マンション管理費を払わない人への対応策〜取りはぐれを防ごう!

マンション管理費払わない人

マンション管理組合の方にとって、管理費や修繕積立金(以下「管理費等」)を払わない区分所有者がいる場合、その対応をスムーズにできる方は少ないものです。

管理費等の滞納問題の解消は、手順を踏んで対応すれば別段難しいことではありません。専門家の力も借りてともかく早く手を打つことです。

この記事で何をすべきかをはっきりと整理しましょう。

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1、マンション管理費等滞納の実態

マンション管理費等の滞納は珍しい事ではありません。

平成30年の国土交通省「マンション総合調査」によると、「管理費・修繕積立金を3ヶ月以上滞納している住戸があるマンション」が 24.8%、すなわち概ね4分の1のマンションで発生しています。
完成年次が古いマンションほど管理費等の滞納の割合が高くなる傾向があります。

 (出典)国土交通省

平成 30 年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状

平成30年度マンション総合調査結果〔概要編〕

2、マンション管理費等の滞納の弊害

(1)管理費・修繕積立金とは?

はじめに、マンションの管理費・修繕積立金とはどのようなものかを確認しておきましょう。

①マンション管理費

マンション管理費は、建物や敷地内を良好な状態で維持できるように管理するための費用です。
例えば、マンションのエントランス・廊下・階段・エレベーター(以下、共用部分という)や駐車場などの点検・清掃にかかる費用など、日常的な維持管理のために使われます。

マンションについては、国土交通省が標準管理規約を定めています。

標準管理規約によると、管理費は具体的には主に以下のような経費に充当することになると考えられます(標準管理規約第27条参照)。

  • マンションの管理会社に委託する業務の管理委託費
    管理員人件費、共用設備の保守維持費・運転費、事務費、清掃費・ごみ処理費等
  • 管理組合の運営に関する費用
  • 共用部分の水道光熱費
  • 共用部分の火災保険やその他損害保険の保険料
  • 軽微な損傷等の補修費 

②修繕積立金

修繕積立金は、共用部分の計画的な大規模修繕の費用を準備するために積み立てるお金です。
管理費とは区分して積み立てておく必要があります。日常的な管理に修繕積立金を使ってしまうと、大規模修繕をするときに積立金が使えなくなる、ということを避けるためです。

従って、修繕積立金を取り崩して使うことができるのは、主に次のような場合に限定されています(標準管理規約第28条参照)

  • 一定の年数毎に計画的に行う修繕
  • 不測の事故や特別の事情により必要となる修繕
  • 敷地や共用部分の変更
  • 建物の建て替えや敷地の売却にあたって必要な調査

(2)管理費等の滞納は発生しやすく、解決が困難

管理費等の滞納は、他の債務などと異なる特徴があります。

管理費等は月当たりにすれば数万円程度です。
少数の人がある程度滞納しても、マンションの会計がすぐ破綻するわけではありません。
しかし、滞納額は、毎月着実に増大していきます。
同じマンションに住むご近所同士でもあり、そのうち払ってくれるだろうなどと軽く考えがちです。本人もそのうちお金ができたらなどと、放置しがちです。

やがて、金額が大きくなり、支払いが困難になります。
とはいっても、管理組合として強行に取り立てたり、あるいは売却を求めるなど簡単にできるものではありません。

その結果、解決が長引きます。

滞納者としても、すぐマンションから追い出されるわけでもないので、督促により一旦支払った人でも、ついつい再び滞納を始めてしまいます。

こうすると、自分だけ毎月払うのは不公平だ、ひと月ぐらいは滞納してもかまわないだろう、等と他の人にも伝染しかねません。

こうして、マンションの4分の1で3ヶ月以上の滞納が続くという現状になっています。

(3)管理費等を滞納されることの具体的弊害とは?

マンションの管理費等を滞納されると、直接間接の弊害が思わぬところまで及びます。

①区分所有建物の日常の管理水準が落ちる。

マンションは予備のお金を潤沢に持っているわけではありません。
毎月の管理費等の収入を予定して支出を計画しています。

滞納が長引くと、日常の管理費用の支出に支障をきたします。
小規模なマンションなら、一戸だけの滞納で資金繰りが逼迫することさえあります。
人件費、水道光熱費といった必須の費用だけは何とか支払うが、小規模な修繕などは後回しにする、といった運営になりがちです。目に見えないところで、問題が積み重なり、マンション全体の管理水準が落ちていきます。

違う例を言えば、保険料を3年分先払いすれば安くなるのに、3年分を捻出できず毎年払いにするために、保険料負担が増える、そのようなことも生じます。

②修繕積立金の積み立て不足が生ずる。

修繕積立金は将来の大規模修繕のために計画的に積み立てるものです。
積立不足が生ずると、大規模修繕計画についてやむなく時期を遅らせたり、一部の修繕項目を先送りするといった運営をせざるを得なくなります。
貴重なマンションの価値が下がっていきます。
これを避けるために、途中で修繕積立金の額を引き上げたり、大規模修繕時に不足費用を補うために高額な一時負担金が徴収されたりといった運営にもなりかねません。

③マンションの日常のトラブルの誘因となる。

マンション管理費等の支払いは区分所有者の第一の義務です。
これを守らない人がいると、騒音問題とか、ゴミ出しの取り扱い、ペット問題など日常の様々な問題についても、「規則を守らないのは自分だけではない。なぜ、滞納者にもっと強く当たらないのか。」といった言い訳の口実を与えることになりかねません。
マンション全体のルール遵守の気風が失われて、これも広い意味でマンションの価値を下げていくことになります。

④売却にも支障をきたす。

このようなマンションについて、専有部分を売却するときにも弊害が生じます。
買受希望者は、当該マンションの管理の状況、修繕積立金の積立状況をチェックします。
滞納状況がひどかったり、修繕積立金の積立状況が良くない場合には、買受希望者が現れなかったり、予想外に安価でしか売却できなくなる、といったことになりがちです。

3、滞納したマンション管理費等を払ってもらう方法

それでは、滞納者管理費等をちゃんと払ってもらうには、どのようにすればよいでしょうか。

一般的な債権回収のルールと、マンション区分所有法等に基づく特別のルールを理解しておけば難しいことではありません。
一方で、放置すれば消滅時効などにより支払いを受けられなくなる可能性があります。管理組合の役員が自分の日常の業務や生活の傍らで、対応することは困難でしょう。早めに専門家と相談されることをお勧めします。

(1)まず日常の管理と催告

記録をつけ段階を追って支払いの請求を重ねます(後述)。
日常的な収納管理は、滞納者への請求の他、法的措置をとる際の証拠のためにも欠かせません。
法的措置のためには組合員全員の名前で当たる必要があります。
弁護士に依頼するとしても組合員一人一人の委任状が必要になります。
組合員名簿の整備、異動届を提出させて、常時組合員の現況を把握しておくことが必要です。
マンション管理会社に管理を委託している場合も多いと思います。
上記のようなことは管理会社で日常的にやってくれているはずですが、滞納者がいる場合には管理会社の管理や滞納督促の状況を定期的に報告してもらうことが必要です。

(2)消滅時効について把握しておこう

滞納管理費等の時効は5年です。
放置していると滞納管理費等を払ってもらえなくなります。
長期間滞納してるような場合には、裁判上の請求や、支払い督促、差押え等などという方法で時効の完成猶予(時効の進行を止める)等を図っておく必要があります。

このあたりはぜひ専門家と相談してください。

 (注)民法改正の影響  

2020年4月から改正民法が施行されていますが、マンション管理費等については、改正前後で時効の取り扱いに事実上の差はありません。

改正前民法では、最高裁の判決で「定期給付債権」として5年の短期消滅時効が適用されていました。
改正後は、マンションの管理費等を含め一般の債権の消滅時効について、「権利を行使することができることを知った時から5年」又は「権利を行使できる時から10年」と定められました(改正民法第166条第1項)。
債権者たる管理組合は、当該月の管理費等を請求できることを当然に知っていますので、5年の消滅時効が適用されることになります。

大規模修繕工事を行う際にその不足金を補うための「修繕(積立)一時金」「特別徴収金」「特別負担金」なども同様です。

(3)法的な措置

法的な手続きは概ね次のとおりです。
必ずしもこの順序による必要はありません。

実際には管理会社さらには弁護士などの専門家に依頼することになるでしょう。
管理組合の役員としては概要を把握しておいてください。

① 普通郵便・訪問による催告

管理会社と管理委託契約を締結している場合、通常は管理会社による滞納管理費の督促も委託契約の内容となっていると思われます。
管理会社任せにせずに、請求督促の状況を必ず報告してもらうようにします。
管理規約による遅延損害金なども請求の金額に含めます。

② 内容証明郵便による催告

内容証明郵便においては、支払われない場合に訴訟などの法的手続に入ることも予告します。
この段階からは弁護士に依頼すべきでしょう。
滞納者が管理会社からの催告を放置していても、弁護士名での内容証明郵便がくれば滞納者にとっては心理的には相当のプレッシャーになります。
民法上の「催告」として、管理費の消滅時効の完成猶予(時効の進行を止める)の効果もあります。
但し、6ヶ月以内に裁判上の請求などの手続を取る必要があります(改正民法第150条第1項)。

なお、内容証明郵便で督促する金額には、管理規約による遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して請求します(標準管理規約第60条第2項参照)。
滞納に起因してこれ以外にも費用負担が生じているものがあれば、あわせて請求すべきでしょう。
請求金額の考え方は後述の裁判所による手続きでも同様です。

標準管理規約では、理事長は、理事会の決議を経て管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができることが定められています。
②以下の手続きは理事会の決議を経ておきましょう(標準管理規約第67条第1項、第3項など参照)。

③ 支払督促による請求

支払督促は法的手段の中でも比較的簡易な方法であり、通常の裁判手続より簡易迅速に強制執行するための手続きです。
書類審査のみでの迅速な手続で、審理のために裁判所へ出廷する必要もなく、費用も訴訟の半分で済みます。
滞納者が督促異議の申立てをしなければ、仮執行宣言の申立てをすることができます。
この支払督促にも督促異議の申立てを行わなければこの支払督促は確定し、確定判決と同様の効力を有することになり、強制執行することができるようになります。
滞納者が督促異議を出しますと、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の通常の訴訟手続へ移行してしまいます。
管理費等の滞納は立証する事も容易であり、滞納者が通常の訴訟手続きまで踏み込むことは、それほどを想定されないでしょう。
とはいえ、管理組合としては訴訟になることも想定して、訴訟提起すること、弁護士を代理人とすることなどを決議しておく必要があります。
支払督促は、一番使いやすい手続でしょう。
家庭裁判所の手続きの流れの図解を以下に示します。

(図の出典)政府広報オンライン:簡易裁判所の「支払督促」手続をご存知ですか?

④少額訴訟

請求する金額が60万円以下の場合に利用できる訴訟制度です。簡易裁判所に提起します。
原則として、1回の期日で審理を終了し、口頭弁論終了後、直ちに判決が言い渡されます。
滞納管理費が60万円を超えることは多くないでしょう。
訴訟提起にあたっては、少額訴訟も検討しましょう。というよりも、60万円を超えるまで滞納管理費等を放置するというのは避けるべきです。

⑤通常の訴訟による請求

支払督促に異議が出された場合や、支払督促手続をとらずに最初から訴訟を提起した場合には、訴訟手続となります。
請求額が140万円以下の場合は簡易裁判所、これを超える場合は地方裁判所が管轄となります。

⑤差押などによる強制執行

支払督促や勝訴判決を得ても、滞納者が滞納管理費を支払わない場合には、強制執行(財産の差押え)を行うことになります。
滞納者の勤務先に対する給料債権、銀行預金、自動車等が対象となります。
滞納者の区分所有建物(マンションの居室)自体を強制執行の対象とすることもできます。

これらの強制執行は、弁護士に相談されるべきです。

⑥(補足)強制執行についての注意点

給料債権や銀行預金などで回収ができればそれに越したことはありません。
しかし、滞納者が転職退職していたり銀行預金の残高がない、などで、強制執行が不発に終わることも想定されます。
最終的には滞納者の区分所有建物自体を強制執行の対象として競売に付すことも考えられます。
区分所有法第7条により、区分所有者(すなわちマンションの所有者)は管理費や修繕積立金について先取特権が成立します。
この規定により、管理費等の滞納があった場合も他の債権者より優先して弁済を受けることができます。
ただし、この先取特権は登記された抵当権よりも優先順位が劣ります。
すなわち当該区分所有権に住宅ローンなどに基づく抵当権が設定されている場合には、競売で落札されても、落札金額より住宅ローンの金額のほうが大きければ、滞納金を回収することはできません。

4、マンション管理費の回収で法的手段をとる際の注意点

以上の説明で、法的手段は決して簡単なことではないとおわかりいただけたと思います。
本項でもう一度整理しておきます。

(1)弁護士への相談がおすすめ

滞納については、管理会社からの催告でらちが明かないというなら、早めに弁護士と相談すべきです。
前項で内容証明郵便から弁護士との相談をお勧めしましたが、場合によっては弁護士が乗り出して滞納者と交渉していただくだけで解決することもありうるでしょう。
その後の内容証明、支払督促、訴訟、強制執行等にいたっては、弁護士でなければ対応はできません。
時効の問題もあります。滞納金額がふくらめば解決はますます難しくなります。
早めの相談がお勧めです。

(2)弁護士費用その他手続きにかかる費用は組合管理費から

弁護士費用その他の手続きは管理組合の管理費会計(一般会計)から支出します。
前述の通り、これらの費用は滞納者に督促できます。

(3)費用対効果、滞納者へのインパクトを考えることが必要

滞納者は、総じて言えば、管理費等の滞納を軽く見て放置している場合がほとんどです。
また、滞納を一旦解消しても再び滞納に至ることがしばしばです。
従って、大切なことは、放置せずに簡便な方法でもタイムリーに手を打っていくことです。
内容証明郵便だけならば数万円程度の費用で済みます。
その費用分も滞納者に請求するのです。
滞納を繰り返すようなら、ほんの数ヶ月のことであっても、見過ごさずにすぐに内容証明を打つなど、管理組合として放置しない姿勢を明確に出すべきです。

5、マンション管理費を滞納させない予防策

滞納が生じる原因は様々です。
問題なのは管理組合の役員が総じて短い任期で交代するだけに、どうしても対応が遅れがちになることです。
従って、事前に対応の仕方をルール化し、確実に引き継いでいくことです。
督促のルールを定め、だれが役員になってもきちんと督促できるように管理規約や細則に明記しておくべきです。
管理会社ともしっかり相談してください。
必要に応じて早めに弁護士と相談できるような体制を取っておいてください。
これまでに述べたことも含めて纏めておきます。

①滞納者リストを確実に作成しメンテナンスすること

②管理費等の支払い期日、支払い方法の定めを明確にすること
多くの管理組合では、銀行口座からの自動引き落としにしていると思います。
滞納者への督促に当たっても、銀行口座の引き落とし依頼書も同封して、確実に口座から出金されるように求めます。

③遅延損害金の定めを置くこと・弁護士費用を請求できる旨の定めを置くこと
前述の通り、標準管理規約ではちゃんと定められています。
ご自身のマンションの管理規約をもう一度見直して見ておいてください。

④滞納者に対する督促に関する定めを置くこと
例えば、滞納○ヶ月で弁護士による内容証明郵便を打つ、といった具体的な定めが望ましいでしょう。

6、マンション管理費の回収問題は専門家との早めの相談を

滞納者は、マンションの住民であることが多く、管理組合の理事長等役員としても、なかなか強くは当たれないでしょう。
日常の生活や仕事を抱えている以上、時間も取れないでしょう。
以下のような公的な相談窓口もありますが、ともかく弁護士と相談するのが一番手っ取り早い方法です。
それも滞納管理費等がそれほど多額でないうちに、早め早めに手を打っていくべきです。

(公的相談窓口)

公益財団法人マンション管理センター

まとめ

滞納している人も滞納額が溜まればたまるほど、自ら対応が難しくなっていきます。
滞納者への適時的確な働きかけこそ、滞納者がマンションに住めなくなるといった不幸を未然防止することに繋がるでしょう。
同じ居住者仲間を助けるという気持ちで、速やかに行動しましょう。
それが滞納者のためにもなり他の区分所有者のためにもなるのです。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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