自己破産した場合「退職金」はどうなる? 弁護士が解説

自己破産,退職金

自己破産した場合、退職金が差し押さえられ、債権者への配当に充てられる場合があります(差し押さえ対象にならない場合もあります)。
そのため、「自己破産すると会社にバレてしまう?」と心配している人もいるかもしれません。

 そこで今回は、

  • 自己破産した場合の退職金の取り扱い
  • 自己破産で退職金が差押えが行われる場合やその際の金額(差押えの範囲)
  • 自己破産で退職金が差し押さえられる場合の会社との関係

などについて弁護士が解説していきます。

本記事がお役に立てば幸いです。

自己破産に関してはこちらの記事をご覧ください。

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1、自己破産手続の目的と退職金の法的位置づけ

自己破産手続の目的と退職金の法的位置づけ

自己破産については「借金を帳消しにしてもらう手続」というイメージをもっている人も多いかもしれません。
たしかに、自己破産後に裁判所から免責を認めてもらえれば、自己破産の時点で抱えていた負債の返済義務は完全に免除されます。
しかし、自己破産における免責は無条件で認められるものではないことに注意しておく必要があるでしょう。

(1)自己破産の目的と差押えの対象となる財産

自己破産は、債務者が負債を完済できなくなったことが確実になった場合に、「すべての債権者にとって公平な配当」を実施するための手続です。

言い換えれば、自己破産の手続は、自己破産手続が開始された時点におけるすべての負債と(差押え可能な)すべての財産とを清算するための手続ということになります。

したがって、自己破産した場合には、「自己破産の時点」で債務者が保有している差押え可能なすべての財産が差押えの対象となります。

(2)退職金の法律上の位置づけ

退職金は、退職後に勤務先から受け取ることのできる金銭ですから、「自己破産の時点で保有している財産とはいえないので差押えの対象外」と思っている人も多いかもしれません。

しかし、退職金債権(勤務先から退職金を受け取れる権利)は、法律上は「毎月支払われる給料の後払い」ということになります。
つまり、「本来は毎月ごとに受け取ることのできる金銭が(当事者の都合で)後払いになっているだけのもの」という取り扱いになっているわけです。

 一般的な企業の退職金のほとんどは、「給料の後払い」としての性格を有するものと考えられますので、自己破産においても差押えの対象となる可能性があり、自己破産を申し立てる際には、退職金の(見込)額を裁判所に申告する必要があります。

2、自己破産しても差押えの対象とならない退職金

自己破産しても差押えの対象とならない退職金

以上のように、退職金は基本的には自己破産手続において差押えの対象となってしまいます。
むしろ、サラリーマンの自己破産の場合には、最も重要な債権者への配当原資となる場合がほとんどといえるでしょう。

しかし、「退職金」という名目のお金のすべてが差押えの対象となるわけではありません。
これから解説する3つの退職金(といわれる債権)は、自己破産をしても差押えの対象とはなりません。

(1)給料の後払いに該当しない退職金名目の心付けなど

自己破産の際に差押えの対象となるのは「給料の後払い」と評価することのできる退職金に限られます。
給料の後払いといえるかどうかは、勤務先に「退職金規定」などが存在し、退職金が退職時に支払われることが確実かどうか、その金額を特定できるかどうかがポイントになります。

中小企業などにおいては、退職金についての社内規定が存在せず、退職時に経営者から心付けのような金銭が「退職金」として払われるに過ぎないケースもあると思われます。

このような場合には、そもそも退職金が確実に支払われるとは限りませんし、支給された場合の金額もそのときの経営状況などによって大きく変動する可能性が高いといえますので、「給料の後払い」とはいえず、差押えの対象とはならない場合があります。

(2)確定拠出年金・確定給付企業年金

近年では、退職金を「年金という形式」で受け取る方法を選択する人も増えていて、その場合に用いられるのが確定拠出年金(いわゆる401k)・確定給付企業年金という仕組みです。

退職金を確定拠出年金・確定給付企業年金で受け取ることを選択している場合には、自己破産をしても退職金(年金)が差し押さえられることはありません。
これらの年金は、法律によって差押えが禁止されているからです。

【参考】確定拠出年金法32条

(3)中小企業退職金共済・小規模企業共済の共済金

中小企業などのように会社に退職金を運用するだけの余裕がないケースでは、国の共済制度を利用して退職金を確保するケースも少なくありません。
また、個人事業主が将来の廃業後の生活原資を確保する目的で、「自分自身のための退職金」として積み立てを行う場合も同様です。

このような目的の仕組みとしては、中小企業退職金共済・小規模企業共済といった仕組みがありますが、その共済金も法律によって差押えが禁止されていますので、自己破産をしても失うことはありません。

【参考】小規模企業共済法15条

3、自己破産した場合に差押えされる退職金の金額

自己破産した場合に差押えされる退職金の金額

自己破産で退職金が差押えとなる場合でも、必ずしも全額が差し押さえられるというわけではありません。

結論からいえば、正規の退職時期(たとえば定年時)よりも早いタイミングで自己破産をするほど、差し押さえられる金額も少なくなるといえます。
また、差押えの対象となる金額によっては、差押え自体が見送られることもないわけではありません。

(1)すでに退職金を受け取っている場合

破産手続開始決定が出された時点で、勤務先を退職し、すでに退職金も受け取ってしまっているという場合には、その退職金の保管方法に応じて差押えの金額が決まります。

①受け取った退職金を現金で保有している場合

受け取った退職金を現金で保有している場合には、自己破産における他の現金に対する差押えと同様に取り扱われます。

つまり、法律で差押えが禁止されている99万円までは差押えを逃れることができますが、それを超える部分(たとえば、退職金2000万円を現金で持っていた場合には1901万円)が差押えられることになります。

②受け取った退職金を預金で保有している場合

受け取った退職金を銀行口座に預け入れている(預金にしている)場合も、通常の預金に対する差押えと同様の取り扱いになります。

実務の上では、破産者の預金(すべての銀行の本支店にある預金)総額が20万円を超える場合には、差押えの対象となる運用の裁判所が多いです。(ただし、他の財産との合計で99万円までは手元に残せることになるのが一般的です)。

(2)退職金額は確定しているが受領していない場合

勤務先を退職した直後や退職日直前に破産手続開始決定が出された場合には、「受け取れる退職金の額は確定しているが受け取っていない」という場合があります。

この場合、給料債権が差し押さえられる際と同様に、額面の1/4が差押えの対象となります。

つまり、2000万円の退職金を受け取れることが確定している場合であれば、その1/4である500万円が債権者への配当に充てられるというわけです。

(3)退職金額も確定していない・退職予定がない場合

実際の自己破産は、退職時期とはかなり離れたタイミングで申し立てられる場合が多く、裁判所に申告する額もあくまで「自己破産の時点で退職金を受け取るのであれば」という仮定の上での見込額ということになります。

このような場合には、破産者が本当に退職金を受け取れるかどうかは未確定であるといえますので、(2)の場合よりも退職金の差押え額はさらに減額されることが公平な処理であると考えられ、いまの実務では「退職金見込額の1/8」が差し押さえられることになります(退職金見込額が2000万円であるときには250万円が配当に充てられます)。

(4)退職金の差押えが行われない場合

差し押さえるべき退職金の額が少なすぎるために差押えをすると費用倒れになるという場合には、差押えが見送られることがあります。
赤字になる財産換価は、破産手続にとって利益にならないからです。

現在の実務では、東京地裁などでは差押財産が20万円に達しない場合、破産管財人を選任せずに同時廃止(破産手続の開始と同時にその後の手続を行わずに即時終了させる措置)とする運用をしています(裁判所によって異なります)。

また、裁判所によっては、「差押えの対象となる個別の財産の評価額」ではなく、「差押え可能な財産の総額」が20万円に達しない場合には、差押え(換価)を見送るという運用の裁判所もあります。
東京地裁などでは、退職予定のない人が自己破産したときに退職金が差し押さえられるのは、自己破産時点での退職金見込額が160万円(1/8の額が20万円)を超える場合のみということになります。
したがって、勤続年数の少ない人などの場合には、自己破産をしても「退職金には全く影響がない」という可能性もあり得ます。

4、会社に知られずに自己破産時の退職金の差押えを処理する2つの方法

会社に知られずに退職金の差押えを処理する2つの方法

建前としては、自己破産手続における退職金の差押え(換価)は、裁判所に選任される破産管財人が退職金の支払者である勤務先に支払いを請求する形で行われます。
しかし、万が一、実際にそのようなことが行われれば、自己破産したことを勤務先に知られることになってしまいます。

そこで、実務では、次のような対応で破算管財人による勤務先への請求(退職金の換価)を回避しています。

(1)差押え相当額の任意納付

自己破産をしても破産者には一定額の財産を手元に残すことが認められています。
また、破産手続開始決定後に得た収入は破産手続に拠出したり、負債の返済に充てる必要もなく、自由に処分することができます。

そこで、この自由財産から退職金の差押え額に相当する金額を破産手続(破産財団:配当原資)に拠出することで、破算管財人による勤務先への請求を回避することができます。

破産者の自由財産だけでは差押え相当額を工面できないというときには、親族などからの支援を受けて不足額を工面することも可能です。

(2)自由財産拡張を裁判所に申し出る

上でも触れたように、自己破産した場合でも破産者の手元には一定の財産を残すことができます。

実務においては、破産法が破産者の生活に必要な3ヶ月分の現金については差押えを禁止している(現在の運用では33万円×3ヶ月分=99万円と定められています)ことから、破産者が保有している現金が99万円に達しないときには、合計で99万円に達するまでの財産について差押えの対象外とすることができるとされています。

自己破産に至るというケースにおいては、(自己破産の費用とは別に)手元に99万円の現金が残っているということはあまりないといえますので、不足分については退職金の差押え額から控除してもらえることもあります。

まとめ

自己破産する人にとって退職金の取り扱いは、とても重要な関心事になることが少なくありません。
実際にも、将来の退職金を失うことや、退職金の換価のために会社を辞めなければならなくなることを懸念し、自己破産を躊躇してしまう人も少なくないようです。

しかし、自己破産をしても正しく対応できれば、退職金を全額失うことは回避できますし、会社を辞める必要もありません。

債務整理を検討する場面では、誤解や思い込みを原因とする不安が債務整理に踏み切ることを躊躇する原因となってしまうことも多いと思われます。
わからないこと、不安なことは無料相談などを上手に活用することで解消することができます。

返済に行き詰まった借金があるときには、1日も早く対処することが何よりも大切です。
借金が辛い、自己破産したいと少しでも感じたときにはできるだけ早く弁護士に相談してみましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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