父子家庭として父親一人で子どもを育てているシングルファーザーは決して少なくありません。
ひとり親家庭の主要統計データ(平成28年度全国ひとり親世帯等調査の概要)によれば、父子世帯は18.7万世帯となっています。
父子家庭では母子家庭と比べて経済的に困窮するケースは少ないかもしれませんが、それでもシングルファーザーは父子家庭ならではの悩みや問題を抱えています。
そこで今回は、
- 父子家庭で仕事と子育てを両立させるコツ5つ
- 父親から母親に対して養育費の請求はできる?
- 父子家庭がもらえる手当や子育て支援制度
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1、父子家庭によくある問題点とは?
父子家庭は母子家庭に比べると世帯数が少ないこともあり、父子家庭の問題点はあまり表立って語られることがありません。
ですが、たとえ父親であっても、仕事と育児を両立させるのはかなり大変です。
父子家庭になる可能性がある方は、父子家庭にどんな問題点があるのか事前に確認しておきましょう。
(1)家事・育児で思った以上に苦労する
結婚生活において、妻がどれだけ家事・育児をやってくれていたのかを把握できている男性は少数です。
土日に子どもを公園に連れて行ったり子どもをお風呂に入れていたりするだけで「自分はかなり育児をやっている」と勘違いしている男性もいるでしょう。
女性が担っていた家事や育児は、「公園に行く」「お風呂に入れる」等の単体のものではなく、それこそ一日中、気を抜けない者です。
例えば、仕事から帰ってご飯を作るとなれば、献立を決め食材を買い出しに行きレシピを調べる等、様々な行程が必要となります。これらを計画的に考え段取りよくこなすのは簡単なことではありません。
今まで家事・育児の大部分を妻に任せていた男性は、父子家庭になって初めて家事・育児の大変さがわかり苦労することになります。
(2)育児休暇や時短勤務などの制度を利用しにくい
日本では、男性社員が育児休暇や時短勤務を利用するケースはまだまだ少数です。
「育児休暇は女性が取得するもの」という固定観念を根強く持っている人もいます。
そのため、父子家庭になったからといって、男性社員が育児休暇や時短勤務などの制度を利用することは簡単ではないという問題に直面することが少なくありません。
(3)長時間勤務ができず収入が低下することがある
妻が家事や育児をやってくれていた頃は、家のことを気にせず長時間勤務をできていた人も、父子家庭になればそう簡単に長時間勤務をすることはできません。
残業や休日出勤などができなくなれば必然的に収入が低下する人が多いでしょうから、男性であっても父子家庭になれば収入の低下に悩まされる傾向にあります。
(4)相談できる相手が乏しい
父子家庭は母子家庭に比べるとまだまだ珍しい傾向にあります。
そのため、シングルファーザー特有の悩みや苦悩を理解できる人が見つからず、相談相手がいないという壁にぶつかる人もいます。
女性であればママ友を通して悩みを分かち合うことができますが、ママ友の輪の中に男性が入るのは相当ハードルが高いでしょう。
このように相談相手がいないことから父子家庭の父親は悩みを一人で抱え込んでしまいがちです。
(5)思春期の女児に対応しきれない
子どもが小さいうちはまだ良いですが、娘が思春期になると、男性では対応が難しくなることもあります。特に、生理など女性特有の経験については、父親が娘にどのような配慮をすべきか頭を悩ませることになるでしょう。
(6)学校行事に参加できないことがある
男性は基本的に日中は仕事をしていますから、子どもの学校行事があっても毎回参加することは難しいという人が少なくありません。
「友達の親は来ているのに、なぜ自分の親だけ来てくれないのだろう?」などと子どもに寂しい思いをさせる可能性があります。
(7)子どもの母性に対する欲求が満たされない
父親は子どもの親であることに変わりはありませんが、父親が母親の役割を全て担うことができるかというとそうではありません。
子どもは母親へ甘えたい気持ちや母性への欲求を少なからず持っており、父子家庭ではそれが満たされないという問題があります。
この問題は、父親がどれだけ子どもに対して愛情を注いだとしても、解消することは困難であると言わざるを得ません。
(8)子どもが強い孤独感を持つ
「母親がいない」というのは子どもにとって、大人が想像するよりも強い喪失感をおぼえるものです。
「父親を心配させてはいけない」という気持ちから父親の前では弱さを見せないかもしれませんが、母親がいないことで子どもは強い孤独感を感じているはずです。
2、父子家庭で仕事と子育てを両立させるコツ5つ
上記のような問題点があるとしても、父子家庭になったのであれば子どもと一緒に生きていかなければなりません。
子どもが心身ともに健康な状態で成長していくためには、父親が仕事と子育てを上手に両立させていく必要があります。
ここでは、父子家庭で仕事と子育てを両立させるコツを5つご紹介します。
(1)職場に事情を話して理解を求める
いくら子どものことを優先したいと思っても、仕事を辞めれば収入がなくなり生活していけない人がほとんどでしょう。
仕事と子育てを両立させていくには、職場に事情を話して理解を求めることが大切です。
残業を減らしてもらう、長時間労働になるプロジェクトからは外してもらう、周りの同僚のサポート体制を強化する等、できることから少しずつ体制を整えていきましょう。
ただ、一方的に協力を求めるだけでは職場に居づらくなってしまうおそれがあるので、余裕があるときには他の人の仕事を手伝うなどして、ギブアンドテイクの姿勢を持つことも大切です。
(2)家事の負担を減らす工夫をする
父子家庭の父親はとにかく時間に余裕がありません。
子どもが中学生・高校生になれば食事の支度などは自分である程度できるようになりますが、子どもが小さいうちはどうしても父親が家事をする必要があります。
そこで、少しでも家事の負担を減らす工夫をしていきましょう。
たとえば、中食や宅食などのサービスを利用すれば、毎日の食事作りや買い出しの負担が軽減されます。
また、掃除や洗濯、子どもの世話については、家事代行やベビーシッターを利用することも検討していきましょう。
家事代行やベビーシッターは短時間から利用できる会社も増えているので、生活の中にうまく取り入れてみてくださいね。
(3)各種手当てや子育て支援制度を利用する
多くの市区町村では、ひとり親世帯に向けた各種手当や子育て支援制度を設けています。
これらの手当や支援制度は、母子家庭だけでなく父子家庭でも利用可能です。
具体的な制度については、個別に市区町村からお知らせがくるものもあれば自分で申請しない限り利用できないものもあります。
父子家庭になった場合は、ご自身が居住する自治体の手当や子育て支援制度についてよく確認しておきましょう。
(4)シングルファーザー支援団体に参加する
あまり知られていませんが、日本にはひとり親家庭を支援する一般社団法人やNPO法人を中心とした様々な民間支援団体があります。
自治体の手当や支援制度も大切ですが、もっと生活に密着した具体的な支援については民間の支援団体の方が利用しやすいと感じる人もいるでしょう。
これらの支援団体では、同じ悩みを持つ人と交流できるだけでなく、限られた時間で働ける企業の紹介、託児所の提供、食の支援情報、子どもの学習支援等様々な取り組みがなされています。
ご自身の状況や悩みに合う団体を見つけて、参加を検討してみましょう。
(5)両親や親戚で頼れる人がいる場合は協力してもらう
父子家庭になると「自分が責任を持ってこの子を育てなければ!」と子育ての責任を一人で背負う父親が少なくありません。
ですが、子育ては短期的なものではなく長期的に行っていくものです。
一人で多くのことを背負いすぎて途中で親が倒れてしまっては、子どもが生活に困ることになります。
一人で全てを背負うのではなく、上記の民間支援団体以外にも両親や親戚で頼れる人がいる場合は、無理をせず協力をお願いしてみましょう。
3、父親から母親に対して養育費の請求はできる?
養育費というと、父親が母親に渡すものというイメージがありますよね。
男性は仕事をして収入を得ている人が多いですが、それでも父親一人で子どもを育てていくには仕事時間の減少に伴う収入の減少や、様々なサービスの利用に伴う出費の増加が現実的に問題となります。
そのため、父親から母親に対して養育費を請求することも必要になってくるでしょう。
(1)親権者から非親権者に対する請求は可能
養育費とは、子どもの監護や教育のために必要な費用のことをいいます。
一般的には、子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用を意味し、衣食住に必要な経費,教育費,医療費などがこれに当たります。
子どもを監護している親(通常は親権者)は,他方の親(非親権者)から養育費を受け取ることができますので、シングルファーザーの人は元配偶者である母親に養育費を請求することが可能です。
(2)シングルファザーがもらえる養育費の相場
養育費を取り決める際は、裁判所の養育費算定表を元に算出することが一般的です。
養育費算定表を参照すれば、子どもの人数・年齢により養育費のある程度の相場を知ることができます。
例えば、子ども1人(10歳)、父親の年収500万円、母親の年収200万円(いずれも給与所得)の場合、シングルファーザーから母親に請求できる養育費の目安は1〜2万円となります。
離婚後の養育費の相場について詳しくは、以下の記事もご参照ください。
4、父子家庭がもらえる手当や子育て支援制度は?
父子家庭のシングルファーザーを支援する手当や制度には、以下のように様々なものがあります。
父親一人で子どもを育てていくのは大変なことですから、手当や支援制度をうまく活用しましょう。
- 児童扶養手当
児童扶養手当は、配偶者のいない状態で18歳未満の児童を育てる母や父が受給できる手当です。
- 医療費支援制度
ひとり親家庭の保護者や子どもの治療費を自治体が代わりに支払う制度です。
- 住宅手当
自治体によっては、住宅手当として家賃を補助してくれる場合があります。
- 就学援助
小学校・中学校に就学する子どもがいる家庭で、ひとり親かどうかに関わらず経済的に困窮している家庭に対して、自治体が給食費や学用品費を支援する制度です。
- 自立支援教育訓練給付金
新たな働き方や仕事上のスキル習得に向けて、経済的な自立を支援していくための制度です。
- 保育料負担軽減制度
子育て家庭の保育料の負担を軽減する制度です。
- 上下水道の減免制度
自治体によっては、水道の基本料金を減免してもらえる場合があります。
- 粗大ごみ等処理手数料の減免制度
自治体によっては、児童扶養手当を受給している世帯の粗大ごみ等処理手数料が免除または減免される場合があります。
- 交通費割引制度
公共交通機関の定期券を購入する際、割引をしてもらえる場合があります。
- 所得税・住民税の免除・減免制度
年間の給与収入額が一定額未満の父子家庭などは、所得税・住民税の支払いを免除されます。
- 国民年金・国民健康保険の免除・減免制度
経済的困窮等により国民年金・国民健康保険の支払いが難しい場合、国民年金の免除や減免申請をすることで国民年金の支払いについて免除または減額を受けることができます。
以上のように、父子家庭も様々な支援を受けられるので、工夫と努力次第では仕事と子育ての両立も可能です。
これから離婚をお考えの方は親権の獲得を目指してみてはいかがでしょうか。
5、離婚の際に父親が親権を獲得することは可能?
離婚した後の子どもの親権は母親が持つものというイメージが強いかもしれませんが、法律上どちらの親が親権を有することになるかが決まっているわけではありません。
父親で親権獲得を望む人は、以下の内容をご確認の上、できる限りの手段を尽くしていきましょう。
(1)一般的には母親が圧倒的に有利
離婚する際の親権者争いでは、一般的には母親が圧倒的に有利です。
基本的に、子育ては母親主導でなされていることが多く、子どもも母親・母性を求める傾向が強いため、母親が親権を持つことが多くなっているのが実情です。
それに加えて、男性は仕事中心の生活を送っている人が多いので、子育てに時間を割きにくいと考えられることも母親が親権を獲得しやすい一つの原因でしょう。
(2)父親が親権を獲得するために満たすべき条件
母親が親権を獲得しやすいのは、母親が子どもを育てたほうが子の福祉に叶いやすいと考えられているからです。
そのため、父親が親権を獲得したほうが子の利益につながり子どもが幸せになる可能性が高いと考えられる場合は、父親が親権を有する可能性が出てきます。
一般的には、
- 積極的に子育てに関わっているか
- 今後の子どもの養育環境が整っているか
- 母親の子育ての問題点を証明できるか
- 子どもとの別居が長引いていないか
- 子どもが父親に懐いているか
- 親権を有することになった場合、面会交流を認める寛容性はあるか
等が親権獲得の判断ポイントとなってきます。
親権を獲得するために考慮すべきポイントについてさらに詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
(3)親権を獲得するための具体的な方法
離婚に際して実際に親権を獲得するためには、上記のポイントの中でも「積極的に子育てに関わっているか」という点が最も重要なポイントとなります。
もし、これまでは子育てにあまり時間を割けていなかったという場合は、離婚を先延ばしにしてでも子育てに関わる時間と手間を増やし、子育ての実績を作った方がよい場合もあります。
そして、離婚手続きにおいてはまず配偶者との協議が基本です。
家庭裁判所の手続きでは父親が圧倒的に不利となるのが実情なので、可能な限り話し合いによる決着を目指しましょう。
それでも、母親も親権を譲らず協議がまとまらない場合には、離婚調停や離婚訴訟といった家庭裁判所の手続きが必要となります。
その場合には、上記(2)でご紹介した条件を満たしていることを証明できる証拠を提出できるかがポイントとなってきます。
まとめ
父子家庭では、他の人にはなかなか理解してもらえない悩みや問題を抱えているものです。
それでも、父子家庭の支援制度を工夫して活用すれば、シングルファーザーの人でも仕事と育児を両立しながら子どもを育てていくことができるでしょう。
どのような手当や支援制度を使えるのかわからず悩んでいる人は役所へ相談してみましょう。
また、母親への養育費の請求をお考えの方や、これから離婚して親権の獲得を目指している方は、一度弁護士までご相談ください。