「最近会社を退職したけれど、退職金が未払いのまま…(受け取っていない)」
ということはないでしょうか?本来支払われるべき退職金が未払いの場合、会社に請求することができます。
もし、請求申請をしても未払いが続く場合は最終手段として、裁判手続きを行わざるを得ない状況にも発展する可能性があります。
今回は、
- そもそも未払い退職金を請求できるケースとは?
- 未払い退職金を請求する手順
- 未払い退職金を請求するために必要な証拠
などについてご案内していきます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、未払い退職金を請求できる2つのケースとは?
まず、未払い退職金を請求できるケースについて解説していきます。
(1)未払い退職金について知る前に|退職金の性質とは?
退職金とは、会社などが退職した労働者に支払う金銭のことで、退職手当や退職慰労金などと呼ばれることもあります。
退職金の性質は一概には決まっておらず、労働の対価であり賃金の後払いの性質や長年勤続した労働者に対する慰労金としての性質があります。
通常の退職金は、賃金の後払いとしての性質と慰労金としての性質の2つの性質を併せ持つケースが多くなります。
実際に、退職金がどのような性質を持つものかは、個別のケースごとに判断することになります。
(2)退職金の支払い義務
退職金は、法律上、支払いが義務付けられているものではありません。
ただし、会社が退職金を支払うものとして労働者と労働契約を結んでいる場合には、会社に支払い義務が生じることがあるといえます。
労働基準法では、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に記載するものとされています(89条3号の2)。
就業規則等の書面で退職金の支給が明記されている場合、支給条件をみたしている労働者に会社が退職金を支給しなければ、契約違反となり会社に対し未払い退職金を請求できる余地があります。
(3)未払い退職金を請求できる2つのケース
会社を退職したのに、会社から退職金が支払われない場合、未払い退職金を請求できることがあるのは、次の2つのケースになります。
① 就業規則等の書面で明記してあるケース
上にも書いたとおり、就業規則や退職金規程等に退職金を支給すること及びその支給基準について明記してある場合には、会社に退職金支払い義務が生じることがあります。
会社に退職金支払い義務があり退職者が退職金支給の要件をみたしているのに退職金が支給されなければ、未払い退職金を請求することができます。
なお、労働基準法では、退職金について、「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に記載するものとしています。
退職金について記載してあっても、支給条件や支給時期が不明確であれば、退職金の支払いを約束したものではないとされることがあります。
退職金の支給について、具体的に記載されているかどうかを確認した方がよいでしょう。
支給条件ですが、一定事由をもって不支給や減額とする規定が設けられている場合がありますが、このような規定はその内容が合理的でなければ無効である可能性もあります。
② 労使慣行等で退職金が支給されているケース
会社に退職金の支払い義務が生じうるのは、原則として就業規則等の書面に明記してある場合です。
しかし、実際には、退職金について記載された書面はないけれど、労使慣行等で退職金が支給されている会社もあります。
書面がなくても、労使慣行等で退職金が支給されている場合には、会社に退職金の支払い義務が生じることもあると考えられています。
たとえば、毎年退職する人には必ず退職金が支給されていたのに、今年から急に支給されなくなったという場合には、退職金の支払いを請求できる可能性があります。
2、未払い退職金を請求する4つの手順
未払い退職金を会社に請求して回収する場合には、通常、次のような手順を踏むことになります。
(1)退職金請求のための証拠を集める
退職金は法律上当然に支払われるものではありません。未払い退職金を請求する前提として、退職金を請求する権利があるということを証明できる証拠を集める必要があります。
詳しくは「3、未払い退職金を請求するために必要な4つの証拠を集める」で解説していきます。
(2)書面で退職金を請求する
請求したことの証拠が残るよう、書面で会社に退職金の請求を行います。
詳しくは「4、まずは書面で請求する(必要に応じて内容証明郵便で)」で解説していきます。
(3)会社に請求してもダメなら紛争調整機関を利用
書面で請求しても退職金が支払われない場合にも、いきなり訴訟を提起するよりも、まずは裁判外での解決を試みます。
行政機関やADR(裁判外紛争解決手続)を利用することで、早期解決を図ることができる可能性があります。
詳しくは「5、紛争調整機関(裁判外紛争解決手続=ADR)を利用する」をご参照下さい。
(4)それでも支払われなければ裁判で解決
未払い退職金を請求しても、会社からの支払いが受けられない場合には、最終的に裁判をして解決することになります。
詳しくは「6、裁判する」をご参照下さい。
3、未払い退職金を請求するために必要な4つの証拠を集める
未払い退職金を請求してきちんと回収するためには証拠が重要となります。
ここでは具体的にどのような証拠が必要なのかを紹介していきます。
(1)労働契約締結の証拠
未払い退職金を請求する前提として、会社との間に労働契約があったことがわかる書類を集めます。
- 労働契約書
- 雇用契約書
があればベストですが、契約書がない場合には、
「労働条件の通知書」
などを用意しておきます。
(2)会社の支払い義務を証明する証拠
未払い退職金を請求するには、会社に退職金の支払い義務があるということを主張するために証拠を用意する必要があります。
請求するだけで簡単に払ってくれるなら証拠は不要ですが、未払いのままということは、支払いを拒絶される可能性がありますから、証拠集めは重要です。
退職金について就業規則に記載してあれば、
「就業規則」
が証拠になります。
就業規則の退職金に関する条項に「退職金については、別途定める退職金規程による。」等と記載されており、
就業規則とは別に退職金規程が設けられている場合には、
「退職金規程」
を用意しておきます。
そのような規則・規程がない場合には、
「入社時に交付された就業内容の説明書等」
に記載があれば、それを用意しておきます。
労使慣行などで退職金が支給されているケースでは、過去に退職した労働者に退職金が支払われていたことを証明する証拠が必要になります。
この場合、会社が任意に退職金支払いの記録を開示してくれることは期待できないので、過去に退職した労働者(労使慣行といえるほどの複数人)の協力が必要です。
過去の退職金の支給明細などを入手できれば、証拠として使うことができます。
(3)退職したことについての証拠
退職したこと自体で争いになることは考えにくいですが、念のため
「離職票」
などの証拠を用意しておきます。
退職ではなく懲戒解雇の場合でも、必ずしも退職金が請求できないわけではありません。
たしかに懲戒解雇が有効とされる場合、それに伴う退職金の不支給・減額については、一定の要件をみたせば許されるとされています。
しかし、退職金の不支給・減額は、退職金規程等に明記して初めて労働契約の内容となり、これが認められています。
そして、退職金規程等に明記されているとしても、退職金に賃金の後払いとしての性質が認められる場合には、退職金を不支給・減額とすることができるのは、労働者のそれまでの勤続の功労をすべて抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるとされております。
そのため懲戒解雇というだけで退職金を請求できないという理由にはならない場合がありますので、あきらめないようにしましょう。
(4)退職金の支給基準をみたしている証拠
退職金には支給の条件があるはずですから、それをみたしていることがわかる証拠を用意しておきます。勤続年数の条件がある場合、入社時期から退職時期まで継続的に勤務を続けたことがわかるよう、
「会社から交付された給与明細」
などを用意しておくとよいでしょう。
4、退職金が未払いの場合、まずは書面で請求する
ここからは具体的な請求の手順を紹介していきます。
(1)最初は普通の書面で請求
会社に未払い退職金を請求する場合、口頭で請求しても「聞いていない」と言われる可能性があります。
請求したという証拠を残すことも必要ですから、書面で請求するようにしましょう。
会社が意図的に退職金を支払わないのではなく、単に手続きが遅れているだけの可能性もあります。
まずは普通に「退職金支払請求書」などとした書面を送って、様子をみましょう。
(2)連絡がなければ内容証明郵便を送付
会社に退職金の支払いを請求する書面を送っても、全く会社から連絡がない場合もあります。
また、「改めて連絡する」旨の連絡があり、そのまま放置されてしまうこともありがちです。
未払い退職金を請求したのに、会社から連絡がなく、退職金も支払われない場合には、内容証明郵便を送ってみましょう。
内容証明郵便を利用すれば、いつ、どんな内容の書面を送ったかという証拠が郵便局に残るため、後日裁判になったときに証拠としても使うことができます。
(3)内容証明郵便の雛形ダウンロード
未払い退職金を請求する内容証明の記載例は、以下のようになります。
なお、実際の内容証明郵便は、一行の文字数や一頁の行数が決まっていますから、ルールに従って作成するようにしましょう。
催告書 平成○年○月○日 ○○株式会社 代表取締役社長 ○○殿 通知人 ○○○○ 私は、平成29年9月30日をもって貴社を退職いたしましたが、いまだに退職金の支払いを受けておりません。 貴社の退職金規程では、退職者に対して、退職時の給与月額に勤続年数を乗じた金額を退職金として支払うことになっています。 私の給与は、退職時金26万5000円でしたので、これに勤続年数である10年を乗じた265万円と、平成29年10月1日から支払い済みまで年6パーセントの割合による利息を、平成○○年○月○日までに、下記口座に振り込む方法でお支払いください。 記 ○○銀行 ○○支店 普通1234567 口座名義人 ○○○○ もし上記期日までにお支払いいただけない場合には、訴訟提起などの法的手段をとる場合がありますので、あらかじめご了承ください。 |
(4)内容証明郵便の書き方
未払い退職金請求の内容証明の書き方には、特にきまりはありませんが、次のような項目を記載しておくとよいでしょう。
①会社に退職金の支払い義務があること
退職金規程があることや、退職金支払いの労使慣行があることを記載します。
退職金規程がある場合には、具体的な支給額や支給条件がどうなっているかも記載しておきましょう。
②退職金の支給条件をみたしていること
自分が退職金の支給条件をみたしており、退職金を請求する権利があることを記載します。
③請求額・支払期日
請求する退職金の額と支払期日を自分で設定して記載します。
退職日に退職金の支払いを受けるはずだった場合には、退職日の翌日からの利息も請求できます。
支払期日は2~3週間程度にするとよいでしょう。
④支払方法
どのようにして支払いを受けるかを記載しておきます。振込してもらう場合には、振込先を明記します。
⑤法的手段をとる旨の予告
もし支払いがない場合には、法的手段をとることがある旨を記載します。
その他、内容証明郵便には様々な形式があります。
詳しくは「内容証明郵便の書き方と出し方【雛型無料ダウンロード可】」の記事を参考にしてみて下さい。
5、紛争調整機関(ADR等)を利用する
もし話し合いや内容証明郵便の送付でも退職金が支払われない場合には紛争調停機関を利用しましょう。
(1)労働局の紛争調整委員会を利用
退職金の未払いがあるのに、会社に請求しても支払ってもらえない場合には、行政機関を利用する方法があります。
労働問題といえば、労働基準監督署への申告を思いつくかもしれませんが、労働基準監督署が動いてくれるのは明らかな法令違反がある場合です。
退職金は、法律上会社が当然に支払わなければならないものではないため、労働基準監督署ではあまり積極的な対応はしてもらえないことがあります。
退職金のトラブルについては、各都道府県労働局で相談を受け付けています。
労働局では、紛争調整委員会が解決に向けてのあっせんを行ってくれることもあります。
紛争調整委員会は、弁護士、社会保険労務士、大学教授など労働問題の専門家で組織されており、当事者の間に入って調整を行ってくれます。
(2)ADRを利用
ADRとは裁判外紛争解決手続きのことで、行政機関や民間機関による和解、あっせん、仲裁、調停などをいいます。
弁護士会や社会保険労務士会などが設けているADR機関で、労働問題のADRを扱っている場合があります。
事前に退職金未払い案件について受け付けてもらえるかどうか問い合わせた上で、利用を検討してみましょう。
6、最終手段は、裁判手続きを行う
ADRを利用しても未払い退職金を回収できない場合には最終手段として裁判をします。
(1)退職金未払いで利用できる裁判手続き
退職金の未払いについて、紛争調整機関を利用しても解決しない場合には、裁判手続きを利用することを検討しましょう。
未払いの退職金を請求する場合、訴訟以外に、調停や労働審判という方法もあります。
金額が60万円以下の場合には、少額訴訟の手続きによることもできます。
(2)まずは弁護士に相談
退職金の未払いで悩んでいる場合には、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、裁判手続きの代理人になってもらえます。
会社に対して裁判を起こすとなると、証拠が重要になってきます。
たとえ退職金を受け取る権利があっても、証拠が不十分であれば、裁判では認められません。
弁護士は証拠集めにも全力を尽くしてくれますから、未払いの退職金を回収できる可能性が高くなります。
まとめ
退職金は会社が法律上当然支払うべきものではありませんが、退職金規程が設けられている場合や、労使慣行的に支給されている場合には、退職金の支払いを請求することができる場合があります。
退職金が未払いになっており、会社に請求しても払ってもらえない場合には、最終的に裁判で回収できる可能性があります。
未払いの退職金がある場合には、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、代理人となって会社と交渉してもらったり、裁判手続きをしてもらったりできます。証拠集めも手伝ってもらえますから、手間をかけずに未払い退職金を満額回収できる可能性が高くなります。