立ち退きとは、不動産の賃借人が物件から退去することです。
賃借人に契約違反があったり、もしくは賃貸人(オーナー)側の理由から、賃貸人が賃借人に退去を要求するときに使う言葉です。
賃借人に特段の契約違反がない場合にする賃貸人側の理由による「立ち退き」は、正当な理由(正当事由)がないと認められず、これが立ち退きに伴う大きな壁となっています。
今回は
- 立ち退きをさせる条件2つ
- 立ち退きの「正当事由」とは?
- 立ち退きの進め方と対応方法
などについて、細かく見ていきたいと思います。ご参考になれば幸いです。
目次
1、立ち退きの基本的知識
それではまず、立ち退きについての基本的な知識についてみていきましょう。
(1)建物賃貸借は継続が原則
建物の契約は、継続が原則です。
生活の基盤となる「建物」は、居住者にとってとても重要な存在です。
そのため、経済的強者とされる貸主の都合により簡単に契約の解除ができてしまっては、賃借人の立場が非常に不安定となってしまいます。
このような趣旨から、建物の賃貸借の契約は、貸主の都合のみで終了させることは基本的にはできないものとされています。
建物賃貸借契約には、一般的に2年程度の期間が設けられていますが、賃借人が退去の希望をしない限り、期間満了を理由に契約が終了することはありません(法定更新)。
(2)建物賃貸借契約を終了させるための条件は2つ
建物賃貸借契約を終了させる場合に問題になり得る要件は、主に次の2つです。
①契約解除によって終了させる場合:賃借人の重大な契約違反の有無
一般的に「契約」は、相手が契約上の義務を怠った場合は解除することができます(民法第541条)。
しかし、賃貸借契約においては、多少の契約違反(例えば数度の賃料支払いの遅れや未納)があっても、基本的には解除をすることができません。
賃借人の契約違反は、それが「背信的行為」であると認められて初めて解除に値するとされていて、「背信的行為」と認められない特段の事情がある場合は解除できないとされているのです。
そのため、賃借人の契約違反により賃貸借契約を解除する場合は、その違反の程度が、賃貸人と賃借人の信頼関係を破綻させるような重大なものである場合に限られてくるのです。
家賃滞納による立ち退きについてはこちらの記事をご覧ください。
②期間満了や解約申し入れによって終了させる場合:正当事由の有無
期間満了や解約申し入れにより契約を終了させる場合は、賃貸人が契約の終了を申し入れる事情に「正当事由」がなければなりません。
2、立ち退きの正当事由とは?
では立ち退きを可能にする「正当事由」とはいったいどんな理由が当てはまるのかを見ていきたいと思います。
「正当事由」について一義的な定義はありません。
実務では、賃貸人、賃借人の双方の事情が比較考量されて正当事由の有無が決せられます。
賃貸人の事情がひっ迫するものであったとしても、賃借人の事情もひっ迫しているような場合であれば、この正当事由が認められない可能性があります。
このとき、賃貸人の正当事由を後押しするのが「立退料」です。
このように、立退料は正当事由の調整弁のような役割を担っている面もあるので、その額も、個別具体的な事情によって異なってくるのです。
3、正当事由による立ち退きの進め方
それでは立ち退きの流れや進め方について、お話していきます。
(1)更新しない旨等の通知
期間の定めがある賃貸借契約において、これを終了させるためには、賃貸人は、期間の満了の1年前から6ヶ月前までに、賃借人に対して更新しない旨等の通知を出さなくてはいけません(借地借家法第28条)。
この通知は適法に解約をするために必要なものになりますので、通知したという証拠を残すためにも、書面(内容証明郵便)で行うことが重要です。
口頭で行ったに過ぎない場合、録音などがなければ、後に紛争になった場合に、この通知をした事実を証明することができません。
①話し合い
通知が賃借人に届いた後は、実際に話し合いの場を持ちます。
賃貸人側の事情について丁寧に説明し、賃借人の理解を求めましょう。
このときに大切なのは、以下の点です。
②賃借人の立場に立つこと
住みやすさだけではなく、職場や子どもの学校からの距離、介護が必要な親族との距離など、その場所から立ち退くことに抵抗がある事情はたくさんあります。
引越しには安くはない費用と多くの時間も必要です。
相手の立場にどう応えるか、熟考された上での話し合いをするようにしましょう。
③立退料の提示
この話し合いにおいて、立退料の提示をしましょう。
賃借人にとって、自分のタイミング以外でしなければならない引越しは、大変な苦痛です。その点を踏まえて立退料を考えましょう。
スムーズな了解を得るため重要なのは、この立ち退きを前向きに捉えてもらうことです。
とはいえ、賃借人それぞれ事情は異なりますので、大変難しい判断です。
(2)法律上の観点から説明すること
法律上の手続きに則っていることを必ず説明しましょう。
立ち退きの交渉は非常に労力を使うこともあるため、立ち退きの交渉をする際は、弁護士などの専門家に相談することもお勧めします。
(3)転居先の紹介
ケースによりますが、転居先の紹介をすることもあるしょう。
この場合は不動産会社と連携して行うべきです。
賃借人の事情も事前に調査し、適切な転居先を紹介できるようにしましょう。
4、立ち退き料の相場額
では、立ち退き料はいくら支払えば良いのでしょうか?
ケースによって全く違いますので、一概にいくらですということは言うことはできません。
土地の価格の何%という話でもありませんし、家賃何ヶ月分という話でもありません。
オーナーと入居者の間で折り合いがつく場合であればその金額で問題ありませんが、双方で折り合いがつかなかったときは、場合によっては裁判所に訴えて決めてもらうことも一つの手ではあります。
裁判所が認定する立退料の傾向ですが、立ち退きによって入居者に発生する経済的損失をベースにして決められる場合が多いです。
判例によっては、家賃の33ヶ月分から65ヶ月分というケースもあったと言われています。
立退料の算定についてはこちらの記事もご覧ください。
5、立ち退きを拒否されたら
ではもし立ち退きを拒否された場合はどのように対処すればいいのでしょうか?
真摯的な話し合いを重ねても気持ちが伝わらず、一方的に拒否される。そんなケースもあるでしょう。
そんなときは、迷わず弁護士に介入を求めてください。
第三者であることだけでも、全く状況は異なりますし、交渉の専門家として、賃貸人の立場から説得していきます。
また、交渉が進まない場合、調停や裁判へ移行させることも可能です。
6、立ち退きを弁護士に依頼することのメリットとデメリット
それではここで、立ち退きを弁護士に依頼することのメリットとデメリットについて、解説していきます。
(1)メリット
①解決がスムーズに進む
立ち退きをお願いする際に弁護士に依頼することのメリットは、やはり「解決がスムーズになる」ということです。
不動産についてオーナーと入居者の間でトラブルになる場合は、お互いが感情的になり上手くコミュニケーションが取れなくなっている場合が多いです。
しかし、弁護士が介入することで交渉をスムーズに進めることができます。
②解決が早期にできる
オーナーにとっても立ち退きをしてもらうということが初めての経験である場合が多いです。
そこで経験と法律的な知識がある弁護士の力を借りることで、書類の制作や交渉などを迅速に進めることができます。
(2)デメリット
デメリットとしては、費用がかかってしまうことでしょう。
退去してもらうに当たって立ち退き料も必要になってくるでしょうし、立ち退きの進行状況によっては裁判の申し立てなど、長引くにつれて必要な費用も大きくなっていきます。
さらに弁護士に依頼する場合は、成功報酬や着手金などの資金も必要となってきます。
まとめ
今回は、立ち退きを実行する際に必要な知識や、実際に実行に移すまでの流れをまとめてみました。
交渉でまとまらなかった場合には、裁判の申し立てや強制執行とすすみ、莫大な労力と資金を消費することとなってしまいます。
そうなる前に弁護士のような知識と経験がある人の助けを得るのが「立ち退き」をスムーズに進める秘訣かと思います。