心理的瑕疵物件とは?回避する方法と入居してしまったときの対処法

心理的瑕疵物件

心理的瑕疵物件とは、不動産取引において、買主や借主が事情を知れば心理的な抵抗を生じるおそれがある物件のことです。過去に物件内で自殺や他殺、事故死などが発生した「事故物件」もその一種ですが、心理的瑕疵物件は事故物件も含む、より広い意味を持つものです。

今回は、安心して不動産取引を行っていただくために、

  • 心理的瑕疵物件とは
  • 心理的瑕疵物件かどうかを調べる方法
  • 心理的瑕疵の告知義務とは

などについて解説していきます。

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1、心理的瑕疵物件とは?事故物件との違いは?

まずは、心理的瑕疵物件の意味を正確に理解しておきましょう。

心理的瑕疵物件と事故物件は同じ意味ではありませんので、その違いも確認しておきましょう。

(1)心理的瑕疵物件の意味

心理的瑕疵物件という言葉の中の「瑕疵」とは、本来備わっていなければならない品質、性能、機能、状態が欠けていることをいいます。

土地や建物そのものに欠陥が生じている「物理的瑕疵」や、建築基準法等の法令に抵触している「法律的瑕疵」がある物件ではありません。

それでも、買主や借主が心理的な抵抗を感じるおそれがある物件が、「心理的瑕疵物件」に当たります。

具体的にどのような事情があれば心理的瑕疵物件に当たるのかについて、法律上の明確な基準はありません。

一般的に心理的瑕疵物件と呼ばれるのは、主に以下のような事情がある場合です。

  • 過去にその物件内で自殺・他殺・事故死が発生した
  • 過去にその物件の周辺で事件・事故・火災があった
  • その物件の周辺に「嫌悪施設」がある
  • その物件の周辺に指定暴力団の事務所がある

嫌悪施設とは、その存在が周囲の人から迷惑がられ、嫌われるような施設のことです。

墓場や火葬場、葬儀場、学校、遊戯施設、工場、その他にも騒音や悪臭が発生する施設、大気汚染・土壌汚染などを誘発する施設などが該当します。

分かりやすくまとめると、心理的瑕疵物件とは買主や借主が「その事情を事前に知っていたら契約しなかった」と考えるような物件であるといえます。

(2)事故物件との違い

事故物件という言葉にも法律上の明確な定義はありませんが、一般的には過去にその物件内で自殺・他殺・事故死が発生したもののことを指します。

同じマンション内や、アパート内の他の部屋や共用部分で自殺・他殺・事故死が発生した場合も含めて、事故物件と呼ぶこともあります。

心理的瑕疵物件とは異なり、その物件の周辺に嫌悪施設や暴力団の事務所があるものは事故物件とは呼びません。

事故物件は心理的瑕疵物件の一種であり、心理的瑕疵物件は事故物件を含む広い概念であるといえます。

2、心理的瑕疵物件かどうかを調べる方法

それでは、住まいを購入したり賃借したりする場合に、心理的瑕疵物件を回避するにはどうすればよいのでしょうか。

心理的瑕疵物件を100%回避することは難しいかもしれませんが、以下の点に注意すれば高い確率で回避することができるはずです。

(1)物件概要をチェックする

多くの人が、家を探すときには物件広告をチェックすることでしょう。

心理的瑕疵物件については、物件の概要欄に「告知事項あり」、「心理的瑕疵あり」などと記載されていることがあります。

このような記載がある物件は、候補から外しましょう。

その物件が気になるときは、契約前に売主・貸主または仲介の不動産会社(宅建業者)から、どのような事情があるのかをしっかりと確認すべきです。

心理的瑕疵物件であっても、必ずしも物件広告にその旨が記載されるわけではないことにご注意ください。

不動産会社(宅建業者)には瑕疵を告知する義務が課せられていますが、契約が成立するまでに告知すればよく、広告に記載して告知しなければならない義務はないからです。

そのため、さらに以下の調査を行いましょう。

(2)価格・家賃が相場より安すぎないかを確認する

不動産の価格や家賃は、地域ごとに相場が形成されています。

通常の物件は、おおむね相場の範囲内で価格・家賃が設定されています。

同じ地域内に同程度の物件があれば、おおよそ同程度の価格・家賃が設定されているはずです。

価格や家賃が相場よりも大幅に安い物件があれば、それは心理的瑕疵物件である可能性が十分にあります。

ただし、既存住宅の価格や家賃は、築年数、交通アクセス、周辺の環境、付帯設備などによって大きく異なることがあります。

心理的瑕疵物件かどうかを調べる際には、近隣にある同程度の物件の価格・家賃と比較することが必要です。

(3)不動産会社に尋ねる

以上の下調べをした上で、不動産会社と商談を行う際には、不安なことを遠慮せず尋ねるようにしましょう。

不動産会社の中には、告知義務に違反して心理的瑕疵物件を隠したまま契約を勧める業者もいます。

もっとも、多くの業者は適正に告知しますし、尋ねれば告知義務の範囲外の事情も教えてくれるものです。

不動産会社は多数の物件を抱えていますので、心理的瑕疵物件を嫌がる顧客に対しては、瑕疵のない別の物件を紹介して契約することで利益が得られます。

不安なことは遠慮なく尋ねる方がよいでしょう。

(4)近隣住民に聞く

それでも気になる場合は、近隣住民から話を聞いてみることが有効でしょう。

物件と利害関係のない第三者の話は、参考になることが多いからです。

ただし、当然ながら近隣住民にはさまざまな性格の人がいます。
良心的に本当のことを語ってくれる人ばかりだとは限りません。

近隣住民への聞き込みはできる範囲で行うこととし、あまりこだわりすぎない方がよいでしょう。

(5)インターネットで調べる

気になる物件が心理的瑕疵物件かどうか、インターネット上の調査で判明することもあります。

  • 物件の住所 事故(事件)
  • 物件名 事故(事件)
  • その地域の地名 事故(事件)

で検索すると、過去の事件・事故に関する記事を確認できることがあります。

ただし、ニュース記事は短期間で削除されることが多いですし、事件・事故が発生した詳しい住所や物件名までは掲載されていないことも多いです。

事件・事故の後に物件名が変更されることも少なくありません。

全国の事故物件を掲載しているサイトを参照するのもよいことですが、あらゆる心理的瑕疵物件が漏れなく掲載されているわけでないことは知っておくべきです。

SNSや、ネットの匿名の掲示板への書き込みなどの情報は真偽が入り交じっているのが実情ですので、振り回されないようにしましょう。

以上の調査で、心理的瑕疵物件が100%判明するわけではありません。

しかし、ここまで調べて心理的瑕疵物件の痕跡がなかったのであれば、それ以上の詮索はやめて契約に進んだ方がよいでしょう。

いつまで経っても契約できないことになりかねません。

万が一、心理的瑕疵物件に入居してしまった場合の対処法については、後ほど「4」で解説します。

3、不動産会社には心理的瑕疵の告知義務がある

不動産会社は、物件の売買・賃貸を仲介する場合、その物件に心理的瑕疵があれば、契約の各当事者に対して告知すべき義務を負っています。

この義務のことを、「告知義務」といいます。

告知義務があるのなら安心だと考える人もいるかもしれません。

ですが、告知義務にも一定の限界があります。
物件内や、物件の周辺で発生した人の死や事件・事故のすべてが対象となるわけではないのです。

本章では、告知義務の内容について詳しく解説します。

(1)告知義務とは

告知義務は、不動産会社が物件の売買・賃貸を仲介する場合、その物件に何らかの欠陥や不具合があれば、その事実を契約前に買主・借主に対して伝えなければならない義務です(宅建業法第35条)。

心理的瑕疵も、通常の人が「事前に知っていたら契約しない」と考える以上、契約上重要な事項に当たりますので、告知義務の対象となります。

不動産会社は、事実を知りながら故意に告げないことや、誤った事実を伝えることを禁止されています。

問題は、どのような事実が「告知義務の対象となる心理的瑕疵」に含まれるのかという点です。

(2)告知義務の内容

前記「1」でご説明したように、「心理的瑕疵物件」にも「事故物件」にも明確な定義はありません。

以前はどのような事実を告知するかの基準が不動産会社によって異なっており、そのために買主・借主とのトラブルも少なからず発生していました。

そこで、国土交通省から2021年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)が発表されました。このガイドラインで、告知義務の範囲について一定のルールが示されることとなったのです。

なお、ガイドラインは居住用不動産にのみ適用されるものであり、事業用不動産には適用されません。

ガイドラインでは、不動産会社が「告知しなくてもよい事実」を列挙しています。そのうえで、人の死に関するそれ以外の事案のうち「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合」は告知しなければならないとされています。

告知しなくてもよい事実は、以下のとおりです。

①賃貸借・売買の対象不動産で自然死・日常生活の中での不慮の死が発生した場合

自然死とは主に病死や老衰による死のことを指し、日常生活の中での不慮の死とは、例えば転倒事故や誤嚥などによる死のことを指します。

要するに、事件性のない人の死亡と言い換えることができます。

孤独死も、基本的には「自然死」に該当し、告知義務の対象となりません。

②賃貸借の対象不動産で上記①以外の死が発生し、その後おおむね3年が経過した場合

自殺や殺人事件による死、火災による焼死・窒息死などが発生した場合は告知義務の対象となります。

しかし、これらの場合でも死の発生からおおむね3年が経過した後は、告知義務がなくなるということです。

③上記①の死が発生して特殊清掃が行われた場合、死の発生からおおむね3年が経過した場合

孤独死等で長期間発見されずに遺体が腐敗するなどして、特殊清掃が行われた場合は告知義務の対象となります。

しかし、死の発生からおおむね3年が経過すると告知義務がなくなります。

④賃貸借・売買の対象不動産の隣接住戸で①以外の死が発生した場合

契約しようとしている物件内ではなく、隣の物件で自殺や殺人事件による死、火災による焼死・窒息死などが発生した場合は告知義務の対象となりません。

⑤賃貸借・売買の対象不動産の隣接住戸で①の死が発生し特殊清掃が行われた場合

孤独死等で特殊清掃が行われた事案についても、契約しようとしている物件内ではなく隣の物件で発生した場合には、告知義務の対象となりません。

⑥賃貸借・売買の対象不動産が集合住宅で、買主・借主が日常生活で通常使用しない共用部分で①以外の死が発生した場合

集合住宅とは、マンション・アパート・コーポなどのことです。

集合住宅内の共用部分(玄関、エレベーター、階段、廊下等)で発生した自殺や殺人事件による死、火災による焼死・窒息死などでも、買主・借主が日常生活で通常使用しない部分で発生した場合は告知義務の対象となりません。

⑦賃貸借・売買の対象不動産が集合住宅で、買主・借主が日常生活で通常使用しない共用部分で①の死が発生し特殊清掃が行われた場合

孤独死等で特殊清掃が行われた事案が⑥と同様の部分で発生した場合も、告知義務の対象となりません。

ただし、①~⑦の基準は絶対的なものではありません。

告知義務がないとされている事案でも、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い場合など、特段の事情がある場合には告知義務が発生する場合もあるとされています。

告知義務のある事案が、特段の事情によって告知義務なしとされることはありません。

居住用不動産の買主・借主にとっては、ガイドラインが示されたことによって以前よりも安心できる状況になっているといえます。

4、告知義務違反で心理的瑕疵物件に入居してしまったときの対処法

もし、告知義務違反で心理的瑕疵物件に入居してしまった場合は、契約を解除することができます。

契約を解除しない場合は、売買代金や家賃の減額請求が可能です。これらの請求とは別に、損害賠償も請求できます。

(1)契約を解除する

告知を受けずに心理的瑕疵物件を購入してしまった場合は、目的物が契約の内容に適合していないことになります。

つまり、売主は債務の本旨に従った履行をしていませんので、買主は債務不履行を理由として売買契約を直ちに解除できます(民法第542条)。

賃貸借の場合も同様に、借主は貸主の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除できるのです。

(2)売買代金・家賃の減額を請求する

心理的瑕疵に気付いても契約を解除せず、その物件に住み続ける場合は、売買代金・家賃の減額請求が可能です。

売買の場合、買主は売主の契約不適合責任に基づき、売買代金の減額を請求できます(民法第563条)。

賃貸借の場合は、賃借物の一部が使用不能になったものとして、家賃の減額請求が可能と考えられます(民法第611条)。

適正な売買代金・家賃がいくらであるのかについては、売主・貸主との交渉が必要です。

(3)損害賠償請求をする

以上の請求とは別に、買主・借主は損害賠償請求も可能です。

不動産会社の仲介で契約した場合、通常は宅建法上の説明義務違反(告知義務違反)という不法行為に基づき、不動産会社に対して損害賠償請求も可能です(民法第709条、第710条)。

請求できる賠償金としては、売買契約や賃貸借契約に要した費用や、売買の場合は登記費用、引越し代などです。

上記に加えて、心理的瑕疵物件に居住することを余儀なくされたことに対する慰謝料の請求も可能な場合があります。

5、心理的瑕疵物件への不動産会社の対応に疑問があるときは弁護士に相談

心理的瑕疵の告知義務に関するガイドラインが示されたとはいえ、その内容にはなお曖昧な部分もあります。

すべての不動産会社が、ガイドラインを遵守するという保証もありません。

不動産会社の対応が信用しきれないと感じたときは、弁護士に相談してみることをおすすめします。

ガイドラインの内容はやや複雑ですが、弁護士に相談すれば分かりやすく教えてくれます。
「不動産会社が言わない事件や事故があるとすれば、どのようなことが考えられるか?」といった疑問に対してもアドバイスが得られることでしょう。

不動産取引の経験が豊富な弁護士であれば、心理的瑕疵物件かどうかを見抜くために、どのような点をチェックすることが有効かについても教えてもらえるでしょう。

地元の弁護士であれば、信頼できる不動産会社かどうかを教えてもらえる可能性もあります。

万が一、告知を受けずに心理的瑕疵物件に入居してしまった場合は、弁護士に依頼すれば、不動産会社・売主・貸主への対応をすべて任せることができます。

不安なことがあれば弁護士が味方となりますので、一人で抱え込まずに相談してみましょう。

まとめ

家を探すとき、心理的瑕疵物件は事前に回避したいところでしょう。

通常は、不動産会社がガイドラインに従って告知してくれますので、適切に判断することが可能です。

しかし、現実に告知義務違反で心理的瑕疵物件の契約に至るケースも少なくありません。

契約前でも、契約後でも、困ったときは弁護士に相談してサポートを受けましょう。

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