認知機能検査をご存知でしょうか。
最近は、マスコミにより高齢者による交通事故がたびたび報じられ、運転免許証の自主返納を促す動きも加速されつつあります。
他方で、特に車を生活の足としている高齢者の方の中には、自主返納せず運転免許を更新しようと考えられている方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は、75歳以上の方が免許更新をする際に必要とされる
- 認知機能検査
についてご説明したいと思います。
この記事が、これから認知機能検査を受検しようとされている方のお役に立てば幸いです。
1、認知機能検査について
まず、認知機能検査の概要から説明いたします。
(1)認知機能検査とは
認知機能検査とは、運転免許の更新を受けようとする方で、
- 「更新期間が満了する日」
- 「期限切れ申請をする日」
- 「期間前更新の申請をする日」
- 「特定取消処分者の方で運転免許試験申請をする日」
における年齢が75歳以上の方に義務付けられている検査をいいます。
* 臨時認知機能検査、臨時高齢者講習 *
運転免許の更新にかかわらず、75歳以上の方が、ある一定の交通違反を起こした際に受けなければならない検査を「臨時認知機能検査」といい、検査の結果、認知機能の低下が運転に影響するおそれがあると判断された場合に受講しなければならない講習を「臨時高齢者講習」といいます。
(2)認知機能検査が導入された背景
認知機能検査が導入された背景は、高齢ドライバーの増加、そして、高齢者ドライバーによる交通事故の増加によるところが大きいでしょう。
認知機能検査は、自己の記憶力・判断力の状況を簡易な検査によって自覚させ、引き続き安全運転を継続することができるように支援することを目的として平成21年6月1日から導入されています(当初は「講習予備検査」と呼ばれていました)。
2、75歳以上の方の免許更新の手続きの流れ
(1) 認知機能検査
運転免許証の更新期間満了日の6か月前に、ご自宅に公安委員会から「認知機能検査連絡所」が郵送で届きます。
ハガキに記載されている受講場所から都合の良いところを選び、電話で予約手続きをしましょう。
検査は、指定された自動車教習所等で行われます。
検査結果は、後日、はがきで通知されます。
(2) 認知機能検査をパスしたら
認知機能検査にパスしたら、「高齢者講習」を受けます。
したがって、検査と講習の日は別の日となります。
高齢者講習の詳しいことについては、こちらの記事をご覧ください。
(3) 認知機能検査にひっかかったら
認知機能検査にひっかかったら、臨時適性検査の受検または医師の診断を受けることになります。
医師の診断で認知症との判断が下されると、免許は停止または取り消しとなります。
(4) 高齢者講習を受けたら
高齢者講習を受講すると「高齢者講習修了証明書」の交付を受けます。
(5) 免許更新
この証明書を運転免許更新時に窓口に提出し、所定の手続きを経て初めて運転免許が更新されます。
つまり、認知機能検査、高齢者講習を受講しただけでは更新されず、運転免許の更新手続きを経て初めて運転免許が更新されます。
更新手続きを経ずに更新期間を経過すると運転免許は無効となり、その状態で自動車等を運転すれば無免許運転となりますから注意が必要です。
3、認知機能検査の内容
検査自体は30分程度で終わるとされています。
検査手数料は750円です。
検査項目は以下の3つに区分されます。
(1) 時間の見当職
一つめは、時間の見当識です。
これは、自分の置かれている「時」を正しく認識する力に問題がないか調べる検査です。
「今年は何年ですか?」「今月は何月ですか?」などと書かれた回答用紙の回答欄にそれぞれの問いの答えを記入していきます。
(2) 手がかり再生
二つめは、手がかり再生です。
これは、少し前に記憶したものを引き出す力、「短期記憶」に問題がないかを調べる検査です。
1枚の紙に4つの絵が書かれた紙を4枚渡されます。
5分間でその絵を記憶し、採点には関係ない課題を行った上で、記憶している絵をヒントなしに回答し、さらにヒントをもとに回答します。
(3) 時計描写
三つめは、時計描写です。
これは、空間認知能力、構成能力、数の概念の理解などに問題がないかを総合的に調べる検査です。
時計の文字盤を描き、さらに、その文字盤に試験官から指定された時刻を表す針を描きます。
4、認知機能検査のパス基準
認知機能検査は、最高点100点、最低点0点で判定され、点数よって第1分類から第3分類に分けられます。
- 第1分類は、点数が0点から49点未満の方で、「認知症のおそれあり」と判断された方です。
- 第2分類は、点数が49点以上76点未満の方で、「認知機能の低下のおそれ」と判断された方です。
- 第3分類は、点数が76点以上100点の方で、「認知機能の低下のおそれなし」と判断された方です。
第2分類、第3分類の方は、いわゆる検査をパスしたということになります。
このあと高齢者講習を受ける流れです(第2分類の方は3時間の講習、第3分類の方は2時間の講習を受けます)。
第1分類の方は、先ほども軽く触れたとおり、医師による「臨時適性検査」を受けるか、医師の診断書を提出しなければなりません。
ここで「認知症」と診断されると、聴聞という手続きを経た上で、運転免許証の取消し、又は停止の行政処分を受けます。
5、認知機能検査は事前に対策できる?
高齢者の方の中には、「検査はどんな内容なのだろう?」「どうしても検査をパスしたいが検査をパスできるか不安だ」と思われている方も多いのでないでしょうか?
安心してください。事前に対策を行うことが可能です。
まず、警察庁のホームぺージでは、前記3でご紹介した検査項目で、どんな書類、用紙が配布されるのか、そのサンプルが紹介されており、要するに、あらかじめ問題がわかっているということになります。
また、パソコンで検査を体験し、判定を受けられるサービスを提供している民間の会社もあります。
実際の検査前に一度受けておくと安心かもしれません。
また、最近では、警察庁のホームページで公開されている問題をそのまま載せた対策本まで登場しており、かなりの売上を上げているとのことです。
親御さんにインターネット環境がないような場合には、こういった本を読ませてあげてもいいかもしれません。
実際に警察庁のホームページで問題を見ていただければわかるかと思いますが、特に「手がかり再生」については、形式を知らないままいきなり出題されると、高齢者でなくても面食らって低いスコアになってしまうことが十分に考えられるほどに難度の高いテストであると感じられる方も多いと思います。
認知機能に特段問題がないにも関わらず、一発勝負の緊張感から低いスコアになってしまって更新に無用な手間がかかるというのは制度が意図しないところだと思います。
試験を実施する側の警察庁が問題を公開しているのですから、不安な方は、それを遠慮なく利用し馴れておくことで、本番でも実力を発揮できるようにしておくと良いでしょう。
6、自主返納も検討を
認知機能検査の受検者数は年々増加傾向にあります。
平成30年度版犯罪白書によると、平成29年は「196万2149人」と、平成22年(118万5886人)の約1.7倍となっています。
また、平成29年の受検者のうち、「認知症のおそれがある」と判断された「第1分類」の人は5万3995人(全体の2.8%)おられたとのことです。
なお、警察庁は今年5月、平成30年度中に「第1分類」とされた方(5万3995人)のうち、3万9025人の高齢者について平成30年に次のような免許の取り扱いが決まった、と発表しています。
すなわち、発表では、「医師に「認知症」と診断され、免許取消し、停止の行政処分を受けた方」が1932人、「自主返納した方」が1万7775人、「運転免許を更新せず失効させた方」が5706人、「運転免許を更新した方」が1万3612人いたとしています。
自主返納した方が多くおられることが分かりますね。
他方で、先の発表には、死亡事故を起こした75歳以上のドライバーの約半数の方が、直近の認知機能検査で第3分類に判定されていたともあります。
この事実は、認知機能検査が事故防止に万全とはいえないという結論にもつながりうるでしょう。
また、第1分類と判断された後に、医師の診断書を提出するなどして運転免許を更新した方が1万3000人以上いるということに不安を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
また、そもそも、免許更新時にチェックされるのはあくまでも「認知機能」であって、「足が悪くてペダル操作に難がある」などの身体機能に関しては問題視されていないところや、75歳未満の認知症の方については全くのノーケアであるというところにも、制度に改善の余地があるのかもしれません。
いずれにせよ、たとえ「第1分類」と判断されなくても、事故を起こさない保証はありません。
悲惨な交通事故を未然に防止するために、はやめに自主返納することも検討する必要があるのかもしれません。
まとめ
以上、認知機能検査について説明いたしました。
認知機能検査は、悲惨な交通事故を防止するためにも必要とされている検査ですから、必ず受検しましょう。
また、運転免許更新の機会にあたり、本当にご自身にとって車は必要か、他に代替手段がないかなども慎重に検討した上で、運転免許を自主返納することも懸命な判断といえます。
交通事故を起こしてからでは遅いですから、認知機能検査の通知が来たことを、車との付き合い方を見つめ直すいい機会として捉えてみてはいかがでしょうか。