
「妻とは離婚したいけれど、父親は子供の親権者になれないのかな……」
このような悩みをお持ちの既婚男性も多いのではないでしょうか。
最近では「イクメン」という言葉も一般的となっているように、子育てに積極的に関わっている父親も増えています。それだけに、離婚するときにはどうしても親権を獲得したいと考える父親も多いようです。
父親と母親のどちらが親権者となるかは、子供を育てるためにどちらがふさわしいかによって判断すべきことです。
しかし、日本では以前から「母性優先の原則」が重視されており、父親よりも母親が親権を獲得するケースが圧倒的に多くなっています。
家庭裁判所の手続きによって父親が親権を獲得したケースは、全体の1割にも満たないのが実情です。
では、父親が親権を獲得するためにはどうすればよいのでしょうか。
今回は、
- 母性優先の原則が重視される理由
- 父親が親権を獲得する方法
- 父親が親権を獲得した事例
などについて、離婚問題に詳しいベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
この記事が、離婚時に子供の親権を獲得したい父親の手助けとなれば幸いです。
なお、父親と母親のどちらが親権者となるかの判断基準について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
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目次
1、父親でも親権を獲得するには
母親の方が子育てに向いているということ何となく理解できても、妻が浮気をした場合や、妻に浪費癖があるような場合には、離婚後に子育ては任せられないと思うことでしょう。
このような場合でも、父親が親権を獲得することは難しいのでしょうか。
ここでは、どのような事情があれば父親が親権を獲得できるのかについてご説明します。
(1)母親が育てることが子のためにならない場合
父母のどちらが親権者となるかを決める際には、どちらが子育てをした方が「子供のためになるか」という点が最も重要です。
そのため、母親が育てることが子供のためにならないといえるような事情がある場合には、父親が親権を獲得できる可能性があります。
とはいえ、子供の年齢が低い場合には特に母性優先の原則が強く働きますから、これを徹底的に覆すことが大切です。
どちらがどのような離婚原因を作ったのかという問題は、原則として親権の問題とは無関係ですが、離婚原因がそのまま「子供のためにならない」というケースも往々にしてあるものです。
例えば、以下のような事情があるケースでは、母親が子育てをすることは子供のためにならないといえる可能性が高いでしょう。
- 母親が不倫に夢中になっており、子育てが二の次となっている
- 母親のDV的な性格が子供の成長にふさわしくない
- 子供に食事を作ったことがない
- 子育てで必要な手続き(医療手続きや進学関係等)を一切することができない
- 夜に意味もなく家を空けている 等々
(2)父親が育てた方が子のためになる場合
一方で、父親が育ててもどっちもどっちでは負けてしまうケースも多いでしょう。
母親よりも父親が育てた方が、より子供のためになるといえる事情がなければ親権を獲得することは難しいでしょう。
そのためには、自分が育てることでどのようなメリットを与えられるのかが大切です。
例えば、以下のような事情が複数あれば、父親が子育てをした方が子供のためになると認められる可能性があります。
- 子供が母親に懐かず、父親に懐いている
- 以前から父親が積極的に子育てをしていた
- 父親は経済的に安定しているが、母親は資力に乏しい
- 父親は心身ともに健康であるが、母親は病弱か精神的に不安定なところがある
- 保育園や親族の協力によって養育環境が整っている
2、そもそもどうしてそんなに母親優位?日本における親権の考え方
父親の立場から見ると、離婚時の親権争いにおいて、父親と言うだけで圧倒的に不利とされてしまうことには納得いかないでしょう。
ここでは、なぜ親権争いで母親が優位とされているのか、日本における親権の考え方について詳しくご説明します。
(1)母性優先の原則
母性優先原則とは、文字どおり、子育てにはまず父性よりも母性によるきめ細やかな世話が重要であるとする考え方のことです。
子どもが生まれたら、しつけや教育よりもまず、授乳やおむつ替えにはじまり、食事や衣服、風呂、寝かせつけなどが子育ての中心となります。
このような身の回りの世話は、一般的に父性よりも母性がよくなし得るところです。
そのため、子どもの年齢が低ければ低いほど母性優先の原則が強く働きます。
特に乳幼児の場合は、基本的に母親の存在が不可欠と考えられています。
もっとも、子どもの年齢が上がるにつれて母性優先の原則は次第に後退します。おおむね15歳程度になれば、身の回りのことは自分でできるようになることから、さほど母性優先の原則は考慮されなくなります。
(2)継続性の原則
母性優先の原則よりも現状もっとも重視されていると思われる考え方は、「継続性の原則」です。
継続性の原則とは、離婚後の子供の養育環境について、できる限り現状から変更しない方がよいとする考え方のことです。
環境の変化は子供にとって大きな精神的負担となりますし、場合によっては成長に支障をきたすおそれもあります。
そのため、現状の養育環境に特段の問題がなければ、原則として離婚後も現状の環境を継続すべきと考えられているのです。
ここでいう「継続」については、これまでの子供とのやりとりの継続と、生活の継続の両面から判断されます。
子供とのやりとりの継続とは、どちらが子育ての中心であったかという問題です。
子供にとって、世話してくれる親が継続的に同一人物であることは、精神的に大変重要なことです。
また、生活の継続とは、離婚後の生活環境をこれまでの連続で保てるか、という意味です。
住まいがやたら遠方に変わるなどの大きな変化は、子供にとっての継続性を絶つ行為と言えます。
もし、今まで母親よりもあなたが中心となって子育てをしていたのであれば、「継続」を重視する限り、離婚後も子供はあなたのもとに置いておくべきという結論となります。
したがって、この原則を恐れる必要はありません。
(3)今後の子育て時間の確保
子育てをするためには、現実に子供の面倒をみるための時間が絶対的に必要です。
子育てにおいては、豊富な資産があるかどうかよりも、子供に対する愛情があるかどうかが重要という考えが根付いています。
外で働いて収入を得ることも愛情には違いありませんが、子どもが幼ければ幼いほど、家庭で常に一緒に過ごして愛情を注ぐということが重要となります。
ですから、この点では、パートで稼ぎが少ない妻であっても、子育てに時間を割ける限り、社員で稼ぎのある夫より親権においては優位に立つのが基本です。
ただし、ただ時間があればいいというものではありません。
本当にその時間が子育てに有意義に使われ、愛情が育まれる時間たるものなのか、ここが大切です。
妻が家庭にいてもスマホばかり見て子供の世話がおろそかになっていては十分な愛情を注いでいるとはいえません。
逆に、あなたが今後、現実に子供の面倒をみることが可能な程度の時間を確保できるのであれば、親権争いにおいて有利になる可能性もあります。
3、父親が親権を勝ち取った事例
ここまで読んで、父親が親権を取るのは「なかなかハードルが高そう…」と思っていらっしゃる方もいるとは思いますが、明らかに妻に非がある場合などにはスムーズに親権を勝ち取ることができる可能性もあります。
割合的に少ないとはいえ、実際に父親が親権を獲得する事例もあります。
そこで、ここでは父親が親権を獲得した実例をいくつかご紹介しますので、参考になさってください。
(1)ベリーベストにおける実例
当事務所の解決事例で、以下の通り父親が親権を勝ち取れたケースがありましたのでご紹介します。
①ご相談者様
30代男性
②ご相談時の状況
妻が不倫をしている。さらに風俗で働いている。
③ご相談内容
離婚をしたい。親権を獲得したい。慰謝料請求したい。
④ベリーベストの対応とその結果
風俗で働いていることは口外しないことを条件に、公正証書により慰謝料を分割弁済、親権者は夫とすることになりました。
⑤解決のポイント
この事例では、妻が不倫をしていることと、風俗で働いていることについて明確な証拠を確保できたことが決め手となりました。
動かぬ証拠によって妻に非があることは明らかでしたので、交渉を有利に進めることができました。
このように、離婚時の親権の問題について交渉する際には、しっかり証拠を集めて立証していくことが重要になります。
したがって、もし妻に少しでも怪しい言動があれば調査をしてみるのも手だと思います。
妻側に非がある証拠を掴めば、この事例のように父親が親権を獲得できる可能性もあります。
(2)裁判例
次に、実際の裁判(調停、審判、訴訟)で父親に親権が認められた事例をご紹介します。
①母親が子供を連れ去ったケース
父親の不在時に母親が無断で子供を連れて家を出て別居に至ったケースで、母親は親権者としてふさわしくないと判断されたものがあります。
このケースでは父親は親権を獲得できれば母親との面会交流にも積極的に応じる意向を示していたこともあり、父親が親権者に指定されました(千葉家庭裁判所松戸支部平成28年3月29日判決)。
②母親が一人で家を出て別居を開始したケース
母親が父親との生活を嫌って、子供を置いて一人で家を出たケースで、父親が親権を勝ち取ったものがあります。
このケースでは、父親は別居前から積極的に子育てをしており、別居後も円滑に子育てを続けていたことから、継続性の原則により父親に親権が認められたものと考えられます(大阪高裁平成30年8月2日決定)。
②子供の希望で父親が親権を勝ち取ったケース
離婚時には母親が親権者となったものの、10歳の子供が父親との生活を望んだことから、親権者が父親に変更された事例があります(京都家裁平成11年8月20日審判)。
子供が15歳未満の場合でも、ある程度の年齢になると子供自身の意思が重視されるため、母性優先の原則はさほど重要ではなくなってきます。
4、絶対親権を獲得したい!そんな場合の具体的な手続き
親権をどちらがとるかは基本的に離婚時の父母の話し合いによって決めますが、絶対に親権を獲得したいけれど相手方が応じてくれない場合は、調停や審判、訴訟を起こして親権を主張していくことになります。
これらの裁判手続きによって親権を獲得するためには、以下のような証拠を提出することが決定的に重要となります。
(1)母親が育てることが子のためにならないという証拠を集める
まずは、母親が育てることがこのためにならないことが調停委員や裁判官にもわかるような証拠を集めることです。
注意が必要なのは、母性優先の原則をくつがえすほどの強力な証拠が必要ということです。
妻側に離婚原因がある場合、離婚原因に関する証拠も必要ですが、それだけではなく、さらにその事実がどのように子供にとってよくないのかを示す証拠が必要ということです。
例えば、妻が不倫しているケースなら、不倫したことの証拠に加えて、子供の食事をあまり作らない、夜に外出することが多いなど、子育てに手を抜いていることがわかる証拠を集めましょう。
「子育てをしていないこと」について客観的な証拠を集めるのは難しいかもしれませんが、妻の日々の言動や子供の様子などを継続的に記録した日記なども証拠となります。
(2)父親が育てた方が子のためになるという証拠を固める
母親が育てることが子のためにならないことを証明できたとしても、それだけでは父親の方が親権者としてふさわしいことを証明したことにはなりません。
そこでさらに、父親が育てた方が子のためになるという証拠も作りましょう。
ここでも、子育ての状況を継続的に記録した日記などが役に立ちます。
収入を示す資料(給与明細や源泉徴収票、確定申告書の控えなど)や、両親などの親族が子育てに協力する旨の誓約書も提出するとよいでしょう。
5、父親が親権獲得するためには仕事を辞めなければならない?
前記「2(3)」でもお伝えしたように、親権を獲得するためには、実際に子供の面倒をみるための時間を確保することが不可欠です。
仕事が忙しい父親の場合、現実には時間的に厳しいこともあるでしょう。
在宅でできる仕事によって生活費を稼ぐことが可能であれば、思い切って会社を辞めるのも一つの方法です。
しかし、必ずしも今の仕事を辞めなければならないわけではありません。
フルタイムの仕事をしていても、会社で働いている間は子供を保育園に預けたり、両親などの親族に面倒をみてもらうという形でも、親権を獲得できないわけではないからです。
ただし、あくまでも父親自身が中心となって子供の面倒をみることが親権獲得の条件であると考えるべきです。
子供の世話を両親に任せきりにしていて、自分は毎日深夜まで帰宅できないという状況では、親権を獲得するのは難しいでしょう。
そのため、場合によっては残業や休日出勤、出張などが少ない部署への異動を願い出る必要はあるかもしれません。
6、父親が親権を取った場合妻から養育費は取れる?
結論からいえば、基本的には養育費をとることができます。
養育費は、別居している親が子どもに対して支払うべきものなので、父親が親権を取った場合には母親から養育費を受け取ることができるのが原則です。
受け取れる金額については、家庭裁判所が「養育費算定表」という一つの基準を定めていますので双方の収入から、受け取れる養育費のおよその金額がわかります。
もっとも、養育費は、法律的には扶養義務と呼ばれるものの履行の一環です。
したがって母親に扶養する余裕がない場合には、請求できないこともあります。
実際に父親から母親に対して養育費を請求するケースが少ないのは、母親の経済力が父親に比べて乏しいことが多いからです。
母親がそれなりの収入を得ている場合には、養育費の請求を検討するとよいでしょう。
7、それでも親権を得られなかった場合には
やるべきことをやっても離婚時に親権を得られない場合はあります。
その場合は、以下の対処法によって子供との絆をつなぐように心がけましょう。
(1)面会交流を取り決める
面会交流とは、離婚後に非監護親が子供と定期的に会って、親子の交流を図ることをいいます。
通常は月1回程度を目安に行われていますが、当事者の話し合いで回数は自由に決められますので、親権を譲る分代わりに面会交流の回数を増やしてもらえるように話し合いましょう。
面会交流は子供の健全な発育のためにも重要なものなので、この点を母親にしっかりと説明し、父親と子供の交流の重要性を理解してもらうように努めましょう。
話し合いがまとまらない場合には、調停や審判、離婚訴訟によって面会交流を求めることもできます。
関連記事(2)将来の親権者変更を目指す
親権者の指定は、一度決められたら不変のものではなく、後に変更することも可能です。
離婚時に親権を獲得できなくても、諦めずに面会交流で子供との絆を育てながら養育環境を整えていけば、親権者変更を勝ち取れる可能性もあります。
短期間で親権者変更を勝ち取るのは容易ではありませんが、子供がある程度の年齢になると母性優先の原則が考慮されなくなるので、変更される可能性も高まってきます。
親権者変更を勝ち取る方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
関連記事8、妻に子どもを連れ去られたときの対処法
あなたが離婚しても子供と離れたくないと考えるのと同じように、母親も「絶対に子供を手放したくない」と考えていることも多く、そんな母親が子供を連れ去るケースも少なくありません。
母親が父親に無断で子供を連れ去った場合は、実親子であっても未成年者略取罪(刑法第224条)が成立する可能性がありますが、現実には警察に相談しても動いてくれることはほとんどありません。
そこで、子供を取り戻すためには以下の法的手続きをとることになります。
(1)監護者の指定・子の引き渡し審判の申し立て
監護者指定・子の引渡しの審判とは、子供の世話をする人の指定と、その指定を受けることを前提として連れ去られた子供の引き渡しを命ずる家庭裁判所の審判手続のことです。
これは親権を指定する手続きではありませんが、調停や審判によって親権を指定するには時間がかかるため、一時的に子育てする人を決めるために定められた手続きです。
一時的なものではありますが、この手続きによって子供をあなたの元に取り戻すことができれば、後の調停や審判、離婚訴訟でも「継続性の原則」によってあなたが親権を獲得できる可能性が高まります。
逆に、監護者の指定・子の引き渡し審判の申し立てずに事態を放置していると、「継続性の原則」によって母親がそのまま親権を獲得する可能性が高まってしまいます。
したがって、子供を連れ去られたら、できる限り早急に、家庭裁判所へ監護者の指定・子の引き渡し審判の申し立てましょう。
(2)審判前の保全処分の申し立て
上記の審判を申し立てる際には、「審判前の保全処分」も併せて申し立てましょう。
保全処分とは、緊急の必要性がある場合に、申立人の権利を保全するために裁判所が下す暫定的な処分のことです。
監護者の指定・子の引き渡し審判でも結果が出るまでに一定の時間がかかりますが、保全処分が認められると暫定的に子供をあなたの元に取り戻し、養育することが可能となります。
なお、理不尽に子供を連れ去られたとしても、子供を逆に無断で連れ去り返したり、母親に対して暴行・脅迫などを加えて子供を連れ戻すようなことは控えましょう。
このような実力行使に出ることは親権者としてふさわしくないと判断される原因となり、親権を獲得できる可能性を自ら下げてしまうことになるからです。
まとめ
親権争いにおいて、母親には「母性優先の原則」という強力な武器があるため、父親が親権を獲得するのは簡単ではありません。
父親がこれに対抗できる武器を持てるとすれば「継続性の原則」です。親権者になるためには何より継続して監護しているという実績が重要ですから、日ごろからお子さんの育児には積極的に関与するように心がけましょう。
それでも父親は不利な場合が多いので、実際に親権を争う際には弁護士という味方をつけることをおすすめします。
まずは無料相談を利用して、具体的な一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。