借金は返済が遅れてしまうと、「遅延損害金」が発生する可能性があります。
遅延損害金が発生すれば最終的な支払総額が増えるだけではなく、さまざまなデメリットを伴う恐れがあります。
今回は
- 遅延損害金の概要
- 計算方法
- 遅延損害金が支払えない場合の対処法
などについて詳しく解説します。
目次
1、遅延損害金とは?
借入や住宅ローンなどを利用していると、「遅延損害金」という言葉を耳にすることや目にすることがあると思います。
遅延損害金とはどのようなものであり、どういった場合に発生するのでしょうか?
(1)遅延損害金とは
遅延損害金とは、借金の返済を滞納した場合に発生するペナルティです。
借主との間で事前に契約した通りに返済できないことに対し、加算される損害賠償金になります。
遅延損害金に関する規定は、借主との貸金契約を締結した際の契約内容に記載されていることが多いです。
契約内容に盛り込まれていない場合でも、後述のとおり遅延損害金の発生は民法でも認められるので、一般的に借り入れやローンを期日までに支払わなければ、遅延損害金が上乗せされて請求されることになるでしょう。
(2)遅延損害金が発生するタイミングについて
遅延損害金は返済を滞納したことで発生する損害賠償金なので、滞納が始まった日から発生します。
つまり、あらかじめ決められた返済日の翌日が遅延損害金の起算日(遅延損害金が発生する期間の第一日目)です。
たった1日滞納しただけでも遅延損害金は発生し、借主に請求されることになります。
遅延損害金の支払い期日は銀行やカード会社などによって異なりますが、遅延損害金が発生した翌々月以降になることが多い傾向にあります。
(3)遅延損害金の支払い義務はある?
そもそも返済を滞納して遅延損害金を請求されたとしても、支払い義務はあるのかどうか疑問に思う方も多いでしょう。
銀行や消費者金融などの借入れ契約をした場合、返済が滞納されれば遅延損害金を支払う契約についても同意していることが大半です。
そのため、返済を滞納してしまった場合は契約違反になり、支払い義務が生じることになります。
民法第412条にも遅延損害金の履行期や履行延滞に関して規定されていることから、法律的にも遅延損害金が発生した場合には支払い義務が生じるものであると考えられます。
2、遅延損害金と利息の違いについて
遅延損害金は「遅延利息」と呼ばれることもあり、利息と混同されやすくなっています。
どちらも借入れに対して発生するものですが、遅延損害金と利息は異なるものです。
遅延損害金と利息の違いについて、理解しておきましょう。
(1)利息とは
利息とは、金銭を借りることへ対する対価のようなものです。
「金利」とも呼ばれ、借金の元本に利息を添えて返済することが義務付けられています。
遅延損害金と異なる点は、借金をすれば必ず発生するという点です。
借金の返済の滞納の有無に関わらず利息は発生し、各貸金業者が設定する利率に基づいて計算される利息を支払わなければなりません。
この利息の利率は、
- 利息制限
- 出資法
という2つの法律で上限が定められています。
利息の場合は最大でも上限が20%になっており、それを超える利率は無効になります。
一方で、遅延損害金にも利息制限法による規制がありますが、利息よりも遅延損害金の利率の方が高い傾向にあります。
なぜならば、遅延損害金はあくまでもペナルティになるので、高利率に設定することで債務者が滞納しないように予防するという目的も備えているからです。
(2)利息と遅延損害金は二重請求できない
利息と遅延損害金は別のものになるので、二重では請求されません。
利息は借金の元金にのみ発生するものであり、遅延損害金に対して利息が発生することはありません。
つまり、借金の返済を滞納した場合には、
- 借りた元金
- その利息
- 別途で遅延損害金
が発生するということになります。
3、遅延損害金が発生した時に生じるデメリットとは?
遅延損害金が発生するような状況になった場合には、さまざまなデメリットが生じる恐れがあると考えられます。
遅延損害金が発生するような状況になる前に、まずは借金を滞納するデメリットについて知っておきましょう。
(1)支払い総額が増える
遅延損害金が発生するということは、支払い総額が増えるということになります。
返済期日通りに返済を行っていれば元金と利息の返済だけで済みますが、滞納することによって遅延損害金の支払いまで増えることになるのです。
遅延損害金は高利率の設定が多く、延滞日数が増えるほど遅延損害金の金額は高くなります。
そのため、少しでも借金の滞納を放置しまうと、高額な請求が行われる恐れがあるので注意が必要です。
(2)ブラックリストに載ってしまう
返済を滞納すれば、信用情報機関(クレジットカードなどの審査の際に支払い能力及び信用能力を共有する機関)に事故情報(借金などの返済を滞納したという金融事故情報)として登録されてしまいます。
これを「ブラックリストに載る」と呼びます。
金融機関やクレジットカード会社は借入れを行う際には、信用情報機関の情報を確認することで相手の支払い能力を確認します。
そのため、信用情報機関に借金の滞納情報が記録されると、金融機関などの審査に通らなくなってしまいます。
すると、
- 新規借入れ
- クレジットカードの発行
- ローンを組むこと
などが難しくなってしまうものです。
滞納情報はすぐに記録されるわけではありませんが、一般的には2~3か月ほど滞納するとブラックリストに掲載されると言われています。
(3)裁判になる可能性がある
遅延損害金が発生するような状況になれば、借金を滞納している金融機関などから支払い督促が届くようになります。
この督促を無視するなどして対応を怠れば、債権者が裁判を申立てる可能性があります。
裁判になれば一括で返済を求められる可能性もありますし、返済に対応できなければ財産差し押さえの可能性も出てきます。
一般的には滞納して2か月ほどで督促状が届き、督促状に対応しないでいると裁判に発展することが多いです。
(4)財産が差し押さえになる可能性がある
借金を滞納して裁判所からの通知も無視を続けた場合、強制執行により財産を差押えられてしまう恐れがあります。この差し押さえられた財産が売却されるなどして債権者に債務の弁済が行われます。
差し押さえでは、
- 預貯金
- 家
- 車
などだけではなく給料も差押えの対象になります。
家など不動産の場合には強制的に売却されてしまうことになるため、そうなる前に対処する必要があります。また、給料の差し押さえになれば勤務先に通知が届くことになるため、社会的信用を失ってしまう可能性もあるでしょう。
4、遅延損害金の計算方法
遅延損害金が発生すれば返済の支払いが増え、負担も大きくなってしまいます。そのため、遅延損害金が発生するような場合にはあらかじめどれくらいの金額になるのか把握しておきたいものです。
- 遅延損害金の利率
- 計算方法
について詳しくみていきましょう。
(1)遅延損害金の利率について
遅延損害金を計算するにあたって、利率について把握しておく必要があります。
遅延損害金の利率は利率制限法によって上限が規定されており、上限利率は利息の1.46倍を上限にすることが定められています。
そのため、利息から考えると遅延損害金の利率の上限は次の表のようになります。
借入額 | 10万円以下 | 10~100万円 | 100万円以上 |
利息 | 20% | 18% | 15% |
遅延損害金の上限利率 | 29.2% | 26.28% | 21.9% |
ただし、この遅延損害金の上限利率は
- 銀行
- クレジットカード会社
などの金融機関におけるものです。
消費者金融で借入れた場合には、遅延損害金の利率が最大20%になることが利息制限法第7条に規定されています。
これらの利率を超える契約に同意した場合には、合意は無効になるため上限利率を超える分は支払う必要がありません。
(2)遅延損害金のケース別の計算方法
遅延損害金の金額は、「借入残高×遅延損害金利率×延滞日数÷365日」で求めることができます。
利率に関しては、貸金契約書の中に記載されているものを当てはめます。
一括返済と分割返済の場合で、それぞれどのように計算すればいいのか具体的にみていきましょう。
①一括で返済する場合
一括で返済をする場合、計算式は分かりやすくなっています。
借入額が80万円で遅延損害金の利率が20%、30日間滞納した場合は、次のとおりに計算します。
80万円×20%×30日÷365日
この計算式で算出すると、支払うべき遅延損害金は13,150円になります。
②分割で返済する場合
分割で返済をしており、滞納が継続している場合には遅延損害金の計算式が少し変わります。
毎月の返済額が10万円で遅延損害金の利率が20%、50日間(2カ月)滞納した場合は、次のとおりに計算します。
(①10万円×20%×30日÷365日)+(②20万円×20%×20日÷365日)
1カ月目は支払う返済額が10万円なので、①の計算式から算出した1,643円になります。
しかし、滞納が2カ月目に入ると返済額が2カ月分の20万円になるため、②の計算式で算出される2,191円に増えます。
2カ月滞納であればこの2つの計算式を合わせることになり、合計3,834円の遅延損害金が発生することになります。
5、遅延損害金を発生させないためにできること
遅延損害金を発生させないためには返済日にきちんと返済することが解決法になりますが、返済が難しいというような場合もあるでしょう。
遅延損害金を発生させてしまうような場合には、次の方法を試してみてください。
- 返済期日を把握する
- 借入先に相談する
- 時効の成立を確認する
(1)返済期日を把握する
借入先が1社だけではなく複数ある場合、返済日がそれぞれ異なるため返済期日を把握しきれないというようなこともあるでしょう。
そのせいで、返済日を過ぎてしまうことが何度か続いているというような場合には、ローンの一本化を検討してみてください。
ローンの一本化とは、複数のローンを1つのローンまとめることを指し、各金融機関で「おまとめローン」などの商品名で用意されています。
返済先が1社になるので管理が楽になり、金利も下がる可能性があります。
(2)借入先に相談する
遅延損害金が発生する前に、まずは借入先に相談してみましょう。
支払う意思があることを示し、
- 返済期日の延長
- 返済計画の見直し
などに応じてもらえないか話してみてください。
場合によっては借入先も柔軟に対応してくれるかもしれません。
ただし、滞納している状態で相談しても応じてもらえない可能性があるので、返済期日よりも早めに連絡すること(滞納する前に)をおすすめします。
(3)時効の成立を確認する
ずっと返済をしていなかった借入や、長期間連絡がなかったものの突然返済請求がきたという借入の場合には、時効の成立を確認しましょう。
借金にも時効が存在し、時効が成立していれば返済する義務はなくなります。
借金の時効は、
- 知人など個人間での借金は10年
- 銀行など金融機関からの借金は5年
になります。
6、遅延損害金を支払えない場合の対処法
遅延損害金が発生したものの支払うことが難しいというようなケースもあるでしょう。
遅延損害金が支払えないということは、滞納している借金の返済も難しいということになります。
この場合、以下の手段を検討してみてください。
- 借入先に相談する〜最低弁済を行う
- 住宅ローンを滞納している場合は任意売却を検討する
- 債務整理を検討する
- 弁護士に相談する
(1)借入先に相談する〜最低弁済を行う
ケガや病気など、何らかの事情で一時的に収入が減少して返済が難しくなってしまうこともあるでしょう。
もし一時的に返済が難しいものの、その後返済できるという場合ならば、借入先に最低弁済の相談をしてみましょう。
最低弁済とは、最低限の金額だけを支払うというものです。
事前に借入先に相談して具体的な返済計画を提示すれば、遅延損害金の請求は行われないようなケースもあります。
(2)住宅ローンを滞納している場合は任意売却を検討する
住宅ローンを滞納している場合には、任意売却を検討してみましょう。
任意売却とは住宅ローンの残っている不動産を売却する方法で、売却金をローンの返済に充てることができます。
ただし、債権者である金融機関の同意が必要になります。
そのまま住宅ローンを滞納して差押えになり、競売になってしまうよりも高く売却できる可能性があります。
(3)債務整理を検討する
遅延損害金が積み重なって支払いが困難になってしまっているような場合には、債務整理を検討してみましょう。
債務整理を行えば、
- 借金の減額
- 返済の負担の軽減
が期待できます。
①任意整理
任意整理とは裁判所を介さずに、債権者と利息カットなどを交渉する方法です。
債務整理したい債権を選ぶことができるため、保証人がいる債権を避けて債務整理を行うことができます(保証人がいる債権を債務整理した場合、保証人は一括返済を求められてしまいます)。
②個人再生
裁判所の手続きにより、借金を大幅に減額できる方法です。減額された借金を3~5年で返済していきます。
ただし、債務整理する債権を選ぶことができないため、保証人のいる債権も対象になります。
③自己破産
裁判所の手続きにより、借金を免除することができる方法です。
生活に必要な原因や生活用品以外は差し押さえになり、換金して返済に充てられます。
ブラックリストに載るなどのデメリットもありますが、借金額が多ければメリットは大きい手続きでしょう。
(4)弁護士に相談する
現時点では遅延損害金を含めた借金の返済が難しいという場合、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
借金や経済状況などを説明することで、ご自身に合った対処法のアドバイスを貰うことができます。
とくに債務整理を検討している場合には、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
債務整理を行うことで生活の立て直しも期待できますが、債務整理の中のどの手続きがご自身の状況に適切なのか見極める必要があります。
また、債務整理手続きは複雑なので、専門家である弁護士に手続きを任せることで負担を大幅に軽減することができます。
まとめ
遅延損害金は借金の返済を滞納すれば発生し、支払う必要があります。
しかし、場合によっては
- 遅延損害金を免除できるケース
- 返済額を減額できるケース
もあります。
遅延損害金が発生した場合の対処はいくつかありますが、いずれにしても早急に対処することをおすすめします。
遅延損害金を含む借金の返済にお悩みの場合には、一人で悩まずに専門家である弁護士に相談してみましょう。