陳述書は裁判において重要な役割をもつ書面です。もっとも、法的な手続きに慣れていない人は、提出を求められても戸惑うことがあります。そこで今回は、
- 陳述書とは何か
- 陳述書の書き方
- 陳述書を出すタイミング
についてベリーベスト法律事務所の弁護士が説明します。
1、陳述書とは何か?内容や提出する意味
まずは陳述書の作成と提出に欠かせない「陳述書とはなんですか」という基礎的な事項から説明します。
(1)陳述書とは?
陳述書とは「客観的な証拠(書証)などでは立証できない点を主張するために提出する書面」です。自分の言い分を裁判所に伝えるための書面でもあります。
陳述書は裁判で主張したいことを裁判官に知ってもらうための大切な書面です。陳述書はトラブルの内容や経緯の理解、争いのあるポイントの把握などにも使われます。
(2)陳述書に記載する内容
陳述書に記載する内容は「言い分」です。
陳述書に記載する内容は裁判の対象になっているトラブルの「客観面のこと」と「主観面のこと」で主張したいことや証拠からは読み取れないこと、補足したい事実などを記載します。
客観面のこととは、トラブルのときの出来事や行動、経験などです。主観面のこととは自分の意見や出来事に対する認識などになります。
(3)陳述書はなぜ提出するのか
陳述書の提出には3つの意味があります。
- 証拠だけでは読み取れないことを裁判で主張する
- 証拠のないことについて裁判で主張する
- 伝え忘れ防止やスムーズに伝えるためのまとめ
お金の貸し借りで揉めており裁判になったとします。証拠として借用書を提出しました。しかし、借用書という書面の証拠から読み取れる内容には限界があります。
借用書にはお金の貸し借りがあったときの事実の時系列もなければ、当事者の会話、やり取りなどは基本的に書かれていません。陳述書には証拠から読み取れない事柄を補足するという意味があります。借用書などの証拠からわからない事実を陳述書にまとめれば裁判官に伝えることが可能です。
裁判で主張したことの中には客観的な証拠が存在しないものもあります。たとえば離婚訴訟をしている場合、実際に言われた傷つく言葉などはどのように立証するのでしょう。録音でもしていないと証拠として出せません。また、暴言を受けたことなどに対する苦痛についても、当人にしかわからないものですから、客観的な証拠はだせません。
トラブルに関する事実についても、証拠を提出しようにも証拠が失われている場合や、存在しない場合もあり得ます。契約書を作成していないケースや、契約書が無くなったケースなどです。証拠が存在しないことや、証拠が失われていることについても、陳述書にまとめておけば裁判官に伝えることが可能です。
当事者尋問などでは、口頭で伝えられることには限界があります。伝え忘れが発生するかもしれませんし、話を上手くまとめられないかもしれません。あらかじめ陳述書にまとめて提出しておけば、手続きの中での伝え忘れなどを防止できます。
(4)陳述書は誰が作成するのか
陳述書を作成するのは「当事者(本人)」「弁護士」です。
弁護士がついているときは、弁護士が本人にヒアリングして陳述書原案を作成して本人に内容をチェックしてもらいます。チェックで本人が指摘した個所について加筆修正やチェック、読み合わせなどを繰り返し、少しずつ仕上げるのが基本的な流れです。
弁護士がついていない場合、陳述書は1から自分で作らなければなりません。
陳述書は主張したいことをただ書けばいいわけではなく、裁判官などに伝わりやすいようにポイントをおさえて書く必要があります。陳述書は主張や争いのあるポイントを明確にするためにも使われるからです。
陳述書は個人でも作ることは可能ですが、ポイントをおさえた陳述書を作成することは難しいのが実情です。書き方で悩みながら無理して作ろうとせず、弁護士に相談することをおすすめします。
2、陳述書の書き方と記載例
山口簡易裁判所などでは陳述書のテンプレートをダウンロードできるようになっています。申立てをした裁判所で陳述書のテンプレートを準備していれば書式で悩む必要はありません。個人で陳述書を作成するときは利用すると便利です。申立て先の裁判所に確認してみるといいでしょう。
陳述書はA4用紙を使います。タイトルは「陳述書」です。文章の書き方は横書きです。用紙の左側に3㎝ほどの余白を設け、2枚以上に渡る場合はページ番号をつけてください。
陳述書には署名、押印、住所、事件番号などを記載します。提出する裁判所の宛名も記載してください(例 〇〇裁判所御中 など)。
3、陳述書の書き方で注意したいポイント
陳述書を書くときは注意すべきポイントがあります。特に注意すべきポイントについてまとめました。なお、陳述書の書き方には厳格なルールはありませんので、最終的には、自分が納得のいく内容であればいいとは思います。
(1)事実を時系列に沿って記載する
陳述書は「なるべく時系列で書く」といいでしょう。
たとえば貸金に関して裁判になり、陳述書を提出するとします。例として簡略化した時系列で説明します。
- Aが「お金がない」とBに相談した
- Bは自分から「貸します」と申し出て振り込みをした
- Aは借りたお金を振り込みで返済した
- AとBの間で「返した」「返していない」でトラブルになった
借金の時系列をバラバラに記載したらどうでしょう。
Bがお金を貸すと申し出て銀行振り込みをした。Aは返済した。Aはもとからお金に困っておりBに相談して・・・このように時系列をばらばらにして書いてしまうとわかりにくい陳述書になってしまいます。読み手である裁判官なども、紙にあらためて時系列をまとめながら読むことになるかもしれません。
陳述書を書くときは「誰がいつどこで誰と何をしたか」をわかりやすく時系列にそって記載しましょう。
(2)事件番号や住所氏名、押印などを忘れない
陳述書の末尾には作成年月日、住所、氏名(自署)、押印をします。パソコンで作成した場合も署名は自筆で行います。事件番号の記載もしましょう。押印は認め印で大丈夫です。
(3)伝聞については伝聞だとわかりやすく書く
陳述書には伝聞を記載しても問題ありません。陳述書の書き方に他者からの伝聞を入れてはいけないというルールはないからです。ただし陳述書に他人から伝え聞いたことを書く場合は、はっきりと伝聞だとわかるように記載してください。自分の見聞きしたことと明確にわけて書きましょう。
(4)あいまいな部分は「あいまいだ」と書いても問題ない
人間の記憶は必ずしも明確ではありません。裁判をしているトラブルについても記憶が薄れてしまっていることや、あいまいなところがあるはずです。
陳述書に記憶のあいまいな事柄については「あいまいだ」と記載して差し支えありません。あいまいなことを断定したり、事実のように嘘を書いてしまったりする方が問題になり得ます。
(5)陳述書を作成するときに注意すべきその他のポイント
陳述書の作成で注意すべきその他のポイントとしては「意見と事実は区別する」ことや、書く際に「判例も意識すること」です。
意見と事実は違います。自分の意見なのか、それとも純然とした事実なのかを混同せず、はっきり区別して書くことが陳述書の書き方の注意点です。意見を書くときは現在の意見なのか、それともトラブル当時の意見なのか区別して書くことも重要だと思います。
また、裁判の内容によっては陳述書を作成する際に判例を意識することも重要です。過去の判例でどのような判示がなされているかなどを確認し、陳述書作成に活かすべきです。自分の主張に裏付けや根拠、説得力をもたせるためです。
4、陳述書は手書きできる?作成時の疑問点
陳述書の書き方では内容だけでなく「手書きが許されるか」など、作成についてもわからないことが出てくるはずです。また、作成した陳述書は裁判所に提出するわけですが、具体的にいつ提出するのか等も疑問点です。
陳述書の作成と提出に関するよくある疑問についても解説します。
(1)陳述書は手書き?それともパソコン?
陳述書は手書きでもパソコンでも問題ありません。手書きの場合は文字をていねいに書くなど、裁判官が読めるよう執筆時に注意してください。読みやすいという点ではパソコンの方が安心かもしれません。
パソコンで陳述書を作成する際に明確な書き方の規定はありません。推奨フォントはMS明朝で文字の大きさは12ポイントほどです。
枚数は裁判の内容にもよりますが、A4用紙3~5枚が目安になります。枚数が多くなるときはポイントを拾い上げてまとめる方法があります。
(2)作成した陳述書はいつ出すのか?
陳述書の提出時期は決まっていません。ただ、証人尋問や当事者尋問のタイミングで尋問にまつわる陳述書を提出することはよく行われています。別のタイミングで関係者などに書いてもらった陳述書や、自分で作成した陳述書を提出することもあります。
(3)陳述書を作成するときに準備すべきものは?
陳述書を作成するときは日記やメモ書きなどがあると便利です。日記は陳述書作成の参考になります。主張したいことや時系列などを具体的なメモ書きなどにまとめておくと作成がスムーズになり、記載忘れも防げます。
5、陳述書のよくある失敗例と対処法
せっかく陳述書を作成しても内容が裁判官に伝わらなければ意味がありません。主張がより伝わる陳述書を作成するために、避けたい書き方の失敗例を紹介します。
(1)感情論や抽象的な言葉が書かれている
陳述書の書き方のよくある失敗例としては「感情ばかり書かれていた」「言葉が抽象的でイメージしにくい」などがあります。
陳述書に「悲しかった」「相手は酷いと感じた」などの感情ばかり書かれていたらどうでしょう。裁判官が陳述書を読んでも、文面から客観的な事実を読み取ることができません。感情論は必要最小限にした方が無難です。トラブルのことを思い出して感情が乱れたら、一端書くのをやめて心を落ち着かせるという方法も有効です。
抽象的な言葉も同じです。陳述書の場合は裁判官という第三者が理解するためにも、イメージしやすい言葉を使うことが重要です。「酷いことを言われました」と書くより、実際に言われた言葉を書く方が裁判官もイメージしやすくなります。
(2)相手への反論ばかりになっている
陳述書は裁判官に伝えるべき大事な事実や経験などをまとめて提出する書面です。相手方への文句や反論ばかりだと、そこから読み取るべき事実や経験などは乏しくなります。
裁判は自分の主張を認めてもらうためのものです。陳述書で言い合いをしていては、裁判官に理解してもらえるものも理解してもらえなくなります。
最終的に自分に有利な判決をもらうために知って欲しいことは相手への反論ではないはずです。「裁判官に理解してもらう」「そして自分の主張を(判決で)認めてもらう」ことが目的だと冷静にとらえ、事実や経験なども必要なものを過不足なく記載することが対処法になります。
(3)日時や内容がバラバラになっている
上記のとおり、時系列がバラバラだと、同じ陳述書の中で日時や内容がばらばらだと、読み手は言い分を理解できなくなります。
時系列ごとの事実をメモにまとめ、陳述書をメモにそって書くことでミスを防げます。
(4)裁判には必要のないことが書いてある
自分にとっては陳述書で伝えたいと思う内容でも、裁判に関係ないことであれば書かない方が無難です。その分だけ陳述書の分量が増えますし、裁判官の読み込みも浅くなる可能性があります。また、重要な事実が書かれていても関係のない内容が多いために印象も薄くなってしまうのです。
重要な事実や経験などの記載内容が裁判官の印象に残るよう、必要なことは削り、必要なことは不足なく記入してください。
(5)陳述書は弁護士に作成を任せることも可能
弁護士がついていれば陳述書の作成や提出はほぼ弁護士に任せることが可能です。陳述書は基本的に本人が事実や体験、言い分などをまとめますが、弁護士がいれば弁護士が事実などをヒアリングし原案としてまとめるなど、作成をサポートします。弁護士は陳述書作成に慣れていますので、相談者が陳述書の書き方を自分で調べたり、迷ったりする必要はありません。
陳述書の目的は言い分を理解してもらい、裁判の結果に良い影響をもたらすことです。書き方で迷いわからないまま進めてしまうと、言い分を理解してもらうどころか裁判官の心証などにマイナスの影響をもたらすかもしれません。
陳述書は裁判の結果を左右する重要な書面のひとつだからこそ、書き方で迷ったら弁護士を頼ってください。その方が時間も労力も短縮でき、ミスも防げます。
まとめ
陳述書は裁判において自分の主張や補足的事項などを伝える重要な書類です。陳述書を作成しても裁判官に内容が伝わらなければ意味がなく、心証などの点でマイナスに働いてしまっては裁判の目的である「自分の主張を認めてもらうこと」が難しくなる可能性があります。
陳述書は裁判結果を左右する書面のひとつです。弁護士に陳述書について相談すれば書き方で迷うこともありません。困ったときは、まずは弁護士に相談してみてください。