「DV」には様々な種類が存在します。
特に配偶者やパートナーからの振る舞いに悩む方々に対して、DVの異なる種類について、それが生活に及ぼす影響、そしてDV離婚に弁護士を頼むメリットについて解説します。
1、DVの6つの種類
DVは身体的暴力以外にもさまざまな種類が存在し、大きく6つに分けられます。
- 身体的暴力
- 精神的・心理的暴力
- 性的暴力
- 経済的暴力
- 社会的隔離
- 子どもを使った暴力
それぞれにどのような特徴や違いがあるのでしょうか。
(1) 身体的暴力
DV被害で最も報告が多いのは身体への暴力です。
殴ったり蹴ったりして身体にダメージを負わせることは、刑法第204条の傷害や第208条の暴力に該当する犯罪行為といえます。
これは配偶者間で起こったとしても、例外ではありません。
殴るや蹴る以外でも、下記のものは暴力行為とみなされます。
【身体的暴力に該当する行為】
- 手拳で殴る・平手で打つ
- 小突く
- 殴るふりをする
- 物を投げつける
- 包丁を突き付ける
- 髪を引っ張る
- 引っ張って引きずり回す
- 首を絞める
- 高いところから突き落とす
- けがをしているのに病院に行かせない
(2) 精神的・心理的暴力
心ないことばを投げつけて、相手の精神にダメージを与えることもDVの一種であり、モラハラと呼ばれることもあります。
精神的な暴力は肉体的暴力と違って判断がつきにくいものですが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神障害と判定されれば、刑法上の傷害罪に当たります。
【精神的・心理的暴力とみなされる行為】
- 大声でどなる
- 何でも従うように強要する
- 外出を禁止する
- 何を言っても無視する
- 大切にしているものを捨てる・壊す・嫌味を言う
- 発言権を与えない
- 交友関係や電話の内容を細かく把握しようとする
- 暴力をふるった事実を軽視している
- 暴力を振るわないと誓っても繰り返す
- 不機嫌になると物に当たる
- おどす
- 見下す
(3) 性的暴力
夫婦間であっても、暴行・脅迫を用いた性行為は刑法第177条で禁止されています。
また、中絶の強要や避妊に協力しないことも性的暴力の一種です。
【性的暴力とみなされる行為】
- いやがっているのに性行為を強要する
- 見たくもないポルノビデオやアダルトサイトの視聴を強要する
- 中絶を強要する
- 避妊に協力しない
- 子どもができないことを一方的になじる
- 他の女性との関係を認めさせる
(4) 経済的暴力
相手を経済的に困らせる行為は経済的暴力といわれています。
生活が苦しい家庭だけではなく、経済的に余裕があるのに配偶者に対するお金の管理が厳しい家庭も少なくはありません。
【経済的暴力とみなされる行為】
- 明らかに生活費が足りていないのに渡さない
- 家計を必要以上に厳しく管理する
- 家庭の収入について教えない上に使わせない
- 配偶者の収入や貯金に勝手に手を付ける
- 配偶者が外で働くことを妨害する
- 無理やり仕事を辞めさせる
- 洋服などを買わせない
(5) 社会的隔離
配偶者の家族、友人、会社などすべての人間関係を絶たせて、社会的に隔離することもDV行為とみなされます。
嫉妬心から独占欲からこうした行為に走る人がいるとされています。
【社会的隔離とみなされる行為】
- 配偶者の生活や人間関係、行動に対して無視をしたり制限をしたりする
- 実家や友人との付き合いに制限をもうけて配偶者を独占しようとする
(6) 子どもを使った暴力
より悪質なDVとして子どもを巻き込んだものもあります。
【子どもを使った暴力とみなされる行為】
- 子どもに暴力をふるったり、暴力行為を見せたりする
- 配偶者から子どもを取り上げる
- 子どもに配偶者の悪口を吹き込んだり、言わせたりする
- 子どもに危害を与えると言って脅す
2019年1月に起こった千葉県野田市の心愛ちゃんのDV事件。
この事件は、当初は妻がDVを受けていたとの報道でした。
「子どもを使った」というより、「子どもへ(DVが)移った」というケースです。
子どもへDVが移ったとき、自分が対象でなくなったことから「夫の愛情が自分へ戻った」「共に攻撃する相手ができて夫婦の一体感を感じるようになった」と感じる女性は少なくないでしょう。
お母さんの苦しみを何もわからなかった子どもは、わがままだったこともあるでしょう。
子どもが笑顔でいると、腹が立ってしまうこともあったかもしれませんね。
でも、子どもにDVが向いてホッとしたり、夫の子どもへの異常な攻撃を「止めるまでもない」と感じている感情は、きっとDVのせいで思考が停止してしまった証拠です。
子どもはもちろん、あなた自身を救うために。警察、また弁護士まで、必ず相談をしてください。
2、日本のDV状況
毎年内閣府は、アンケートで日本におけるDVの状況を報告しています。
その結果からは、DVで悩まされている人が年々増えていることがわかりました。
また、DVというと男性から女性への暴力というイメージが強いですが、女性が行う暴力も少なからず存在します。
(1)女性のDV被害経験者は2.5割
令和5年度に内閣府が行った「男女間における暴力に関する調査」によると、「配偶者(事実婚を含む)から身体的・精神的・経済的・性的暴力のいずれかを一度でも受けたことがある」と答えた人は27.5%。
また、男性の中でも「配偶者からDVを受けたことがある」と答えた人が約22%いることがわかっています。DVというとどうしても夫が妻に対して行うイメージが付きまといがちですが、逆のケースも決して珍しくはないようです。
(2)配偶者暴力相談支援センターの相談件数は10万件超
内閣府男女共同参画局が毎年行っている「配偶者からの暴力に関するデータ」によると、配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は2002年以降増加の一途をたどっています。
ピークは2015年で、111,722件もの相談が寄せられました。
これは調査を開始した2002年の数字と比べると3倍に相当します。
2015年以降は少し減少していますが、相談件数は依然として10万件を超えています。
相談を寄せる人の多くは窓口ではなく、電話で相談をしているようです。
(3)警察へのDV相談件数は増加中
身体に対する暴力の相談を警察に行う人も年々増加しています。
2001年当初は3、600件程度ですが、年々増加の一途をたどり2017年は72、000件以上に達しました。
支援センターに相談をするのではなく、直接警察へ被害届を出す人が増えているのかもしれません。
実際に犯罪に発展した検挙件数を見ると、被害者の90%は女性であることがわかっています。
その中でも、暴行や傷害の割合を見ると、いずれも女性被害者の割合が90%を超えています。
しかし、殺人事件となると女性の被害者が55%、男性の被害者が45%と拮抗しているようです。
出典:警察庁
(4)デートDVの被害も深刻
婚姻関係はなくても恋人からDVを受ける、いわゆる「デートDV」を受けている人も増加しています。
令和5年度に内閣府が行った調査によると、女性の22,7%、男性も12,7%が交際相手から被害を受けたことがあるという回答をしました。
デートDVの被害も年々深刻になっているといえるでしょう。
3、DVは後の人生に影響を及ぼすことも
さて、上記DVの種類の中に、あなたがされていることはあったでしょうか。
配偶者等があなたに当たるのは、あなたが悪いからではありません。
性格が合わないからでもありません。
DVを受けている最中には必死で耐えていても、後遺症が残ってしまう場合があります。
身体だけではなく、精神的な後遺症に悩まされている人も少なくはありません。
DVから解放されても、のちに何年もフラッシュバックや悪夢、記憶障害などのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出る恐れもあります。
また、家庭内暴力をする人の多くは配偶者のみならず、子どもにも手を挙げています。
DVがある家庭環境で育った子どもは、攻撃的な性格になったり集中力がなかったりするなど、人格形成に大きな影響を受けます。
少しでもDVについて悩んでいるという人は、我慢しないで専門家や頼れる人に相談してください。
1日でも早く暴力から逃れる状況を作ることが非常に大切なのです。
4、DVによる離婚は弁護士に依頼した方がいい理由
DVを理由に真剣に離婚を考えている方は、法律の専門家である弁護士に離婚の手続の依頼をすることをおすすめします。
その理由はいくつかありますが、代表的なものを紹介します。
(1) 暴力を振るわれることなく話し合いができる
家庭内暴力を受けている人の多くが、暴力をふるう配偶者に対して怯える気持ちを持っています。
離婚話に踏み切っても、相手にしてもらえなかったり、おどされたり、さらなる暴力を振るわれたりする恐れがあります。
また、離婚手続きを進める際に相手のことを思い出して震えてしまったり、涙が出てきたりして進まないというのもよくあるケースです。
しかし、弁護士に依頼すると相手とのやりとりをすべて弁護士が代行してくれるので、被害者は配偶者と顔を合わすことなく離婚調停を進められます。
自分ひとりで抱え込むことなく、法律のプロである弁護士に相談することで安心感を得られ、徐々に本来の自分を取り戻すことができるでしょう。
(2) 弁護士に客観的な判断をしてもらえる
DVは加害者も被害者も感情的になってしまっていて、冷静な判断をできないことが多いです。
被害者の中にはDV被害を受けていることを自覚できていない人もいます。
弁護士に相談すると第三者の目線から、被害の状況や請求できる慰謝料の金額についてもきちんと明示してくれます。
離婚の場合、協議離婚、調停離婚そして裁判離婚と手続が分かれますが、被害状況に合った方針を指示してもらえるはずです。
法律のプロから客観的な判断をしてもらうことで、自分の被害状況を自覚することができるでしょう。
また、配偶者暴力防止法(通称:DV防止法)や加害者から隔離してもらえるDVシェルターなど、被害者を守ってくれるものの存在を教えてくれるはずです。
「被害を報告してもこちらが不利になるのでは……」と悩んでいる人への心強い存在になってくれます。
(3) 慰謝料や財産分与を多くとれることも
DV被害が認められると財産分与だけではなく、慰謝料を請求することができます。
しかし、慰謝料の相場や請求方法を知っている人はほとんどいないでしょう。
また、配偶者に対して怯えた気持ちがあると、なかなか強気になって請求できないものです。
そのようなときに心強い味方になってくれるのが弁護士です。
DVによる離婚の実績が豊富な弁護士であれば、これまでの判例をもとに妥当な慰謝料を提示してくれるでしょう。
あなたが想定している以上の慰謝料や財産分与を受け取ることができるかもしれません。
弁護士に依頼する以上、法律相談料や着手金、成功報酬が発生しますが、慰謝料を受け取ることができれば、そこから支払うことができるでしょう。
(4)さまざまな手続きを代行してくれる
弁護士に依頼をすると、調停の申し立てや裁判所とのやりとりをすべて代行してくれます。
弁護士がDV事案であることを告げると、相手と顔を合わすことがないように配慮してもらう手続きもとってもらえます。手続きに四苦八苦することがなくなります。
まとめ
DV被害は年々増加していますが、さまざまな理由で離婚に踏み切れない人も多いようです。
配偶者を恐れて離婚できないという人も少なくありません。
しかし、DVは被害者や子どものその後の人生を大きく変えてしまう恐れがあります。
少しでもDVに悩んでいるようでしたら、法律の専門家である弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?相談することで気持ちが楽になったり、有効な解決策を見つけたりすることができるでしょう。