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労災は使わない方がいい?会社とトラブルになった場合の対処法も解説

業務上・通勤途中の病気やケガは、労災として扱われるのが原則です。

労災保険を使えば、治療費や休業補償など手厚い補償を受けられますが、労災にすることで会社に迷惑がかかるのではないか、と不安に思う方は少なくありません。

中には、労災を使わない方がいいのではないか、と考える方もいるでしょう。

労災が発生した場合、企業は労働基準監督署に報告することが義務付けられていますし、労災保険の使用は、労働者に認められている権利です。

今回は、

  • 労災を使わない方がいいケースがあるのかどうか
  • 第三者行為災害で労災を使わない方がいい場合
  • 休職する場合、有給休暇を取得し労災は使わない方がいいのか
  • 会社に「労災を使わない方がいい」と言われた場合の対処法

などについて、解説します。

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1、労災を使わない方がいいケースってあるの?

労災を使わない方がいいケースってあるの?

従業員が、業務中または通勤途中に起きたことが原因で負傷したり、病気になったりした場合、労災(労働災害)として、労災保険(労働者災害補償保険)による補償を受けられます。

ただ、会社に迷惑をかけるのではないか、労災を使うと損をするのではないか、といった不安から、「労災を使わない方がいいのでは?」と考える人も少なくありません。 

では、実際のところ、労災を使わない方がいいケースというのはあるのでしょうか。

(1)基本的に労災を使わない方がいいケースはない

業務に起因して、または通勤途中に負傷したり病気になったりした場合、基本的には労災を使うことをおすすめします。 

労災には、下記の3種類があります。

労災の種類

内容

業務災害

労働者が、業務を原因として被った傷病等。

複数業務要因災害

事業主が同一でない、複数の事業場に同時に使用されている労働者が対象。

一つの事業場では労災認定ができない場合であっても、事業主が同一でない複数の事業の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定できる場合。

通勤災害

通勤途中に、労働者が被った傷病等。

①治療費

これらの労災により療養する場合、労災保険を使えば、「療養(補償)等給付」により、治療費が無料となります。

健康保険では、年齢や収入に応じて1~3割の自己負担が発生しますので、労災を使った方が、治療費の負担は少なくなります。

②休業補償

また、労災保険では、休業4日目より休業補償を受けられます。

これを休業(補償)等給付といい、社会復帰促進等事業に基づく休業特別支援金の20%をあわせると、1日につき給付基礎日額の80%が支給されます。

健康保険にも労働者の休業補償を目的とした「傷病手当金」制度はありますが、1日あたりの給付金額は、給付基礎日額×2/3となります。 

【労災保険と健康保険の比較】

保険の種類

治療費

休業補償

労災保険

無料

給付基礎日額の80%

健康保険

1~3割負担

給付基礎日額の2/3

治療費と休業補償、いずれを比較しても、労災保険の方が、労働者にとって手厚い補償内容になっています。

(2)第三者行為災害(交通事故等)の場合の注意点

労災保険給付の対象となる労災が「第三者行為災害」であった場合、保険給付の請求をするにあたり、いくつか注意すべき点があります。

第三者行為災害とは、労災が第三者の行為などによって生じたもののことをいい、例えば、下記のようなものがこれにあたります。

  • 車で通勤途中、後続車に追突されケガをした
  • クレーム対応中、激高した顧客に殴られてケガをした

①第三者との損害賠償交渉があるケース

労災が第三者行為災害であった場合、被害者である労働者は、労災を使うこともできますし、加害者である第三者に対して損害賠償請求をすることもできます。

そして、労災保険の請求と第三者に対する損害賠償請求のどちらを行使するかは、労働者が自由に選択できます。 

ただし、加害者である第三者から金銭の提示や損害賠償交渉、示談交渉の申し出があった場合は、注意が必要です。 

第三者行為災害における労災保険給付において、労災保険は、本来ならば第三者が賠償すべき損害額を肩代わりして支払うにすぎません。

そのため、加害者から金銭を受領した場合、労働者は、労災保険金の請求にあたりその旨を報告する必要がありますし、労災保険からは、加害者から支払われた賠償金を控除したうえで、保険金が支払われます。 

また、加害者からの申し出に応じて示談が成立した場合、被害者としては、示談金を受け取ることで「加害者に対して有する損害賠償請求権の放棄」に同意したことになります。

そうすると、労災保険からは、

  1. 加害者から損害賠償金を受け取っていること
  2. 示談が有効に成立していること

の2点を理由に、保険給付が行われない可能性があるのです。

労災保険から給付を受ける前に加害者からの示談に応じるかどうかは、提示された示談金額と、労災保険から支払われる保険金額とを比較し、より手厚い補償を受けられるのはどちらなのか、慎重に検討したうえで判断する必要があります。

②交通事故のケース

第三者行為災害が交通事故であった場合、労働者が被った損害は、加害者である第三者が加入している自動車保険(任意)から賠償されるのが原則です。

自動車保険と労災保険では、自動車保険の方が手厚い補償を受けられます。

補償項目

自動車保険

労災保険

治療費

全額

全額

休業補償

保険会社の算定によるが、ほぼ全額

※休業1日目から

給付基礎日額の80%

※休業4日目から

障害補償

無制限

限度額あり

遺族補償

無制限

限度額あり

慰謝料

あり

なし

もっとも、労災保険を請求した後、その差額を自動車保険(任意保険)に対しても請求することができるため、加害者である第三者が自動車保険(任意)に加入している場合に、一般的にどちらを先に請求した方がよいということはありません。

ただし、以下のようなケースでは、労災保険から先に請求したほうが有利になる可能性があります。

  • 労働者の方が、過失割合が大きい
  • 交通事故による負傷の程度が、かなり重い
  • 相手方が、自動車保険(任意保険)に加入していない
  • 過失割合などの交渉が難航し、賠償を受けられるまでにかなり時間がかかりそう

2、会社に労災の申請をしづらい!労災を使わない方がいいの?

会社に労災の申請をしづらい!労災を使わない方がいいの?

労災の申請は、労働者に認められた正当な権利です。

ただ、「労災にすると会社に迷惑をかけるのではないか」といった懸念から、会社に労災の申請をしづらいと考える方もいるでしょう。

実際のところ、会社への影響を考えた場合、労災は使わない方がいいのでしょうか 

(1)労災に理解のない会社は実際にある

残念ながら、労災に理解のない会社は少なくありません。

「労災保険を使うと、来年以降の保険料が上がるのではないか」

「労災にすると、会社の評判が落ちるのではないか」

「安全管理体制の不備を指摘されるのではないか」

「行政の入札に参加できなくなるのではないか」

「行政からの補助金をもらえなくなるのではないか」 

上記のような懸念から、労災保険を使わせようとしない会社が存在するのも事実です。

(2)労災は会社の落ち度を認める制度ではない

労災は、あくまでも労働者を守るために創られた制度で、会社の落ち度を認めたり、会社を罰したりするためのものではありません。

確かに、労災保険を使うことで、会社には以下のようなデメリットが生じる可能性はあります。

  • メリット制が適用される一定規模以上の会社では、労災の増加により保険料が上がる可能性がある
  • 死亡事故や大人数がケガをするような大規模な事故の場合、行政による検査や調査が入ることがある
  • 労災があまりに多いと、会社のイメージが下がる恐れがある
  • 建設業など一部の業種では、労災が多いと元請業者からの発注が減る可能性がある

どれも会社にとっては深刻な問題ですが、会社には労働者が安全に働ける環境を整備する義務があり、労災の多発により上記のような事態が生じたとしても、それは労働者の責任ではありません。

また、労災隠しは重大な「犯罪」であり、その事実が発覚したときに会社が被るダメージは、上記のものよりはるかに大きくなります。

労災保険の使用は労働者に認められた正当な権利であり、たとえ会社に拒否されたとしても、労働者が自ら手続きをすることで、労災保険の請求をすることが可能です。

「労災を使うと会社にデメリットがある」というのは誤解ですので、労災被害に遭ったら、会社に遠慮することなく労災の申請をしましょう。

3、負傷程度が軽い!労災を使わない方がいいの?

負傷程度が軽い!労災を使わない方がいいの?

労災保険への請求は労働者に認められた権利であり、労災を使わない方がいいケースというのは、原則としてありません。

では、労災による負傷の程度がかなり軽い場合、労災を使わない方がいいのでしょうか。

(1)負傷程度が軽くても健康保険より労災保険が手厚い

上述のように、健康保険と労災保険では、治療費に対する補償範囲が異なります。

健康保険では年齢・収入に応じて1~3割の自己負担額が発生するところ、労災保険では治療費の全額が補償されます。

たとえ負傷の程度が軽くても、労災を使う方が、労働者にとっては得なのです。

(2)有休と休業補償の収入比較

労災が原因で休職する場合、無給状態を回避するには、

  1. 労災保険の休業補償等給付を請求する
  2. 有給休暇を取得する

という2つの方法があります。 

では、労災により仕事を休むことになった場合、労働者はどちらの方法を選択すべきなのでしょうか。 

具体的に、シミュレーションしてみましょう。

労災保険の休業補償が給付されるのは休業4日目からで、休業1日あたりの給付金額は「給付基礎日額×80%」により算出されます。

一方、有給休暇では、1日あたりの賃金全額(通常の就業時間のみの労働で残業などはなし)が支給されます。

【シミュレーション例】基本給30万円(賃金締切日が毎月末日)の人が、労災により1か月間(30日間)休業する場合で、事故の発生が閏年ではない年の4月に発生したとき

(1)労災保険の休業補償給付

給付基礎日額

=30万円×3か月÷90日(1月1日から3月31日まで合計90日)

=1万円

給付基礎日額1万円×(休業日数30日間-待機日数3日間)×60%

=21万6,000円 

(2)有給休暇

30万円

労災保険を使う場合と有給休暇を取得する場合で、受け取れる金額に8万4,000円もの違いが生じることがわかります。

未消化の有給休暇がたくさん残っており、労働者もそれを望んでいる場合は、有給休暇を取得しても問題ないでしょう。

これに対して、会社から有給休暇の取得を要請されたものの、労働者としては労災保険を使いたいという場合、意に反して有給休暇を取得する必要はありません。

休業補償給付と有給休暇の併用は認められていませんので、どちらを選択したほうが得か、慎重に考えてみましょう。

4、会社が労災申請を拒否?!労災を使わない方がいいの?

会社が労災申請を拒否?!労災を使わない方がいいの?

会社に労災申請を拒否されると、労働者としては、「労災を使わない方がいいのではないか」と考えてしまうでしょう。

しかし、これまで説明してきたように、労災を使わない方がいいケースは、原則としてありません。

例えば、会社に下記のようなことを言われたとしても、労災保険の使用を諦める必要はないのです。

(1)「会社が治療費を負担するから労災にするな」と言われた

会社から、「治療費は会社で負担する」「とりあえず、健康保険を使って病院に行ってくれないか」と言われた場合、労災隠しの可能性が疑われます。

労働者としては、「治療費を払ってくれるならばいいか」と考えてしまいがちですが、会社の労災隠しに協力することは、犯罪行為に加担することに他なりません。

また、治療期間が長引いた場合も会社が費用を負担し続けてくれる保証は、どこにもありません。

労災によるケガや病気の治療を健康保険で受けることはできませんので、会社から「健康保険を使ってくれ」と言われたとしても、応じないようにしましょう。

(2)会社に「労災保険に加入していない」と言われた

会社から、「労災保険に加入していないので労災は使えない」と言われたとしても、あきらめる必要はありません。

「労災保険に加入できるのは正社員だけで、パートやアルバイトは対象外」と言われた場合も、同様です。

会社は、従業員を1人でも雇用すれば、労災保険に加入する義務を負います。

仮に、会社が労災保険に加入していない場合でも、労働者は労災保険の請求をすることが可能です。

会社が手続きに応じない場合は、労働者自ら手続きをすることができますので、労災保険の使用をあきらめる必要はありません。

(3)会社に「今回のケースは労災と認められない」と言われた

業務に起因した、あるいは通勤途中の負傷や病気であるにも関わらず、会社から「今回のケースは労災と認められない」と言われてしまった、という場合でも、労災の使用をあきらめる必要はありません。

そもそも、労災かどうかを判断するのは会社ではなく、労働基準監督署です。

したがって、会社に「労災ではない」と言われたとしても、労働基準監督署がこれを「労災である」と判断すれば、労災保険の給付を受けられます。

5、「労災は使わない方がいい」と会社に言われた場合の対処法

「労災は使わない方がいい」と会社に言われた場合の対処法

会社から「労災は使わない方がいい」と言われた場合、あるいは、会社が労災保険の請求手続きをしてくれない場合、どのように対処すればいいのでしょうか。 

(1)まずは労働基準監督署に相談を

労災保険の請求に関して会社とトラブルになったら、まずは労働基準監督署に相談してみましょう。

下記のような点を伝えることで、今後の対応方法に関するアドバイスを得られるでしょう。

  • 事故状況
  • ケガ、病気の状態
  • 会社の対応
  • 事故後の会社とのやりとり

(2)会社に労災保険の使用を拒否された場合は自分で請求可能

会社に労災保険の使用を拒否されても、労働者が自分で請求することができます。

労災保険の請求にあたっては、給付の種類ごとに所定の請求書が必要になりますので、必要事項を記入し、提出しましょう。

【労災保険の請求に必要な書類】

給付の種類

請求書の様式

提出先

 

療養(補償)給付

療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(5号)

療養給付たる療養の給付請求書(16号の3)

病院・薬局等を経て所轄労働基準監督署長

療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(7号)

療養給付たる療養の費用請求書(16号の5)

所轄労働基準監督署長

休業(補償)等給付

休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号)

休業給付支給請求書(16号の6)

障害(補償)等給付

障害補償給付・複数事業労働者障害給付支給請求書(10号)

障害給付支給請求書(16号の7)

遺族(補償)等給付

遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書(12号)

遺族年金支給請求書(16号の8)

遺族補償一時金・複数事業労働者遺族一時金支給請求書(15号)

遺族一時金支給請求書(16号の9)

葬祭料等

葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書(16号)

葬祭給付請求書(16号の10)

介護(補償)給付

介護保障給付・複数事業労働者介護給付・介護給付支給請求書(16号の2の2)

二次健康診断等給付

二次健康診断等給付請求書(16号の10の2)

病院・薬局等を経て所轄労働基準監督署長

(3)労災隠しは犯罪!健康保険の使用は絶対にNG

労災によるケガや病気は、その軽重に関係なく、健康保険を使用することができません。

健康保険は、労災によるケガや病気の治療を保険給付の対象としていませんので、労災事故であるにもかかわらず健康保険を使ってしまった場合は、すみやかに労災保険への切替手続を行いましょう。

労災隠しは重大な犯罪ですので、たとえ会社に要求されたとしても、健康保険は使わないようにしましょう。

6、労災保険を使わない方がいいのか迷ったら弁護士に相談を

労災保険を使わない方がいいのか迷ったら弁護士に相談を

労災保険を使わない方がいいのか迷ったら、弁護士に相談することをおすすめします。

労災保険を使うかどうかの判断にあたっては、諸般の事情を総合的に考慮して決める必要があります。

また、労災保険の請求手続きには所定の書類に必要事項を記入する必要がありますが、慣れていないと、手続きをスムーズに進められない可能性があります。

こういった場合に弁護士によりサポートを受けられれば、安心でしょう。

会社とトラブルになってしまった場合も、弁護士はあなたの心強い味方になってくれるはずです。

まとめ

労災を使わない方がいいケースは、基本的にありません。

労災保険の使用にあたり、会社に迷惑をかけるのではないか、といった心配をする必要もありません。

ただし、労災が第三者行為によるもので、加害者から示談交渉の申し出がある場合など、例外的に労災を使わない方がいいケースがあるのも事実です。

そのため、労災保険を使うかどうかは、専門家の判断を仰ぎつつ、慎重に判断することをおすすめします。 

労災隠しは重大な犯罪ですので、会社から労災を使わない方がいい、健康保険を使ってくれ、と言われたとしても、従わないようにしましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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