居眠り運転をしていた自動車との交通事故に巻き込まれてしまった場合、どう対処すればよいのでしょうか。
日々の疲れがたまり、運転中に眠くなってしまいウトウトしながら運転をしてしまったという経験がある方もおられると思いますが、居眠り運転は、ノーブレーキで歩行者や他の車両等に衝突してしまう可能性のある非常に危険な行為です。また、居眠り運転は、交通事故における過失割合や慰謝料等に大きく影響を及ぼす可能性があります。
ただ、居眠り運転は、道路交通法等の法律によって明確な定義があるわけではなく、道路交通法上の安全運転義務違反にとどまるのか、過労運転や病気運転等に当たるのかについての判断基準が曖昧な部分もあります。
今回は、
- 居眠り運転が交通事故の過失割合や慰謝料に及ぼす影響
- 居眠り運転で交通事故を起こしてしまった場合の罰則など
- 居眠り運転による交通事故の当事者になってしまった場合に知っておきたいポイント・注意点
についてご説明します。
また、以下の関連記事では交通事故での被害者が損をしないための知識について解説しています。突然の交通事故に遭遇されてお困りの方は、以下の関連記事もあわせてご参考いただければと思います。
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目次
1、居眠り運転による交通事故の過失割合
交通事故における双方の過失割合は、事故の状況毎にパターン分けされ、それぞれのパターン毎に、これまでの裁判例を参考にした基本的な過失割合が定められています。
このパターン毎の基本的な過失割合は、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準【全訂5版】別冊判例タイムズ38号」に細かく記載されています。
交通事故の示談交渉において、実際に過失割合を決める際には、この基本的な過失割合をベースに、修正要素があるかどうかを判断して行うのが一般的です。
そして、一方の当事者が居眠り運転をしていて、これが交通事故の原因の一つになっていた場合は、修正要素の一つである「重大な過失」があることになり、居眠り運転をしていた当事者の側の過失が1~2割程度加算されるのが通常です。
2、居眠り運転が交通事故の示談の金額(慰謝料)に与える影響
交通事故によって発生した損害のうち、相手方に請求できるのは、相手方の過失割合に相当する部分です。例えば、事故で生じた自分の損害額が1000万円である場合に、過失割合が50%:50%であれば、相手方に請求できる金額は500万円となります。これに対し、
過失割合が70%:30%の場合、相手方が70%であれば、相手方に請求できる金額は700万円になります。
1で説明したように、居眠り運転をしていた当事者の側の過失割合は1~2割程度加算されることから、居眠り運転による交通事故は、通常の場合に比べて、相手方に請求できる割合が増えることになります。
また、一般に、居眠りをするような状態で運転すべきではなく、そのような状況にもかかわらず敢えて運転をしたという点が悪質であると判断される可能性があり、通常よりも慰謝料額が増加することが考えられます。ただ、過去の裁判例等においては、居眠り運転だけを理由に慰謝料額を増額した裁判例はあまりありません。
3、事故の相手方が居眠り運転をしていたことを立証するには
(1)交通事故の裁判における立証責任
交通事故の過失割合について、事故の当事者双方の言い分が食い違う場合は、最終的には裁判で解決するしかありません。そして、裁判において、最も大切なのは、相手方の過失は、それを主張する方が立証(証拠で証明すること)しなければならない、ということです。
つまり、「相手が、居眠り運転をしていたのが原因で衝突した」ということは、相手がそれを自ら認めていない限り(自白していない限り)、それを主張する側が証拠をもって証明しなければならないのです。そして、証明できなかった場合は、相手方が居眠り運転はしていなかったという前提で過失割合が判断されるということになります。これを、裁判における立証責任といいます。
(2)居眠り運転を立証する方法
事故の相手方が居眠り運転をしていたことを直接立証するにはかなり困難です。自己の相手方が居眠り運転をしていたことを自ら認めている場合は良いのですが、そうでない場合にこれを証明する証拠はなかなか存在しません。仮に、双方の車両にドライブレコーダー等が搭載されていても、運転手が居眠りをしているところが映っていることはあまりありません。
ただ、居眠り運転をしていた場合、通常であれば、衝突する直前に相手の車両に気が付いてブレーキを踏むはずのところ、ノンブレーキであったり、ブレーキをかけていてもブレーキをかけるのが非常に遅かったりすることが多いため、相手方の車両のブレーキ痕は、居眠り運転を立証する大きな材料の一つとなります。
また、ブレーキをかけるのが遅れたり、ノンブレーキであったりすると、減速衝突時の速度が速くなることから、車両の損傷も大きくなります。ですから、車両の損傷程度から衝突時の速度を割り出すことによって、相手方がブレーキをかけるのが遅れた(またはノンブレーキであった)ことを立証するという方法もあります。
ブレーキ痕や衝突時の車両の損傷程度等は、事故直後に行われた警察による実況見分によって記録化されていますから、警察の作成した実況見分調書は重要な証拠の一つとなるでしょう。
また、示談交渉の段階では居眠り運転していたことを認めていなくても、事故直後の警察の聴取段階では居眠り運転をしていたことを認めていた場合もあります。ですから、事故直後の警察の聴取の際に作成された供述調書も重要な証拠になり得るといえるでしょう。
4、居眠り運転で交通事故を起こした場合の違反点数や罰金について
(1)物損事故の場合
道路交通法上、居眠り運転自体を処罰する規定はありません。ただ、道路交通法には、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」という規定(道路交通法70条)があり、居眠り運転の状況によっては、この規定に違反する(安全運転義務違反)可能性があります。
また、居眠り運転が、「過労の影響によって正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転した」と判断された場合は、過労運転(道路交通法66条)が成立する可能性があります。
安全運転義務違反の場合の違反点数は2点、過労運転の場合の違反点数は25点です。
なお、安全運転義務違反も過労運転も、交通事故が発生したかどうかにには関係なく成立し、仮にそれが原因で交通事故が発生した場合であっても、物損事故に止まる場合は、違反点数への加点はありません。
(2)人身事故の場合
居眠り運転で人身事故を起こしてしまった場合、居眠り運転(安全運転義務違反or過労運転)自体の違反点数に加えて、被害者の負傷の程度や双方の程度によって、下記の表のとおりの違反点数が加算されます。
被害者の負傷程度 | 過失(不注意)の程度 | 違反点数 | ||
死亡事故 | 運転者の一方的な過失 | 20 | ||
相手方にも過失があった場合 | 13 | |||
傷害の程度 | 全治3か月以上 または 身体に後遺障害が残ったとき | 運転者の一方的な過失 | 13 | |
相手方にも過失があった場合 | 9 | |||
全治30日以上3ヶ月未満 | 運転者の一方的な過失 | 9 | ||
相手方にも過失があった場合 | 6 | |||
全治15日以上30日未満 | 運転者の一方的な過失 | 6 | ||
相手方にも過失があった場合 | 4 | |||
全治15日未満 又は 建造物損壊事故 | 運転者の一方的な過失 | 3 | ||
相手方にも過失があった場合 | 2 |
5、居眠り運転で交通事故を起こした場合の刑事罰について
(1)道路交通法違反
居眠り運転によって交通事故を起こした場合、居眠り運転が、過労運転(過労の影響によって正常な運転ができないおそれがある状態で車両を運転した)と判断された場合は、3年以下の懲役(もしくは禁錮)又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
居眠り運転が過労運転と判断されない程度の場合であれば、安全運転義務違反が成立する可能性があります。安全運転義務違反の法定刑は、3カ月以下の懲役(もしくは禁錮)又は5万円以下の罰金と定められていますが、安全運転義務違反は、反則金制度の対象となっているため、反則金を支払った場合には刑事罰が科されることはありません。
(2)過失運転致死傷罪または病気運転致死傷罪
居眠り運転が原因で交通事故を起こして相手に怪我を負わせてしまった場合、過失運転致死傷罪が成立します。
ただ、居眠り運転をした運転手が、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害を患っており、その影響により運転前または運転中に発作の前兆症状が出ている場合や、症状が出ていなくても所定の治療や服薬を怠っていた場合で、事故時に結果的に正常な運転が困難な状態であると判断されたときは、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(通常「自動車運転死傷行為処罰法」)に規定されている病気運転致死傷罪が成立する可能性があります。
過失運転致死傷罪及び病気運転致死傷罪の法定刑は下記の表のとおりです。
成立する犯罪 | 法定刑 |
過失運転致死傷罪 | 7年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
病気運転致傷罪(被害者が負傷) | 15年以下の懲役 |
病気運転致死罪(被害者が死亡) | 1年以上の有期懲役 |
6、居眠り運転による交通事故で逮捕されてしまった場合の対処法
居眠り運転自体は道路交通法上の安全運転義務違反とはなるものの、スピード違反や飲酒運転ほど悪質な違反とは考えられていないことから、居眠り運転で交通事故を起こした場合であっても、即逮捕される可能性はあまり高くないと考えられます。
しかし、過労運転や病気運転等と評価される場合は、法定刑も重くなるため逮捕される可能性も出てきます。また、居眠り運転の場合、ノーブレーキで歩行者や車両と衝突する場合も少なくなく、生じた被害が大きい場合にも逮捕される可能性があります。
逮捕されてしまった場合は、最大23日間身柄拘束を受けた後、検察官が起訴をするかどうかを判断します(逮捕されていない場合は、身柄拘束こそ受けませんが、警察や検察の取調べを経て検察官が起訴をするかどうかを判断する点は変わりません)。
そして、検察官が起訴をするかどうかを判断するに際し、被害者との間で示談が成立しているかどうかという点は大きなウエイトを占めることから、居眠り運転によって人身事故を起こしてしまった場合は、被害者との間で早期に示談を成立させることが重要になります。そのためには、早い段階で弁護士に相談をされることをおすすめします。
また、居眠り運転が過労運転や病気運転と評価されてしまうと法定刑が非常に重くなってしまうことから、過労運転や病気運転と評価されないためにも、弁護士と相談しながら、捜査機関の取り調べに対応することも重要です。
まとめ
居眠り運転は、居眠りをするとわかっていて運転しているのではなく運転中に眠気に襲われてしまうという場合が大半だと思います。その意味では、飲酒運転やスピード違反に比べると悪質性は少ないといえます。
しかし、居眠り運転を原因とする交通事故においては、減速しないまま衝突する場合も多く重大な被害を生じさせる可能性の高い危険な行為です。
ただ、居眠り運転は法律上その定義が明確でないこともあり、様々な判断を行う際に法律的な知識や経験が欠かせない分野でもあります。
そのため、居眠り運転による交通事故の当事者となってしまった場合には、被害者となった場合も加害者となってしまった場合も、専門家である弁護士のアドバイスを受けて行動することが大切であるといえます。
被害者になってしまった場合には適切な損害賠償を受けるために、また、加害者となってしまった場合には、不当に重い処罰を受けることの無いように、早期に弁護士に相談されることをおすすめします。