「妻の浪費癖が激しいので離婚したいが、子どもの親権は獲得できるのだろうか?」
このような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚時に親権争いになると、どうしても夫側は圧倒的に不利になってしまいます。
裁判所が公表している司法統計によると、2019年に全国の家庭裁判所の調停または審判で親権が争われた事件のうち、実に93.4%で母親が親権者に指定されています。
父親(夫)としては、自分の非が理由で離婚するならともかく、妻の浪費癖が原因で離婚する場合にまで子どもの親権を奪われるのは納得できないところでしょう。
そもそも、金遣いに問題のある妻に子どもの養育を委ねること自体に問題があると主張するのも無理からぬところです。
そこで今回は、
- 浪費癖のある妻との離婚で夫が親権を取れるか
- 妻の浪費癖が原因の離婚で夫が親権を獲得する方法
- 浪費癖のある妻との離婚で夫が親権を獲得した実例
などの内容について、離婚問題に精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
この記事が、妻の浪費癖に悩みつつも子どもの親権を手放したくないとお考えの方の手助けとなれば幸いです。
親権を父親が獲得する方法を知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、妻の浪費癖が原因の離婚でも親権争いは妻が有利?
冒頭でもご紹介したように、親権争いでは妻の方が圧倒的に有利となるのが現実です。
では、離婚する原因が妻の浪費癖にある場合でも、親権争いでは妻の方が有利となるのでしょうか。
(1)親権を決めるときに考慮されるポイント
一般的に、親権を決める際には以下の各ポイントを総合的に考慮した上で、どちらが子どもを育てるのが子どもの健全な成長にとって望ましいかという観点から判断されます。
1. これまでの監護状況
2. 子どもに対する親の愛情の程度
3. 親の心身の健康状態
4. 今後の養育環境
5. 子どもの年齢や心身の状況
6. 子ども自身の意思
多くのケースでは、これまで妻が中心となって子どもの身の回りの世話をしており(1.のポイント)、十分に愛情も注いでおり(2.のポイント)、心身の健康状態にも特に問題はありません(3.のポイント)。
離婚後は妻側が経済的に苦しくなるケースも多いですが、子どもの養育に関しては元夫に対して養育費を請求することでカバーできます(4.のポイント)。
子どもが15歳以上の場合は子ども自身の意思が尊重されますが、15歳未満の子どもの意思は参考にされるのみです(5.のポイント)。
したがって、子どもの年齢が低ければ低いほど、親権争いで妻側が有利となるのです。
(2)妻に浪費癖があっても基本的には妻の方が有利
妻の浪費癖がある場合は、上記の6つのポイント(特に1.~4.のポイント)の一字状として考慮されることになります。
そのため、ケースによっては夫が有利になることもあり得ますが、基本的にはそれでもまだ妻の方が有利なケースが多いです。
なぜなら、子どもが低年齢の場合の親権争いでは「母性優先の原則」というものが最も重視されるからです。
母性優先の原則とは、一般的に子どもの身の回りの世話は母親の方が適切に行えると考えられますし、子どもの成長にとっても母親とのスキンシップが重要と考えられているからです。
また、その次に重視される原則が「継続性の原則」というものです。
継続性の原則とは、子どもの養育環境や主な養育者、養育方法を離婚後もできる限り変更しない方がよいとする原則のことです。
これまで妻が愛情を持って子どの身の回りの世話をしてきており、今後も面倒をみていく意思があるならば、他によほどの事情がない限り、親権争いでは妻の方が有利となるのです。
そのため、妻に多少の浪費癖があったとしても、基本的には妻の方が有利といえます。ただし、妻の浪費癖が「多少」にとどまらず、子どもの監護養育に悪影響を及ぼすような場合には、夫が親権を獲得できる可能性も出てきます。
2、浪費癖のある妻から親権を取れるかどうかの判断基準
それでは、妻の浪費癖がどの程度であれば、夫が親権を取れるのでしょうか。
ポイントとなるのは、以下の3点です。
(1)何にお金を使っていたのか
まずは、妻が何にお金を使っていたのかを確認しましょう。パチンコなどのギャンブル、飲み歩きなどの飲食費、買い物、エステ、旅行、習い事……、その他いろいろあると思いますが、具体的なお金の使い途を確認するのです。
使い途によっては、多額のお金を使っていたとしても「浪費」とはいえない可能性もあります。
例えば、妻が営業職に付いているような場合は、ある程度の交際費も必要となるでしょう。その他にも、職種によっては被服費やエステ、旅行などもやむを得ない出費にあたるケースがあるかもしれません。
また、たとえ妻が借金をしていたとしても、生活費の不足によるものであれば浪費とはいえないケースが多いでしょう。
妻の仕事や家庭のライフスタイルに照らして、「無駄遣い」といえるかどうかがポイントとなります。
(2)どれくらいのお金を使っていたのか
次に、「いくら」のお金を使っていたのかも確認しましょう。ここでのポイントは、収入に見合った支出といえるかどうかという点です。
同じ50万円のブランド品を購入したとしても、世帯収入が月30万円の場合と、月100万円を超える場合とでは、「浪費」といえるかどうかが異なってきます。
家計をかえりみずに無駄遣いを繰り返しているようであれば、親権争いに影響を及ぼす「浪費」に該当する可能性があります。
(3)子どもの養育に手抜きはなかったか
最も重要なポイントは、浪費ぐせのために子どもの養育に手抜きがなかったかという点です。
妻が世帯収入に見合わない無駄遣いを繰り返していたとしても、子どもの養育に手抜きがなく、前記「1」(1)でご紹介した6つのポイントを満たしていれば、夫が親権を獲得するのは容易ではありません。
浪費ぐせのために子どもの養育に手抜きがあったと認められるケースとしては、
- ギャンブルにハマって子どもの面倒を見ない
- 夜遅くまで飲み歩き、子どもの食事を用意しない
- ブランド品を買って生活費を使い果たし、子どもの服や学用品が買えない
などが挙げられます。
これらのケースでは、子どもの世話が十分とはいえず(前記1.のポイント)、子どもに十分な愛情を注いでいるともいえないでしょう(前記2.のポイント)。離婚後に適切な養育ができるとは認められない可能性も高くなります(前記4.のポイント)。
また、妻の浪費癖がギャンブル依存症や買い物依存症、アルコール依存症、性依存症などによる病的なものであれば、心身が健康とはいえず、親権者としてふさわしくないと判断される可能性もあります。
妻の「浪費」のみに焦点を当てるのではなく、前記6つのポイントを参考にしてさまざまな観点から、妻が親権者としてふさわしくないといえる点を探してみましょう。
3、妻の浪費癖が原因の離婚で夫が親権を獲得するためのポイント
妻の浪費癖が前項で解説したポイントに該当するとしても、それだけで夫が親権を獲得できるというわけではありません。なぜなら、もともと親権争いでは妻の方が圧倒的に有利だからです。
夫が親権を獲得できる可能性を高めるには、離婚までに子どもの養育の実績を積み、かつ、今後の養育環境も整えることが重要となってきます。
(1)養育の実績を積む
まずは、養育の実績を積むことです。養育の実績とは、実際に子どものために時間を割いて、日々、子どもの世話をすることをいいます。
理想は、妻よりもあなたの方が中心となって子どもの面倒を見ているような状態になることです。そこまでできれば、夫の方が親権争いで有利になる可能性もあります。
しかし、仕事をしていれば、そこまでするのはなかなか難しいでしょう。また、子育てのために仕事をおろそかにすれば、夫としての責任を十分に果たすこともできないので、親権争いで有利になるともいえません。
そこで、できる限りでかまいませんので、仕事の時間を調整するなどして、日々、継続的に子育てに関わる時間を持ち続けましょう。
家庭内での子育てだけでなく、保育園や学校の行事、PTA活動などに積極的に参加することも、養育の実績に関してプラス評価につながります。
養育の実績は一朝一夕に詰めるものではありません。そのため、今まで子どもにあまり関わっていなかった方の場合は、離婚を切り出す前に時間をかけて子育てに関わっていくことも必要となります。
(2)今後の養育環境を整える
養育の実績をある程度積んだら、離婚後も同じように養育していける環境を整えることで、「継続性の原則」を満たすことも可能になります。
養育環境とは、子どもが住む家の環境はもちろん、転校する必要がないかどうか、さらには子育てを手伝ってくれる人がいるかどうかも含めて、子どもの養育を適切に行う条件が整っているかどうかという問題です。
男性の場合は仕事から手を離せないことも多いでしょうから、家にいない間は両親(子どもの祖父母)や兄弟姉妹、親戚などに子育てを手伝ってもらったり、遅くまで子どもを預かってくれる保育園などを見つけておくことがポイントとなります。
ただし、「両親(祖父母)が子どもの面倒を見てくれるから安心だ」と考えるのは危険です。あくまでも、離婚後は父親自身が中心となって子どもの世話をするのでなければ、親権争いで有利になることはできません。
仕事などの関係でどうしても手が回らないときだけ、他の人に子育てを手伝ってもらうという状態を作ることが必要です。
養育実績を十分に積み、今後の養育環境も十分に整えれば、夫が親権争いで優位に立てる可能性も十分にあります。
なぜなら、多くのケースで夫は離婚後も今までの自宅に住み続けるので、そこで子どもを育てるのであれば転校する必要もありませんし、「継続性の原則」が充分に満たされるからです。
4、妻の浪費癖が原因の離婚で夫が親権を獲得するための具体的な方法
以上でご説明したことは、夫が親権を獲得するために、前もって準備すべきことになります。
そこで次に、妻の浪費癖が原因で離婚する際に、実際に夫が親権を獲得するための具体的な方法を解説します。
(1)話し合いで決着をつけるのが望ましい
協議離婚をするときは、父母の話し合いによって親権者を決めます(民法第819条1項)。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停や裁判で決めることになります(同条5項)。
調停や裁判では、どうしても親権争いで妻が有利になりがちなので、夫が親権を獲得するには、できる限り話し合いで決着をつけるのが望ましいといえます。
妻の浪費癖が著しく、夫側が養育実績や今後の養育環境が完璧に整えたような場合は調停や裁判で争うのもよいですが、不安が残る場合には話し合いでの決着を目指した方がよいでしょう。
話し合いをまとめるためには、妻が親権者となることの不当性や夫が親権者となることの正当性を理論的に説明して説得するだけでなく、妻にとってのメリットを提示して交渉することも重要となります。
(2)面会交流を認める
親権を獲得するための交渉材料として、夫が親権を獲得した場合には妻に対して子どもとの面会交流を積極的に認めるということが有効です。
面会交流とは、離婚後に親権者とならなかった側の親が定期的に子どもに会って、親子の交流を図る制度のことをいいます。
親権者を決める際に重視される原則としてもうひとつ、「寛容性の原則」というものもあります。
寛容性の原則とは、面会交流を認めない親よりは認める親の方が親権者としてふさわしいと判断される原則のことです。家庭裁判所は、子どもの健全な成長のために面会交流は重要なものと考えていますので、面会交流を積極的に認める親の方が有利になるのです。
実際にも、離婚後に子どもと会えるかどうかは極めて重要な問題ですので、協議離婚の話し合いにおいても、積極的な面会交流を提案することは有効となります。
通常は月1回程度の面会交流が相場ですが、より多くの頻度で面会交流を認めるとよいでしょう。
妻との関係性次第ですが、あなたが仕事から帰るまでは妻が子どもの世話をすることとし、あなたが仕事帰りに子どもを迎えに行くという生活スタイルを提案するのもよいでしょう。
離婚後も子どもと頻繁に関われるのであれば、妻が親権を譲歩する可能性も高くなります。あなたが親権を持ちながらも、日常の子育ては2人で協力して続けていく「共同養育」も検討してみるとよいでしょう。
(3)慰謝料等の交換条件を提案する
その他にも、親権以外の離婚条件について譲歩することで、話し合いを有利に進められる可能性もあります。
例えば、離婚原因が妻の浪費癖であれば夫に慰謝料の支払い義務はありませんが、手切れ金のような意味合いで慰謝料の支払いを提案するのもよいでしょう。
「慰謝料」という名目が気に入らなければ、財産分与で妻に配慮するのが有効です。
妻が浪費癖のために今後の生活費に不安を抱えているのであれば、「扶養的財産分与」として、当面の間は生活費の面倒を見てやるということもできます。
話し合いで親権を獲得するには、「他の条件は譲ってもいいから、子どものために親権だけは自分に譲ってほしい」という姿勢で臨むのがおすすめです。
5、妻の浪費癖が原因の離婚で夫が親権を獲得した実例
最後に、ベリーベスト法律事務所にご依頼いただいたケースの中から、夫が親権を獲得できた実例をいくつかご紹介します。
(1)パチンコにハマって借金をしていた妻のケース
1つめの事案は、妻がパチンコ台のためにカードローンで借金をしていた他、夫のクレジットカードからも無断でキャッシングをしていたというケースです。
妻は連日のようにパチンコ店に通いつめて、子どもの食事は出来合いのものやパン、カップラーメンなどといった状態でした。
このケースでは、夫から依頼を受けた弁護士が妻と話し合い、50万円の借金を夫が肩代わりすることを条件として、夫が親権を獲得することで協議離婚が成立しました。
(2)遊びが派手で子どもを放置していた妻のケース
2つめの事案は、社交的で遊びが派手な妻が連日のように深夜まで飲み歩き、子どもの世話を放置していたケースです。
夫が帰宅すると子どもが食事もしていないまま家にいるということが多く、妻は深夜に帰宅して、翌朝は子どもの登校時間になっても起きてこないという状態でした。
このケースでは、妻が話し合いでは親権を譲らなかったため、離婚調停を申し立てることになりました。
調停では、妻が子どもの世話を放置していたことや、子どもに対する愛情が欠けていることなどを調停委員に説得的に説明し、理解を求めました。
そして、調停委員が妻を説得してくれたこともあり、夫を親権者とすることで調停離婚が成立しました。面会交流は月2回、認めることとしました。
(3)高価なブランド品等のショッピングを繰り返していた妻のケース
3つめのケースは、妻が高価なブランド品など自分の欲しいものばかり購入していたケースです。
高額のショッピングを繰り返すために生活費を使い果たし、子どもの食事も栄養的に十分なものとはいえず、習い事もさせず、衣服も古着ばかり着させていたという状態でした。
このケースでは、妻が「子育てにお金はかけなかったけど、手抜きは一切していない」と言い張ったため、最終的に離婚裁判にまで発展しました。
裁判では、妻が浪費を繰り返していたことや、子どもの世話が十分でなかったこと、夫が注意すると謝罪はするものの浪費をやめず、子どもの養育状況に改善がみられなかったことなどを立証しました。
その結果、妻は親権者としてふさわしくないとして、裁判離婚で夫が親権者に指定されました。
まとめ
妻に浪費癖があっても、それだけが理由では離婚時に夫が子どもの親権を獲得できるとは限りません。
浪費の程度にもよりますし、その他にも親権の問題ではさまざまなことを考慮する必要があります。
実際に離婚することになったら、夫が親権を獲得するのは容易でない場合が多いので、法律の専門家である弁護士の力を借りることをおすすめします。
お困りの際は、まずは無料相談でアドバイスを得て、親権獲得の準備を始めましょう。