手続き中に、裁判所の指示に従わないような行為があった場合も免責が許可されない可能性があります。
裁判所の調査において、説明を拒んだり、虚偽の説明をしたりした場合(⑧)や、破産管財人等の職務を妨害した場合(⑨)、その他破産法上の手続において協力しなかった場合(⑪)が、免責不許可事由となります。
(3)免責制度の制度上の観点から免責されないもの(上記の⑩)
また、過去に免責許可による救済を受けながら、経済的更生を図ることができず、遠くない期間の間に再び破産の状態に陥ってしまった場合、そのような者を再度救済するのは好ましくないという政策的観点から、7年以内に免責決定を受けている場合や7年以内に給与所得者等再生による再生計画の認可を受けている場合(⑩)は、免責不許可の対象とされています。
6、免責不許可事由があっても自己破産の免責を許可してもらう方法
前記のように、免責不許可事がある場合は、免責されない場合があります。
ただ、破産法は、免責不許可事由に該当する事由があっても,裁判所は、「破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは,免責許可の決定をすることができる。」(252条第2項)と規定しています。
これを裁量免責といいます。
自己破産の最大の目的は免責を許可してもらうことです。ですから、免責不許可事由がある場合は、裁判所の裁量免責を許可してもらうことが重要です。
7、裁判所に裁量免責(自己破産の免責)を認めてもらうには
裁量免責は、免責不許可事由があるにもかかわらず、免責を認めてもらおうとするのですから、その理由を裁判所にしっかりと説明する必要があります。
例えば、ギャンブルや浪費が破産の原因となっているときは、ギャンブルや浪費につぎこんだ金額が全体の借金の割合に対して低いことを主張したり、今後ギャンブルや浪費を行わないことの誓約書や反省文等を提出したり、また、ここ最近ギャンブルや浪費を行っておらず、きちんと家計を管理していることを証明するために、直近の家計簿(収支表)等を提出したりする等の方法があります。
このような説明は、裁判所から求められるものではないので(裁判所は提出された書類をもとに判断するので)、免責不許可事由に該当する可能性のある人は、自らこのような説明をする必要があります。
ですから、免責不許可事由に該当する可能性がある場合は、裁量免責を認めてもらうために、どのような書類を提出すべきか、弁護士等の専門家に事前に相談することも大切です。
なお、裁判所が裁量免責を行うかどうか判断する場合、財産がない場合であっても破産管財人を選任し、裁量免責してもよいかどうかについて調査をさせる場合があります。
8、自己破産で免責不許可になる割合
自己破産においては、破産法の定める免責不許可事由がない限り、基本的には免責が許可されます。
また、免責不許可事由があっても、裁判所が裁量免責を認めてくれる場合もあります。
では、実際に免責不許可になる場合は、どの程度あるのでしょうか。
最高裁が発表している司法統計においては、免責不許可決定の件数が発表されていないため、実際に免責不許可となった事案が何件あるかを調査することは不可能です。
しかし、2014年の日本弁護連合会の調査によると、全国の自己破産の事件から、弁護士が申し立ての代理人となった事案のうち、無作為に抽出した1200件強の事案を分析したところ、免責不許可となったのは0件だったということです。
ただ、これは弁護士が代理人としてついていた事案だけの調査だけという特殊事情はあります。
また、このデータを見ると、取下げが2.75%あったのですが、実際に免責不許可になりそうな事案は、裁判所から取下げを促されるという事情もあるので、この2.75%の中には、免責が許可されそうになかった事案があるのではないかと思われます。
ただ、いずれにせよ、免責不許可になる割合は、極めて少ないといってもよさそうです。
9、自己破産して免責決定が出たのに免責されない非免責債権とは
自己破産をして免責決定が出ても、全ての借金について支払い義務がなくなるわけではありません。
免責が許可されても支払う義務を負っている債権のことを非免責債権(免責されない債権)といいます。
非免責債権には、次のようなものがあります。
(1)税金や罰金
所得税や住民性・固定資産税等の税金や健康保険料、年金保険料等の国や地方公共団体に支払うべきものについては、自己破産をして免責が許可されても支払い義務はなくなりません。
ですから、自己破産を申し立てた際に滞納があっても、それは自己破産後も何とかして支払っていかなければなりません。
国に対して支払い義務を負っている罰金(交通違反の罰金等)も同様です。
(2)養育費、婚姻費用
養育費や婚姻費用のように、自己破産をした者が扶養義務を負っているものについては、自己破産の申し立て前に発生しているものについても、免責されません。
(3)悪意または重過失による他人の生命又は身体に対する不法行為に基づく損害賠償請求権
他人の生命又は身体に対する不法行為によって損害賠償の義務を負っている場合、例えば、交通事故で他人を傷つけたり、暴行によって他人にけがを負わせたり、精神的な損害を与えたり(慰謝料)した場合に、それが単なる過失ではなく、「悪意又は重過失」によるもの(つまり通常の過失よりも悪質なもの)と認定された場合、自己破産で免責決定を得ても、支払い義務がなくなることはありません。
まとめ
自己破産の最大の目的は、借金から解放され、人生の再スタートを切るという点にあります。
そのためには、裁判所に免責を認めてもらう必要があります。実際には、免責が認められない割合は非常に少ないといえますが、絶対に免責が認められるとは限りません。
自分が免責不許可事由に該当するのではないかと心配な方は、裁判所から裁量免責を認めてもらうよう、破産の手続きの中でしっかりと事情を説明することが大切です。
そのためには、弁護士等の専門家に事前に相談して、裁量免責を許可してもらえる方法についてのアドバイスをもらったり、実際に申し立ての代理を依頼したりすることをおすすめします。
「自己破産」に関する詳細は以下の関連記事をご参照ください。