暴走老人の原因と対処法|刑事事件になる前に知るべき5つのこと

暴走老人

暴走老人とは、2007年に作家の藤原智美さんが著した書籍のタイトルです。
現在では「キレる老人」を表現する言葉として浸透しています。
高齢者たちはなぜ暴走するのか、なぜキレるのかー。

今回は、

  • 暴走老人がとる行動
  • 普通の高齢者が暴走老人になってしまう原因
  • 老人が暴走するのを防ぐために家族ができること

を解説します。

現代日本は65歳以上の高齢者の割合が全人口の21%を占めている「超高齢化社会」。日本国民全員が、高齢者への理解を持つことが必要です。
高齢者と共に生きるみなさまへ、ご参考になれば幸いです。

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1、暴走老人の行動例

刑法犯の認知件数は2015年に戦後最小を記録しましたが、65歳以上の高齢者の犯罪件数は増加傾向です。
高齢者の犯罪検挙件数は4万8,000人(2015年)となっており、約20年前の平成8年と比較すると3.8倍増となっています。

特筆すべき点は「傷害・暴行犯」が20年前と比較すると約20倍に増えていることです。
傷害や暴行で検挙される高齢者が約20倍増というのは異常なことでもあります。

ここでは暴走老人と呼ばれるようになってしまう主な行動例をご紹介します。

(1)キレる

暴走老人がとる代表的な行動といえばキレることです。
「自分の思うようにいかない」「誰かに注意される」ことで、感情的になる老人は少なくありません。
過去には60代の男性が禁煙の特急席で喫煙、それを注意した車掌と口論になり、備え付けのテーブルを破壊したという事件も起きています。

上記のような事例をご覧になってわかるように、暴走老人は決められたルールを守らないなど、明らかに自分に非があるケースでもキレてしまう、いわゆる「逆ギレ」の行為も目立ちます。
ある携帯ショップの店員がスマホの使い方がわからない60代の方に「どのような用途で使いますか?」と尋ねたところ「それが分かんねえんだよ!」と、キレられたというケースもあります。

(2)嫌がらせ

目の前にいる相手にキレるだけが暴走老人のとる行動ではありません。
中には陰湿ないじめのような行為を平気で行う老人もいます。

兵庫県では2015年に同じマンションの住人宅の玄関に水鉄砲で自分の尿をかけるという事件が発生しています。
この事件では67歳の無職男性が器物損壊容疑で逮捕されていますが、犯行に至った動機は「生活音がうるさい」というものでした。

また同じ2015年に大阪府で乗用車などのパンク被害が相次ぐ事件が発生しましたが、このときに逮捕されたのも60代の男性です。
男性が犯行に及んだ理由は「親族から陰口をいわれた」「年金が少なくなってイライラしていた」ことによる鬱憤晴らしでした。

このように暴走老人は自分が気に入らないことがあると、相手の見えないところで被害を与える事件も起こします。
また前述の大阪府のパンク事件に代表されるように、自分のイライラを解消するために、まったく関係ない人物の財産にまで被害を与えてしまうため、注意が必要です。

(3)上から目線でモノをいう

人生経験が長い高齢者にありがちなことですが、暴走老人は「やたらと上から目線でモノをいう」傾向が強いようです。
特にその傾向が顕著に表れるのがお店の店員などと接するときです。

近年はSNSやネットニュースなどでもよく目にしますが、一部の暴走老人はコンビニや飲食店で「お金を払って物を買ったり、食事をしてやっている」という意識が強いのか、店員に横柄な態度をとることが多いようです。

(4)ルール・マナーを守らない

前述のキレる項目でも解説しましたが、ルールやマナーを守らない高齢者も暴走老人と呼ばれる傾向にあります。

具体例を挙げるとスーパーなどに買い物に行ったときの会計時です。
人気のお店ではレジでの会計時に長蛇の列が並ぶなど、混雑していることも少なくありません。
ルールやマナーをわきまえている方なら当然自分の番がくるまで列に並んでいますが、暴走老人になると「ひとつしか買わないから前に入れてね」といった言葉を平気で発するようになります。
もちろんこの行為に声をかけられた人もレジ係も注意を促しますが、聞く耳を持たず、挙句の果てにはその注意に激昂してしまう始末です。

体力のない高齢者に配慮するというのは社会で生きていく上で非常に大切なことですが、常識がない暴走老人は、高齢者への配慮という意味を間違って解釈していることも多いです。

2、暴走老人になってしまう原因

一般的に私たち人間は年齢を重ねると丸くなるといわれていますが、実際には「キレる」「嫌がらせをする」といった暴走老人は増加傾向にあります。
普通の高齢者が周囲の人々に迷惑をかける行動をとってしまう原因はどこにあるのでしょうか?

ここでは暴走老人になってしまう主な原因をいくつか取り上げます。

(1)加齢による前頭葉の機能低下

意外に思われるかもしれませんが、脳科学者の間では年齢を重ねるにつれて「怒り」の感情をコントロールするのが難しくなるといわれています。
この怒りの感情を上手く制御できないため、暴走老人と呼ばれるような行動に走る高齢者が出てくるということです。

怒りの感情は脳の「大脳辺縁系」というところで作られています。
そして怒りの感情を制御する役目を果たしているのが「前頭葉」です。
この前頭葉ですが、脳の中では加齢とともに真っ先に機能低下が見られる箇所となります。 前頭葉が委縮していくと、感情抑制機能の低下や理解力の低下が見られるようになります。

感情抑制機能が低下することで「怒りの感情が前面に出る」、理解力が低下することで「人の話を正しく理解できず、爆発的な一面が出る」。
暴走老人がキレやすいのは主に以上のような点が影響しています。

(2)孤独

前述の前頭葉の機能低下は今に始まったわけではなく、昔から生物学的に起きていた現象だと思われます。
しかし、暴走老人と化す高齢者は現代社会のほうが多いといわれています。
これはライフスタイルの変化も大きく関係しています。

昔は多くの人が親世代、祖父母世代と暮らすシーンが当たり前のように見られました。
子どものころにおじいちゃんが遊んでくれたり、おばあちゃんが美味しいご飯を作ってくれたという日常生活を過ごしてきた方も多いはずです。
人は社会性が強い生き物ですから、家族という社会の中で人と接しながら「譲り合う」「ガマンする」などの感情のコントロールを行ってきました。

ところが現代は核家族化(夫婦と未婚の子どもで成り立つ家族)が当たり前の時代になったため、高齢者が日常生活の中で人と接する機会は大きく減少しています。

脳は「考える」「コミュニケーションをとる」といった刺激が減ると、その機能が低下するともいわれています。
日常生活の中で家族とのコミュニケーションが減り、感情をコントロールする前頭葉の機能低下が著しく進んだことが、暴走老人の増加につながっているとみることができます。

(3)今まで培ったライフスキルが通用しない

「時代の変化」も高齢者が暴走気味の行為に走る原因です。

現代の日本は日々新しい技術が開発され続けています。この技術の進化や発達により、高齢者がついていけない状況に陥っています。
具体例を挙げると先ほども解説したスマホなどは、高齢者にとって使い方がわからないものの代表格です。
人は知らないものや勝手がわからないものに触れるときには、非常に大きなストレスがかかります(引越しや転職がよい例)。

「新しいものが誕生するのは嬉しいけど使い方がわからないからイライラする」。
残念ながら今の高齢者は日常生活の中でこのような感情を抱くことが多いです。
もちろんモノだけではなく、今の若い世代の考え方などが昔と異なっていることも高齢者の虚しさやイライラを増幅させている要因です。
長い人生で培ってきたライフスキルが現代社会では通用せず、もどかしさやイライラが蓄積された結果、多くの暴走老人が生み出されていると推測されます。

3、迷惑だけで済まされない!刑事事件へと発展することも

暴走老人は「キレる」「ルール・マナーを守らない」といった迷惑行為以外にも、周囲の人々に危害を加える事件を起こすことがあります。
このような周囲の人々を不安に陥れる行動は、警察などの捜査機関が動く刑事事件へと発展することも少なくありません。
中には普通の高齢者が人の命を奪う「凶悪犯」へと化した事件もあります。

ここでは過去に暴走老人が原因となって起きた主な事件をご紹介します。

(1)場所取りのために「サワルナキケン」と書いた封筒を…

こちら、騒動の原因となった70代男性は最終的に警察からの厳重注意のみで済まされましたが、一歩間違うと威力業務妨害容疑で立件される可能性があった出来事です。

2016年3月下旬、京都府立病院の敷地内で箱の上に「サワルナキケン」と書かれた封筒が置かれており、京都府警のNBCテロ対策班が出動する騒ぎが起こりました。
簡易検査の結果、爆発の危険はないと判断されましたが、この騒動によって周囲は一時騒然、病院に面した国道9号も閉鎖される事態に陥りました。
この騒動の2日後に前述の70代男性から京都府警のもとに「発泡スチロール箱を返してほしい」という電話がありました。
府警が男性に事情聴取をしたところ、箱と封筒を置いた理由は「病院の駐車場に自分のバイクを置くスペースを確保するため」だったとのことです。
また「サワルナキケン」と書かれた封筒を置いた理由については「『サワルナキケン』と書けば、誰も触らないと思った」と話していたことがわかりました。

ひと昔前であれば、このようなどこかいたずらめいたことをする子どもや若者に対して、高齢者世代が「最近の若者は…」と嘆いていました。
しかし、現代社会では高齢者世代が「最近の…」といわれるような騒動を起こすことが増えています。

(2)暴走老人による凶悪事件は後を絶たない

高齢者が人の命を奪う「凶悪犯」になってしまう事件も全国で増えています。

2015年7月14日に青森県の狩場沢の杉林で、66歳の弟が70歳の兄をナタで切りつけて殺害するという事件が起きました。
弟の供述によると兄弟は杉林の伐採方法でケンカになり、怒った兄がチェーンソーで切りかかってきたので応戦したということです。

また2015年10月28日には山口県で83歳の兄が80歳の妹を杖で何度も殴り、殺害する事件が起きています。
殺害された妹の死因は肋骨が骨折するほど何度も体や顔を殴打されたことによる外傷性ショックでした。
この凄惨な殺人事件を起こした兄は殺害動機について「妹が農作業を手伝わないから、腹が立った」と供述しています。

その他にも2015年11月28日には千葉県でご近所トラブルによる高齢者の殺人事件が起きています。
この事件は生活排水についての口論が発端になり、76歳の容疑者が72歳の隣人を押し倒し、殴る蹴るの暴行を加え、最後は池に落として殺害したというものです。
2人は以前から生活排水の件で衝突を繰り返していたということです。

この3件の殺人事件をご覧になってわかるように動機としては「そんなことで?」「話し合えば何とかなったのでは?」というものが目立ちます。
感情を制御するのが難しい年齢といえども、犯行動機を聞くと「最近の高齢者は…」と嘆きたくなる方も多いのではないでしょうか。

(3)ラブレターを読んでもらえず逆上

殺人事件に発展せずとも、暴走老人は自分の思うようにいかないと好き放題に暴れ回ります。

感情のコントロールが難しい暴走老人の典型的な犯罪例ともいうべき事件が、2015年10月に起きています。

この事件は東京都世田谷区の路上で78歳の男が、喫茶店店員の20代女性にラブレターを渡したところ、読まずに返されたため「ぶっ殺してやる!」などと脅したものです。
高齢になっても恋愛をするのは非常に素晴らしいことですが、相手から良い返事をもらえなかったからといって、殺人をほのめかすような行為に及ぶのは、暴走老人の異常性を顕著に表しているといってもよいでしょう。

4、老人の暴走を防ぐために家族が協力できること

高齢者は脳の衰えや孤独などが原因となって暴走老人と呼ばれるような行動をとります。
大切な身内から暴走老人を出さないようにするには、家族の協力も必要不可欠です。

ここでは、家族が自分の身内から暴走老人を出さないために協力できることを解説します。

(1)敬う

高齢者は、さまざまな経験を経て生きてきました。
時代は変わっていきますが、習うところはあるはずです。
人生において、謙虚であらねばと自制してきた年代もあるでしょう。

しかし、晩年こそは、発言を促し、頑張ってきた人生を敬いましょう。
誰もがみな、同じ高齢者になるのですから。

(2)社外に友人を作るよう勧める

現在、定年前の50代、60代の方を身内に持つ家族は社外での友人作りを勧めてみましょう。

脳は毎回同じパターンの作業を繰り返すと衰えやすくなるといわれています。
会社で毎日同じ仕事をし、同じ人たちと付き合っていくことは決して悪いことではありませんが、脳の衰えを防ぐには新しい人と出会い、新しい行動を取り入れていく必要があります。
つまり会社外でも友人と呼べるような存在を作ることが大事ということです。

社外でも友人を作ることができれば、定年後でも日常生活の中で人とのコミュニケーションを保つことができます。
また友人を作るときに覚えておきたいことは「数」ではなく「質」を重視することです。
表面的には多くの友人と付き合っていても、心の中で「この人と一緒にいても楽しくない」と感じれば、それは孤独に該当します。
前述のように孤独は高齢者の暴走を生み出す原因にもなります。
このような理由から社外で友人を作るときは、心から充実感を得られるような人とお付き合いすることを意識しましょう。

(3)家族との関わりを増やす

現役時代に友人や知人作りを行ってこなかった方は、老後の生活が孤独になる可能性が高くなります。
このような方の場合は家族とのコミュニケーションがカギを握っています。
家族とコミュニケーションをとることで、脳の機能維持にもつながりますし、何より孤独感を大幅に和らげることができます。

前述のように近年は核家族化の影響で、高齢者が家族とコミュニケーションをとる機会が減っています。
休日には孫を連れて遊びに行く、食事に行くなどはもちろんのこと、日々の生活の中でも連絡を取ることを意識しましょう。
近年はLINEなどの導入によって無料で連絡を取り合うことができますから、ひと昔前と比べると気軽にコミュニケーションをとれる環境が整っています。

(4)意識的にメンタルを元気に保つよう心がける

前述のように現代社会は高齢者が日常生活の中でコミュニケーションをとる機会が減っているため、脳の機能低下が顕著に現れています。
これを防ぐためには意識的、自発的にメンタルを元気に保つように心がけることです。
具体的には「人の世話をする」「何事にも興味を持つ」ことなどが挙げられます。

「人の世話をする=人の役に立つ」ことです。
人の役に立つことを意識的に行うことで、人とのつながりも自然と強くなります。
また何事にも興味を持ち、さまざまなことに触れていけば、そこには人がいますから、コミュニケーションをとる機会も自然と増えます。
脳の活性化を常に促し、感情のコントールができる状態を保っておくようにしましょう。

(5)趣味を持ってもらう

自分の好きなことや趣味を精力的に行っている方は、認知症や老人性うつ病(高齢者うつ病)になりにくいともいわれています。

趣味など何かしらの活動を行うことで、脳に適度な刺激を与えることが可能となります。
この刺激が脳の機能低下を防いだり、精神の安定を保つ脳内物質でもあるセロトニン分泌を活性化させます。

孤独や寂しさの環境に身を置いていると、脳はますますその機能を低下させるだけです。
心から楽しめる趣味を見つけてもらい、脳の機能維持を図るようにしましょう。

ちなみに子どもでも楽しめる趣味(将棋など)を持ってもらうと、家族が集まったときにもコミュニケーションツールとして使うことができます。

5、万が一、刑事事件へと発展してしまったら

核家族化が進んだ現代では、どんなに注意していても高齢者が周囲に被害を与えてしまうことがあります。
この結果、刑事事件へと発展する可能性も0%ではありません。

「万が一、身内が刑事事件を起こしたら…」。

現在、このような不安な気持ちが強いご家族の方は、万が一の事態が起きた際には、速やかに法律のプロでもある弁護士に相談し、適切な対処を施すようにしましょう。
というのも刑事事件の場合は「逮捕、勾留の決定が出た後でも外部との接触が禁止される場合がある(家族でも)」、「自身で身柄解放活動や被害者との示談交渉を行うのは極めて困難」といった特徴があります。

刑事事件の対応は初期対応が非常に重要といわれているため、逮捕直後から接見可能な弁護士をつけることで、今後の流れや方針を詳しく知ることができます。
弁護士を選ぶときのコツはいくつかありますが、刑事事件に強い弁護士事務所に対応してもらうことが大切です。

まとめ

今回は近年問題になっている暴走老人が増加する原因と対処法について解説しました。

暴走老人が増える理由は高齢者の母数が多いことも関係していますが、昔と現代の生活環境などがガラッと変わったことも大きく影響しています。
脳の機能低下、コミュニケーション不足、孤独や寂しさなどによって優しいイメージの高齢者が暴走老人と化すのは決して他人事ではありません。
高齢者の身内を持つご家族の方は、適度なコミュニケーションをとるなどの工夫を施すことが大切です。
また万が一、刑事事件へと発展した場合には速やかに弁護士などの専門家に相談することを推奨します。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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